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王子様来ちゃったよ
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あ、これ、夢だ。夢の中で夢見てる、って分かるやつ。
私は自分の部屋でスマホを手に持って、画面に映し出されてるメッセージを見ていた。
ものすごく大量のメッセージが、読み切れないほど届いてる。
早く返信すればいいのに、と思うのに、どこか返信したくないと思う自分がいた。
そうやってスマホを見ている間にも、新しいメッセージがどんどん届く。
だけど内容を読もうとすると、文字がぼやけて読めない。
そうしている内に、アパートの玄関のチャイムが鳴った。早く出なきゃ、と思うのに夢の中の私の体は一向に動こうとしない。まるで脚が地面に縫い留められたみたいに動かなかった。
チャイムが連続して鳴らされて、玄関のドアノブをガチャガチャ開けようとする音が響いて、夢の中の私の体はますます強張って、ぴくりとも動かせなかった。
そこで、急にハッと目が覚めた。
部屋は薄明るくて、隣に寝ていた筈のカインの姿はない。
何だったんだろうあの夢。
よく分からないけど、もっといい夢見たかったよ。おかげで目覚めた瞬間から気分が重いじゃん。
「はぁ、朝陽でも浴びよ」
私は気持ちを切り換えようと思って、プリフィケーションを使うと、ベッドから降りた。
「・・・ん?」
ふと気付く。
外で人の話し声がする。カインの声と、男の人の声?
こんな朝早くから誰が来てるんだろう。
そう思って扉を開けたら、カインと向かい合っていた目が覚めるようなキラキラしい金髪の男の人が、こっちを振り向いて声を上げた。
「聖女ノア!」
そして、呆気に取られている私のところまで大股に歩いて来ると、すっと私の前に跪いて、綺麗な緑色の瞳で私をじっと見つめた。
金髪に緑の目の、超絶美麗な男の人、この人ひょっとして・・・
「聖女ノア。あなたに早くお会いしたくて仕方がなくて、お迎えに上がりました。さあ私と一緒に城へ参りましょう」
「あの、あなたは・・・」
分かっているけどそう聞くと、その人はにっこりと大輪の花が咲いたみたいな笑顔で言った。
「ああ、貴方に焦がれるあまり気が急いて申し遅れました。私はこのセレスティニア神国の王太子、エルフィード=アルベル=セレスティニアと申します」
王子は微笑んだまま私の手を取ると、手の甲に軽く口付けした。
うわ、ロイヤルなキスだよ。ホントにやるんだ、こういうの。
でも、すごく自然な仕草でめちゃくちゃ様になってるなぁ。
目の前で微笑む、絵画から抜け出たみたいな超絶美形を、私は茫然と見つめていた。
「女神セレスティアの仰った通りの麗しい方ですね。ああ、早く貴方を連れて帰りたい」
王子は言いながら私の手を愛おし気に撫でて、我に返った私はどうしていいか分からずにまごついた。
「え、ええと・・・」
「だからさっきから、俺のステータスはまだ上がり切ってねぇって言ってるだろ」
いつの間にか傍に来ていたカインが不機嫌な声を出すと、王子はやっと私の手を離して立ち上がった。
え、ちょっとカイン、王子様にそんな口きいて大丈夫なの?と思ったけど、王子は気にした風もなく、にこやかな笑顔のままだった。
「分かっていますよ。ですから、あなたもぜひ一緒に城へ来て下さいと言っているではないですか。それより聖女ノア・・・ノアと呼んでも?」
「え、あ、は、はい」
