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【一】
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「……じゃあ、いいじゃん?」
オレは思い切って言った。
「幼馴染みじゃなくても、分かり合えることってあるし」
顔が赤くなっていたらしい。
「かわいいこと言いやがって」
ハル君がぽすっと頭に手刀を落としてくる。そんな仕草に頬が熱さを増す。
「じゃあ俺も言っちゃおう」
ハル君が照れたように頭を掻いた。
「陸上を始めたきっかけ。うち、親父が交通事故で死んでから母親が仕事で忙しくなってさ。すっげえ疲れてテーブルで寝てるのとか見てたんだよ。で、思ったわけ。男は強くねえと駄目だし、金を稼げねえと駄目なんだって。親父が陸上をやってたって聞いたから、俺はアスリートになってお金をたくさん稼ぐぞって思って……まあ、再婚したから今は経済的には余裕になったかもしんねえけど」
「……そうなんだ」
ハル君が見せた理久に対する気持ちは嫉妬か。
オレはそう判断した。強さを求めるハル君からすれば、理久は大人しい子という印象でイライラするのかもしれない。高校生ながらお金を稼いでいる理久が羨ましいのかもしれない。単なる幼馴染みのオレと、同じ家に住む義理の兄弟では感覚が違うのかもしれない。
理久が陰ならハル君は陽。背中合わせに立つ二人はお互いがどう見えるのだろう。
オレは人差し指をぴんと立てた。
「じゃあハル君は有言実行の真っ最中なんだ。転校してすぐにエースになったんだし、強い選手でしょ。お金は高校のうちから稼ぐのなんて難しいし。今の頑張りが将来の年収に繋がるかもしれないよな」
するとハル君は目を丸くした。
「綾斗はマジでいいこと言うなあ。写真とかやってる人って、きれいなところを見つけるのが上手いんじゃねえの」
写真のことを褒められると照れくさい。髪を耳にかけて「そうかな」と目を伏せる。そのあとは二人でアイスを食べて、オレの家に招くことにした。親にハル君は頑張っているいい子だということを証明したくなったからだ。
ハル君がオレの親に挨拶し、階段をあがって部屋に行く。だが、扉を開けて中に入り、ぎくりと足が止まった。ピアスの耳の後ろ姿がオレのベッドに凭れて本を読んでいる。
「……理久」
思わず声が震える。後ろから入ってきたハル君もはっとしたように足を止めた。理久は艶のある黒のマニキュアの指先で文庫本を閉じた。いつもの表情で振り返り、こちらの顔を見比べる。
「デートだった? 綾斗さんに借りた本を直接返そうと思って、あがらせてもらってた」
それから理久は慌てたように「ごめん」と声を落とした。
「デートっておばさんたちに聞こえたらまずいよね? 二人の邪魔してごめん」
「え、あ、理久、オレたち」
慌てて言い訳しようとする。理久はふふっと笑ってくちびるに人差し指を当てる。
「そんなバレバレな様子で、僕が気づかないわけないでしょ」
そしてちらっとハル君を見る。
「隣の部屋で綾斗さんと電話してて、丸聞こえ。もうちょっと声を小さくしたら」
「うるせえな!」
ハル君が恥ずかしそうな口調で遮る。理久がおかしそうにくすりと笑う。
混じり合う陰と陽を見て、心の底から安堵した。ハル君も根がまっすぐないい子だ。理久もコンプレックスをバネにやりたいことを見つけた。高校生になってからの兄弟。理解し合えないこともあるだろう。でも、平凡なオレとは違う魅力の詰まった二人だ。分かり合えるものがある気がする。
理久が先に帰る。ハル君が棚に飾ってある写真立てを手に取る。賞を取ったハル君の写真だ。
「これ、俺の最高傑作だよ。綾斗、マジでサンキュ」
そっと近寄って、服をちょんちょんと引っ張る。振り返りこちらを見下ろすハル君が察したように笑う。
