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【二】
2
次の写真がスクリーンに映し出される。途端に周りが「おお」と声をあげた。
「水にこんなに鮮やかに紅葉が映るなんて」
「これが撮りたくて何日も通いました。晴れてる日が一番きれいで」
「これは大きく引き延ばしても見劣りしない」
部員たちの声がどんどん遠ざかっていく。気づけば品評会は終わっていた。下を向いて椅子を片づける。
そこへ眼鏡の先輩がやってくる。そしてこちらを見てふんと鼻を鳴らした。
「高校でとった賞、まぐれなんじゃないの。モデルがよかっただけだろ」
――あんなのモデルがいいだけのまぐれなのに。
高校のときの言葉が蘇った。指先の熱がさーっと奪われていく。蛍光灯の冷たい光が心を痛めつけてくる。ハル君の美しさはずっとカメラで追い続けた。だから、オレがハル君のいいところを一番知っている。
お前はあのモデルと釣り合わない。そう言われてるみたいで、心臓が凍てつく。足が氷のように固く重くなる。親指の先まで冷たかった。
駅から走って家に帰る。夕飯後、時間を見てハル君に電話した。
この頃ハル君はまだ高校三年生。自室のカーテンを開けて窓から向かいを見る。ハル君が帰宅しているかどうか、照明で分かる。
「あ、ハル君? 今大丈夫?」
夜遅くにようやく繋がった電話。スマホの向こうでハル君が「疲れたー」とあくびをした音が聞こえた。
『今日の練習、マジでハードでさ』
ベッドの上で寝転がるハル君の様子が脳裏に浮かぶ。少しだけ息をついた。
「そっか。大変だったんだね。オレも今日つらいことがあってさ」
説明しようと息を吸う。でも、上手く言葉にならない。ハル君と釣り合わないのかもしれない。そう思ってしまったオレは臆病になっていた。声が震える。
「その、サークルの品評会でボロクソに言われちゃって……」
大丈夫だって。綾斗はあんなすげえ写真が撮れるんだからさ。
そんな言葉を期待する。だが、軽い口調が返ってきた。
『ふーん? ま、気にすんなよ』
かさっ。スマホの向こうでハル君が立ち上がる音がした。紙をパラパラ捲る乾いた音。マンガの雑誌だ。まるでオレの言葉を読み飛ばされたみたいで、慌てて聞いた。
「ハ、ハル君はオレの写真は好きだよな?」
当たり前だろ。俺に俺の姿を教えてくれただろ。
オレの想像とは違う言葉がまた返ってくる。
『んー、まあな。綾斗の撮った写真って俺にはトロフィーと同じだからさ』
ハル君の声が無造作に告げた。
『だから綾斗も俺のトロフィーみたいなもん』
ガツン。金色のトロフィーがオレの頭を殴った。褒められているのか物扱いされているのか分からない。
曖昧に濁して電話を切ると、部屋がしんと静まり返る。棚に飾ってあるハル君の写真立て。それを手にしてそっと表面を撫でる。
賞を取った一枚に縋っているほうがおかしいのか? 理久は数日に一回動画をあげている。きっとそれぞれで得られた評価を自分の自信に繋げている。だが、オレにはこの写真しかない。
たった一度きり賞を取れた写真。平凡な自分には平凡な風景しか撮れないのか?
急に胃が縮こまり、食べたご飯が消えてなくなる。足が震え、ずるずるとカーペットに座り込む。なにに対してだか分からない涙が目から溢れる。そっと窓から向かいの家を見る。ハル君の部屋には温かな明かりがついていた。
「水にこんなに鮮やかに紅葉が映るなんて」
「これが撮りたくて何日も通いました。晴れてる日が一番きれいで」
「これは大きく引き延ばしても見劣りしない」
部員たちの声がどんどん遠ざかっていく。気づけば品評会は終わっていた。下を向いて椅子を片づける。
そこへ眼鏡の先輩がやってくる。そしてこちらを見てふんと鼻を鳴らした。
「高校でとった賞、まぐれなんじゃないの。モデルがよかっただけだろ」
――あんなのモデルがいいだけのまぐれなのに。
高校のときの言葉が蘇った。指先の熱がさーっと奪われていく。蛍光灯の冷たい光が心を痛めつけてくる。ハル君の美しさはずっとカメラで追い続けた。だから、オレがハル君のいいところを一番知っている。
お前はあのモデルと釣り合わない。そう言われてるみたいで、心臓が凍てつく。足が氷のように固く重くなる。親指の先まで冷たかった。
駅から走って家に帰る。夕飯後、時間を見てハル君に電話した。
この頃ハル君はまだ高校三年生。自室のカーテンを開けて窓から向かいを見る。ハル君が帰宅しているかどうか、照明で分かる。
「あ、ハル君? 今大丈夫?」
夜遅くにようやく繋がった電話。スマホの向こうでハル君が「疲れたー」とあくびをした音が聞こえた。
『今日の練習、マジでハードでさ』
ベッドの上で寝転がるハル君の様子が脳裏に浮かぶ。少しだけ息をついた。
「そっか。大変だったんだね。オレも今日つらいことがあってさ」
説明しようと息を吸う。でも、上手く言葉にならない。ハル君と釣り合わないのかもしれない。そう思ってしまったオレは臆病になっていた。声が震える。
「その、サークルの品評会でボロクソに言われちゃって……」
大丈夫だって。綾斗はあんなすげえ写真が撮れるんだからさ。
そんな言葉を期待する。だが、軽い口調が返ってきた。
『ふーん? ま、気にすんなよ』
かさっ。スマホの向こうでハル君が立ち上がる音がした。紙をパラパラ捲る乾いた音。マンガの雑誌だ。まるでオレの言葉を読み飛ばされたみたいで、慌てて聞いた。
「ハ、ハル君はオレの写真は好きだよな?」
当たり前だろ。俺に俺の姿を教えてくれただろ。
オレの想像とは違う言葉がまた返ってくる。
『んー、まあな。綾斗の撮った写真って俺にはトロフィーと同じだからさ』
ハル君の声が無造作に告げた。
『だから綾斗も俺のトロフィーみたいなもん』
ガツン。金色のトロフィーがオレの頭を殴った。褒められているのか物扱いされているのか分からない。
曖昧に濁して電話を切ると、部屋がしんと静まり返る。棚に飾ってあるハル君の写真立て。それを手にしてそっと表面を撫でる。
賞を取った一枚に縋っているほうがおかしいのか? 理久は数日に一回動画をあげている。きっとそれぞれで得られた評価を自分の自信に繋げている。だが、オレにはこの写真しかない。
たった一度きり賞を取れた写真。平凡な自分には平凡な風景しか撮れないのか?
急に胃が縮こまり、食べたご飯が消えてなくなる。足が震え、ずるずるとカーペットに座り込む。なにに対してだか分からない涙が目から溢れる。そっと窓から向かいの家を見る。ハル君の部屋には温かな明かりがついていた。
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