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王城
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「それじゃ行きます。しっかり付いて来て下さい」
そう言って王子と側近たちが走り出して、私を抱っこしたカインも走り出した。
あっという間に景色が凄いスピードで後ろに流れて行って、私は初めて見る新しい景色に釘付けになった。
ずっと山の中にいたから、広い広い草原みたいな場所に出て、見渡す限りの草の海とどこまでも広がる空に感動した。
「すごい・・・広い」
「フェイル平原だ」
素っ気なく答えるカイン。
「へぇ・・・」
凄いな。この世界がどれくらい広いのか知らないけど、本当に綺麗だ。
空気も澄んでて、空は透き通るように青いし、緑もものすごく鮮やか。
「この世界ってホントに綺麗でいい所だよね」
そう言うと、カインはふっと笑った。
「・・・ここに住むか?」
「え~、どうかなあ。自然は綺麗だけど、娯楽がないからなあ」
「娯楽なら、ゲームがあるぜ。競技になってるものもある。的に矢を当てたりとか、馬で競争したりとか、カードや盤の上で駒を動かすゲームとか、いくらでもあるぞ」
「え?ホント?あんたの家、何もなかったから、そういう遊びみたいなのない世界なのかって思った」
そう言ったら、カインは「ああ・・・」とどこか遠くを見る顔をした。
「二人でやるゲームは、もうずっと地下の貯蔵庫にしまい込んでたからな・・・」
寂しそうな、傷付いたような顔。
あ・・・シェリルのこと、思い出してるのかな・・・
何だか私まで胸がきゅっとして、カインのシャツを掴む手に力が入った。
「今度さ、そのゲーム出しておいてよ。私もやってみたいから」
そう言うとカインは、え?って少しびっくりしたような顔をしたけど、意地悪そうに笑って言った。
「いいけど、手加減しねぇからな」
「え?ちょっと、何よ、子供みたいなこと言ってさ。こっちは初心者なんだから手加減は当たり前でしょ」
「俺、そういう八百長みてぇなの嫌いだし」
涼しい顔で言うカインに、
「もー!やっぱりあんたって優しくないんだから!」
そう言いながら私は嬉しいような、なぜだか少し寂しいような、よく分からない気持ちになった。
一度軽い休憩を取りながら走り続けて、やっと白っぽい石造りの外壁が見えて来た時にはホッとした。
魔王の配下とか、魔物とかそういうのは出て来なかったけど、さすがにずっと抱かれっぱなしっていうも、疲れちゃった。
「ノア。ここが我がセレスティニア神国の王都、アルベスタです」
王子が振り返ってそう言って、私たちは見上げるような高い外壁の傍で止まった。
もう走らなくていいから、私もカインに下ろして貰って自分の足で歩いた。
「疲れなかった?」って聞いたら、カインは「お前くらいの重さなら大したことねぇよ」と涼しい顔をしていた。
「それでは行きましょうか。ノア、こちらへ」
そう言うと、王子は私の手を取って、しっかり握りしめた。
「えと、一人で歩けますけど・・・」
恥ずかしくてそう言ったら、
「ずっとカインに貴方を独占されてましたからね。ここからは私に貴方を独りじめさせて下さい」
と微笑まれて、それ以上は何も言えなかった。
う、うわぁ・・・
すごいセリフだ。
けど、それが似合うのはさすがに王子だなと思った。
ちらっと後ろを振り返ると、グレイとキースは微笑ましい顔でこっちを見ていて、カインは何を考えているのか分からない、表情のない顔で私を見ていた。
この状態で街の中を歩いたら大変な事になるんじゃ?と思っていたら、王子は街の入口らしい大きな門から離れた小さな門に向かった。鍵みたいな所に胸にかけていたペンダントを当てると扉が開いて、中は細長い通路になっている。
「街を通らずに城まで行ける通路ですよ。騎士団や魔術師団もここを使います」
王子は私にそう説明してくれた。
「へぇ・・・」
そこをしばらく歩くと、扉が見えて、王子がそこにもペンダントを当てると石畳の広場みたいなところに出た。
「お疲れ様でした。ノア、王城へ着きましたよ。カイン、あなたとは後でノアを交えて今後の話をしなければなりません。昼食には招待しますが、一先ずこちらが呼ぶまで休んでいて下さい。グレン、キース。お前たちはカインを西の棟の客室に案内してくれ。私はノアを部屋に連れて行く」
「は。」
グレンとキースが敬礼してカインと行こうとしたから、私は思わず呼び止めた。
「・・・あ、カイン」
「何だ?」
ただ、何となく心細くなっただけで、言いたいことがあったわけじゃなかった。だから、言うべき言葉が見つからずに、
「・・・またあとでね」
それだけ言うと、カインは変なやつだな、みたいな顔をして「ああ」とさっさと行ってしまった。
・・・うう、城なんて人生初だよ、落ち着かないよ~。
去って行くカインの後姿を心細く見つめていると、王子が柔らかく微笑んで私を見た。
「・・・カインと離れて寂しいですか?」
「え?いえ・・・ただ、こういう場所初めてなので、緊張してます・・・」
そう言うと、王子はくすりと笑った。
「大丈夫。私を始め、皆、ノアを歓迎していますよ。ここでは自由にお過ごしください。貴方を咎めたり邪魔するものはいませんから」
「はぁ・・・」
「さあ、ノア、こちらにどうぞ」
「あっ、ハイ」
慌てて王子に付いて行くと、とんでもなく豪華な部屋に通されて、中に入るとメイドさんが10人くらい直立不動で待ってた。
ひえっ・・・
「疲れたでしょう、ノアはこの部屋でゆっくり休んでください。貴方の為に用意した部屋なんですよ」
そう言われたけど、逆に緊張するんだけど?