背伸びをしてするキスは、外の金木犀の香りが漂っている気がした。
オレは思い切って言った。
「幼馴染みじゃなくても、分かり合えることってあるし」
顔が赤くなっていたらしい。
「かわいいこと言いやがって」
ハル君がぽすっと頭に手刀を落としてくる。そんな仕草に頬が熱さを増す。
「じゃあ俺も言っちゃおう」
ハル君が照れたように頭を掻いた。
「陸上を始めたきっかけ。うち、親父が交通事故で死んでから母親が仕事で忙しくなってさ。すっげえ疲れてテーブルで寝てるのとか見てたんだよ。で、思ったわけ。男は強くねえと駄目だし、金を稼げねえと駄目なんだって。親父が陸上をやってたって聞いたから、俺はアスリートになってお金をたくさん稼ぐぞって思って……まあ、再婚したから今は経済的には余裕になったかもしんねえけど」
「……そうなんだ」
ハル君が見せた理久に対する気持ちは嫉妬か。
オレはそう判断した。強さを求めるハル君からすれば、理久は大人しい子という印象でイライラするのかもしれない。高校生ながらお金を稼いでいる理久が羨ましいのかもしれない。単なる幼馴染みのオレと、同じ家に住む義理の兄弟では感覚が違うのかもしれない。
理久が陰ならハル君は陽。背中合わせに立つ二人はお互いがどう見えるのだろう。
オレは人差し指をぴんと立てた。
「じゃあハル君は有言実行の真っ最中なんだ。転校してすぐにエースになったんだし、強い選手でしょ。お金は高校のうちから稼ぐのなんて難しいし。今の頑張りが将来の年収に繋がるかもしれないよな」
するとハル君は目を丸くした。
「綾斗はマジでいいこと言うなあ。写真とかやってる人って、きれいなところを見つけるのが上手いんじゃねえの」
写真のことを褒められると照れくさい。髪を耳にかけて「そうかな」と目を伏せる。そのあとは二人でアイスを食べて、オレの家に招くことにした。親にハル君は頑張っているいい子だということを証明したくなったからだ。
ハル君がオレの親に挨拶し、階段をあがって部屋に行く。だが、扉を開けて中に入り、ぎくりと足が止まった。ピアスの耳の後ろ姿がオレのベッドに凭れて本を読んでいる。
「……理久」
思わず声が震える。後ろから入ってきたハル君もはっとしたように足を止めた。理久は艶のある黒のマニキュアの指先で文庫本を閉じた。いつもの表情で振り返り、こちらの顔を見比べる。
「デートだった? 綾斗さんに借りた本を直接返そうと思って、あがらせてもらってた」
それから理久は慌てたように「ごめん」と声を落とした。
「デートっておばさんたちに聞こえたらまずいよね? 二人の邪魔してごめん」
「え、あ、理久、オレたち」
慌てて言い訳しようとする。理久はふふっと笑ってくちびるに人差し指を当てる。
「そんなバレバレな様子で、僕が気づかないわけないでしょ」
そしてちらっとハル君を見る。
「隣の部屋で綾斗さんと電話してて、丸聞こえ。もうちょっと声を小さくしたら」
「うるせえな!」
ハル君が恥ずかしそうな口調で遮る。理久がおかしそうにくすりと笑う。
混じり合う陰と陽を見て、心の底から安堵した。ハル君も根がまっすぐないい子だ。理久もコンプレックスをバネにやりたいことを見つけた。高校生になってからの兄弟。理解し合えないこともあるだろう。でも、平凡なオレとは違う魅力の詰まった二人だ。分かり合えるものがある気がする。
理久が先に帰る。ハル君が棚に飾ってある写真立てを手に取る。賞を取ったハル君の写真だ。
「これ、俺の最高傑作だよ。綾斗、マジでサンキュ」
そっと近寄って、服をちょんちょんと引っ張る。振り返りこちらを見下ろすハル君が察したように笑う。
背伸びをしてするキスは、外の金木犀の香りが漂っている気がした。
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