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【四】
12
理久の黒いマニキュアの指の先を目で追う。ガラスの窓から溢れ出す無遠慮な蛍光灯の明かり。それが駐車場のコンクリートの地面を照らしている。人が出てきて自動ドアが開く。懐かしいチープな宣伝の音が聞こえる。
学校帰りにふらっと立ち寄っていたコンビニ。これが半年ぶりの日常。
ふと、思いついて「理久、そこにいて」と声をかけた。両手で親指と人差し指を直角に広げてフレームを作り、道に立つ理久をトリミングする。コンビニの光とは対照的な理久の見た目と、「ソフトクリーム」というバニラ味のソフトが写るのぼりを捉える。十字架のピアスが外の世界の光を受けて輝いている。首にかけた一眼レフを構えようとして、持っていないことに気づく。――何ヶ月も触れていない重さが懐かしい。
仕方なくスマホで今の角度を撮る。理久が笑顔で駆け寄ってくる。
「いいの撮れた?」
理久が覗き込んでくる。久しぶりの写真が恥ずかしい。
「夏は昼間のほうが空と雲の色が爽やかかも」
「でも、夜のコンビニって特別じゃない? この写真、あとで僕のスマホに送ってよ」
スマホの中の理久の微笑みは優しげにオレを見ている。蛍光灯の光を受けた黒いピアスはきらきらと目映いばかりに輝いている。これからのオレの日常だ。
「綾斗さん」
「なに?」
「……僕、ハルみたいにすごいことはできないけど、いいモデルになれた?」
ちらりと不安がよぎった瞳に、「うん」とオレは笑ってみせた。
「理久は最高のモデルで、最高の彼氏」
すると理久は花火が弾けるような笑顔でははっと明るく笑った。
「次撮ってもらうとき、僕、なに着よう?」
「今日のTシャツは好き。黒いピアスが映える白い服も好き」
「髪、そろそろブリーチしようかな。ピアス、目立たせたいんだよね」
細い理久の指が触れて揺れるピアス。刺々しさで守ってきた理久の優しさや温かさがオレに向く。
オレはまた切り取りたいきれいさを日常で見つけることができる。理久と一緒ならそれを見つけられる。オレは理久の隣でカメラを構えたい。
「……理久」
勇気を出して理久を見上げた。
「オレ、明日も理久と一緒にコンビニに来てみたい。アイスとか、なんでもいいから買ってみたい」
「いいね! 僕はリスナーさんがお勧めしてたポテトチップスを買ってみようかな」
理久の言葉に強張っていた頬が緩む。
微笑む理久の温かな手がこちらの背中を押す。大きく息を吸い、水色のフードを脱ぐ。シャンプーのにおいを払い、長くなった髪を耳にかける。理久が自分の髪ゴムを解いた。オレの後ろに回り、髪をざっくりと指でまとめてぴょんとしっぽを作る。
夜に買う夏のアイス。オレの再出発地点。コンクリートの地面をぐっと爪先で蹴る。ピンポンと音が鳴って、自動ドアがウィーンと開く。途端に流れ出てくる温度の低い冷気。
視線の冷たさを思い出して後ずさりしそうになる。そんなオレの背を理久の大きな手が支える。半年以上食べてないチョコミントの味が舌にまざまざと蘇る。
光と音楽の溢れるコンビニの中へ、オレは足を踏み入れた。
【了】
学校帰りにふらっと立ち寄っていたコンビニ。これが半年ぶりの日常。
ふと、思いついて「理久、そこにいて」と声をかけた。両手で親指と人差し指を直角に広げてフレームを作り、道に立つ理久をトリミングする。コンビニの光とは対照的な理久の見た目と、「ソフトクリーム」というバニラ味のソフトが写るのぼりを捉える。十字架のピアスが外の世界の光を受けて輝いている。首にかけた一眼レフを構えようとして、持っていないことに気づく。――何ヶ月も触れていない重さが懐かしい。
仕方なくスマホで今の角度を撮る。理久が笑顔で駆け寄ってくる。
「いいの撮れた?」
理久が覗き込んでくる。久しぶりの写真が恥ずかしい。
「夏は昼間のほうが空と雲の色が爽やかかも」
「でも、夜のコンビニって特別じゃない? この写真、あとで僕のスマホに送ってよ」
スマホの中の理久の微笑みは優しげにオレを見ている。蛍光灯の光を受けた黒いピアスはきらきらと目映いばかりに輝いている。これからのオレの日常だ。
「綾斗さん」
「なに?」
「……僕、ハルみたいにすごいことはできないけど、いいモデルになれた?」
ちらりと不安がよぎった瞳に、「うん」とオレは笑ってみせた。
「理久は最高のモデルで、最高の彼氏」
すると理久は花火が弾けるような笑顔でははっと明るく笑った。
「次撮ってもらうとき、僕、なに着よう?」
「今日のTシャツは好き。黒いピアスが映える白い服も好き」
「髪、そろそろブリーチしようかな。ピアス、目立たせたいんだよね」
細い理久の指が触れて揺れるピアス。刺々しさで守ってきた理久の優しさや温かさがオレに向く。
オレはまた切り取りたいきれいさを日常で見つけることができる。理久と一緒ならそれを見つけられる。オレは理久の隣でカメラを構えたい。
「……理久」
勇気を出して理久を見上げた。
「オレ、明日も理久と一緒にコンビニに来てみたい。アイスとか、なんでもいいから買ってみたい」
「いいね! 僕はリスナーさんがお勧めしてたポテトチップスを買ってみようかな」
理久の言葉に強張っていた頬が緩む。
微笑む理久の温かな手がこちらの背中を押す。大きく息を吸い、水色のフードを脱ぐ。シャンプーのにおいを払い、長くなった髪を耳にかける。理久が自分の髪ゴムを解いた。オレの後ろに回り、髪をざっくりと指でまとめてぴょんとしっぽを作る。
夜に買う夏のアイス。オレの再出発地点。コンクリートの地面をぐっと爪先で蹴る。ピンポンと音が鳴って、自動ドアがウィーンと開く。途端に流れ出てくる温度の低い冷気。
視線の冷たさを思い出して後ずさりしそうになる。そんなオレの背を理久の大きな手が支える。半年以上食べてないチョコミントの味が舌にまざまざと蘇る。
光と音楽の溢れるコンビニの中へ、オレは足を踏み入れた。
【了】
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