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他の勇者ってどんな人?
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「ちょっと待って。私、服買いたいんだけど」
「服だぁ?それでいいじゃねぇか」
「昼間はいいけど、朝晩寒いの。女の子の体に冷えは厳禁なの!」
正直、セレスティアの創ったこの体が病気になったりするのかは分からなかったけど、暑さ寒さは感じるんだから、快適な方がいい。
そう言うと、カインは黙って私の顔を見つめていたけど、「分かったよ」と溜息を付いた。
カインが連れてってくれた店で、暖かそうな長袖のチュニックとスパッツみたいなものを1着と、下着・・・やっぱりダサいのしかなかったけど仕方ない。それを買って貰って、私は満足した。
「とりあえずこれで着替え出来るし、寒さもしのげるわ。どうもありがとう。私、この世界のお金持ってないから、助かったよ」
お礼を言うと、カインは表情を変えず「別にいい。そんな大した額じゃねぇし」と言った。
それにしても。
私は辺りを見回した。
昨日から急展開でじっくり考える暇もなかったけど、私、今、異世界にいるんだよなぁ。しかも自分のじゃない体で。
物凄く不思議だ。
「おい、呆けてないでそろそろ戻るぞ」
「え?あ、うん」
カインに声を掛けられて振り向いた時、レストランのような店が目に止まった。
うわ・・・異世界の料理、食べてみたいかも。
「あのー、カイン。あのお店に入ってみない?」
ダメ元で言ってみると、そっちを見たカインは「あ?何だ腹減ったのか?」と呆れた顔をしたけど、
「・・・ま、もう昼時だしいいか。行くぞ」
そう言って歩き出した。
「やった!ありがとう」
お店の扉を開けると、ふわっと美味しそうないい匂いが漂って来た。昼時って言ってたし、中にはけっこう人がいる。
ずかずかと歩いて行くカインについて奥のテーブルに座ると、私は店内をきょろきょろ見回した。
「そんな珍しいかよ?」
「そりゃそうよ。だって異世界のお店よ。私にとってはこの世界全部が不思議だし、珍しいよ」
「ふーん」
目を輝かせる私を、カインはどうでも良さそうに見ていた。
お店の人がオーダーを取りに来て、私は何の料理があるかも全然分からないからカインに任せて注文して貰った。
「ねえ、カインって勇者なのに全然町の人に騒がれないね。もっときゃーきゃー言われてるのかと思った」
マンガやゲームのイメージでそう言うと、カインは不思議そうな顔をした。
「勇者だからって別に騒がれねぇよ。逆になんで騒ぐと思うんだ」
「えっ、だって勇者なんて凄いじゃない。特別な力が使える訳だし、みんなの為に魔王と戦ってくれてるんだから、もてはやされてるのかなって」
そう言うと、カインはハァ、と溜息を一つ付いた。
「確かに勇者になった奴の中には皆の為、っつって公言してる奴もいるけどな。前も言ったけど俺は違ぇから。俺は自分の為に魔王を倒したいだけで、別に他の奴らの為に戦ってるわけじゃねぇ。だから騒がれても迷惑だし、それをこの町の奴らも知ってるからうるさくしねぇんだよ」
自分の為?そう言えば出会った時に、魔王を倒したら願いを叶えて貰えるって言ってたっけ。
「何を叶えて欲しいの?」
そう聞いたらカインは「別に何でもいいだろ」って答えなかったけど、ちょうど料理が来て、私の意識はそっちに行った。
「うわぁ、すごい!美味しそう!いただきまーす」
目の前でほかほかと湯気を立てている肉の塊や、シチューのような料理の美味しそうな匂いに食欲が刺激されて、私はフォークで肉を差して口に入れた。
柔らかくて口の中で蕩けるみたい。
「んー!おいしー!」
「良かったな」
素っ気なく言って、カインもばくばく料理を食べている。
「ねえ、そういえば他の勇者ってどんな人達なの?」
ふとさっきの話を思い出して気になった。だって、カインのステータスをレベルマックスまで上げられたら、次はその人達とやんなきゃいけないわけだし。
「あー。一人はこの国の王子だ。名前はエルフィード。もう一人は貿易商やってるとかいう、レグラスって男だ」