翡翠のような綺麗な目に見つめられて、ちょっとドキっとしてしまう。
だって、こんな綺麗な男の人、初めて見るんだもん。
カインとは対極って感じの、全然違うタイプのイケメンだ。
「ノア、一緒に城へ来てくれますね?貴方に不自由な思いはさせませんし、貴方の望む事は何でも叶えて差し上げますよ」
「う・・・その」
どうしよう。
ちらっと王子の後ろを見ると、この前ここにやって来た騎士団長と副団長っていう、グレイとキースの二人がいた。二人とも、心なしか顔が疲れている。
普通はどうだか知らないけど、王子がわざわざ誰かを迎えに行くなんてないよね?ひょっとしてグレイとキースの迎えを私が断ったから、焦れて自分で来ちゃったのかな。
「おい、エルフィード。俺のステータスはもう5割くらい上がってんだ。あとちょっとなんだから、大人しく城で待ってろよ。ノアにだって不自由な思いはさせてねぇ」
私が困っているからか、カインが口を挟んで来た。
すると、それまでずっと笑顔だった王子は、少し険しい顔をする。
「そうは言っても、ここで暮らしていれば何もしないでは居られないでしょう。ノアに家事をさせたりしていませんよね?仮にも女神セレスティアの遣わした聖女のノアに?」
「ぐっ・・・」
王子にそう言われて気まずそうに口をつぐんだカインに代わって、私は急いで言った。
「あの、私、家事好きなんですっ。私が自分でやりたくてやらせて貰ってるんで、何も不満なんかありません。だから私ももうちょっとここにいたいなあ~って思うんですけど」
王子はそんな私を目を丸くして見ている。
「ノア、なぜそんな嘘を?さっきあなたの手に触れたら、とても綺麗ですべらかでした。今まで重労働をしたことがない手でしたよ。見たところここの井戸は、王都で使われているような自動汲み上げ機もないし、水を汲むだけでも大変でしょう。聖女の貴方がそんな苦労をすることはないのですよ。というより、そんな苦労はさせられません。どうか、お願いですから城へいらして下さい。これ以上貴方にここで家事労働などして欲しくありません」
王子はまた私の両手を包み込むようにして、懇願するようにじっと私を見つめる。
☆☆☆☆☆
短めなので続きを夕方17時に投稿します。毎度読んで頂き、ありがとうございます!
私は自分の部屋でスマホを手に持って、画面に映し出されてるメッセージを見ていた。
ものすごく大量のメッセージが、読み切れないほど届いてる。
早く返信すればいいのに、と思うのに、どこか返信したくないと思う自分がいた。
そうやってスマホを見ている間にも、新しいメッセージがどんどん届く。
だけど内容を読もうとすると、文字がぼやけて読めない。
そうしている内に、アパートの玄関のチャイムが鳴った。早く出なきゃ、と思うのに夢の中の私の体は一向に動こうとしない。まるで脚が地面に縫い留められたみたいに動かなかった。
チャイムが連続して鳴らされて、玄関のドアノブをガチャガチャ開けようとする音が響いて、夢の中の私の体はますます強張って、ぴくりとも動かせなかった。
そこで、急にハッと目が覚めた。
部屋は薄明るくて、隣に寝ていた筈のカインの姿はない。
何だったんだろうあの夢。
よく分からないけど、もっといい夢見たかったよ。おかげで目覚めた瞬間から気分が重いじゃん。
「はぁ、朝陽でも浴びよ」
私は気持ちを切り換えようと思って、プリフィケーションを使うと、ベッドから降りた。
「・・・ん?」
ふと気付く。
外で人の話し声がする。カインの声と、男の人の声?
