マグロになりてーな。

あん

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4.修羅場でドタバタ

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 「あ……ま、まって……まって、みぃ」
 「ああ?前立腺、良いんだろ?」
 
 ゴリッと指で強く押されて、背中がしなる。

 「ああんっ!」

 (こ、これが、前立腺なのかっ……)

 みぃちゃんの指が動くたびに、尻穴がきゅうきゅう締まってしまう。

 (嘘だろ……超絶気持ちいんですけど!?)

 立っていられないくらいガクガクと足が震えて、でもみぃちゃんが両手を掴んでるから、座ることさえ許してもらえない。

 「はっ。なんだお前、ネコの素質あんじゃねえか」

 耳元で囁く、声だけは天使なみぃちゃん。その声に弱い俺は、ゾクッと身体を震わせ、また快感が高まってしまう。

 「ああっ……そこっ、そこだめぇっ、あっ、ああっ」

 みぃちゃんの上手すぎる指使いに翻弄され、もうここがどこだかも忘れて、俺は嬌声を上げまくった。

 「あんっ……ああっ、そこっ、そこぉっ」
 「は……双介かわいー……もう限界だわ」

 熱のこもった息を吐いたみぃちゃんが、手を離す。俺はその場にへたり込み、みぃちゃんがガチャガチャとベルトを外す音を、回らない頭でボーッと聞いていた。
 すると、ガチャッとドアの開く音が。

 「双介……?何してんの……?」

 ドアから顔を出した、全裸の元親友もとい現セフレ。その顔は寝ぼけたように、ぽわわんとしていて、それがまた可愛い。
 今の浮気現場のような状況を見られて、そんなことを思っている場合ではないのだけど、思わず鼻の下を伸ばしそうになる。けれど、その下半身に目を向けたとき、俺は目を見張った。

 「や、やっちゃん!尻!尻垂れてる!」

 昨日……いや、今日も散々中に出した、俺の精液。それが、やっちゃんの尻から、流れ落ちているではないか。

 「ん?……ああ」

 慌てる俺と対照的に、クールなやっちゃんは、冷静な顔で内腿に伝う精子を指で拭い取り、そして──

 「んっ」

 と、甘い声を出しながら、尻穴に突っ込み戻した。

 (つ、突っ込み戻したぁ!?)

 「あ……」
 「や、ややややっちゃん!?なっ、何してんの!?」
 「ん……だって、双介の勿体ない……」
 「もったいない!?」

 やっちゃんが放った言葉に、開いた口が塞がらない。
 どこの世界に、ドロドロ汚い男の精液を、もったいないと言って尻穴に戻そうとする男がいるのだろう。少なくとも俺は、今までそんな相手に出会ったことなかった。

 (可愛すぎかよ、やっちゃん……じゃなくて!)

 「いやいやいや!早く出さないと腹壊すって!」
 「……やだ」
 「駄目だって!やっちゃん!」
 「やだ……そんないじわる言うなよ……」
 「いや、いじわるとかじゃなくてね!?」

 (とにかく早く風呂連れてかないと!)

 無理やりやっちゃんの腕を引こうとしたが、その前にみぃちゃんがやっちゃんの肩をガッと掴んだ。

 「相沢、てめえよくも双介を誑かしやがったな。このクソビッチ」

 みぃちゃんの顔を見た瞬間、今までぽやぽやしてたやっちゃんの目の色が、冷たいものに変わる。やっべえ、マジ凍りつきそうだ。

 「……は?お前が双介のこと捨てたからだろ?猫かぶり野郎」
 「ああ⁉︎」
 「ちょ!ちょちょちょ!待って待って!」

 今にも殴り合いが始まりそうで、俺は二人の間に入った、けど。

 「「双介は黙ってろ!」」
 「はいすみません!」

 (うぅ、情けねえよぉ)

 二人にすごい勢いで睨まれて、すぐに断念した俺は、はいそうですヘタレです。でもマジでこの二人怒ったら怖いんだって。今それを身をもって実感してる。

 「捨てたなんて人聞きの悪いこと言ってんじゃねえぞビッチ。ちょっとした痴話喧嘩だろうが、ああ?」
 「は?振っといてよく言う……つい二日前のことも覚えてられないの?頭大丈夫?病院行けば?」

 天使顔で暴言吐くみぃちゃんと、全裸姿で言い返すやっちゃん。ちなみに、やっちゃんの太ももには未だ白いものが垂れている。

 (もうどうにでもなれ……)

 マジでカオスな展開に、半ば思考するのを放棄していたけど、まさかそのままやり過ごせるわけもなく。

 「おいクソヘタレ。お前はどっちを選ぶんだよ?」
 「ほぁ?」

 急に話を振られてアホみたいな声を上げる。みぃちゃんがその可愛いお顔をすぐ近くまで寄せてきて、不覚にもドキッとしてしまう。

 「俺様に決まってるよなぁ?お前、俺のこの顔と声が大好きなんだろ?」
 「え、いや、そ、そうだけど……」
 「こんな双介のこと無理やり犯そうとしてるやつなんかやめた方がいい。俺なら、双介の気が済むまで抱かせてあげるよ?」

 やっちゃんも負けじと顔を近づけてくる。
 可愛い系と美人系に囲まれてるなんて、普通なら飛び跳ねるくらい嬉しい状況のはずなのに、今は冷や汗しか流れてこない。

 「え、えっとぉ……」

 どう言えば二人を納得させられるのか。馬鹿な頭をグルグルさせて考えるが、良いアイデアは一向に浮かばない。
 そんな俺に痺れを切らしたみぃちゃんが、不愉快そうに眉を顰めた。

 「チッ。ヘタレな上に優柔不断かよ。マジで終わってんな」
 「なら、手ぇ引けば?」
 「はぁ⁉︎こいつは俺のなんだよ!てめえこそ、さっさと出てけ!」

 (また始まっちゃったよ……)

 「ふ、二人とも落ち着いて」
 「てめえがさっさと決めねえからだろ!」
 「ひぃ!」
 「チッ。いちいちビビってめんどくせーな」

 (君がすぐキレるからでしょ⁉︎)

 なんて、もちろん言える訳がない。だから俺は、涙を飲むしかないのだ。そうだ……それが俺の宿命。
 そう悟りの境地に達していると、突然みぃちゃんが「あ」と声を上げた。

 「なあ、クソビッチ」
 「なに、猫かぶり」
 「いーこと思いついたぞ」

 みぃちゃんがやっちゃんにコソコソと耳打ちする。急に仲良く秘密話を始めた二人に、俺は動揺を隠せない。
 や、実際は、やっちゃんはみぃちゃんの吐息が耳にかかるのを嫌がってるのか、苦虫を噛み潰したような顔してるけど。

 (な、なに話してるんだろう……)

 分からない。それは分からないけど、嫌な予感しかしない。
 だってほら、話を終えたみぃちゃんが、ニヤァと口端をつり上げてこっちを見てくる。

 (やだ、やだやだ、聞きたくない!言わないで、みぃちゃん!)

 そんな俺の願い虚しく、みぃちゃんの可愛い口は、非情にも動きを止めてくれない。

 「なぁ双介、決められねえなら身体に聞くしかねえよな?」

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