「えっ、王子様なの?すごい・・・リアル王子・・・本当にいるんだ。ねえ、どんな感じの人?歳は?見た目はどんな風?」
矢継ぎ早に尋ねると、じろりと見られた。
「そんな、気になんのかよ」
「当たり前でしょ!だってあんたが終わったら、次はその人たちとやんなきゃいけないんだから!どんな人か気にならないわけないよ!」
鼻息荒く言うと、カインも「そういやそうだったな」と、思い出したように言った。
「エルフィードは金髪に緑の目の、まあ、見目のいい男だよ。歳は確か22だったかな。王子だけあって品がいい。俺みたいな庶民にも丁寧に接してたな」
「へぇ~」
なるほどなるほど。育ちいいもんね。いきなり突っ込んでくるようなこともなさそうだし、王子は安パイだわ。
「で、もう一人の貿易商って人は?どんな人?」
カインは口に入った肉の塊を飲み込んでから、言った。
「んー、レグラスは赤い髪に青い目の男だ。歳は知らねぇ。けど俺やエルフィードよりは年上だと思う。色気がある男だけど、なんか裏でやってそうな危ない雰囲気があったな。態度は気さくで話しやすいんだけどな」
「ふ、ふぅーん・・・」
レグラスって人、ちょっと不穏じゃない?嫌だな・・・サイコパスな異常性癖の持ち主だったらどうしよう。
ああ、嫌だ。怖くなって来ちゃったよ。
「何だよ、ビビったのか?」
カインに言われて私は、はぁー、と溜息を付いた。
「そりゃ・・・だってさ。そもそもどんな人かも分かんない、好きでもない人とエッチしなきゃいけない、って時点でもう憂鬱だよ。私、なんか日本にいる時から男運悪かったんだよね。変な男ばっかり引き寄せちゃってさ。こっちに来ても、あんたは無理やり突っ込んで来ようとするし、他の勇者もヤバい奴で酷い事されるかもしれないじゃん」
「・・・・・・」
思わず今までの愚痴を吐き出してしまったけど、カインは何も言わない。まあ、よく知らない奴に愚痴られたって、迷惑なだけだよね。私もそれは分かってるからそれ以上何も言わずに、目の前の料理を食べることにした。
今から考えたって仕方ない。
まだカインのステータスだってマックスまで行ってないんだし、他の勇者のことはその時に考えよう。
「服だぁ?それでいいじゃねぇか」
「昼間はいいけど、朝晩寒いの。女の子の体に冷えは厳禁なの!」
正直、セレスティアの創ったこの体が病気になったりするのかは分からなかったけど、暑さ寒さは感じるんだから、快適な方がいい。
そう言うと、カインは黙って私の顔を見つめていたけど、「分かったよ」と溜息を付いた。
カインが連れてってくれた店で、暖かそうな長袖のチュニックとスパッツみたいなものを1着と、下着・・・やっぱりダサいのしかなかったけど仕方ない。それを買って貰って、私は満足した。
「とりあえずこれで着替え出来るし、寒さもしのげるわ。どうもありがとう。私、この世界のお金持ってないから、助かったよ」
お礼を言うと、カインは表情を変えず「別にいい。そんな大した額じゃねぇし」と言った。
それにしても。
私は辺りを見回した。
昨日から急展開でじっくり考える暇もなかったけど、私、今、異世界にいるんだよなぁ。しかも自分のじゃない体で。
物凄く不思議だ。
「おい、呆けてないでそろそろ戻るぞ」
「え?あ、うん」
カインに声を掛けられて振り向いた時、レストランのような店が目に止まった。
うわ・・・異世界の料理、食べてみたいかも。
「あのー、カイン。あのお店に入ってみない?」
ダメ元で言ってみると、そっちを見たカインは「あ?何だ腹減ったのか?」と呆れた顔をしたけど、
「・・・ま、もう昼時だしいいか。行くぞ」
そう言って歩き出した。
「やった!ありがとう」
お店の扉を開けると、ふわっと美味しそうないい匂いが漂って来た。昼時って言ってたし、中にはけっこう人がいる。
ずかずかと歩いて行くカインについて奥のテーブルに座ると、私は店内をきょろきょろ見回した。
「そんな珍しいかよ?」
「そりゃそうよ。だって異世界のお店よ。私にとってはこの世界全部が不思議だし、珍しいよ」
「ふーん」
目を輝かせる私を、カインはどうでも良さそうに見ていた。
お店の人がオーダーを取りに来て、私は何の料理があるかも全然分からないからカインに任せて注文して貰った。
