バルタゴ戦記

カササギ

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帝都へ(第二章 帝都編開始)

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『ちっ、しけてやがる』

枕元で毒づく声がする。どうやら俺の荷物を漁っているらしい。

(盗人か?)

身体を動かそうとするも痺れて動けない。 
 
(一服盛られたようだな。毒では無いようだが……)

(ぼんやりした頭で記憶を辿る。
鉱山を出て……

そうだ帝都を目指しミュルガと旅をしていたんだ。

◼️□◼️□◼️□◼️□

この時よりさかのぼること数日
俺とミュルガは地下道を上へと向かっていた。
ひたすら上へ上へと上がると、間もなく激しい水音が聞こえ始めた。
それと共に辺りも仄かに明るくなる。

(ここはどこだ?
目の前は滝っぽいな。だとすると滝裏か?)
落ちてくる水により反対側を視認することは難しい。

「行き止まりかよ。」
ミュルガが吠える。


「この滝をくぐり抜けよう」


「まじか?滝壺に巻き込まれるぞ」


「確かにリスクはあるな。もし気乗りしないと言うならまだ引き返せるぞ。」


「ここまで付き合ったんだ、付き合うぜ。」


身体に餞別で貰った袋を固く縛りつけ、俺がまず飛び込む。


ボコッ ブクブクブクブク
滝壺に巻き込まれ、川底に押し付けられた。
その後上に身体が持ち上げられる浮遊感を感じる。
(巻かれると抜け出せなくなると聞いた覚えがある。)
服に縛りつけてあるナイフを右手に持ちかえ、川底に慌てて突き刺した。 
左手で川底の岩を掴み、ナイフを川底に突き刺し少しずつ進む。
不意に下流へ向かう流れを感じた。
(よし抜けた。)
ナイフを抜き、川底から手を離して流れに乗る。

(何とか立てそうだ。深いのは滝壺だけだったな)

その後河原へと這い上がる。

「あいたたた」 
横でミュルガのうめき声が聞こえた。

(ミュルガも何とかなったようだな。 
しかしここはどこだ?)

見覚えのある景色が目に飛び込んで来た。
(確かここは……ドワーフ達が死に戻りをしていた場所だ。
結構経った気もするがまだあれから数日なんだよな……
だけど今は感慨にふけっている場合じゃない……)

気を取り直し、崩落事故で混乱する赤シャツの館へと忍びこむ。
(馬小屋に馬が繋がれているはずだ。)

馬小屋へ向かうと、予想通り赤シャツと監察官の持ち物である馬が二頭繋がれていた。

(退職金代わりに貰っていくぜ。)

その後俺達は3日3晩街道沿いに進んだ。

昼は人目を避ける為街道から少し離れて休み、移動はもっぱら街道沿いに進む。

「俺の経験から言って、ここまで追ってくる気配がないってことは……もう大丈夫だ。」
ミュルガは言った。
幾分彼の表情も和らいで見える。


「さてと……だ。まずお前のこと何とかしないとな。」 

「?」

「その風体だよ、風体。ここは洞窟じゃないんだぜ?
お前みたいな有色人が原始人のような風体で彷徨(うろつ)いていてみろ、すぐ憲兵がくるぞ。

まずは、ナイフで髭を剃れ。
髪は俺が刈ってやる。」

言葉に従い、近くの水場で髭をあたった。
(すっきりした……。 
こんなことなら、もう少し早く髭をあたれば良かったな)

「じゃあ次は髪だ。
ざっくりいくぞ。動くなよ。」

ジャリジャリジャリジャリ
躊躇うこともなくミュルガは刈っていく。

(思い切り良すぎないか?)

「見てみろ。目付きは悪いがまあ、なんとか見れるようになったぜ。」
そうミュルガは自慢気に言った。

水面に映してみると、数年ぶりの俺の顔がそこにあった。

(なんと言うか、髪を切るだけで気持ちが随分と変わるもんだな。髪ももう少し早く刈っておけばよかった。)

「しかし、上手く化けたもんだ。
これなら誰もあのバーバリアンと同一人物だとは思うまいよ。

次はだ……。近くの村に行くぞ。」

「?」

「服だよ服。お前まさか貫頭衣のまま彷徨くつもりか?」

「ああ。」

「しっかりしてくれよな。頼むぜ。」

「ああ。でも手持ちの金で足りるかどうかだな……」

実はボックが用意してくれた餞別品の中に通貨らしきものも僅かだがあった。

「お前金をもっているのか?」

「ああ。餞別に幾ばくか貰った。でもこの金額で足りると思うか?」

「どれ見してみろ。」
 
そうミュルガが言ったので、硬貨を見せる。

「ああ、こりゃあ駄目だ。」

「足りないのか?」

「逆だ逆。こいつは白金貨だぞ。
村中で俺らみたいな風体のやつが使ったらいっぺんで足がつく。もっと考えろよな。」
そう言って返してきた。

「ところでだ、まだこの白金貨複数持っているとかあるのか?」

「手持ちはこれだけだ。」
(……用心するに越したことは無いだろう。)

「ふーん。ならしゃあない。」

「手詰まりだな。」
そう俺は言った。

「お前バカか?調達するに決まっているだろう。調達。」

「金も無いのに?」

「ああ。」

「どうやって?」

「こうやってさ……」
そう言うと共に、民家の軒先に干してあった作業着を掴むとミュルガは急に走り出した。

(そういやこいつ……シーフだったっけ。)
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