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【三】
5
「理久、寒いだろ。まだ夕飯の準備には時間あるし、オレの部屋に行ってろよ。温かい紅茶を持ってくからさ」
定番となった理久用のマグカップを棚から取る。ついでに自分のも選ぶ。赤いケトルで湯を沸かす。
棚に並ぶいろんなフレーバーのティーバッグ。その中からレモンティーのティーバッグを選ぶ。ティーバッグの紐を何回か引いてから小皿にとると、柑橘系のにおいが広がった。オレの一番好きな紅茶だ。すっきりとした香りを胸いっぱいに吸い込む。
階段をとんとん踏む足が軽いステップを踏む。
「理久、お待た」
二つのマグカップを持って部屋に行き、はっとした。蛍光灯の下でベッドに座る理久の姿が目に飛び込んでくる。照れたようにノートパソコンを指さす。
「僕の動画、見てくれてたんだ? なにも言わないから見てないと思ったのに」
そんな用途で見ているとは言えない。「あ、うん」と曖昧に頷いて、マグカップをローテーブルに置いた。
急に紅茶のにおいが遠ざかる。手に汗がじっとりと滲む。心臓がばくばくと駆け足で走り出す。落ち着け落ち着けとカーペットに座る。
「僕の動画、これ、途中まで見たんだ。このあとがおもしろい展開になるんだよ」
「そうなんだ? 疲れてるからかな、おもしろくてもたまに頭に入ってこなくて、何度も見直したりしてゆっくり進めてるから」
「綾斗さんは頑張り屋さんだから。たまには料理をお休みしてもいいんだよ。普通に遊ぼうよ」
そう言って理久がこちらに乗り出してくる。ようやく気づいたというようにこちらの髪を触った。
「綾斗さんも濡れてる」
濡れてる。その言葉にローションを連想して顔が熱を持つ。ハスキーボイスが低くオレの腹の奥に響いた。
「シャワー、浴びたばっかりだったから……」
理久の細い指がオレの前髪をつまむ。くるり。指先に絡ませる。黒いマニキュアの爪先がつやつやだ。近さに恥ずかしくなって下を向いてしまう。
「綾斗さん、髪、伸びたね。長いところは肩についちゃってるね」
「うん……もう、半年以上切ってないし」
「髪が細いから、シャンプーだけじゃダメだよ。コンディショナーを使わないと」
話の最中にも理久の指がオレの毛先を弄ぶ。
近い。変な気分になる。理久の目線になにかを捉えようとしてしまう。
顔をあげて口を開こうとしたとき、理久の指の向こうにベッドが見えた。無造作に置かれた夏掛けのブランケット。心臓がどくっと大きな音を立てる。あの下に、ローションボトルがある。パソコンのそばに、それがある。
オレはマグカップを指さして「飲まない?」と誘導しようとした。だが、理久はふふと笑う。もう一度ベッドにぼすっと尻をつく。
「綾斗さん、この動画、結構前のだよね。このゲームが気に入った?」
気に入ったのは、ゲームじゃなくて理久のセリフで。そんなことを言い出せないオレに、理久が不思議そうな表情になる。理久がなにかに気づいたように顔をあげ、夏掛けに違和感を抱いたように目を向ける。艶を帯びた髪の理久が睫毛の長い目を瞬かせる。
「なんかある?」
「理久、待って!」
定番となった理久用のマグカップを棚から取る。ついでに自分のも選ぶ。赤いケトルで湯を沸かす。
棚に並ぶいろんなフレーバーのティーバッグ。その中からレモンティーのティーバッグを選ぶ。ティーバッグの紐を何回か引いてから小皿にとると、柑橘系のにおいが広がった。オレの一番好きな紅茶だ。すっきりとした香りを胸いっぱいに吸い込む。
階段をとんとん踏む足が軽いステップを踏む。
「理久、お待た」
二つのマグカップを持って部屋に行き、はっとした。蛍光灯の下でベッドに座る理久の姿が目に飛び込んでくる。照れたようにノートパソコンを指さす。
「僕の動画、見てくれてたんだ? なにも言わないから見てないと思ったのに」
そんな用途で見ているとは言えない。「あ、うん」と曖昧に頷いて、マグカップをローテーブルに置いた。
急に紅茶のにおいが遠ざかる。手に汗がじっとりと滲む。心臓がばくばくと駆け足で走り出す。落ち着け落ち着けとカーペットに座る。
「僕の動画、これ、途中まで見たんだ。このあとがおもしろい展開になるんだよ」
「そうなんだ? 疲れてるからかな、おもしろくてもたまに頭に入ってこなくて、何度も見直したりしてゆっくり進めてるから」
「綾斗さんは頑張り屋さんだから。たまには料理をお休みしてもいいんだよ。普通に遊ぼうよ」
そう言って理久がこちらに乗り出してくる。ようやく気づいたというようにこちらの髪を触った。
「綾斗さんも濡れてる」
濡れてる。その言葉にローションを連想して顔が熱を持つ。ハスキーボイスが低くオレの腹の奥に響いた。
「シャワー、浴びたばっかりだったから……」
理久の細い指がオレの前髪をつまむ。くるり。指先に絡ませる。黒いマニキュアの爪先がつやつやだ。近さに恥ずかしくなって下を向いてしまう。
「綾斗さん、髪、伸びたね。長いところは肩についちゃってるね」
「うん……もう、半年以上切ってないし」
「髪が細いから、シャンプーだけじゃダメだよ。コンディショナーを使わないと」
話の最中にも理久の指がオレの毛先を弄ぶ。
近い。変な気分になる。理久の目線になにかを捉えようとしてしまう。
顔をあげて口を開こうとしたとき、理久の指の向こうにベッドが見えた。無造作に置かれた夏掛けのブランケット。心臓がどくっと大きな音を立てる。あの下に、ローションボトルがある。パソコンのそばに、それがある。
オレはマグカップを指さして「飲まない?」と誘導しようとした。だが、理久はふふと笑う。もう一度ベッドにぼすっと尻をつく。
「綾斗さん、この動画、結構前のだよね。このゲームが気に入った?」
気に入ったのは、ゲームじゃなくて理久のセリフで。そんなことを言い出せないオレに、理久が不思議そうな表情になる。理久がなにかに気づいたように顔をあげ、夏掛けに違和感を抱いたように目を向ける。艶を帯びた髪の理久が睫毛の長い目を瞬かせる。
「なんかある?」
「理久、待って!」
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