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第三章 動乱と日常【魔族内乱編】
第14話 魔力の行方
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白猫亭の酒場。
つい先ほどまでそこは、冒険者たちで賑わいを見せていた。
ダンジョン探索が解禁されたのは、つい昨晩のことで、タッグを組むパーティーが決まっていない冒険者たちは、まだテレサの町中で過ごしていた。
そんな彼らのお目当ては、白猫亭に拠点を置く、「デビルスレイヤーズ」だったのだが、陽が高いうちから大宴会を行っており、誰一人声を掛けることができなかった。
昼食時が過ぎ、冒険者たちが諦めて白猫亭をあと、コウヘイはすっかり酔いつぶれてテーブルに突っ伏していた――――
「いてて、あれ? ……気のせい、かな?」
ほんの一瞬、チクッと刺さるような魔力を感じて僕が目を覚ましたら、気付かないうちテーブルに肘をついた姿勢で眠ってしまっていた。
いけないいけない、寝ぼけてるな。
身を焼くような魔力を感じだけど、これはきっと夢だろうと頭を振って痺れた左腕を解す。
「キャッはっは……うふふ……えへへ」
辺りを見渡すと、隣のエルサが果実酒が入ったグラスを両手で掴み、ちびちびやりながら楽しそうに向かい側の話を聞いてひたすら笑っている。
魔力に敏感なエルサが無反応だから、やっぱり気のせいだろう。
それにしても、笑い上戸なのか? と、普段の様子と全く違うエルサを見た僕は、それを新鮮に感じた。
その向かい側では、イルマとエヴァが何やら真剣に話し込んでいる様子だけど、酔っぱらっているせいなのか呂律が回っておらずよく聞き取れない。
それでエルサは笑っているのかもしれない。
「じゃかりゃ、ほんりょだと言っておりょうがっ!」
「何を仰るのれす、うえいしぇんふぇりゅとはとっくにめちゅぼーしてますわよ」
きっとイルマがウェイスェンフェルト王朝の現女王だとでも言ったのだろう。
前に王族だって言っていたのを僕もあんまり信じてなかったし、エヴァもそう簡単には信じないだろうな。
てか、呂律が回っていないけど、エヴァの口調が丁寧な気がする。
とっつき易いお姉さん口調は、敢えてでこっちが本当の口調なのかな?
酔うと本性が出るというのを聞いたことがある。
「コウヘイさん、どうぞ」
「あ、ありがとう」
イルマとエヴァの様子を眺めて考え事をしていたら、ミラが水を持って来てくれた。
「どれくらい寝てたかな?」
「えっとー、半刻ほどでしょうか? そんなに長くはないですよ」
「そっか、ありがとう」
うーん、どうしよう。
お酒が進んでしまったため、イルマとエヴァは大分盛り上がっており、もう少し時間が掛かりそうだった。
「よしっ、さっき言っていたことを試そうか」
「さっき? ……あ、はい!」
僕にそう言われたミラは、記憶を探って思い出した途端、元気に頷いた。
それから僕とミラは、席を立ち二階の四人部屋に戻って来た。
「先に確認だけど、魔力が回復すると、それは感覚的にわかるものなの?」
「そうですね。朝起きたらスッキリしてますよ」
「あ、そうじゃなくて、マジックポーションを飲んだら回復したのを感じられるのかを聞いたんだよ」
見当違いの回答が返ってきたため、言い直した。
「あー、それはわからないです」
「え、わからないの? それじゃあ、試しても意味ないのか……」
今回試そうとしているのは、失われたミラの魔力をマジックポーションで回復できるかどうかの確認である。
「そうしたらエルサを連れてくるかな……」
「エルサさんを、ですか?」
何故そこでエルサの名前が出たのか不思議そうにミラが、コテンと小首を傾げ、赤みを帯びたツーサイドアップにした金髪が揺れた。
「うーん、酔って愉しそうにしているところに悪いけど、エルサの魔法眼なら魔力量が見えるからさ」
懸念事項を言いつつも、スキルの効果は変わらないため理由を述べた。
「あっ、そうではなくてですね。マジックポーションを飲んだことが無いので、そのときの感覚がわからないだけです。自分の魔力量は感じられるので大丈夫ですよ」
「ああ、なるほど、それなら大丈夫そうだね……ん?」
「どうしたんですか?」
思わず納得したけど、マジックポーションを飲んだことがないことに驚愕した。
そのことでできた不自然な間に、今度は深紅の瞳を瞬かせてミラが僕のことを覗き込んできた。
「ご、ごめん。そりゃあ、千発も魔法が撃てるならそんなの飲む必要ないよね」
改めて、僕がしでかしたことの重大さを思い知った。
「いえ、そうではなくてですね。マジックポーションを飲む必要が無かったと言うより、買うお金が無かったと言った方が正しいです……」
何だろうこの空気……
会話がかみ合わない上に、どんどん話が切ない方向へと進んでいく。
エルサやイルマとは感じたことがない、女の子と話す難しさを久しぶりに感じた気がする。
てか、小銀貨一枚のマジックポーションを買えないってどんだけだよ!