エルフィード王子は、茫然としている私の手を取ると、また甲に口付けた。
「ずっと貴方と一緒にいたいのですが・・・生憎仕事が溜まっており行かねばなりません。何かあればこの者達に申し付けて下さい。後程また来ます。昼食を共にしましょう」
「あ、は、はい」
戸惑ったまま頷くと、王子は微笑んで去って行った。
残された私は、部屋の中にずらりと並んでいるメイドさんたちに気まずい思いをしながら、窓際に歩いて行った。
昼食って、映画とかで見るやたら長細いテーブルで、コース料理とか食べるのかな?どうしよ、マナーとか全然詳しくないし、まさか王様とか王族勢ぞろいじゃないよね?
綺麗な庭園を眺めながらそんなことを考えていたら、メイドさんの中から一人、少し年配の銀髪の女性が進み出て来て声を掛けられた。
「ノア様、私はメイド長のエレインと申します。よろしければお召し物をお着替えになりませんか?王太子殿下がノア様の為にドレスをご用意下さっているのですよ」
「え?あ・・・」
思わず自分のワンピースを見下ろす。
まあ、確かに王城でこの姿は逆に目立つかもな。
エレインはにこやかに微笑みながらも言葉を続ける。
「このあと王太子殿下との会食がございますし、出来れば着替えて頂けると私共も助かります。せっかくですので、ご覧になりませんか?」
なるほど。この恰好で会食なんて、格調高いレストランに半袖短パン・ビーサンスタイルで行くようなものか。
そう納得して私は頷いた。
「どれでもお好きなものをお選びになって下さいませ」
「す、すごい・・・」
隣の部屋がそのままクローゼットになっていて、そこには大量のドレスがぎっしりと掛けられていた。
ぶわっと裾が広がった、プリンセスラインのドレスかと思ったけど、この世界のドレスの流行りはすっきりスタイリッシュなものだったようで、現代のイブニングドレスみたいなデザインだった。
その中から、私は今の青い髪、琥珀色の瞳の自分に似合いそうな、薄いブルーのエンパイアラインのドレスを選んだ。
ハイウェストで裾は広がり過ぎず自然に広がってるタイプだ。
アパレルに就職してたくらいだから私は服が好きだし、大量の綺麗なドレスを見るとやっぱり心が躍った。
「まあ、素敵なものをお選びになりましたね。では、早速着替えましょうか」
「はい」
エレインや他のメイドさん達に手伝って貰って、ドレスに着替え、靴もそれに合うものを履かせて貰った私は、自分でも惚れ惚れするくらい綺麗だった。
「はぁ・・・とても素敵ですわ。ノア様」
エレイン達も溜息を付いてそう言ってくれた。
「では、このドレスに合うように髪も整えましょうね」
そう言われて髪を結われ、銀の櫛に金色の宝石が付いた髪飾りを付けて貰ったら、うーん、本当に異世界のコスプレしてるみたい。
鏡に映る別人のような自分の姿を見て、ますます、そんな気分になった。
だけど、我ながら似合っている。
カインが見たらどんな反応するかな。
最初の時、私が無理やり「可愛い」って言わせた時みたいに、恥ずかしそうにしながら綺麗だよとか言ってくれたら、最高なんだけど。
でも、ぶっきらぼうにふーん、って言われるだけだろうな。
そう言って王子と側近たちが走り出して、私を抱っこしたカインも走り出した。
あっという間に景色が凄いスピードで後ろに流れて行って、私は初めて見る新しい景色に釘付けになった。
ずっと山の中にいたから、広い広い草原みたいな場所に出て、見渡す限りの草の海とどこまでも広がる空に感動した。
「すごい・・・広い」
「フェイル平原だ」
素っ気なく答えるカイン。
「へぇ・・・」
凄いな。この世界がどれくらい広いのか知らないけど、本当に綺麗だ。
空気も澄んでて、空は透き通るように青いし、緑もものすごく鮮やか。
「この世界ってホントに綺麗でいい所だよね」
そう言うと、カインはふっと笑った。
「・・・ここに住むか?」
「え~、どうかなあ。自然は綺麗だけど、娯楽がないからなあ」
「娯楽なら、ゲームがあるぜ。競技になってるものもある。的に矢を当てたりとか、馬で競争したりとか、カードや盤の上で駒を動かすゲームとか、いくらでもあるぞ」
「え?ホント?あんたの家、何もなかったから、そういう遊びみたいなのない世界なのかって思った」
