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【一】
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受賞したハル君の写真を引き伸ばし、写真部の部室に貼る。うちの学校で賞を取る生徒は初めてだから。そう顧問が気を利かせてくれた。後輩たちも笑顔で拍手をくれ、「ありがとう」と手をあげて部室を出る。
思いついて部室のそばにあるトイレで手を洗う。鏡に映る自分の顔が自信に満ちあふれている。上がった口角を人差し指でぐっと押さえる。
写真を続けてきてよかった。ぐっとこぶしを握る。
そのとき、トイレの前を後輩の声が通り過ぎた。
「早坂先輩、調子に乗りすぎじゃない?」
「モデルがいいだけのまぐれなのに」
思いがけない言葉に胸が抉られた。だが、そこへポケットのスマホが振動する。ハル君からのメッセージだ。一瞬後輩の言葉が頭をよぎったが、ハル君のメッセージを見て笑うことができた。
ただのやっかみだ。モデルだって自分から声をかけた。顧問の先生に練習風景を撮っていいかお願いした。そういう小さな努力で最高の写真を撮れたのだ。それに、モデルがいいと言われるのは嬉しいことだ。そんな人がオレの彼氏。オレは誇っていればいい。
『今度の日曜、部活休みになったんだけど遊ばねえ?』
『ごめん。次の日曜日は模擬試験。午後からでもいい?』
『もう秋だもんな。受験で大変なのに悪い』
そう、高三のオレは受験生。志望大学は、実家から電車で一時間の私立大学だ。今のところ模擬試験の判定もいいし、例の写真コンテストの大人部門で入賞した人がいる写真サークルがあると聞いている。そこに入ってもっと写真をたくさん撮って。それを考えると腕がうずうずする。
――モデルがいいだけのまぐれなのに。
後輩の声が蘇り、頭を振る。ハル君に会いたい。そう思った。
日曜日、模擬試験が終わると駅前で待ち合わせる。少し寒くなってきた。厚めのジャケットを持っていく。でも、ハル君は長袖のシャツを腕まくりしていた。服の上からも分かる引き締まった筋肉と爽やかな雰囲気。人々がちらちらとハル君を見ているのが分かる。
オレの彼氏、かっこよすぎ。
にやけそうになる顔を引き締める。
「ハル君!」
手をあげるとハル君がオレに気づく。笑顔で駆け寄ってきたハル君が「試験お疲れ」と労ってくれた。二人で近くのモールへ行く。ぶらぶらするウィンドウショッピングは楽しい。冬物が売り出されていたのでなにがいいか選び合う。雑貨屋ではどんな財布がほしいかしゃべった。
学校の外ではオレたちはモデルと写真部じゃない。恋人同士だ。
「あ、マニキュア」
オレが化粧品売り場のところで足を止めると、ハル君も足を止めた。
「黒のマニキュア、あった。理久、どれくらいのスパンで買ってるんだろ」
黒の小瓶を手にして見つめる。すると、ハル君が突然きつい口調になった。
「ああいうの、理解できねえ。マニキュアなんて女がすることじゃん。ゲームとかVチューバーとか、根暗っていうか」
ハル君の棘のある言い方に驚く。だが、ハル君は一転してにんまりする。
「って、言ったら俺のほう見てくれる? 理久、綾斗と幼馴染みとか羨ましすぎ」
「もう!」
その腕をぺちっとはたく。ハル君はははっと明るく笑った。最近染め直したブラウンの短髪が元気なハル君にぴったりだ。
「だってよ、この間アルバムを見せてもらったんだよ。綾斗と理久が一緒に写ってる写真が多くて。綾斗が撮ったんだなって分かる写真もあったからさ」
「ハル君は子どもの頃はなにしてた?」
「公園のアスレチックとかで遊びまくってた。あとはずっと陸上」
