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第2章
2-2 女の子
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「カナー、いい加減起きてー。保育園に遅れるでしょ」
カナと呼ばれる幼い女の子は、眠い目をこすりながら体を起こした。体を起こしてもまだ眠いカナは、再び布団に横になろうとしたが、母に止められしぶしぶ起きた。
「カナ、また昨日虫を捕まえてきたの? あなたいつもすぐ飽きて死なせるんだから、もとの場所に放してきて」
「やだ」
母は小さくため息をついた。これ以上言っても無駄だと思ったのか、母はもう何も言わなかった。
カナは朝食の後、虫の様子を見に行った。すると、昨日と様子が違うことに気がついた。
虫かごの手前に何か置いてある。とても小さな紙だ。
1センチ角の紙きれだった。紙の真ん中に何か書いてあるように見えたが、小さすぎて読めない。
虫かごの前にはもうひとつ置いてあるものがあった。カナがよく使う子ども用の虫眼鏡だ。
カナは虫眼鏡を手に取り、紙の文字を読んでみた。
しかしそこでカナは気づいた。そもそも文字をまだ勉強しておらず自分がまだ文字を読めないことに。
カナは母のもとに走っていく。朝の母はいつも忙しそうだ。
「お母さん」
「カナ、早く着替えて。遅れちゃう」
「これなんて書いてあるの?」
「それは後で──」
カナは今にもカンシャクを起こしそうな顔をしている。
「これを読んだらお着替えするね?」
カナは頷く。
母はカナの虫眼鏡をかりると、あまりに小さい文字をなんとか読んでいく。
「えーっと……にんげんの……こどもさんへ……わたしの……たいせつな……かたを…………かえしていただきたいです──?」
そして最後に
「──ダンゴムシより」
カナと母はゆっくりと顔を見合わせる。どちらも呆気にとられていた。そしてカナは小声で呟く。
「ダンゴムシさんからお手紙きた……」
呆然としていた母の顔が真剣な表情に切り替わる。そしてカナに語りかけた。
「カナが捕まえてきたダンゴムシさんにも家族がいるんじゃないかな」
カナは息をのむ。
「カナは、お母さんのこと、好き?」
「好き!」
即答する。反抗期といえど大好きなことには変わりはないのだ。
「お母さんと離れ離れになったら、どう思う?」
「やだ!」
母の表情がふっと緩む。そして語りかける。
「ダンゴムシさんも、離れ離れは悲しい、寂しいって」
カナの眉毛がどんどん下がっていく。今にも泣きそうな顔だ。母はカナの言葉を待った。
「……ダンゴムシさん、帰す」
ぽつりと言う。少し震えた声だった。「でも」とカナが続けた。
「ごめんねしたいから、ご飯あげたい」
そうだね、と母は言った。
そして二人で虫かごを覗き込んで、不思議なことに気付く。湿った落ち葉や、葉物の野菜がすでに虫かごに入れられていた。カナが捕まえてきたダンゴムシがムシャムシャと美味しそうに食べている。
「お母さんが、ご飯あげてくれたの?」
「いや……」
母はしばらく考え込んだ後、ダンゴムシさんがお腹いっぱいになったら帰そうか、と提案した。
カナは大きく頷いた。
カナと呼ばれる幼い女の子は、眠い目をこすりながら体を起こした。体を起こしてもまだ眠いカナは、再び布団に横になろうとしたが、母に止められしぶしぶ起きた。
「カナ、また昨日虫を捕まえてきたの? あなたいつもすぐ飽きて死なせるんだから、もとの場所に放してきて」
「やだ」
母は小さくため息をついた。これ以上言っても無駄だと思ったのか、母はもう何も言わなかった。
カナは朝食の後、虫の様子を見に行った。すると、昨日と様子が違うことに気がついた。
虫かごの手前に何か置いてある。とても小さな紙だ。
1センチ角の紙きれだった。紙の真ん中に何か書いてあるように見えたが、小さすぎて読めない。
虫かごの前にはもうひとつ置いてあるものがあった。カナがよく使う子ども用の虫眼鏡だ。
カナは虫眼鏡を手に取り、紙の文字を読んでみた。
しかしそこでカナは気づいた。そもそも文字をまだ勉強しておらず自分がまだ文字を読めないことに。
カナは母のもとに走っていく。朝の母はいつも忙しそうだ。
「お母さん」
「カナ、早く着替えて。遅れちゃう」
「これなんて書いてあるの?」
「それは後で──」
カナは今にもカンシャクを起こしそうな顔をしている。
「これを読んだらお着替えするね?」
カナは頷く。
母はカナの虫眼鏡をかりると、あまりに小さい文字をなんとか読んでいく。
「えーっと……にんげんの……こどもさんへ……わたしの……たいせつな……かたを…………かえしていただきたいです──?」
そして最後に
「──ダンゴムシより」
カナと母はゆっくりと顔を見合わせる。どちらも呆気にとられていた。そしてカナは小声で呟く。
「ダンゴムシさんからお手紙きた……」
呆然としていた母の顔が真剣な表情に切り替わる。そしてカナに語りかけた。
「カナが捕まえてきたダンゴムシさんにも家族がいるんじゃないかな」
カナは息をのむ。
「カナは、お母さんのこと、好き?」
「好き!」
即答する。反抗期といえど大好きなことには変わりはないのだ。
「お母さんと離れ離れになったら、どう思う?」
「やだ!」
母の表情がふっと緩む。そして語りかける。
「ダンゴムシさんも、離れ離れは悲しい、寂しいって」
カナの眉毛がどんどん下がっていく。今にも泣きそうな顔だ。母はカナの言葉を待った。
「……ダンゴムシさん、帰す」
ぽつりと言う。少し震えた声だった。「でも」とカナが続けた。
「ごめんねしたいから、ご飯あげたい」
そうだね、と母は言った。
そして二人で虫かごを覗き込んで、不思議なことに気付く。湿った落ち葉や、葉物の野菜がすでに虫かごに入れられていた。カナが捕まえてきたダンゴムシがムシャムシャと美味しそうに食べている。
「お母さんが、ご飯あげてくれたの?」
「いや……」
母はしばらく考え込んだ後、ダンゴムシさんがお腹いっぱいになったら帰そうか、と提案した。
カナは大きく頷いた。
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