そう言ったら、カインは「ああ・・・」とどこか遠くを見る顔をした。
「二人でやるゲームは、もうずっと地下の貯蔵庫にしまい込んでたからな・・・」
寂しそうな、傷付いたような顔。
あ・・・シェリルのこと、思い出してるのかな・・・
何だか私まで胸がきゅっとして、カインのシャツを掴む手に力が入った。
「今度さ、そのゲーム出しておいてよ。私もやってみたいから」
そう言うとカインは、え?って少しびっくりしたような顔をしたけど、意地悪そうに笑って言った。
「いいけど、手加減しねぇからな」
「え?ちょっと、何よ、子供みたいなこと言ってさ。こっちは初心者なんだから手加減は当たり前でしょ」
「俺、そういう八百長みてぇなの嫌いだし」
涼しい顔で言うカインに、
「もー!やっぱりあんたって優しくないんだから!」
そう言いながら私は嬉しいような、なぜだか少し寂しいような、よく分からない気持ちになった。
一度軽い休憩を取りながら走り続けて、やっと白っぽい石造りの外壁が見えて来た時にはホッとした。
魔王の配下とか、魔物とかそういうのは出て来なかったけど、さすがにずっと抱かれっぱなしっていうも、疲れちゃった。
「ノア。ここが我がセレスティニア神国の王都、アルベスタです」
王子が振り返ってそう言って、私たちは見上げるような高い外壁の傍で止まった。
もう走らなくていいから、私もカインに下ろして貰って自分の足で歩いた。
「疲れなかった?」って聞いたら、カインは「お前くらいの重さなら大したことねぇよ」と涼しい顔をしていた。
「それでは行きましょうか。ノア、こちらへ」
そう言うと、王子は私の手を取って、しっかり握りしめた。
「えと、一人で歩けますけど・・・」
恥ずかしくてそう言ったら、
「ずっとカインに貴方を独占されてましたからね。ここからは私に貴方を独りじめさせて下さい」
と微笑まれて、それ以上は何も言えなかった。
う、うわぁ・・・
すごいセリフだ。
けど、それが似合うのはさすがに王子だなと思った。
ちらっと後ろを振り返ると、グレイとキースは微笑ましい顔でこっちを見ていて、カインは何を考えているのか分からない、表情のない顔で私を見ていた。
この状態で街の中を歩いたら大変な事になるんじゃ?と思っていたら、王子は街の入口らしい大きな門から離れた小さな門に向かった。鍵みたいな所に胸にかけていたペンダントを当てると扉が開いて、中は細長い通路になっている。
「街を通らずに城まで行ける通路ですよ。騎士団や魔術師団もここを使います」
王子は私にそう説明してくれた。
「へぇ・・・」
そこをしばらく歩くと、扉が見えて、王子がそこにもペンダントを当てると石畳の広場みたいなところに出た。
「お疲れ様でした。ノア、王城へ着きましたよ。カイン、あなたとは後でノアを交えて今後の話をしなければなりません。昼食には招待しますが、一先ずこちらが呼ぶまで休んでいて下さい。グレン、キース。お前たちはカインを西の棟の客室に案内してくれ。私はノアを部屋に連れて行く」
「は。」
グレンとキースが敬礼してカインと行こうとしたから、私は思わず呼び止めた。
「・・・あ、カイン」
「何だ?」
ただ、何となく心細くなっただけで、言いたいことがあったわけじゃなかった。だから、言うべき言葉が見つからずに、
「・・・またあとでね」
それだけ言うと、カインは変なやつだな、みたいな顔をして「ああ」とさっさと行ってしまった。
・・・うう、城なんて人生初だよ、落ち着かないよ~。
去って行くカインの後姿を心細く見つめていると、王子が柔らかく微笑んで私を見た。
「・・・カインと離れて寂しいですか?」
「え?いえ・・・ただ、こういう場所初めてなので、緊張してます・・・」
そう言うと、王子はくすりと笑った。
「大丈夫。私を始め、皆、ノアを歓迎していますよ。ここでは自由にお過ごしください。貴方を咎めたり邪魔するものはいませんから」
「はぁ・・・」
「さあ、ノア、こちらにどうぞ」
「あっ、ハイ」
慌てて王子に付いて行くと、とんでもなく豪華な部屋に通されて、中に入るとメイドさんが10人くらい直立不動で待ってた。
ひえっ・・・
「疲れたでしょう、ノアはこの部屋でゆっくり休んでください。貴方の為に用意した部屋なんですよ」
そう言われたけど、逆に緊張するんだけど?
