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急須
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ピチピチピチピチ…
「んん~!いい朝!さぁ、今日はどんな1日にしよう?」
私は小さな町に住む主婦、愛咲 花。
主婦って言っても、子供はいなくて、夫との二人暮し。
だから、子育てもないし家事もそこまで大変じゃないからすっごく自由な生活を送っている。
「う~ん…今日は近くのデパートにでも行ってみようかな?何かいいお買い物が出来るといいな。」
今日はデパートに行くと決めた。
最近、洋服もカバンも買ってなかったから、お金は貯まっている。
すると、
「おはよう…。」
と、夫が起きてきた。
「おはよう。朝ごはん出来てるよ。」
「うん…ありがとう。」
とても眠たそうだった。
昨日も一昨日も、仕事が残業だったらしく、あまり寝られていない。
私も負担をかけないように、出来ることはなるべくしてあげていた。
「まだ疲れはとれてない?」
「うん、明日から土日だから少しは疲れがとれるかな。」
「そうだね。残り1日、頑張って。」
朝の会話は大体こんな感じだった。
今日も平和な1日だ。
「さ、出かけますか。荷物も…OK。
いってきまーす。」
と、誰もいない家に言い残し、家を出た。
「何買おうかな…。」
と考えながら歩く。
これも毎日の楽しみだ。
その時、私の視界に古びた小さな店があった。
「このお店、ずーっとあるな…。何のお店なんだろう?ちょっと入ってみるか…。」
なんでも好奇心で行動するタイプの私はその店に入っていった。
扉を開けた瞬間、お茶のいい香りがフワッと私の全身を包んだ。
「いらっしゃいませ。」
と店の中にいたおばあさんがこちらに言ってきた。
「あ、どうもー。」
私は小さく会釈をし、辺りを見渡す。
(ここ、お茶屋さんだったんだ。)
木でできた棚にはたくさんのお茶が置いてあった。
お茶なんて気にしながら飲んだことなどあまりない。
緑茶とか、麦茶とかジャスミン茶とか…?
このくらいのお茶しか知らないかもしれない…。
「ん?」
ふと顔を下ろす。
(ほうじ茶か…。茶色い葉っぱなんだ…。美味しいのかな…。)
ほうじ茶の葉が入った袋を手に取り、成分表を見てみた。
そこには、
「リラックス効果があり、疲れを取ってくれます。」
と書いてあった。
「疲れが取れるんだ…。そうだ!買っていってあげよう。」
その文を読んだ途端、私はおばあさんのいるレジへと向かった。
「あの、これお願いします。」
「はい、ほうじ茶ね。200円だよ。」
(え、安!買ってよかった…!)
結構入っている割には値段がとても安かった。
「あの…本当に200円なんですか?とってもお安いですね。」
「えぇ、なかなかお客さんも来ないからね。来てくれたお客さんにはなるべく安く売りたいのよ。」
なんて優しいおばあさんなんだろう…。
「それに、最近の若い子はお茶よりジュースの方がよく飲むだろう?
少しでもお茶の味を知って欲しいんだよ。
ペットボトルじゃなくて、急須で飲むお茶をね。」
「き、急須…?あ、このお茶って急須じゃないと飲めないんですか!?」
全然忘れていた…。
家に急須なんてない。
ホテルや旅館のテーブルの上に置いてある急須しか使ったことがない…。
「そりゃあそうさ。当たり前だよ、お嬢ちゃん。」
と言いおばあさんは笑った。
は、恥ずかしい…。
急須なんて高いよな…。
「急須ってお高いですよね…。どうしよう……。」
カバンや洋服を買おうと思っていたのに急須を買ってしまったら…。
その時、おばあさんが私の向こうを見つめて何か考えていた。
「あ、あの、どうされました?」
「よっこらせっと…。」
と言いおばあさんは立ち上がった。
どうやら急須コーナーに向かっているらしい。
「お茶を買ってくれたからね。この急須をプレゼントするよ。」
「え!?そんな…悪いですよ!」
その急須はとても高そうな急須だった。
年代物?というのだろうか…。
「いいんだよ。この急須はね、私の兄が作ったんだが、ずーっと売れなくってね。毎回会う度にあの急須は売れたか?って聞かれるもんだから、心が痛くてね。」
「でも、お金を払わないのに貰っちゃったら…。お兄さん、喜びますかね…?」
「喜ぶに決まってるさ。50年もずっと売れなかったんだから。さ、若いんだから素直にありがとうって言って受け取りなさい。」
このおばあさんはどこまで優しいのだろうか。
私はその急須を手に取る。
ずっしりと重たい。
こんな良い急須でお茶を飲めると思うととても胸がワクワクする。
