23 / 39
【三】
8*
途端にくちびるを塞がれて、シャツの中の理久の手が蠢いた。胸の周りをくるくると円を描き、ピンと指先でつまみを弾く。初めて触れられた蕾。少し痛くて「ん」と声を漏らす。
理久がシャツを下からずりあげて、オレの頭と腕を引っこ抜く。直に肌に触れるシーツがひんやりとしていて、外の嵐のせいか少し湿っている気がする。
カチッ。理久の手がローションボトルの蓋を外す。いやらしい音を立てて指先に出したそれを、理久はオレの胸の先端に塗りだした。ぬるぬる滑る感覚とそこにしかない鋭い刺激。体が跳ね、息が震える。
「り、理久」
抗議しようとした口にまた口を押しつけられる。理久の右の人差し指だけが何度も何度もそこをこねくり回す。微かな水音が湿気に混じる。下くちびるを噛みしめて声を耐える。すると、急につままれて「あっ」と悲鳴が漏れた。
「綾斗さん、声もかわいい」
頭をぽんぽんと撫でられて顔がかーっと熱くなった。だが、恥ずかしさを誤魔化す時間はなくて、もう片方の胸までいじられ、耳たぶを甘噛みされ、首筋を口がやわやわと這う。
「綾斗さん」
湿気を帯びた低めのハスキーボイスがオレの名前を呼ぶ。
「次はなにしてほしい? 空想の中でなにしてたの?」
「え、え? なにしてたって、別になにもしてない」
「……手を動かしてただけ?」
「そ、そう」
「空想の中の僕は綾斗さんにとって弟だもんね。……ハルとしてた?」
「まさか! ハル君は、オレみたいな汚いことをする人間とは違うから」
「綾斗さんにとってハルは潔癖な存在なんだ? 綾斗さんのいいところが出ちゃってるなあ。でも、きれいなところばっかり見てると、見失うこともあるかもね?」
理久の両手ががしっと顎から頬を包んで、上から見下ろしてきた。目をらんらんとさせた理久が口端を吊り上げる。
「僕は頭の中で何度も綾斗さんを抱いてるよ。だから、僕は汚い人間だ。だったら汚い人間同士でやるしかないよね」
理久の吐く息が頬にかかって、体がカタカタと震える。理久の気迫はオレを逃がさない。
「優しくするよ。怖がらないで」
そう言われて始まったのはキス。ただ口を合わせるだけではなくて、果実をかじるようにやんわりとくちびるを甘噛みされる。少し引っ張って、ぷつりとくちびるが離れるとなんだかちょっと寂しい。目を瞑ってキスを交わしていると、理久の髪がこちらの頬に何本か貼りついた。
理久が小さくふふっと笑った。
「幸せ。綾斗さんとは一生キスできないと思ってた」
「……なんでオレ? 平凡な、それどころか引きこもりなのに」
すると理久は微笑して額をこつんとくっつけてきた。瞬きすれば睫毛が触れそうな距離で言う。
「綾斗さんだけが僕の声をいいって言ってくれた。僕が泣いて学校から帰ろうとしても、追いかけてきて理久の声はすごくいいって力説してた」
理久が遠い過去を思うように息を潜める。
「だから綾斗さんの前でだけ話せた。本当の自分をさらけ出せたのは綾斗さんに対してだけ」
「……ハル君と付き合ってるって知ってるのに」
「綾斗さんの彼氏の陰口でごめん。ハルは多分僕が綾斗さんを好きだと気づいてるよ。綾斗さんと電話するときだけ壁の向こうから聞こえてくるくらい声が大きいし、いつか外を覗いたら僕の部屋から見える位置でキスしてた」
理久が湿った声色を響かせる。
「僕には他人の記録を奪って人の好きな人を奪うような乱暴なやつに見えるんだ」
「……そんな、それは言いすぎじゃ」
理久がぎゅっとこぶしを握る。昔の泣き顔が重なる。理久も闇に囚われている。理久には理久を縛る蔦がある。理久の睫毛の先に影が揺らいだ。
「うちに越してきた他人があっという間に綾斗さんを攫っていくのを見て絶望したよ。綾斗さんがハルばっかり見るようになって、ずっと寂しかったよ」
ずっと寂しかったよ。
理久の声に胸が締めつけられた。そうだった。オレだって寂しかった。会えなければつらい。電話やメッセージに返事がなければ悲しい。都合よく自分が弱っているときにだけ電話をかけてくるのにはなんでと思う。
ぱちん。また不満の泡が弾ける。
オレはハル君にとってなに? 恋人? 忙しくて恋愛に構っていられないって言うならそうなのかもしれない。だったら理久は? 仕事の合間にたくさんの癒しをくれた。
オレが弱っているときに一番寄り添ってくれたのは理久。その理久が寂しいと言っている。幼馴染みが寂しいと訴えている。
欲している。キスも、その先も、オレとやりたいんだと。
「……理久」
ずっとオレの足を放さなかった泥水を振り払う。やわらかい夕立の水に水面が揺れる。澄んだ水たまりから震える腕を伸ばし、起き上がって理久のうなじへ回す。
「キス、しよ」
「うん」
そっと重ねたくちびるに吐息が絡まった。
理久がシャツを下からずりあげて、オレの頭と腕を引っこ抜く。直に肌に触れるシーツがひんやりとしていて、外の嵐のせいか少し湿っている気がする。