「オレも公園によく写真を撮りに行ってた。でもこれくらいの季節になると、どんぐり拾いに夢中になったりしたよ」
「分かるわー。松ぼっくりで一番大きいのを見つけたやつが勝ちって思ってた」
思いついて部室のそばにあるトイレで手を洗う。鏡に映る自分の顔が自信に満ちあふれている。上がった口角を人差し指でぐっと押さえる。
写真を続けてきてよかった。ぐっとこぶしを握る。
そのとき、トイレの前を後輩の声が通り過ぎた。
「早坂先輩、調子に乗りすぎじゃない?」
「モデルがいいだけのまぐれなのに」
思いがけない言葉に胸が抉られた。だが、そこへポケットのスマホが振動する。ハル君からのメッセージだ。一瞬後輩の言葉が頭をよぎったが、ハル君のメッセージを見て笑うことができた。
ただのやっかみだ。モデルだって自分から声をかけた。顧問の先生に練習風景を撮っていいかお願いした。そういう小さな努力で最高の写真を撮れたのだ。それに、モデルがいいと言われるのは嬉しいことだ。そんな人がオレの彼氏。オレは誇っていればいい。
『今度の日曜、部活休みになったんだけど遊ばねえ?』
『ごめん。次の日曜日は模擬試験。午後からでもいい?』
『もう秋だもんな。受験で大変なのに悪い』
そう、高三のオレは受験生。志望大学は、実家から電車で一時間の私立大学だ。今のところ模擬試験の判定もいいし、例の写真コンテストの大人部門で入賞した人がいる写真サークルがあると聞いている。そこに入ってもっと写真をたくさん撮って。それを考えると腕がうずうずする。
――モデルがいいだけのまぐれなのに。
後輩の声が蘇り、頭を振る。ハル君に会いたい。そう思った。
日曜日、模擬試験が終わると駅前で待ち合わせる。少し寒くなってきた。厚めのジャケットを持っていく。でも、ハル君は長袖のシャツを腕まくりしていた。服の上からも分かる引き締まった筋肉と爽やかな雰囲気。人々がちらちらとハル君を見ているのが分かる。
オレの彼氏、かっこよすぎ。
にやけそうになる顔を引き締める。
「ハル君!」
手をあげるとハル君がオレに気づく。笑顔で駆け寄ってきたハル君が「試験お疲れ」と労ってくれた。二人で近くのモールへ行く。ぶらぶらするウィンドウショッピングは楽しい。冬物が売り出されていたのでなにがいいか選び合う。雑貨屋ではどんな財布がほしいかしゃべった。
学校の外ではオレたちはモデルと写真部じゃない。恋人同士だ。
「あ、マニキュア」
オレが化粧品売り場のところで足を止めると、ハル君も足を止めた。
「黒のマニキュア、あった。理久、どれくらいのスパンで買ってるんだろ」
黒の小瓶を手にして見つめる。すると、ハル君が突然きつい口調になった。
「ああいうの、理解できねえ。マニキュアなんて女がすることじゃん。ゲームとかVチューバーとか、根暗っていうか」
ハル君の棘のある言い方に驚く。だが、ハル君は一転してにんまりする。
「って、言ったら俺のほう見てくれる? 理久、綾斗と幼馴染みとか羨ましすぎ」
「もう!」
その腕をぺちっとはたく。ハル君はははっと明るく笑った。最近染め直したブラウンの短髪が元気なハル君にぴったりだ。
「だってよ、この間アルバムを見せてもらったんだよ。綾斗と理久が一緒に写ってる写真が多くて。綾斗が撮ったんだなって分かる写真もあったからさ」
「ハル君は子どもの頃はなにしてた?」
「公園のアスレチックとかで遊びまくってた。あとはずっと陸上」
「オレも公園によく写真を撮りに行ってた。でもこれくらいの季節になると、どんぐり拾いに夢中になったりしたよ」
「分かるわー。松ぼっくりで一番大きいのを見つけたやつが勝ちって思ってた」
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