嘘つきの翼【完結】

タリ イズミ

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【三】

1*

 それからオレは理久の配信にはまった。SNSを毎日見て動画は全てチェックする。生配信も欠かさずに見る。内容はもちろんゲーム実況。だが、オレの耳はなにげない理久の言葉を拾う。
『みんなありのままでいいんだよ。直感に従おう!』
『難しいことにぶつかるとつらいよね。でもなにげないところにヒントがあるよ』
 ヘッドフォン越しに聞くハスキーボイスはとろりと甘い蜜の味だ。何度も頭の中で繰り返し、興奮を高めた。一枚の理久の写真。オレに微笑みかけて慰めてくれる。
 ネットで開くアダルトグッズのページ。ローションをカートに入れる。もっと快感を味わえるかもと、後ろに入れるおもちゃとコンドームも注文する。
 わざと冷房を切って自慰にふけると、体を伝う汗と理久の声が混じり合う。終わったあとに飲む麦茶は夏と淫靡の味がした。
 理久はたびたび料理をしに家にやって来た。ありきたりな会話を交わす。だが、この声で抜いたのだ。仄暗い興奮と少しの罪悪感が、ご飯と一緒に腹に溜まっていく。
「綾斗さん、今年の花火大会ってどうする? ほら、前にすっごくきれいな写真を撮ってたじゃん」
 理久の言葉が七月を彩る派手な色と音を呼び起こす。
 河川敷の人混み、浴衣の装いで歩く人々、分け合った焼きそばのにおいや、熱々だったたこ焼き、口に貼りつく綿あめ。お揃いで買ったヒーローのお面は宝物にしていた。
「あの花火大会ももう一ヶ月後か。一緒に行ったのが懐かしいな」
 次は焼きそばを作ってみたいな。そう思いながら白米をかき込む。すると、向かいの理久が首を傾げた。
「今年は近くまで行ってみる?」
 それには首を横に振った。
「外には行けないと思う。まだ人の目が怖くてさ」
 理久の前だとそんな本音もするりと話せるようになった。すると理久が向かいから手を伸ばしてきて、オレの手を握った。
 大丈夫だよ。そう言っているのが分かる。大きさと温かさにほっとする。小さい頃は背丈もそんなに変わらなかったのに、ずっとずっと理久のほうが背が高いし手も大きい。
「まあいっか。花火なんていくらでも見に行ける。家からだって見えるしね。それに、昔庭でやったみたいな花火も楽しいかもよ?」
「そう言えば、理久ってへび花火をすごく怖がってた」
「そういうこと覚えてるの? やめて!」
 理久が軽く睨んでくるので噴き出した。すると理久も目を細めてくすくす笑う。ピアスを一つ増やしたらしい。耳の根元から外側へ貫く一本の黒いピアス。理久の優しい雰囲気とは逆の鋭い雰囲気が色っぽい。
 最近、理久といると笑顔になれる。理久は無理やりオレを外に連れ出したりしない。それに、オレのカメラの腕を手放しで褒めてくれる。
 ハル君に連絡がつかない日、堪えきれなくて理久に電話した日もある。理久は「今は編集作業中!」なんて言うときもあった。だが、急いでいないときは手を止めておしゃべりをしてくれる。
 こんなのよくない。分かっていた。理久の微笑みはやわらかく降る夕立のようだ。その夕立を浴びるたび、自分の足元に汚い泥水が広がっていく。
 ハル君に会えない。ぽっかりと空いた胸を潤してほしくて、雨の空に手を伸ばす。パソコンを開けば動画を再生してしまう。マウスをクリックするオレの指は泥で汚れている。
 理久もハル君のことは分かっているらしい。「ハルと連絡がとれないの?」とオレの顔を覗き込む。オレの心を見透かす目線に胸がざわめく。
 どんな理由があっても、彼氏からメッセージの返信がなかったら悲しいし、電話を断られたらつらい。
 その点、理久はSNSに配信予定が載っている。だから、空き時間が分かりやすい。事務所に行くときは「お土産はなにがいい?」なんてあらかじめ聞いてくる。だから遠出の日も分かる。おしゃれな理久は「綾斗さんにプレゼント」なんて服を買ってきてくれるときもあった。
 オレは外に出ないし。
 そう言っても、いつか外に出るときに衣装持ちになってたら出やすいかもと楽しげに笑う。――理久は、たまにオレの罪悪感をちくりちくりと突いてくる。

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