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日記と傷だらけの髪飾り
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「ああ、緊張したぁ」
「お前でも緊張したりするんだな」
いつの間にかカインが後ろにいて、揶揄うように言う。
「そりゃそうだよ。私のいた国じゃ王様なんていないし、あんな立場が上そうな人と関わる機会も全然ないもん。あー、王子に会うって考えると、今から緊張しちゃう」
「・・・お前、女神になんて言われてセレスティニアに連れて来られたんだ」
ふいにそんなことを聞かれて、私はきょとんとしてカインを見上げた。
「え?えーと・・・気が付いたら白い変な空間にいて、セレスティアに協力しないとここから絶対に出さないし、日本にも帰さないって言われたの。それで何すればいいか聞いたら、勇者たちとセックスしろなんて言うしさ。もう開いた口が塞がらなかったよ。それ以外方法ないのかって聞いたらそれが一番手っ取り早いなんて言ってさ」
「・・・そうか。逃げ道がなかったんだな、お前」
ちょっと同情してくれたのか、カインは気の毒そうな顔をした。
「あ、でも一応ね、時間は掛かるけどセックスしなくていい方法もあるっぽかったんだけどね・・・」
あの時のことを思い出しながらそう言うと、カインは「なんだよ、それならそっち選べば良かっただろ」と一転、呆れ顔になった。
「そうなんだけど、そっちだと3年も4年も掛かりそうだったの。セレスティアに『そんな何年もかかるのは嫌でしょう?』って言われた時、私、急にものすごく、焦りが湧いてさ。日本に誰か大事な人を残して来てて、その人のことが気になってしょうがない、早く帰らなきゃいけない、って気持ちになったのよ」
「・・・恋人か?」
カインに聞かれて、何とも答えようがなくて曖昧に首を振る。
「・・・そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない・・・分かんないの。どうしてもそれが誰か、思い出せないんだ。それどころか、セレスティアに会う直前、何してたのかも覚えてないの。セレスティアに急にあんな空間に連れて来られて、そのショックで記憶が飛んじゃったのかもしれない」
「ふーん・・・」
何を思ってるのか、カインはそう言って黙ったけど、少しして口を開いた。
「まあいい。とにかく今日は何もしなくていいから、好きなように過ごせよ」
「あ、うん。ありがと」
・・・とは言ったものの。・・・何すりゃいいの?
スマホもないし、ゲームも本もテレビもない。
んー、じゃあ散歩でもしようかな。綺麗な自然の中をトレッキングだ。
そう思ったら、カインが思い出したように言った。
「言い忘れてたけどな、家の敷地を出る時は剣を持っていけよ。この辺の魔王の配下は大体倒したと思うが、まだどこかにいるかもしれねぇからな」
「え?」
ぎくりとして固まった。
カインはそんな私を面白そうに見て笑って、「俺は仕事しに行く。夕方まで帰らねぇから」と言い置いて、ブーストを掛けたんだろう、あっという間にはるか彼方へ走り去っていった。
あ、ああ、トレッキングも出来なくなってしまった。カインもいないんじゃ、私一人でよく分かんない場所歩いてていきなりあれが出て来たら、精神がやられる。
それにしてもカインって仕事してたんだ。そう言えば、ちょくちょくいなかったもんね。勇者でいるだけで国からお金貰えたりしないのかな。
「はぁ・・・何しよ・・・」
望み通り何もしなくていいご褒美タイムが与えられたっていうのに、私は途方に暮れていた。
しばらく外で日向ぼっこをしていたけど、暑くなって来たから家の中に避難する。
何もすることがないから、ベッドに転がってゴロゴロしていたけど、やっぱり退屈過ぎてむくりと起き上がった。
「何かボードゲームみたいなのでもあればいいのにな」
部屋を見回すと、ふと、壁の一部だけ他の所と色が違うのに気付いた。
近付いて見ると、そこだけ四角く切り取られたみたいに切れ目が入っていて、何だかポコッと外れそう。
つい、引っ張ってみたら、やっぱりそこにはめ込まれていた木が取れた。
「・・・本?」
木が外れたあとは、くぼみになっていて、そこに手の平サイズの四角い本のようなものと、女物の髪飾りが入っていた。
櫛に小さな緑の宝石が付いた可愛い髪飾りだけど、なぜか表面がくすんであちこち傷だらけだ。
カインのお母さんの、とかかな?
こっちは何の本だろ。
そう思って深く考えずに開いてみたら、この世界の言葉なんだろう、見たことのない文字が書かれていた。だけど字を目で追うと、自然に言葉の意味が頭に浮かんでくる。
『〇月○日 今日もお父さんたちは帰って来ない。何かあったのかな。すごく心配。でもカインが一緒にいてくれるって言ったから少し安心』
『〇月〇日 14歳の誕生日。カインがとっても綺麗な髪飾りをくれた。すごく嬉しい。ずっと大事にしようと思う』
『〇月〇日 14歳になったから教会で啓示を受けた。カインには剣の素質があった。すごい。でも私には何もなかった。私にも力があったら良かったのに。カインはそんなこと気にするなって言ってくれたけど、本当は悔しい。私も力が欲しかった。せめてカインのお荷物にならないように頑張ろう』
これって、日記?
書いたのはカインの家族?
