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【四】
7*
理久の手がオレの腰を掴み、どんと突く。
そのときひゅるひゅると外で音がして、ドーンという大きな音とともにパッと外が明るくなった。
「クソ、今日は花火大会かよ。夜までうるせえから嫌いなんだよな」
ハル君の言葉と後孔の音がドーンドーンという花火の音にかき消される。パッパッと散る明るさにそっと瞼を開けると、カーテンの隙間から入ってくる光でカーペットが赤や青に染まった。
また理久が背中にキスを落としてくる。理久の垂れた髪先が汗ばんだオレの背中をさらりと撫でる。
ドーン。花火の轟きに部屋が震える。体に伝わる振動にラムネの弾ける味が喉に蘇る。
小学生の頃、理久の家のベランダでラムネを飲みながら花火を見た。狭いベランダは特等席。次の花火は何色か予想したり、ぱちぱち弾けるサイダーに喉が痛いと言ったり、はしゃいで最後まで見続けた。ラムネが溢れて手が濡れると理久がタオルを渡してくれた。
理久。片手を後ろに伸ばす。すると理久はすぐに握り返してくれた。理久は優しい。慈しんでくれる。
でも、オレがそう信じたいだけなのか? ただ遊ばれているだけなのか? カメラを構えるとき、カメラを持つ人は絶対に写真に写らない。オレは結局そういう役割なのか。誰の目にも映らない、誰にも相手にされない影の薄い人間。
「ハル、知らないんだ!? 綾斗さんはあの花火大会が好きなんだよ! いいのかな、そんなこと言って。僕たちが昔見た花火の話を聞かせてあげようか!?」
汗にひんやりとした手で腰を掴む理久がパァンと大きな音を鳴らした。体を貫く衝撃に目がチカチカする。腰を引き寄せる爪が皮膚に食い込み、オレの意識を湿気を帯びた部屋に引き戻す。
「綾斗、今の聞いたか? 理久はただ俺と争いたいだけの根暗なんだよ。綾斗がやりたいなら今度から俺が満足させてやるからよ」
「明るくても遊び人はねえ? 一昨日裏アカにあげてた写真の女の子、あれ、何人目?」
「セックスしただけの女なんて数えてねえよ。綾斗、ちゃんとお前は特別だからな」
特別なんて、冷たいセリフ。ハル君がオレを褒めるときは賞を取った写真のことばかりだ。さっきも「俺の最高傑作」と写真を呼んだ。
ハル君は浮気現場を目撃しても、出てきた言葉は「俺も混ぜろ」だった。オレに怒るわけでもなく、理久に殴りかかるでもなく、理久に抱かれているオレに欲情した。
ハル君は、オレの心なんてどうでもいいんだ。
ようやく現実を理解した。ハル君にとって大事なのはオレの撮った写真。オレの唯一の栄光。写真を撮ったオレじゃなく、オレの写真を大切にしている。――でも、オレもシャッターで切り取った眩しいハル君の一面ばかりを追い求めていたのかもしれない。
「綾斗、やば……出そう」
ハル君の足に力が入ってマットレスが少し沈む。そのとき、理久がオレの足の内ももに手を入れてするりと撫でた。屈み込んできて耳元へ絡まる吐息とともに言う。
「綾斗さん、疲れたよね? そろそろいかせてあげるね」
ドーン。
ローションに濡れた指がオレのものを温かく包む。ぐじゅぐじゅと空気を巻き込んでオレの熱に火をつける。
ドーン。
カーペットに映る光とともに、興奮が体のあちこちで火花を散らす。快感に震えて喉から喘ぎ声が漏れ、口の動きが止まる。
ドーン。
ハル君の両手がオレの頭をがしっと掴む。そしてガンガンと勢いよく喉の奥を突いてくる。
花火の音が響く部屋で湿気が増して、クーラーも壊れたのかと思うほど暑くて汗が出る。遠くでハル君の呻く声が聞こえ、オレを呼ぶ理久の声を感じる。頭を空っぽにして思うのは、自分の体に添えられた手の優しさだ。理久。その名前を呼びたくても、口が塞がれていて呼べない。
「あやとっ……出るッ」
喉の奥に苦みが飛んで、オレも理性を手放した。下半身の熱がびゅっと放出される。腰を打ち付ける音と刺激が全身を駆け抜けて、ぐっとひと突きした後ろの体が震えた。
夏の帳の中で三人の欲が爆ぜる。ドーン。また一つ花火が打ち上がる。カーペットにぱっと光がきらめき、儚く散った。