こんな朝早くから誰が来てるんだろう。
そう思って扉を開けたら、カインと向かい合っていた目が覚めるようなキラキラしい金髪の男の人が、こっちを振り向いて声を上げた。
「聖女ノア!」
そして、呆気に取られている私のところまで大股に歩いて来ると、すっと私の前に跪いて、綺麗な緑色の瞳で私をじっと見つめた。
金髪に緑の目の、超絶美麗な男の人、この人ひょっとして・・・
「聖女ノア。あなたに早くお会いしたくて仕方がなくて、お迎えに上がりました。さあ私と一緒に城へ参りましょう」
「あの、あなたは・・・」
分かっているけどそう聞くと、その人はにっこりと大輪の花が咲いたみたいな笑顔で言った。
「ああ、貴方に焦がれるあまり気が急いて申し遅れました。私はこのセレスティニア神国の王太子、エルフィード=アルベル=セレスティニアと申します」
王子は微笑んだまま私の手を取ると、手の甲に軽く口付けした。
うわ、ロイヤルなキスだよ。ホントにやるんだ、こういうの。
でも、すごく自然な仕草でめちゃくちゃ様になってるなぁ。
目の前で微笑む、絵画から抜け出たみたいな超絶美形を、私は茫然と見つめていた。
「女神セレスティアの仰った通りの麗しい方ですね。ああ、早く貴方を連れて帰りたい」
王子は言いながら私の手を愛おし気に撫でて、我に返った私はどうしていいか分からずにまごついた。
「え、ええと・・・」
「だからさっきから、俺のステータスはまだ上がり切ってねぇって言ってるだろ」
いつの間にか傍に来ていたカインが不機嫌な声を出すと、王子はやっと私の手を離して立ち上がった。
え、ちょっとカイン、王子様にそんな口きいて大丈夫なの?と思ったけど、王子は気にした風もなく、にこやかな笑顔のままだった。
「分かっていますよ。ですから、あなたもぜひ一緒に城へ来て下さいと言っているではないですか。それより聖女ノア・・・ノアと呼んでも?」
「え、あ、は、はい」
翡翠のような綺麗な目に見つめられて、ちょっとドキっとしてしまう。
だって、こんな綺麗な男の人、初めて見るんだもん。
カインとは対極って感じの、全然違うタイプのイケメンだ。
「ノア、一緒に城へ来てくれますね?貴方に不自由な思いはさせませんし、貴方の望む事は何でも叶えて差し上げますよ」
「う・・・その」
どうしよう。
ちらっと王子の後ろを見ると、この前ここにやって来た騎士団長と副団長っていう、グレイとキースの二人がいた。二人とも、心なしか顔が疲れている。
普通はどうだか知らないけど、王子がわざわざ誰かを迎えに行くなんてないよね?ひょっとしてグレイとキースの迎えを私が断ったから、焦れて自分で来ちゃったのかな。
「おい、エルフィード。俺のステータスはもう5割くらい上がってんだ。あとちょっとなんだから、大人しく城で待ってろよ。ノアにだって不自由な思いはさせてねぇ」
私が困っているからか、カインが口を挟んで来た。
すると、それまでずっと笑顔だった王子は、少し険しい顔をする。
「そうは言っても、ここで暮らしていれば何もしないでは居られないでしょう。ノアに家事をさせたりしていませんよね?仮にも女神セレスティアの遣わした聖女のノアに?」
「ぐっ・・・」
王子にそう言われて気まずそうに口をつぐんだカインに代わって、私は急いで言った。
「あの、私、家事好きなんですっ。私が自分でやりたくてやらせて貰ってるんで、何も不満なんかありません。だから私ももうちょっとここにいたいなあ~って思うんですけど」
王子はそんな私を目を丸くして見ている。
「ノア、なぜそんな嘘を?さっきあなたの手に触れたら、とても綺麗ですべらかでした。今まで重労働をしたことがない手でしたよ。見たところここの井戸は、王都で使われているような自動汲み上げ機もないし、水を汲むだけでも大変でしょう。聖女の貴方がそんな苦労をすることはないのですよ。というより、そんな苦労はさせられません。どうか、お願いですから城へいらして下さい。これ以上貴方にここで家事労働などして欲しくありません」
王子はまた私の両手を包み込むようにして、懇願するようにじっと私を見つめる。
☆☆☆☆☆
短めなので続きを夕方17時に投稿します。毎度読んで頂き、ありがとうございます!
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