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飲むしかない

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あばばばば。
どうしよう、来た。

「は、はい、どうぞ」

全然心の整理は付いてなかったけど王子を待たせるのも悪いと思って、反射的にそう答えると、侍女さんがドアを開ける。

昼とは違って、ちょっとゆったりめのシャツとスラックスを身につけた王子が入って来ると、ささーっと部屋にいた侍女さんが全員出て行った。

ひえぇ。
いかにも、って空気じゃん。

侍女さん達が出て行くと、王子は部屋の真ん中で突っ立っている私の前にやって来て、手を取ると甲に軽くキスした。

「ノア、緊張していますか?」

微笑まれて、私はぎこちなく頷く。

「は、はぁ、まあ」
「ふふ、そんなに堅くならなくて大丈夫ですよ。美味しい果実酒を持って来たので、一緒に飲みましょう」

そう言うと、王子は私の手を取ったままソファに連れて行った。
テーブルにはいつ用意されたのか、瓶とグラスが置かれている。

「会食の時、ノアが気に入ったようだったので、少し違う種類のものを持って来ました。これも美味しいですよ」

手慣れた手付きで栓を開けて中身をグラスに注いで、私に渡してくれる。

「ありがとうございます……」

受け取ってグラスを口元に持っていったら、マスカットみたいないい香りがした。

「せっかくだから乾杯しましょう。ノアとの夜に」
「か、かんぱーい……」

グラスを掲げてそんなことを言う王子に、私も引き攣り笑いを浮かべながらグラスを掲げた。

エルフィード王子は、さっきからこれ以上ないくらい甘い笑顔で私のことをじっと見つめてる。

あああ、かゆい。空気がこそばゆくてたまんない。

どうしたらいいか分かんなくて、私はグラスのお酒を飲んだ。
すごく爽やかで美味しいけど、喉にカッと来る。結構強いみたい。
それならちょうどいいや。ええい、もう、酔っちゃえ!

セレスティアが創ったこの体もそうなのか分かんないけど、私、お酒は好きだけど、弱いんだから!

緊張を解そうとしてか、王子が色々話しかけてくれたけど、適当に相槌を打ちつつ、私はがっぽがっぽと果実酒を飲みまくった。

そして、その後の記憶は―――――ない。


☆☆☆


ふと気が付くと、薄暗い部屋にカーテンの隙間から光が差しているのが見えた。

んー……ここ、どこだっけ。
なんか、体怠いなぁ。
昨日、何時に寝たんだっけ?

ぼんやりした頭がだんだんはっきりして来ると、横に誰かが寝てるのに気付く。
金色の髪、引き締まってて白い体は何も身につけてない。

……エルフィード王子?
そ、そうだった。昨夜、私この人とっ!!

そのことを思い出すと同時に、股間から何かドロッとしたものが溢れて来て、一気に全身が熱くなる。

やだぁ!残滓が生々しいよ!
プ、プリフィケーション……は、使っちゃダメだった。

もう、さっさとお風呂……って思ったところで、横で眠ってた王子が身動ぎしてこっちを向いた。

「おはようノア」

ふにゃっと嬉しそうに微笑まれて、

「お、おおお、おはようございます」

ぎこちない返ししか出来なかった。

「あれ、いつものノアに戻ってしまったの?昨夜のノア可愛かったのに。もう私の前では取り繕わなくていいんだよ?」

くすくす笑われても、「あ、あはは」って乾いた笑いしか出て来ない。

な、何この、いかにも一線越えた後の、バリア崩壊してぬるい感じ。
王子ってば、めちゃくちゃ自然体だし、そんな愛おしそうな目で見つめられると、どうしたらいいか分かんない。

「ねえ、体は大丈夫?昨夜は随分その、無理させてしまったかもしれないから……」

恥ずかしそうに笑いながら頬にそっと触れられて、心拍数が上がる。

「え、ええと、大丈夫、です。ちょっと怠いだけで、何かあんまり覚えてなくて私……」

しどろもどろに言うと、王子はこっちに体を寄せて来てぎゅっと私を抱き締めた。
あ、あれ、私も素っ裸じゃん。

裸同士で密着すると、否が応でもエルフィードの肌の熱さとか筋肉の弾力とか、匂いとか感じてしまって、ますます心拍数が上がった。

「覚えてないの?あんなに可愛い事を沢山言ってくれたのに。私の名前を呼びながら感じてくれていたよね。すごく可愛かった」
「ぅうへえぇあ、そ、ソーデシタッケー」

やばい。
覚えてないって言ったけど、段々朧気ながら思い出して来た。

『やぁ、ああっ、気持ちいいよぉ、えるぅ』
『ノア、可愛いっ、はっ、ああ、またっ……出していいっ?」
『うんっ、いいよぉ、いっぱい出してぇっ』

……うぎゃぁあああ!!
恥ずかしいっ!
何言ってんの私!てか、何回やってんの!

もう、今すぐダッシュでここから飛び出して、叫びながら走り去りたい。

私がそんなことを考えて悶えてると、王子はチュッと私の額にキスした。

「お願い。昨夜みたいに話してよ。私と二人でいる時には敬語なんて使わないで。壁を作られたみたいで寂しいよ」
「あ……」

本当に寂しそうな顔で言われると、何だか可哀想な気がしてしまった。
まあいいか、それくらいなら……

「ん……分かった」

そう言うと、

「良かった」

嬉しそうな顔で微笑まれて、釣られて笑ったら、

ぐぅ。

ムードをぶち壊すかのようにお腹が鳴った。
うっ、恥。

「お腹空いたの?もう少しこうしていたかったけど、部屋に朝食を持って来させようか?」

え、どうしよう。だけど、いかにも事後って部屋に今、人に入って来られるのはイヤだなぁ。
とか思ってたら、ソファの前のテーブルに置きっぱなしだった、綺麗な包み紙が目に入る。

「あ、そうだ、昨日美味しいケーキ貰ったんだった」

そう言うと、エルフィードもそっちに目をやって「あれ?取って来るよ」と立ち上がった。

うわっ、明るいところで見ちゃった。
あの体に私、抱かれたんだ……
何て言うか、ものすごく複雑な気分。

「はい、どうぞ」

そんな私の気持ちには微塵も気付いてなさそうな王子が、取って来たケーキを手渡してくれる。

「ありがとう……王子様も……」

言いかけたら、悲しそうな顔で「昨日みたいに呼んでよ」なんて言われてしまって、

「あ、エル……も食べる?」
かなり勇気が要ったけどそう言った。

「うん、ありがとうノア」

うわぁ、今まで見た中で一番の素っぽい笑顔だ……
何か罪悪感が湧くなぁ……

「ん?あれ、このケーキ……」

包みを開いてケーキを見たエルフィードは、訝しそうな顔をした。一口食べてみて、驚いた顔で私を見る。

「これは、母上の作ったケーキ……どうしてノアがこれを?」




******
2023/5/19追記:最初はエルフィード王子とのエロもきっちり書いていたんですが、乙女ゲームみたいにルートを分ける事にしたため、がっつりえっちな描写はそちらのルートで書くことにして、エロ部分は一旦削除しました!ごめんなさい( ;∀;)
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