カチッ。理久の手がローションボトルの蓋を外す。いやらしい音を立てて指先に出したそれを、理久はオレの胸の先端に塗りだした。ぬるぬる滑る感覚とそこにしかない鋭い刺激。体が跳ね、息が震える。
「り、理久」
抗議しようとした口にまた口を押しつけられる。理久の右の人差し指だけが何度も何度もそこをこねくり回す。微かな水音が湿気に混じる。下くちびるを噛みしめて声を耐える。すると、急につままれて「あっ」と悲鳴が漏れた。
「綾斗さん、声もかわいい」
頭をぽんぽんと撫でられて顔がかーっと熱くなった。だが、恥ずかしさを誤魔化す時間はなくて、もう片方の胸までいじられ、耳たぶを甘噛みされ、首筋を口がやわやわと這う。
「綾斗さん」
湿気を帯びた低めのハスキーボイスがオレの名前を呼ぶ。
「次はなにしてほしい? 空想の中でなにしてたの?」
「え、え? なにしてたって、別になにもしてない」
「……手を動かしてただけ?」
「そ、そう」
「空想の中の僕は綾斗さんにとって弟だもんね。……ハルとしてた?」
「まさか! ハル君は、オレみたいな汚いことをする人間とは違うから」
「綾斗さんにとってハルは潔癖な存在なんだ? 綾斗さんのいいところが出ちゃってるなあ。でも、きれいなところばっかり見てると、見失うこともあるかもね?」
理久の両手ががしっと顎から頬を包んで、上から見下ろしてきた。目をらんらんとさせた理久が口端を吊り上げる。
「僕は頭の中で何度も綾斗さんを抱いてるよ。だから、僕は汚い人間だ。だったら汚い人間同士でやるしかないよね」
理久の吐く息が頬にかかって、体がカタカタと震える。理久の気迫はオレを逃がさない。
「優しくするよ。怖がらないで」
そう言われて始まったのはキス。ただ口を合わせるだけではなくて、果実をかじるようにやんわりとくちびるを甘噛みされる。少し引っ張って、ぷつりとくちびるが離れるとなんだかちょっと寂しい。目を瞑ってキスを交わしていると、理久の髪がこちらの頬に何本か貼りついた。
理久が小さくふふっと笑った。
「幸せ。綾斗さんとは一生キスできないと思ってた」
「……なんでオレ? 平凡な、それどころか引きこもりなのに」
すると理久は微笑して額をこつんとくっつけてきた。瞬きすれば睫毛が触れそうな距離で言う。
「綾斗さんだけが僕の声をいいって言ってくれた。僕が泣いて学校から帰ろうとしても、追いかけてきて理久の声はすごくいいって力説してた」
理久が遠い過去を思うように息を潜める。
「だから綾斗さんの前でだけ話せた。本当の自分をさらけ出せたのは綾斗さんに対してだけ」
「……ハル君と付き合ってるって知ってるのに」
「綾斗さんの彼氏の陰口でごめん。ハルは多分僕が綾斗さんを好きだと気づいてるよ。綾斗さんと電話するときだけ壁の向こうから聞こえてくるくらい声が大きいし、いつか外を覗いたら僕の部屋から見える位置でキスしてた」
理久が湿った声色を響かせる。
「僕には他人の記録を奪って人の好きな人を奪うような乱暴なやつに見えるんだ」
「……そんな、それは言いすぎじゃ」
理久がぎゅっとこぶしを握る。昔の泣き顔が重なる。理久も闇に囚われている。理久には理久を縛る蔦がある。理久の睫毛の先に影が揺らいだ。
「うちに越してきた他人があっという間に綾斗さんを攫っていくのを見て絶望したよ。綾斗さんがハルばっかり見るようになって、ずっと寂しかったよ」
ずっと寂しかったよ。
理久の声に胸が締めつけられた。そうだった。オレだって寂しかった。会えなければつらい。電話やメッセージに返事がなければ悲しい。都合よく自分が弱っているときにだけ電話をかけてくるのにはなんでと思う。
ぱちん。また不満の泡が弾ける。
オレはハル君にとってなに? 恋人? 忙しくて恋愛に構っていられないって言うならそうなのかもしれない。だったら理久は? 仕事の合間にたくさんの癒しをくれた。
オレが弱っているときに一番寄り添ってくれたのは理久。その理久が寂しいと言っている。幼馴染みが寂しいと訴えている。
欲している。キスも、その先も、オレとやりたいんだと。
「……理久」
ずっとオレの足を放さなかった泥水を振り払う。やわらかい夕立の水に水面が揺れる。澄んだ水たまりから震える腕を伸ばし、起き上がって理久のうなじへ回す。
「キス、しよ」
「うん」
そっと重ねたくちびるに吐息が絡まった。
あなたにおすすめの小説
平凡高校生の俺にイケメンアイドルが365回告白してくる理由
スノウマン(ユッキー)
BL
高校三年生の橘颯真はイケメンアイドル星宮光に毎日欠かさず告白されている。男同士とのこともあり、毎回断る颯真だが、一年という時間が彼らの関係を少しずつ変えていく。
どうして星宮は颯真に毎日告白するのか、そして彼らの恋の行方は?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。