「本当にありがとうございます!大切にさせて頂きます!」
「はいよ。こちらこそありがとね。」
またいつかこのお店に来ようと私は決めた。
「結局何も買わなかったな…。」
貰った急須で満足してしまった私はデパートに行っても結局何も買わなかった。
「早速、お茶いれてみようかな…。」
今日買ったお茶と、貰った急須を取り出し、準備をする。
急須をしっかりと洗い、水気をとる。
お茶っ葉を少し取りだして、急須に入れる。
お湯を入れて少し待つ。
「美味しいお茶になるかな…。」
高そうな急須のおかげかとてもワクワクしていた。
部屋中に広がるいい香り。
「この香り知ってるな…。飲んだことあるかも…?」
こんなにいい香りなら、きっと美味しいはずだ。
「よし、そろそろいいかな…?」
私は家にあったティーカップにほうじ茶を注ぐ。
湯気がいい感じに立っている。
「いただきます。」
私は口の中にそっとほうじ茶を含む。
口に広がるほうじ茶の香り。
「美味しい…!これがほうじ茶か…。」
やはり飲んだことはあった気がした。
でも、ペットボトルなんかとは比にならない美味しさだった。
「ペットボトルも美味しいけど、やっぱりちゃんと急須で入れた方が美味しいな…。」
確かにこのいい香りはリラックス効果がある。
とっても落ち着いた気持ちになった。
夜になり、夫が帰ってきた。
「おかえりなさい。今日はいつもより早いんだね?」
「うん、今日は早めに帰っていいよって言われたんだ。」
私は夫にほうじ茶を入れてあげた。
「飲んでみて!疲れが取れるから。」
「これって、ほうじ茶?美味しそうだね。」
「知ってるんだ?美味しいよ。」
夫もほうじ茶を飲む。
「うん。美味しいね。」
「でしょ!たまには急須でいれるお茶もいいよね。」
すると夫は疑問そうな顔をする。
「この急須って…家にあったっけ?」
「ううん。今日ね………」
それから私は今日あった出来事を話した。
たまにはこんなのんびりとゆったりとした時間があってもいいものだなと私は思った。
そして後日、私は昨日のお茶屋さんにお礼に行った。
いくつかのお菓子ととびっきりのほうじ茶をいれて。
おばあさんはとても喜んでくれた。
そして今日も私はお茶を飲む。
「んん~!いい朝!さぁ、今日はどんな1日にしよう?」
私は小さな町に住む主婦、愛咲 花。
主婦って言っても、子供はいなくて、夫との二人暮し。
だから、子育てもないし家事もそこまで大変じゃないからすっごく自由な生活を送っている。
「う~ん…今日は近くのデパートにでも行ってみようかな?何かいいお買い物が出来るといいな。」
今日はデパートに行くと決めた。
最近、洋服もカバンも買ってなかったから、お金は貯まっている。
すると、
「おはよう…。」
と、夫が起きてきた。
「おはよう。朝ごはん出来てるよ。」
「うん…ありがとう。」
とても眠たそうだった。
昨日も一昨日も、仕事が残業だったらしく、あまり寝られていない。
私も負担をかけないように、出来ることはなるべくしてあげていた。
「まだ疲れはとれてない?」
「うん、明日から土日だから少しは疲れがとれるかな。」
「そうだね。残り1日、頑張って。」
朝の会話は大体こんな感じだった。
今日も平和な1日だ。
「さ、出かけますか。荷物も…OK。
いってきまーす。」
と、誰もいない家に言い残し、家を出た。
「何買おうかな…。」
と考えながら歩く。
これも毎日の楽しみだ。
その時、私の視界に古びた小さな店があった。
「このお店、ずーっとあるな…。何のお店なんだろう?ちょっと入ってみるか…。」
なんでも好奇心で行動するタイプの私はその店に入っていった。
扉を開けた瞬間、お茶のいい香りがフワッと私の全身を包んだ。
「いらっしゃいませ。」
と店の中にいたおばあさんがこちらに言ってきた。
「あ、どうもー。」
私は小さく会釈をし、辺りを見渡す。
(ここ、お茶屋さんだったんだ。)
木でできた棚にはたくさんのお茶が置いてあった。
お茶なんて気にしながら飲んだことなどあまりない。
緑茶とか、麦茶とかジャスミン茶とか…?
このくらいのお茶しか知らないかもしれない…。
「ん?」
ふと顔を下ろす。
(ほうじ茶か…。茶色い葉っぱなんだ…。美味しいのかな…。)
ほうじ茶の葉が入った袋を手に取り、成分表を見てみた。
そこには、
「リラックス効果があり、疲れを取ってくれます。」
と書いてあった。
「疲れが取れるんだ…。そうだ!買っていってあげよう。」
その文を読んだ途端、私はおばあさんのいるレジへと向かった。
「あの、これお願いします。」
「はい、ほうじ茶ね。200円だよ。」
(え、安!買ってよかった…!)