でも、昨日クエスト報酬の金貨を見たときや、さっき魔獣討伐報酬の話をしたときもその金額に驚いていたっけ。
結構ギリギリの生活を送っていたのかもしれないな。
改めて、ミラの身体を見てみる全体的に線が細い気がする。
出るところは出てるけど、そこに栄養が集中しちゃった系かな、とくだらないことを考えていたら、ミラがいきなりモジモジしはじめた。
「ん、どうしたの?」
「あ、いえ、何でもないです……」
何でもないなら目線を合わせ欲しい、見た途端逸らされると傷ついちゃう。
って、はーやばい……これは僕じゃない。
「よし、これで大丈夫。ごめん、話を進めよう」
僕は自分にヒールを掛け頭をスッキリさせる。
「はい……」
ミラの声がどんどん小さくなっていく。
もしかしたら、さっきミラを見ていたときの目がやばかったのかもしれない。
「ごめん、さっきまで酔っぱらっていたけど、ヒールでスッキリしたから大丈夫だよ。ほら、先ずは一本飲んでみて」
取り合えず謝ってから、話を進めるためにマジックポーションを一本手渡した。
「あ、あのー」
「ん、どうしたの?」
「そ、そんなに見つめられていると、飲み辛い、です……」
あっ、これ完全に嫌われたやつだ。
少し恥じらいを見せつつもミラは、小刻みに口角を振るわせて微笑んでいた。
僕はその笑みに身覚えがあったのだ。
内気だった僕は、女子と会話するときに緊張し、ついつい硬直してしまい、結果無言で見つめる形となり、それ以降避けられることがよくあった。
そりゃあ、こんな大男に無言で見つめられたら怖いよね。
「ごめん……」
そんな記憶を思い出し、ショックで肩を落として謝ることしかできなかった。
「ふふ」
「え?」
「いえ、さっきからコウヘイさん、謝ってばっかりだなーと思いまして」
突然笑われたものだから驚いた僕に、ミラがそう言って笑顔を向けてきた。
「男性からそんなに見つめられたことが無くて恥ずかしいだけですから、そんなに気にしないでください。これは私の問題で、コウヘイさんのせいじゃないですよ」
ミラはそう言ってから、マジックポーションを傾け、一気に中身を空けた。
「ど、どう?」
さっきのセリフも気になるけど、それよりも今は効果があるのかが気になる。
「成功ですよコウヘイさん! 魔力が駆け巡るのを感じます」
「おおー!」
歓喜した僕たちは、ハイファイヴで成功の喜びを分かち合う。
僕の感は正しかったことが証明された。
魔力を生成する器官がこの世界の人にはあるらしいけど、それを体内に留めている原理がよくわからない。
今までは、マジックポーションがその器官に働きかけ、生成の効率を上げていると考えていたけど、その器官が機能を失ったミラでも効果があったため、もっと複雑なのかもしれない。
「先ずは、おめでとう! よしっ、次もいってみよう」
「はい、いきますよー」
嬉しい成果に、二人は気分上々に盛り上がって、ミラは早速二本目のマジックポーションも一気に飲み干した。
「どう?」
「コウヘイさん……」
「え、もしかして……」
「成功です!」
「うおおおー! 良いね良いね!」
やばい、ヒールで回復したはずなのにテンションがおかしい。
続いて、三本目のマジックポーションを飲んでもらったけど、今回は本当に何も感じないと言われてしまった。
「二本か……」
下級マジックポーションが二本だとすると、エルサの半分の魔力量にもならない。
昨日から僕がスキルで与えた魔力を考慮しても、エルサの半分より少し多いくらいだろう。
「何ででしょう? 体感的には全然少ないんですけど、何も感じませんでした」
そりゃあ、そうだよ。
ミラの最大魔力量はそんなもんじゃないはずだ。
「やっぱり、魔力を一度全て失った後遺症かもしれないね。ご――」
「謝らないでください!」
僕は、また謝ろうとして、それをミラに遮られた。
「少なくとも効果はあったのですからそれを喜びましょう。私はとても嬉しいですよ」
「そっか、それもそうだね」
「はい、ポーションで回復することがわかったとしても、もう私たちはずっと一緒ですよ。だって、仲間なんですから」
「ん? うん、そうだよね、仲間だもんね」
ニヒヒと笑うミラに、なんとか僕も笑顔で応えた。
それにしても、唐突に仲間がどうのとはなんだろうか?
