15 / 39
【二】
9*
配信が続く。オレは机の引き出しにある高校時代の写真を取り出した。箱から出し、床に一枚一枚記憶の欠片を並べていく。
走るハル君、跳躍するハル君、マットの上で成功に喜びを爆発させるハル君。太陽と汗を感じられるオレの写真。
ほっと胸を撫で下ろす。オレの写真は理久の言うとおりきれいだ。一瞬ハル君を疑ってしまった罪悪感が胸を蝕む。だが、今見たいのはそれではない。
次の写真を見る。なにげなく理久を撮った懐かしい写真だ。理久が髪を耳にかけてじゃらじゃらとしたピアスを見せた、日常を撮った写真。その理久の目線が優しいやわらかな棘をオレに刺す。まっすぐに、オレだけを。ハル君の写真はこちらを見ていない。視線の先は空だ。
――その人の目にはこんなふうに世界がきれいに見えてるんだって思う。
攻撃的にも見えるピアスや黒のネイル。太陽の日差しの中で見せる微笑にエッジを利かせている。理久の黄金比のコントラスト。最近夢中になっていた、日常に潜む美しさを表現した写真と同じだ。
震える指先で理久のくちびるをなぞる。この口が、今しゃべっている。
白のヘッドフォンをパソコンに繋ぐ。頭につけて理久の声を聞いた。優しい理久の言葉。自分の平凡な写真をきれいと言ってくれる理久の思い。無理に外に出ろなんて言わない優しさ。全部全部耳から飲み干す。
『ああ、ここが重要ってことか』
低めのハスキーボイスがじわじわと耳に侵入してくる。少し重いヘッドフォンで外界の音がシャットアウトされる。頭の中が理久の声で満たされる。
ずくり。腹の奥底が疼く。
理久、理久、理久。
美形の理久がこちらを見て微笑んでいる写真を視線で舐め回す。理久の眼差しはこちらを捉えている。さっきだってオレの立場に寄り添って励ましてくれた。あの品評会の目線とは違う。優しい瞳は怖くない。
ハル君にこんな眼差しで見つめられたのはいつのことだろう。地元に帰ってこない。ビデオ通話も寮だからと断られる。理久の声と視線は違う。自分を慰めてくれるそれに体がじっとりと熱くなる。
気づいたら下着に手を入れ、自分のものを掴んでいた。
生配信中だったが、冒頭のカメラが好きという部分をリピートさせる。理久の声がオレの仄暗い欲を引きずり出す。ジュッジュッと陰茎を扱き、全体を包んで亀頭を撫でたり裏筋を指で何度もなぞったりする。自分の心を慰めるように慈しむ。
血がどっと下半身に集まり、中がガチガチになる。表面の皮を何度も何度も扱く。
理久。理久の写真を見ていると、はあはあと口から息が漏れる。ふと視界の端に、並べたハル君の写真が見えた。ちらりとそちらを見たが、ハル君はこちらを見ていない。
理久の写真に目を戻し、手の動きを速める。ぬめりのあるカウパーがべたべたと手につき、そのぬるぬるとした感覚に男根を掴むと一気に興奮が加速した。
――その人の目にはこんなにも世界がきれいに見えてるんだって思う。
理久の言葉を聞いていたら涙が頬を伝った。理久の本音は温かだ。理久の声に満たされると心地良い。理久の目線は怖くない。理久の言葉に心が癒される。
そそり立つ雄が上り詰める。鬱屈したものを解放したい。自分を優しく包むものに身を委ねたい。頭を空っぽにして快感を全身で味わいたい。自分を縛り付ける蔦を全部焼き払いたい。
理久なら全てを受け止めてくれる気がする。理久なら優しい言葉をかけてくれる気がする。自分を正面から見つめ、大丈夫だよと、そのままでいいよと、平凡なオレを認めてくれる気がする。
手を激しく上下に動かした。亀頭を割れ目に沿ってなぞり、リビドーを高めていく。
「あっ……理久……」
湿っぽい声が漏れる。ヘッドフォンから流れる理久の声がオレの耳を侵してくる。その声の波がオレの澄んだところを洗い流す。姿を現すのはどろどろとした熱情。
「理久……」
どくん。理久の写真を見た瞬間、手の中で自分のものが震えた。白い強欲がぱたぱたっと写真の理久の顔に飛ぶ。一気に脱力し、我に返った。
はあはあと息を切らすと顎から汗が滴る。傾いたヘッドフォンから垂れたコードが汗ばんだ首にぴたぴたとくっつく。耳を澄ますと、「やった!」と理久の明るい声が弾ける。
『これだよね? これで全部謎が解ける』
理久の写真が汚れていることにはっとする。濡れティッシュで急いでこすって拭く。幸いきれいになったので安堵の息をつく。だが、一方で散らばるハル君の写真にずきりと胸が痛む。
「ハル君の写真じゃ、ダメだった」
ぽつりと呟いた言葉が部屋に広がる。思わず俯いた。
「好きなのはハル君なのに……」
浮遊するハル君と青空が眩しすぎる。そっと目を逸らし、さっき自分を包んだ優しい闇を思った。
走るハル君、跳躍するハル君、マットの上で成功に喜びを爆発させるハル君。太陽と汗を感じられるオレの写真。