☆☆☆☆☆
ちょっと短めだったので夕方17時に続きを投稿します。
「お前でも緊張したりするんだな」
いつの間にかカインが後ろにいて、揶揄うように言う。
「そりゃそうだよ。私のいた国じゃ王様なんていないし、あんな立場が上そうな人と関わる機会も全然ないもん。あー、王子に会うって考えると、今から緊張しちゃう」
「・・・お前、女神になんて言われてセレスティニアに連れて来られたんだ」
ふいにそんなことを聞かれて、私はきょとんとしてカインを見上げた。
「え?えーと・・・気が付いたら白い変な空間にいて、セレスティアに協力しないとここから絶対に出さないし、日本にも帰さないって言われたの。それで何すればいいか聞いたら、勇者たちとセックスしろなんて言うしさ。もう開いた口が塞がらなかったよ。それ以外方法ないのかって聞いたらそれが一番手っ取り早いなんて言ってさ」
「・・・そうか。逃げ道がなかったんだな、お前」
ちょっと同情してくれたのか、カインは気の毒そうな顔をした。
「あ、でも一応ね、時間は掛かるけどセックスしなくていい方法もあるっぽかったんだけどね・・・」
あの時のことを思い出しながらそう言うと、カインは「なんだよ、それならそっち選べば良かっただろ」と一転、呆れ顔になった。
「そうなんだけど、そっちだと3年も4年も掛かりそうだったの。セレスティアに『そんな何年もかかるのは嫌でしょう?』って言われた時、私、急にものすごく、焦りが湧いてさ。日本に誰か大事な人を残して来てて、その人のことが気になってしょうがない、早く帰らなきゃいけない、って気持ちになったのよ」
「・・・恋人か?」
カインに聞かれて、何とも答えようがなくて曖昧に首を振る。
「・・・そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない・・・分かんないの。どうしてもそれが誰か、思い出せないんだ。それどころか、セレスティアに会う直前、何してたのかも覚えてないの。セレスティアに急にあんな空間に連れて来られて、そのショックで記憶が飛んじゃったのかもしれない」
「ふーん・・・」
何を思ってるのか、カインはそう言って黙ったけど、少しして口を開いた。
「まあいい。とにかく今日は何もしなくていいから、好きなように過ごせよ」
「あ、うん。ありがと」
・・・とは言ったものの。・・・何すりゃいいの?
スマホもないし、ゲームも本もテレビもない。
んー、じゃあ散歩でもしようかな。綺麗な自然の中をトレッキングだ。
そう思ったら、カインが思い出したように言った。
「言い忘れてたけどな、家の敷地を出る時は剣を持っていけよ。この辺の魔王の配下は大体倒したと思うが、まだどこかにいるかもしれねぇからな」
「え?」
ぎくりとして固まった。
カインはそんな私を面白そうに見て笑って、「俺は仕事しに行く。夕方まで帰らねぇから」と言い置いて、ブーストを掛けたんだろう、あっという間にはるか彼方へ走り去っていった。
あ、ああ、トレッキングも出来なくなってしまった。カインもいないんじゃ、私一人でよく分かんない場所歩いてていきなりあれが出て来たら、精神がやられる。
それにしてもカインって仕事してたんだ。そう言えば、ちょくちょくいなかったもんね。勇者でいるだけで国からお金貰えたりしないのかな。
「はぁ・・・何しよ・・・」
望み通り何もしなくていいご褒美タイムが与えられたっていうのに、私は途方に暮れていた。
しばらく外で日向ぼっこをしていたけど、暑くなって来たから家の中に避難する。
何もすることがないから、ベッドに転がってゴロゴロしていたけど、やっぱり退屈過ぎてむくりと起き上がった。
「何かボードゲームみたいなのでもあればいいのにな」
部屋を見回すと、ふと、壁の一部だけ他の所と色が違うのに気付いた。
近付いて見ると、そこだけ四角く切り取られたみたいに切れ目が入っていて、何だかポコッと外れそう。
つい、引っ張ってみたら、やっぱりそこにはめ込まれていた木が取れた。
「・・・本?」
木が外れたあとは、くぼみになっていて、そこに手の平サイズの四角い本のようなものと、女物の髪飾りが入っていた。
櫛に小さな緑の宝石が付いた可愛い髪飾りだけど、なぜか表面がくすんであちこち傷だらけだ。
カインのお母さんの、とかかな?
こっちは何の本だろ。
そう思って深く考えずに開いてみたら、この世界の言葉なんだろう、見たことのない文字が書かれていた。だけど字を目で追うと、自然に言葉の意味が頭に浮かんでくる。
『〇月○日 今日もお父さんたちは帰って来ない。何かあったのかな。すごく心配。でもカインが一緒にいてくれるって言ったから少し安心』
『〇月〇日 14歳の誕生日。カインがとっても綺麗な髪飾りをくれた。すごく嬉しい。ずっと大事にしようと思う』
『〇月〇日 14歳になったから教会で啓示を受けた。カインには剣の素質があった。すごい。でも私には何もなかった。私にも力があったら良かったのに。カインはそんなこと気にするなって言ってくれたけど、本当は悔しい。私も力が欲しかった。せめてカインのお荷物にならないように頑張ろう』
これって、日記?
書いたのはカインの家族?
☆☆☆☆☆
ちょっと短めだったので夕方17時に続きを投稿します。
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