もしかしたら、表情に出てしまっていたのかもしれない。
マジックポーションで回復することが可能だと確認出来たら、ミラに選択してもらうつもりだった。
このまま僕たちと一緒に行動を共にするか、或いは、母国に帰る方法を探すかを――
そう考えたのは、ミラを疎ましいと思っているからではなく、魔王討伐というとても険しい目標に付き合わせてしまう後ろめたさからだった。
仲間になった経緯がアレだけど、逆に気を使わせちゃったかな、と反省した。
それにしても、とても良い子すぎないか? とミラへの評価を上げた。
「それじゃあ、どうする? この状態で僕から魔力を受け取れるか試してみる? イルマは無理だったけど、ミラの場合は、元々の魔力量が違うから試す価値はあると思うんだけど」
「あ、そうですよね。できるならお願いできますか?」
僕のスキルの本当の能力を知り、イルマに魔力を渡せるか試みた。
それが成功すれば、魔力量が足りない魔法を使えるようになるということだったけど、結果は失敗で、上限を越しての魔力譲渡ができなかった。
因みに、その魔法は転移魔法である。
謎が多い空間魔法であるものの、依頼成功の報酬として精霊王ニンナに教えてもらえば良いだろうと考えていた。
しかし、魔力が足りなければ意味が無いという結論に至った。
本当は僕が魔力を溜めて使うときのことを考慮していたけど、そんなに簡単な話ではなかった。
転移魔法はヘタをすると、地中や岩の中だろうが転移してしまうため、僕には怖くて試す勇気が無い。
一方、イルマはハイエルフが故に、ふつうのエルフより精霊の声を聴けるらしく、そういった事故を防げるらしい。
何とも羨ましい……
閑話休題。
「それじゃあ、少しずつ渡すから、効果が無ければ教えてね」
「はい、お願いします」
僕は、ミラの右手を取って両手で握り、顔を見つめないように横を向いた。
「どう?」
「……あっ、はい……感じます」
「本当!」
「はっ、ひゃんっ……つ、強すぎますっ!」
「あ、ごめん」
成功したことに興奮して流し込む量が乱れてしまったようだ。
こればかりは年齢に関係なく敏感なのだろうか。
「こ、これでどう?」
「あっ、いいです……もっと……もっと、強くても大丈夫です……」
瞼を閉じ、うっとりとした表情のミラから漏れ聞こえる声に僕は、頬が熱くなるのを感じながら流す魔力量に注意する。
「あっ、もう大丈夫です。あ、ありがとうございます……」
少量の魔力を一定に流し続けること五分が経っただろうか、そこでミラからストップの声が掛かった。
「もう効果は無い感じ?」
「いえ、効果はあるんですが、何か変なんです。何と説明すれば良いのかわからないんですけど、体内に流れ込んできて溜められていく感じがすると共に、ストンっと奥に消えていくんですよ」
「消える?」
「はい、説明が下手でごめんなさい」
そのあとも、もう少し説明を聞いてみたけど、よくわからなかった。
ただ、外に放出されてしまう感じはしないと言っていた。
貯金できているけど、自由に取り出せない定期預金と表現したものだろうか。
――――コウヘイの予想通り、ポーションで回復できるかの実験は成功した。
ただ、予想よりも少量ではあったものの満足のいく結果といえよう。
一方でミラは、実験が成功したことにホッとしつつも、別種の不安を抱えたままであった。
それは、完全なミラの思い違いであるのだが、コウヘイはそのことに気付けないでいるのだった。
つい先ほどまでそこは、冒険者たちで賑わいを見せていた。
ダンジョン探索が解禁されたのは、つい昨晩のことで、タッグを組むパーティーが決まっていない冒険者たちは、まだテレサの町中で過ごしていた。
そんな彼らのお目当ては、白猫亭に拠点を置く、「デビルスレイヤーズ」だったのだが、陽が高いうちから大宴会を行っており、誰一人声を掛けることができなかった。
昼食時が過ぎ、冒険者たちが諦めて白猫亭をあと、コウヘイはすっかり酔いつぶれてテーブルに突っ伏していた――――
「いてて、あれ? ……気のせい、かな?」