エルフィード王子は、茫然としている私の手を取ると、また甲に口付けた。
「ずっと貴方と一緒にいたいのですが・・・生憎仕事が溜まっており行かねばなりません。何かあればこの者達に申し付けて下さい。後程また来ます。昼食を共にしましょう」
「あ、は、はい」
戸惑ったまま頷くと、王子は微笑んで去って行った。
残された私は、部屋の中にずらりと並んでいるメイドさんたちに気まずい思いをしながら、窓際に歩いて行った。
昼食って、映画とかで見るやたら長細いテーブルで、コース料理とか食べるのかな?どうしよ、マナーとか全然詳しくないし、まさか王様とか王族勢ぞろいじゃないよね?
綺麗な庭園を眺めながらそんなことを考えていたら、メイドさんの中から一人、少し年配の銀髪の女性が進み出て来て声を掛けられた。
「ノア様、私はメイド長のエレインと申します。よろしければお召し物をお着替えになりませんか?王太子殿下がノア様の為にドレスをご用意下さっているのですよ」
「え?あ・・・」
思わず自分のワンピースを見下ろす。
まあ、確かに王城でこの姿は逆に目立つかもな。
エレインはにこやかに微笑みながらも言葉を続ける。
「このあと王太子殿下との会食がございますし、出来れば着替えて頂けると私共も助かります。せっかくですので、ご覧になりませんか?」
なるほど。この恰好で会食なんて、格調高いレストランに半袖短パン・ビーサンスタイルで行くようなものか。
そう納得して私は頷いた。
「どれでもお好きなものをお選びになって下さいませ」
「す、すごい・・・」
隣の部屋がそのままクローゼットになっていて、そこには大量のドレスがぎっしりと掛けられていた。
ぶわっと裾が広がった、プリンセスラインのドレスかと思ったけど、この世界のドレスの流行りはすっきりスタイリッシュなものだったようで、現代のイブニングドレスみたいなデザインだった。
その中から、私は今の青い髪、琥珀色の瞳の自分に似合いそうな、薄いブルーのエンパイアラインのドレスを選んだ。
ハイウェストで裾は広がり過ぎず自然に広がってるタイプだ。
アパレルに就職してたくらいだから私は服が好きだし、大量の綺麗なドレスを見るとやっぱり心が躍った。
「まあ、素敵なものをお選びになりましたね。では、早速着替えましょうか」
「はい」
エレインや他のメイドさん達に手伝って貰って、ドレスに着替え、靴もそれに合うものを履かせて貰った私は、自分でも惚れ惚れするくらい綺麗だった。
「はぁ・・・とても素敵ですわ。ノア様」
エレイン達も溜息を付いてそう言ってくれた。
「では、このドレスに合うように髪も整えましょうね」
そう言われて髪を結われ、銀の櫛に金色の宝石が付いた髪飾りを付けて貰ったら、うーん、本当に異世界のコスプレしてるみたい。
鏡に映る別人のような自分の姿を見て、ますます、そんな気分になった。
だけど、我ながら似合っている。
カインが見たらどんな反応するかな。
最初の時、私が無理やり「可愛い」って言わせた時みたいに、恥ずかしそうにしながら綺麗だよとか言ってくれたら、最高なんだけど。
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