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【四】
4*
ガチャ。耳にドアの音が飛び込んでくる。瞬間、オレは理性に頬を引っぱたかれた。はっとして顔をあげる。廊下の明かりの中から影がぬっと現れ、ドアノブに手をかけていた。白のTシャツ姿のハル君。一瞬いつもの爽やかな笑顔を見せる。だが、すぐにがくんと口を開け、目を剥いた。
「ハルく」
起き上がって声をあげようとしたオレの口を、黒い爪の汗ばんだ手がぱっと塞ぐ。
「ああ、ハルおかえり。いいところだったのに、邪魔しないでよ」
満足げな声を出す理久が腰をがつんと動かし、オレの体が「ぐ」と震える。ハル君の前で変な声を出してしまった。顔が真っ赤になるのが分かる。足の爪先と両膝をベッドについて座る格好になった理久がオレの腹に手を回してくる。恥部がハル君に丸見えだ。パニックの嵐で頭の中は真っ白になる。ハル君の眼差しが鋭くとがる。
「理久、お前、綾斗となにを」
「綾斗さん、もらっちゃった。ごちそうさま」
理久の棘がハル君に向かう。オレは急いで理久の手を振り払った。
「ハル君、違う! これは理久が悪いんじゃ」
焦るオレの耳に、ハル君の「へえ」という軽薄な声が飛び込んできた。
「なんだ、楽しそうじゃん。俺も混ぜろよ」
俺も混ぜろよ。
予想もしてなかった言葉に思考回路が停止した。綾斗さん。理久が後ろから抱きしめてくるが、体が凍り付いて動けない。ブリキのようにギギギとハル君のほうを見る。オレの目に映るハル君がにやりと笑った。
「……え? どういう意味……?」
ぽろりとこぼれた疑問にハル君は答えてくれない。オレと理久を見比べる。
「ふーん、綾斗、理久とやってたんだ? 理久、男の体ってどんなもん? 俺、興味なくてさ。でも……理久にやられてる綾斗ってそそるな」
ハル君の眩しい眼差しが地に沈む。夜に光る目がオレの頭のてっぺんから下までじろじろと見る。こちらの股間を見てにやにやした。オレに怒る様子も、理久に怒る様子もない。
カメラで追いかけた青空の下で汗をきらめかせていたハル君。その頃からは想像もつかない欲まみれの目。その双眸がオレを舐め回す。
混乱して言葉が出てこない。だが、後ろの理久は「は?」と怒ったような声を出した。ぎゅっとオレを守るように腕を回してくる。
「そそるってなに? 元々綾斗さんは魅力的だけど」
「男の体がいいって感情、マジで分かんねえ」
「男がいいんじゃない。綾斗さんがいいだけ」
理久の汗ばんだ腕が後ろからきつく抱きしめてきた。だが、なにも頭に入ってこない。俺も混ぜろよ。頭の中でリフレインされる言葉。ハル君のじろじろとオレを見てくる目は、知らなかった人の目だ。
「理久が後ろなら、綾斗の口、使わせてもらおっかな。口なら女と変わんねえだろ」
殴られたような衝撃を感じて目を見開く。つい声が震える。
「まさか、女の子とそんなことしたことがあるの……?」
頭の中でハル君と写る女子たちの画像がフラッシュバックする。たくさんあがっていた写真のどれかの女の子。
「ハル君、浮気、してたんだ……?」
「は? そんなの、綾斗、お前も同じだろ。理久とやってんじゃん」
「そう、だけど、ハル君はそんなんじゃなくて、もっと潔癖で爽やかで誠実だから」
するとハル君が大袈裟に肩をすくめた。
「綾斗ってマジでバカ正直。写真ばっかり撮るやつってカメラの中からしか世の中が見てねえんじゃねえの。現実が見えてねえんだよ」
自分の頬を叩く言葉に血の気が引く。女の子と浮気。しかもそんなことまでしてる。
オレの眩しいハル君が。ひどいショックに目に涙が盛り上がった。だが、「すぐ泣くとか嫌味でへこむとか、根性ねえよな」とまた言葉を投げつけられる。
「綾斗さん、気にしなくていいよ。全部僕が忘れさせてあげる」
理久の熱っぽい言葉が耳元に絡まる。