「ねえ、カインって勇者なのに全然町の人に騒がれないね。もっときゃーきゃー言われてるのかと思った」
マンガやゲームのイメージでそう言うと、カインは不思議そうな顔をした。
「勇者だからって別に騒がれねぇよ。逆になんで騒ぐと思うんだ」
「えっ、だって勇者なんて凄いじゃない。特別な力が使える訳だし、みんなの為に魔王と戦ってくれてるんだから、もてはやされてるのかなって」
そう言うと、カインはハァ、と溜息を一つ付いた。
「確かに勇者になった奴の中には皆の為、っつって公言してる奴もいるけどな。前も言ったけど俺は違ぇから。俺は自分の為に魔王を倒したいだけで、別に他の奴らの為に戦ってるわけじゃねぇ。だから騒がれても迷惑だし、それをこの町の奴らも知ってるからうるさくしねぇんだよ」
自分の為?そう言えば出会った時に、魔王を倒したら願いを叶えて貰えるって言ってたっけ。
「何を叶えて欲しいの?」
そう聞いたらカインは「別に何でもいいだろ」って答えなかったけど、ちょうど料理が来て、私の意識はそっちに行った。
「うわぁ、すごい!美味しそう!いただきまーす」
目の前でほかほかと湯気を立てている肉の塊や、シチューのような料理の美味しそうな匂いに食欲が刺激されて、私はフォークで肉を差して口に入れた。
柔らかくて口の中で蕩けるみたい。
「んー!おいしー!」
「良かったな」
素っ気なく言って、カインもばくばく料理を食べている。
「ねえ、そういえば他の勇者ってどんな人達なの?」
ふとさっきの話を思い出して気になった。だって、カインのステータスをレベルマックスまで上げられたら、次はその人達とやんなきゃいけないわけだし。
「あー。一人はこの国の王子だ。名前はエルフィード。もう一人は貿易商やってるとかいう、レグラスって男だ」
「えっ、王子様なの?すごい・・・リアル王子・・・本当にいるんだ。ねえ、どんな感じの人?歳は?見た目はどんな風?」
矢継ぎ早に尋ねると、じろりと見られた。
「そんな、気になんのかよ」
「当たり前でしょ!だってあんたが終わったら、次はその人たちとやんなきゃいけないんだから!どんな人か気にならないわけないよ!」
鼻息荒く言うと、カインも「そういやそうだったな」と、思い出したように言った。
「エルフィードは金髪に緑の目の、まあ、見目のいい男だよ。歳は確か22だったかな。王子だけあって品がいい。俺みたいな庶民にも丁寧に接してたな」
「へぇ~」
なるほどなるほど。育ちいいもんね。いきなり突っ込んでくるようなこともなさそうだし、王子は安パイだわ。
「で、もう一人の貿易商って人は?どんな人?」
カインは口に入った肉の塊を飲み込んでから、言った。
「んー、レグラスは赤い髪に青い目の男だ。歳は知らねぇ。けど俺やエルフィードよりは年上だと思う。色気がある男だけど、なんか裏でやってそうな危ない雰囲気があったな。態度は気さくで話しやすいんだけどな」
「ふ、ふぅーん・・・」
レグラスって人、ちょっと不穏じゃない?嫌だな・・・サイコパスな異常性癖の持ち主だったらどうしよう。
ああ、嫌だ。怖くなって来ちゃったよ。
「何だよ、ビビったのか?」
カインに言われて私は、はぁー、と溜息を付いた。
「そりゃ・・・だってさ。そもそもどんな人かも分かんない、好きでもない人とエッチしなきゃいけない、って時点でもう憂鬱だよ。私、なんか日本にいる時から男運悪かったんだよね。変な男ばっかり引き寄せちゃってさ。こっちに来ても、あんたは無理やり突っ込んで来ようとするし、他の勇者もヤバい奴で酷い事されるかもしれないじゃん」
「・・・・・・」
思わず今までの愚痴を吐き出してしまったけど、カインは何も言わない。まあ、よく知らない奴に愚痴られたって、迷惑なだけだよね。私もそれは分かってるからそれ以上何も言わずに、目の前の料理を食べることにした。
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まだカインのステータスだってマックスまで行ってないんだし、他の勇者のことはその時に考えよう。
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