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【一】
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理久は小学校からずっと一緒の幼馴染み。小さい頃はオレが手を引っ張って遊びに連れ出していた、弟のような存在だ。理久は特に母親が亡くなってから塞ぎ込んだ。家に遊びに行くと理久は大抵テレビの前にいる。ぽつんとひとりでコントローラーを握ってゲームを黙々とやる。孤独の影が背中にちらつく。
「このゲームはね、主人公の名前を変えられるから自分の名前にするといいよ」
ゲームについて語るときの理久はきらきらしている。
オレと同じように好きなことがあるんだ。それからは一緒にゲームをすることも増えた。
だが、理久は声をからかわれるようになった。理久は声変わり以前からハスキーな声を持っていた。連想するのは異国の楽器。駅前の混雑にいても、理久がしゃべればどこにいるか分かるくらい独特な声色だ。
いいな、きれいでかっこいい。
だが、他はオレとは意見が違うらしい。理久は次第に学校ではしゃべらなくなった。増えていく沈黙のピアスは自分を守る刃。中学で声変わりしたときは、顔を青ざめさせて家にやって来た。震える声で「僕の声、変になったよね?」とオレに尋ねる。オレは人を惹きつける音色に驚いた。理久の音楽のような声は誰も真似できない。理久の声は唯一無二の輝きがある。
「理久の声、すごくきれいだよ!」
オレは理久の両腕を掴んで説得した。
「声優とか、そういうのやってみたら? 理久の声を認めてくれる人はたくさんいるって!」
程なくして理久は事務所に所属した。顔を出さないVチューバーとして活動を始めたのだ。
趣味が高じて、動画の内容はゲーム実況。周りに他人がいないと気にならないのか、明るいトーンで「こんにちはー!」などとしゃべるらしい。
オレの読み通りだった。理久の低めのハスキーボイスが視聴者の心を掴む。理久のSNSアカウントはどんどんフォロワーが増えていく。
理久は相変わらず学校ではしゃべらない。だが、それは仕事がバレないようにという意味を含んでいる。声をからかわれたくない。そんな後ろ向きな姿勢ではなくなった。理久の背中から影が薄れた。
元々美人の母親似の理久は美形になった。ウルフカットにした髪の毛先を金髪に染め、ピアスを開けておしゃれもする。周りはそれを近寄りがたいと捉えているらしい。だが、理久はありのままに振る舞えるようになった。元気になっていくのが分かって嬉しい。指先を黒曜石のように黒く彩るマニキュアも理久の雰囲気に合う。理久の姿は自由で開放的。理久にも空を飛ぶハル君のような翼がある。
それに比べてオレは平凡。
身長、平凡。体重、平凡。視力も平凡で、聴力も平凡、ついでに顔も平凡。身体測定の判定に平凡という言葉があるなら、オレにはそのハンコが押される。
いや、いつか理久に「綾斗さんって髪が細いよね」と言われた。写真部の後輩には「先輩って風で飛ばされそうですよね」とも言われた。それくらい薄っぺらい体をしている。平凡というより貧相なのかもしれない。
風呂場の鏡を見る。骨の上に肌が貼りついただけのさえない体にげんなりする。
ハル君も理久も、かっこよくて羨ましい。
こちらに眼差しを向ける理久の写真もプリントアウトした。
「このゲームはね、主人公の名前を変えられるから自分の名前にするといいよ」
ゲームについて語るときの理久はきらきらしている。
オレと同じように好きなことがあるんだ。それからは一緒にゲームをすることも増えた。
だが、理久は声をからかわれるようになった。理久は声変わり以前からハスキーな声を持っていた。連想するのは異国の楽器。駅前の混雑にいても、理久がしゃべればどこにいるか分かるくらい独特な声色だ。
いいな、きれいでかっこいい。
だが、他はオレとは意見が違うらしい。理久は次第に学校ではしゃべらなくなった。増えていく沈黙のピアスは自分を守る刃。中学で声変わりしたときは、顔を青ざめさせて家にやって来た。震える声で「僕の声、変になったよね?」とオレに尋ねる。オレは人を惹きつける音色に驚いた。理久の音楽のような声は誰も真似できない。理久の声は唯一無二の輝きがある。
「理久の声、すごくきれいだよ!」
オレは理久の両腕を掴んで説得した。
「声優とか、そういうのやってみたら? 理久の声を認めてくれる人はたくさんいるって!」
程なくして理久は事務所に所属した。顔を出さないVチューバーとして活動を始めたのだ。
趣味が高じて、動画の内容はゲーム実況。周りに他人がいないと気にならないのか、明るいトーンで「こんにちはー!」などとしゃべるらしい。
オレの読み通りだった。理久の低めのハスキーボイスが視聴者の心を掴む。理久のSNSアカウントはどんどんフォロワーが増えていく。
理久は相変わらず学校ではしゃべらない。だが、それは仕事がバレないようにという意味を含んでいる。声をからかわれたくない。そんな後ろ向きな姿勢ではなくなった。理久の背中から影が薄れた。
元々美人の母親似の理久は美形になった。ウルフカットにした髪の毛先を金髪に染め、ピアスを開けておしゃれもする。周りはそれを近寄りがたいと捉えているらしい。だが、理久はありのままに振る舞えるようになった。元気になっていくのが分かって嬉しい。指先を黒曜石のように黒く彩るマニキュアも理久の雰囲気に合う。理久の姿は自由で開放的。理久にも空を飛ぶハル君のような翼がある。
それに比べてオレは平凡。
身長、平凡。体重、平凡。視力も平凡で、聴力も平凡、ついでに顔も平凡。身体測定の判定に平凡という言葉があるなら、オレにはそのハンコが押される。
いや、いつか理久に「綾斗さんって髪が細いよね」と言われた。写真部の後輩には「先輩って風で飛ばされそうですよね」とも言われた。それくらい薄っぺらい体をしている。平凡というより貧相なのかもしれない。
風呂場の鏡を見る。骨の上に肌が貼りついただけのさえない体にげんなりする。
ハル君も理久も、かっこよくて羨ましい。
こちらに眼差しを向ける理久の写真もプリントアウトした。
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