理久への返事を考えている余裕はなかった。ハル君がジーンズのベルトをカチャカチャと外しながらベッドに乗ってくる。オレの目の前でファスナーをジジッと下ろす。
「ハルく」
起き上がって声をあげようとしたオレの口を、黒い爪の汗ばんだ手がぱっと塞ぐ。
「ああ、ハルおかえり。いいところだったのに、邪魔しないでよ」
満足げな声を出す理久が腰をがつんと動かし、オレの体が「ぐ」と震える。ハル君の前で変な声を出してしまった。顔が真っ赤になるのが分かる。足の爪先と両膝をベッドについて座る格好になった理久がオレの腹に手を回してくる。恥部がハル君に丸見えだ。パニックの嵐で頭の中は真っ白になる。ハル君の眼差しが鋭くとがる。
「理久、お前、綾斗となにを」
「綾斗さん、もらっちゃった。ごちそうさま」
理久の棘がハル君に向かう。オレは急いで理久の手を振り払った。
「ハル君、違う! これは理久が悪いんじゃ」
焦るオレの耳に、ハル君の「へえ」という軽薄な声が飛び込んできた。
「なんだ、楽しそうじゃん。俺も混ぜろよ」
俺も混ぜろよ。
予想もしてなかった言葉に思考回路が停止した。綾斗さん。理久が後ろから抱きしめてくるが、体が凍り付いて動けない。ブリキのようにギギギとハル君のほうを見る。オレの目に映るハル君がにやりと笑った。
「……え? どういう意味……?」
ぽろりとこぼれた疑問にハル君は答えてくれない。オレと理久を見比べる。
「ふーん、綾斗、理久とやってたんだ? 理久、男の体ってどんなもん? 俺、興味なくてさ。でも……理久にやられてる綾斗ってそそるな」
ハル君の眩しい眼差しが地に沈む。夜に光る目がオレの頭のてっぺんから下までじろじろと見る。こちらの股間を見てにやにやした。オレに怒る様子も、理久に怒る様子もない。
カメラで追いかけた青空の下で汗をきらめかせていたハル君。その頃からは想像もつかない欲まみれの目。その双眸がオレを舐め回す。
混乱して言葉が出てこない。だが、後ろの理久は「は?」と怒ったような声を出した。ぎゅっとオレを守るように腕を回してくる。
「そそるってなに? 元々綾斗さんは魅力的だけど」
「男の体がいいって感情、マジで分かんねえ」
「男がいいんじゃない。綾斗さんがいいだけ」
理久の汗ばんだ腕が後ろからきつく抱きしめてきた。だが、なにも頭に入ってこない。俺も混ぜろよ。頭の中でリフレインされる言葉。ハル君のじろじろとオレを見てくる目は、知らなかった人の目だ。
「理久が後ろなら、綾斗の口、使わせてもらおっかな。口なら女と変わんねえだろ」
殴られたような衝撃を感じて目を見開く。つい声が震える。
「まさか、女の子とそんなことしたことがあるの……?」
頭の中でハル君と写る女子たちの画像がフラッシュバックする。たくさんあがっていた写真のどれかの女の子。
「ハル君、浮気、してたんだ……?」
「は? そんなの、綾斗、お前も同じだろ。理久とやってんじゃん」
「そう、だけど、ハル君はそんなんじゃなくて、もっと潔癖で爽やかで誠実だから」
するとハル君が大袈裟に肩をすくめた。
「綾斗ってマジでバカ正直。写真ばっかり撮るやつってカメラの中からしか世の中が見てねえんじゃねえの。現実が見えてねえんだよ」
自分の頬を叩く言葉に血の気が引く。女の子と浮気。しかもそんなことまでしてる。
オレの眩しいハル君が。ひどいショックに目に涙が盛り上がった。だが、「すぐ泣くとか嫌味でへこむとか、根性ねえよな」とまた言葉を投げつけられる。
「綾斗さん、気にしなくていいよ。全部僕が忘れさせてあげる」
理久の熱っぽい言葉が耳元に絡まる。
理久への返事を考えている余裕はなかった。ハル君がジーンズのベルトをカチャカチャと外しながらベッドに乗ってくる。オレの目の前でファスナーをジジッと下ろす。
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