そのときひゅるひゅると外で音がして、ドーンという大きな音とともにパッと外が明るくなった。
「クソ、今日は花火大会かよ。夜までうるせえから嫌いなんだよな」
ハル君の言葉と後孔の音がドーンドーンという花火の音にかき消される。パッパッと散る明るさにそっと瞼を開けると、カーテンの隙間から入ってくる光でカーペットが赤や青に染まった。
また理久が背中にキスを落としてくる。理久の垂れた髪先が汗ばんだオレの背中をさらりと撫でる。
ドーン。花火の轟きに部屋が震える。体に伝わる振動にラムネの弾ける味が喉に蘇る。
小学生の頃、理久の家のベランダでラムネを飲みながら花火を見た。狭いベランダは特等席。次の花火は何色か予想したり、ぱちぱち弾けるサイダーに喉が痛いと言ったり、はしゃいで最後まで見続けた。ラムネが溢れて手が濡れると理久がタオルを渡してくれた。
理久。片手を後ろに伸ばす。すると理久はすぐに握り返してくれた。理久は優しい。慈しんでくれる。
でも、オレがそう信じたいだけなのか? ただ遊ばれているだけなのか? カメラを構えるとき、カメラを持つ人は絶対に写真に写らない。オレは結局そういう役割なのか。誰の目にも映らない、誰にも相手にされない影の薄い人間。
「ハル、知らないんだ!? 綾斗さんはあの花火大会が好きなんだよ! いいのかな、そんなこと言って。僕たちが昔見た花火の話を聞かせてあげようか!?」
汗にひんやりとした手で腰を掴む理久がパァンと大きな音を鳴らした。体を貫く衝撃に目がチカチカする。腰を引き寄せる爪が皮膚に食い込み、オレの意識を湿気を帯びた部屋に引き戻す。
「綾斗、今の聞いたか? 理久はただ俺と争いたいだけの根暗なんだよ。綾斗がやりたいなら今度から俺が満足させてやるからよ」
「明るくても遊び人はねえ? 一昨日裏アカにあげてた写真の女の子、あれ、何人目?」
「セックスしただけの女なんて数えてねえよ。綾斗、ちゃんとお前は特別だからな」
特別なんて、冷たいセリフ。ハル君がオレを褒めるときは賞を取った写真のことばかりだ。さっきも「俺の最高傑作」と写真を呼んだ。
ハル君は浮気現場を目撃しても、出てきた言葉は「俺も混ぜろ」だった。オレに怒るわけでもなく、理久に殴りかかるでもなく、理久に抱かれているオレに欲情した。
ハル君は、オレの心なんてどうでもいいんだ。
ようやく現実を理解した。ハル君にとって大事なのはオレの撮った写真。オレの唯一の栄光。写真を撮ったオレじゃなく、オレの写真を大切にしている。――でも、オレもシャッターで切り取った眩しいハル君の一面ばかりを追い求めていたのかもしれない。
「綾斗、やば……出そう」
ハル君の足に力が入ってマットレスが少し沈む。そのとき、理久がオレの足の内ももに手を入れてするりと撫でた。屈み込んできて耳元へ絡まる吐息とともに言う。
「綾斗さん、疲れたよね? そろそろいかせてあげるね」
ドーン。
ローションに濡れた指がオレのものを温かく包む。ぐじゅぐじゅと空気を巻き込んでオレの熱に火をつける。
ドーン。
カーペットに映る光とともに、興奮が体のあちこちで火花を散らす。快感に震えて喉から喘ぎ声が漏れ、口の動きが止まる。
ドーン。
ハル君の両手がオレの頭をがしっと掴む。そしてガンガンと勢いよく喉の奥を突いてくる。
花火の音が響く部屋で湿気が増して、クーラーも壊れたのかと思うほど暑くて汗が出る。遠くでハル君の呻く声が聞こえ、オレを呼ぶ理久の声を感じる。頭を空っぽにして思うのは、自分の体に添えられた手の優しさだ。理久。その名前を呼びたくても、口が塞がれていて呼べない。
「あやとっ……出るッ」
喉の奥に苦みが飛んで、オレも理性を手放した。下半身の熱がびゅっと放出される。腰を打ち付ける音と刺激が全身を駆け抜けて、ぐっとひと突きした後ろの体が震えた。
夏の帳の中で三人の欲が爆ぜる。ドーン。また一つ花火が打ち上がる。カーペットにぱっと光がきらめき、儚く散った。
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