ほんの一瞬、チクッと刺さるような魔力を感じて僕が目を覚ましたら、気付かないうちテーブルに肘をついた姿勢で眠ってしまっていた。
いけないいけない、寝ぼけてるな。
身を焼くような魔力を感じだけど、これはきっと夢だろうと頭を振って痺れた左腕を解す。
「キャッはっは……うふふ……えへへ」
辺りを見渡すと、隣のエルサが果実酒が入ったグラスを両手で掴み、ちびちびやりながら楽しそうに向かい側の話を聞いてひたすら笑っている。
魔力に敏感なエルサが無反応だから、やっぱり気のせいだろう。
それにしても、笑い上戸なのか? と、普段の様子と全く違うエルサを見た僕は、それを新鮮に感じた。
その向かい側では、イルマとエヴァが何やら真剣に話し込んでいる様子だけど、酔っぱらっているせいなのか呂律が回っておらずよく聞き取れない。
それでエルサは笑っているのかもしれない。
「じゃかりゃ、ほんりょだと言っておりょうがっ!」
「何を仰るのれす、うえいしぇんふぇりゅとはとっくにめちゅぼーしてますわよ」
きっとイルマがウェイスェンフェルト王朝の現女王だとでも言ったのだろう。
前に王族だって言っていたのを僕もあんまり信じてなかったし、エヴァもそう簡単には信じないだろうな。
てか、呂律が回っていないけど、エヴァの口調が丁寧な気がする。
とっつき易いお姉さん口調は、敢えてでこっちが本当の口調なのかな?
酔うと本性が出るというのを聞いたことがある。
「コウヘイさん、どうぞ」
「あ、ありがとう」
イルマとエヴァの様子を眺めて考え事をしていたら、ミラが水を持って来てくれた。
「どれくらい寝てたかな?」
「えっとー、半刻ほどでしょうか? そんなに長くはないですよ」
「そっか、ありがとう」
うーん、どうしよう。
お酒が進んでしまったため、イルマとエヴァは大分盛り上がっており、もう少し時間が掛かりそうだった。
「よしっ、さっき言っていたことを試そうか」
「さっき? ……あ、はい!」
僕にそう言われたミラは、記憶を探って思い出した途端、元気に頷いた。
それから僕とミラは、席を立ち二階の四人部屋に戻って来た。
「先に確認だけど、魔力が回復すると、それは感覚的にわかるものなの?」
「そうですね。朝起きたらスッキリしてますよ」
「あ、そうじゃなくて、マジックポーションを飲んだら回復したのを感じられるのかを聞いたんだよ」
見当違いの回答が返ってきたため、言い直した。
「あー、それはわからないです」
「え、わからないの? それじゃあ、試しても意味ないのか……」
今回試そうとしているのは、失われたミラの魔力をマジックポーションで回復できるかどうかの確認である。
「そうしたらエルサを連れてくるかな……」
「エルサさんを、ですか?」
何故そこでエルサの名前が出たのか不思議そうにミラが、コテンと小首を傾げ、赤みを帯びたツーサイドアップにした金髪が揺れた。
「うーん、酔って愉しそうにしているところに悪いけど、エルサの魔法眼なら魔力量が見えるからさ」
懸念事項を言いつつも、スキルの効果は変わらないため理由を述べた。
「あっ、そうではなくてですね。マジックポーションを飲んだことが無いので、そのときの感覚がわからないだけです。自分の魔力量は感じられるので大丈夫ですよ」
「ああ、なるほど、それなら大丈夫そうだね……ん?」
「どうしたんですか?」
思わず納得したけど、マジックポーションを飲んだことがないことに驚愕した。
そのことでできた不自然な間に、今度は深紅の瞳を瞬かせてミラが僕のことを覗き込んできた。
「ご、ごめん。そりゃあ、千発も魔法が撃てるならそんなの飲む必要ないよね」
改めて、僕がしでかしたことの重大さを思い知った。
「いえ、そうではなくてですね。マジックポーションを飲む必要が無かったと言うより、買うお金が無かったと言った方が正しいです……」
何だろうこの空気……
会話がかみ合わない上に、どんどん話が切ない方向へと進んでいく。
エルサやイルマとは感じたことがない、女の子と話す難しさを久しぶりに感じた気がする。
てか、小銀貨一枚のマジックポーションを買えないってどんだけだよ!