結構入っている割には値段がとても安かった。
「あの…本当に200円なんですか?とってもお安いですね。」
「えぇ、なかなかお客さんも来ないからね。来てくれたお客さんにはなるべく安く売りたいのよ。」
なんて優しいおばあさんなんだろう…。
「それに、最近の若い子はお茶よりジュースの方がよく飲むだろう?
少しでもお茶の味を知って欲しいんだよ。
ペットボトルじゃなくて、急須で飲むお茶をね。」
「き、急須…?あ、このお茶って急須じゃないと飲めないんですか!?」
全然忘れていた…。
家に急須なんてない。
ホテルや旅館のテーブルの上に置いてある急須しか使ったことがない…。
「そりゃあそうさ。当たり前だよ、お嬢ちゃん。」
と言いおばあさんは笑った。
は、恥ずかしい…。
急須なんて高いよな…。
「急須ってお高いですよね…。どうしよう……。」
カバンや洋服を買おうと思っていたのに急須を買ってしまったら…。
その時、おばあさんが私の向こうを見つめて何か考えていた。
「あ、あの、どうされました?」
「よっこらせっと…。」
と言いおばあさんは立ち上がった。
どうやら急須コーナーに向かっているらしい。
「お茶を買ってくれたからね。この急須をプレゼントするよ。」
「え!?そんな…悪いですよ!」
その急須はとても高そうな急須だった。
年代物?というのだろうか…。
「いいんだよ。この急須はね、私の兄が作ったんだが、ずーっと売れなくってね。毎回会う度にあの急須は売れたか?って聞かれるもんだから、心が痛くてね。」
「でも、お金を払わないのに貰っちゃったら…。お兄さん、喜びますかね…?」
「喜ぶに決まってるさ。50年もずっと売れなかったんだから。さ、若いんだから素直にありがとうって言って受け取りなさい。」
このおばあさんはどこまで優しいのだろうか。
私はその急須を手に取る。
ずっしりと重たい。
こんな良い急須でお茶を飲めると思うととても胸がワクワクする。
「本当にありがとうございます!大切にさせて頂きます!」
「はいよ。こちらこそありがとね。」
またいつかこのお店に来ようと私は決めた。
「結局何も買わなかったな…。」
貰った急須で満足してしまった私はデパートに行っても結局何も買わなかった。
「早速、お茶いれてみようかな…。」
今日買ったお茶と、貰った急須を取り出し、準備をする。
急須をしっかりと洗い、水気をとる。
お茶っ葉を少し取りだして、急須に入れる。
お湯を入れて少し待つ。
「美味しいお茶になるかな…。」
高そうな急須のおかげかとてもワクワクしていた。
部屋中に広がるいい香り。
「この香り知ってるな…。飲んだことあるかも…?」
こんなにいい香りなら、きっと美味しいはずだ。
「よし、そろそろいいかな…?」
私は家にあったティーカップにほうじ茶を注ぐ。
湯気がいい感じに立っている。
「いただきます。」
私は口の中にそっとほうじ茶を含む。
口に広がるほうじ茶の香り。
「美味しい…!これがほうじ茶か…。」
やはり飲んだことはあった気がした。
でも、ペットボトルなんかとは比にならない美味しさだった。
「ペットボトルも美味しいけど、やっぱりちゃんと急須で入れた方が美味しいな…。」
確かにこのいい香りはリラックス効果がある。
とっても落ち着いた気持ちになった。
夜になり、夫が帰ってきた。
「おかえりなさい。今日はいつもより早いんだね?」
「うん、今日は早めに帰っていいよって言われたんだ。」
私は夫にほうじ茶を入れてあげた。
「飲んでみて!疲れが取れるから。」
「これって、ほうじ茶?美味しそうだね。」
「知ってるんだ?美味しいよ。」
夫もほうじ茶を飲む。
「うん。美味しいね。」
「でしょ!たまには急須でいれるお茶もいいよね。」
すると夫は疑問そうな顔をする。
「この急須って…家にあったっけ?」
「ううん。今日ね………」
それから私は今日あった出来事を話した。
たまにはこんなのんびりとゆったりとした時間があってもいいものだなと私は思った。
そして後日、私は昨日のお茶屋さんにお礼に行った。
いくつかのお菓子ととびっきりのほうじ茶をいれて。
おばあさんはとても喜んでくれた。
そして今日も私はお茶を飲む。
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みんなの感想(2件)
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