ほっと胸を撫で下ろす。オレの写真は理久の言うとおりきれいだ。一瞬ハル君を疑ってしまった罪悪感が胸を蝕む。だが、今見たいのはそれではない。
次の写真を見る。なにげなく理久を撮った懐かしい写真だ。理久が髪を耳にかけてじゃらじゃらとしたピアスを見せた、日常を撮った写真。その理久の目線が優しいやわらかな棘をオレに刺す。まっすぐに、オレだけを。ハル君の写真はこちらを見ていない。視線の先は空だ。
――その人の目にはこんなふうに世界がきれいに見えてるんだって思う。
攻撃的にも見えるピアスや黒のネイル。太陽の日差しの中で見せる微笑にエッジを利かせている。理久の黄金比のコントラスト。最近夢中になっていた、日常に潜む美しさを表現した写真と同じだ。
震える指先で理久のくちびるをなぞる。この口が、今しゃべっている。
白のヘッドフォンをパソコンに繋ぐ。頭につけて理久の声を聞いた。優しい理久の言葉。自分の平凡な写真をきれいと言ってくれる理久の思い。無理に外に出ろなんて言わない優しさ。全部全部耳から飲み干す。
『ああ、ここが重要ってことか』
低めのハスキーボイスがじわじわと耳に侵入してくる。少し重いヘッドフォンで外界の音がシャットアウトされる。頭の中が理久の声で満たされる。
ずくり。腹の奥底が疼く。
理久、理久、理久。
美形の理久がこちらを見て微笑んでいる写真を視線で舐め回す。理久の眼差しはこちらを捉えている。さっきだってオレの立場に寄り添って励ましてくれた。あの品評会の目線とは違う。優しい瞳は怖くない。
ハル君にこんな眼差しで見つめられたのはいつのことだろう。地元に帰ってこない。ビデオ通話も寮だからと断られる。理久の声と視線は違う。自分を慰めてくれるそれに体がじっとりと熱くなる。
気づいたら下着に手を入れ、自分のものを掴んでいた。
生配信中だったが、冒頭のカメラが好きという部分をリピートさせる。理久の声がオレの仄暗い欲を引きずり出す。ジュッジュッと陰茎を扱き、全体を包んで亀頭を撫でたり裏筋を指で何度もなぞったりする。自分の心を慰めるように慈しむ。
血がどっと下半身に集まり、中がガチガチになる。表面の皮を何度も何度も扱く。
理久。理久の写真を見ていると、はあはあと口から息が漏れる。ふと視界の端に、並べたハル君の写真が見えた。ちらりとそちらを見たが、ハル君はこちらを見ていない。
理久の写真に目を戻し、手の動きを速める。ぬめりのあるカウパーがべたべたと手につき、そのぬるぬるとした感覚に男根を掴むと一気に興奮が加速した。
――その人の目にはこんなにも世界がきれいに見えてるんだって思う。
理久の言葉を聞いていたら涙が頬を伝った。理久の本音は温かだ。理久の声に満たされると心地良い。理久の目線は怖くない。理久の言葉に心が癒される。
そそり立つ雄が上り詰める。鬱屈したものを解放したい。自分を優しく包むものに身を委ねたい。頭を空っぽにして快感を全身で味わいたい。自分を縛り付ける蔦を全部焼き払いたい。
理久なら全てを受け止めてくれる気がする。理久なら優しい言葉をかけてくれる気がする。自分を正面から見つめ、大丈夫だよと、そのままでいいよと、平凡なオレを認めてくれる気がする。
手を激しく上下に動かした。亀頭を割れ目に沿ってなぞり、リビドーを高めていく。
「あっ……理久……」
湿っぽい声が漏れる。ヘッドフォンから流れる理久の声がオレの耳を侵してくる。その声の波がオレの澄んだところを洗い流す。姿を現すのはどろどろとした熱情。
「理久……」
どくん。理久の写真を見た瞬間、手の中で自分のものが震えた。白い強欲がぱたぱたっと写真の理久の顔に飛ぶ。一気に脱力し、我に返った。
はあはあと息を切らすと顎から汗が滴る。傾いたヘッドフォンから垂れたコードが汗ばんだ首にぴたぴたとくっつく。耳を澄ますと、「やった!」と理久の明るい声が弾ける。
『これだよね? これで全部謎が解ける』
理久の写真が汚れていることにはっとする。濡れティッシュで急いでこすって拭く。幸いきれいになったので安堵の息をつく。だが、一方で散らばるハル君の写真にずきりと胸が痛む。
「ハル君の写真じゃ、ダメだった」
ぽつりと呟いた言葉が部屋に広がる。思わず俯いた。
「好きなのはハル君なのに……」
浮遊するハル君と青空が眩しすぎる。そっと目を逸らし、さっき自分を包んだ優しい闇を思った。
あなたにおすすめの小説
平凡高校生の俺にイケメンアイドルが365回告白してくる理由
スノウマン(ユッキー)
BL
高校三年生の橘颯真はイケメンアイドル星宮光に毎日欠かさず告白されている。男同士とのこともあり、毎回断る颯真だが、一年という時間が彼らの関係を少しずつ変えていく。
どうして星宮は颯真に毎日告白するのか、そして彼らの恋の行方は?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。