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【二】
8
「……なに、これ」
震える指でスクロールすると、やはり女性と撮った写真が次々と出てくる。腹がさあっと音を立てて氷のように冷たくなった。
だが、すぐに気づいた。写っている女性は特定の女性ではない、複数だ。誰かと付き合っていますという惚気た写真ではない。男性と撮ったものもある。
なんだ、ファンサービスか。
安堵に胸を撫で下ろす。胸につかえた氷が僅かに溶けた。
スポーツ選手となればファンがつくのは当たり前だ。企業が後押しする選手なのだから、個人の人気だって重要だろう。応援してますと言われればありがとうと答えるだろう。一緒に写真を撮ってくださいと言われれば撮るだろう。これはそういう写真だ。
それでも、ハル君の隣に写るこの人たちが羨ましい。
ハル君に「元気?」と短いメッセージを送る。画面をじっと見つめていると、暫く経って既読の文字がつく。だが、返事がない。一分待っても、十分待っても、スマホの画面はブラックアウトしたまま。
窓の外から雨の音がする。しとしとと梅雨の細い雨の針がちくちくと心を刺す。ハル君と連絡がつかないなんて今更だ。だが、女性の横で笑みを浮かべるハル君を見ると、心で気持ち悪い虫がざわざわと這う。
はあと息をついた。これでは気が滅入る。ベッドにノートパソコンを持ってくる。シーツの上に置いてブラウザバックすると、理久のチャンネルが表示される。
最新動画を見てみようかな。
だが、クリックしても再生されない。おやと見ると、今日の時間とともに「配信予定」と表示されている。録画の動画ではない。今日リアルタイムで配信を行う予定だということだろう。
パソコンの右下を見て時間をチェックする。八時三十七分。配信開始時間は九時だ。
リアルタイムでしゃべるなんて、怖くないのかな? 言ったことがその場でコメントで批判されたりするんだろうし。
品評会のことをまた思い出し、頭を振る。
なんとなく配信開始を待つ。すると画面が切り替わって理久のキャラが映し出された。笑顔で手をあげるキャラクター。それがオレを見ている。
そしてゲームの最初の画面が映し出された。キャラクターがあっちを向いたりこっちを向いたりと動き出す。そのたびに垂れたピアスが揺れてかわいい。暗い部屋にハスキーボイスが明るく部屋いっぱいに流れ出す。
『みんなこんにちは! 久しぶりの生配信です。今日はこのゲームをやっていきます。推理ゲームだね。ちょっと緊張するなあ。このゲーム、結構難しいって前情報で聞いてるんだけど』
理久の明るい声に、ふふっと笑った。
今向かいの家で理久がこれをしゃべっているんだな。そうと思うとなんだかおかしい。温かみのある声。先ほどプリンを食べて偉いなんて頭を撫でてくれた優しさを思い出す。理久の声も手も心の氷を溶かす温度をしている。
『ええっと、カメラを使うゲームか。怪しいところをカメラで撮ると証拠品が写って、事件解決の糸口になる、っと。へえ、僕、カメラって好きだなあ』
突然、理久の口調が真剣なトーンになった。どきっと胸が揺れる。
『僕の知り合いでカメラやってる人がいるんだけどさ、もう全然違うんだよね。僕の目から見てる景色と、その写真に写る景色。その人の目にはこんなふうに世界がきれいに見えてるんだって思うと、いいなあって。心がきれいなんだろうなって思っちゃう』
理久の声が真剣さから一転する。「このゲームでは証拠を写し出すけど」とゲームの解説に移る。それなのに、心臓がどくどくと熱い音を立てる。
オレが聞いているかも分からない配信。そこで理久はオレの写真をきれいだと言ってくれる。心からオレの目がきれいだと褒めてくれている。理久の本音に触れて、心が揺れ動いた。にやけそうになる口を手でこする。
震える指でスクロールすると、やはり女性と撮った写真が次々と出てくる。腹がさあっと音を立てて氷のように冷たくなった。
だが、すぐに気づいた。写っている女性は特定の女性ではない、複数だ。誰かと付き合っていますという惚気た写真ではない。男性と撮ったものもある。
なんだ、ファンサービスか。
安堵に胸を撫で下ろす。胸につかえた氷が僅かに溶けた。
スポーツ選手となればファンがつくのは当たり前だ。企業が後押しする選手なのだから、個人の人気だって重要だろう。応援してますと言われればありがとうと答えるだろう。一緒に写真を撮ってくださいと言われれば撮るだろう。これはそういう写真だ。
それでも、ハル君の隣に写るこの人たちが羨ましい。
ハル君に「元気?」と短いメッセージを送る。画面をじっと見つめていると、暫く経って既読の文字がつく。だが、返事がない。一分待っても、十分待っても、スマホの画面はブラックアウトしたまま。
窓の外から雨の音がする。しとしとと梅雨の細い雨の針がちくちくと心を刺す。ハル君と連絡がつかないなんて今更だ。だが、女性の横で笑みを浮かべるハル君を見ると、心で気持ち悪い虫がざわざわと這う。
はあと息をついた。これでは気が滅入る。ベッドにノートパソコンを持ってくる。シーツの上に置いてブラウザバックすると、理久のチャンネルが表示される。
最新動画を見てみようかな。
だが、クリックしても再生されない。おやと見ると、今日の時間とともに「配信予定」と表示されている。録画の動画ではない。今日リアルタイムで配信を行う予定だということだろう。
パソコンの右下を見て時間をチェックする。八時三十七分。配信開始時間は九時だ。
リアルタイムでしゃべるなんて、怖くないのかな? 言ったことがその場でコメントで批判されたりするんだろうし。
品評会のことをまた思い出し、頭を振る。
なんとなく配信開始を待つ。すると画面が切り替わって理久のキャラが映し出された。笑顔で手をあげるキャラクター。それがオレを見ている。
そしてゲームの最初の画面が映し出された。キャラクターがあっちを向いたりこっちを向いたりと動き出す。そのたびに垂れたピアスが揺れてかわいい。暗い部屋にハスキーボイスが明るく部屋いっぱいに流れ出す。
『みんなこんにちは! 久しぶりの生配信です。今日はこのゲームをやっていきます。推理ゲームだね。ちょっと緊張するなあ。このゲーム、結構難しいって前情報で聞いてるんだけど』
理久の明るい声に、ふふっと笑った。
今向かいの家で理久がこれをしゃべっているんだな。そうと思うとなんだかおかしい。温かみのある声。先ほどプリンを食べて偉いなんて頭を撫でてくれた優しさを思い出す。理久の声も手も心の氷を溶かす温度をしている。
『ええっと、カメラを使うゲームか。怪しいところをカメラで撮ると証拠品が写って、事件解決の糸口になる、っと。へえ、僕、カメラって好きだなあ』
突然、理久の口調が真剣なトーンになった。どきっと胸が揺れる。
『僕の知り合いでカメラやってる人がいるんだけどさ、もう全然違うんだよね。僕の目から見てる景色と、その写真に写る景色。その人の目にはこんなふうに世界がきれいに見えてるんだって思うと、いいなあって。心がきれいなんだろうなって思っちゃう』
理久の声が真剣さから一転する。「このゲームでは証拠を写し出すけど」とゲームの解説に移る。それなのに、心臓がどくどくと熱い音を立てる。
オレが聞いているかも分からない配信。そこで理久はオレの写真をきれいだと言ってくれる。心からオレの目がきれいだと褒めてくれている。理久の本音に触れて、心が揺れ動いた。にやけそうになる口を手でこする。
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