でも、昨日クエスト報酬の金貨を見たときや、さっき魔獣討伐報酬の話をしたときもその金額に驚いていたっけ。
結構ギリギリの生活を送っていたのかもしれないな。
改めて、ミラの身体を見てみる全体的に線が細い気がする。
出るところは出てるけど、そこに栄養が集中しちゃった系かな、とくだらないことを考えていたら、ミラがいきなりモジモジしはじめた。
「ん、どうしたの?」
「あ、いえ、何でもないです……」
何でもないなら目線を合わせ欲しい、見た途端逸らされると傷ついちゃう。
って、はーやばい……これは僕じゃない。
「よし、これで大丈夫。ごめん、話を進めよう」
僕は自分にヒールを掛け頭をスッキリさせる。
「はい……」
ミラの声がどんどん小さくなっていく。
もしかしたら、さっきミラを見ていたときの目がやばかったのかもしれない。
「ごめん、さっきまで酔っぱらっていたけど、ヒールでスッキリしたから大丈夫だよ。ほら、先ずは一本飲んでみて」
取り合えず謝ってから、話を進めるためにマジックポーションを一本手渡した。
「あ、あのー」
「ん、どうしたの?」
「そ、そんなに見つめられていると、飲み辛い、です……」
あっ、これ完全に嫌われたやつだ。
少し恥じらいを見せつつもミラは、小刻みに口角を振るわせて微笑んでいた。
僕はその笑みに身覚えがあったのだ。
内気だった僕は、女子と会話するときに緊張し、ついつい硬直してしまい、結果無言で見つめる形となり、それ以降避けられることがよくあった。
そりゃあ、こんな大男に無言で見つめられたら怖いよね。
「ごめん……」
そんな記憶を思い出し、ショックで肩を落として謝ることしかできなかった。
「ふふ」
「え?」
「いえ、さっきからコウヘイさん、謝ってばっかりだなーと思いまして」
突然笑われたものだから驚いた僕に、ミラがそう言って笑顔を向けてきた。
「男性からそんなに見つめられたことが無くて恥ずかしいだけですから、そんなに気にしないでください。これは私の問題で、コウヘイさんのせいじゃないですよ」
ミラはそう言ってから、マジックポーションを傾け、一気に中身を空けた。
「ど、どう?」
さっきのセリフも気になるけど、それよりも今は効果があるのかが気になる。
「成功ですよコウヘイさん! 魔力が駆け巡るのを感じます」
「おおー!」
歓喜した僕たちは、ハイファイヴで成功の喜びを分かち合う。
僕の感は正しかったことが証明された。
魔力を生成する器官がこの世界の人にはあるらしいけど、それを体内に留めている原理がよくわからない。
今までは、マジックポーションがその器官に働きかけ、生成の効率を上げていると考えていたけど、その器官が機能を失ったミラでも効果があったため、もっと複雑なのかもしれない。
「先ずは、おめでとう! よしっ、次もいってみよう」
「はい、いきますよー」
嬉しい成果に、二人は気分上々に盛り上がって、ミラは早速二本目のマジックポーションも一気に飲み干した。
「どう?」
「コウヘイさん……」
「え、もしかして……」
「成功です!」
「うおおおー! 良いね良いね!」
やばい、ヒールで回復したはずなのにテンションがおかしい。
続いて、三本目のマジックポーションを飲んでもらったけど、今回は本当に何も感じないと言われてしまった。
「二本か……」
下級マジックポーションが二本だとすると、エルサの半分の魔力量にもならない。
昨日から僕がスキルで与えた魔力を考慮しても、エルサの半分より少し多いくらいだろう。
「何ででしょう? 体感的には全然少ないんですけど、何も感じませんでした」
そりゃあ、そうだよ。
ミラの最大魔力量はそんなもんじゃないはずだ。
「やっぱり、魔力を一度全て失った後遺症かもしれないね。ご――」
「謝らないでください!」
僕は、また謝ろうとして、それをミラに遮られた。
「少なくとも効果はあったのですからそれを喜びましょう。私はとても嬉しいですよ」
「そっか、それもそうだね」
「はい、ポーションで回復することがわかったとしても、もう私たちはずっと一緒ですよ。だって、仲間なんですから」
「ん? うん、そうだよね、仲間だもんね」
ニヒヒと笑うミラに、なんとか僕も笑顔で応えた。
それにしても、唐突に仲間がどうのとはなんだろうか?
もしかしたら、表情に出てしまっていたのかもしれない。
マジックポーションで回復することが可能だと確認出来たら、ミラに選択してもらうつもりだった。
このまま僕たちと一緒に行動を共にするか、或いは、母国に帰る方法を探すかを――
そう考えたのは、ミラを疎ましいと思っているからではなく、魔王討伐というとても険しい目標に付き合わせてしまう後ろめたさからだった。
仲間になった経緯がアレだけど、逆に気を使わせちゃったかな、と反省した。
それにしても、とても良い子すぎないか? とミラへの評価を上げた。
「それじゃあ、どうする? この状態で僕から魔力を受け取れるか試してみる? イルマは無理だったけど、ミラの場合は、元々の魔力量が違うから試す価値はあると思うんだけど」
「あ、そうですよね。できるならお願いできますか?」
僕のスキルの本当の能力を知り、イルマに魔力を渡せるか試みた。
それが成功すれば、魔力量が足りない魔法を使えるようになるということだったけど、結果は失敗で、上限を越しての魔力譲渡ができなかった。
因みに、その魔法は転移魔法である。
謎が多い空間魔法であるものの、依頼成功の報酬として精霊王ニンナに教えてもらえば良いだろうと考えていた。
しかし、魔力が足りなければ意味が無いという結論に至った。
本当は僕が魔力を溜めて使うときのことを考慮していたけど、そんなに簡単な話ではなかった。
転移魔法はヘタをすると、地中や岩の中だろうが転移してしまうため、僕には怖くて試す勇気が無い。
一方、イルマはハイエルフが故に、ふつうのエルフより精霊の声を聴けるらしく、そういった事故を防げるらしい。
何とも羨ましい……
閑話休題。
「それじゃあ、少しずつ渡すから、効果が無ければ教えてね」
「はい、お願いします」
僕は、ミラの右手を取って両手で握り、顔を見つめないように横を向いた。
「どう?」
「……あっ、はい……感じます」
「本当!」
「はっ、ひゃんっ……つ、強すぎますっ!」
「あ、ごめん」
成功したことに興奮して流し込む量が乱れてしまったようだ。
こればかりは年齢に関係なく敏感なのだろうか。
「こ、これでどう?」
「あっ、いいです……もっと……もっと、強くても大丈夫です……」
瞼を閉じ、うっとりとした表情のミラから漏れ聞こえる声に僕は、頬が熱くなるのを感じながら流す魔力量に注意する。
「あっ、もう大丈夫です。あ、ありがとうございます……」
少量の魔力を一定に流し続けること五分が経っただろうか、そこでミラからストップの声が掛かった。
「もう効果は無い感じ?」
「いえ、効果はあるんですが、何か変なんです。何と説明すれば良いのかわからないんですけど、体内に流れ込んできて溜められていく感じがすると共に、ストンっと奥に消えていくんですよ」
「消える?」
「はい、説明が下手でごめんなさい」
そのあとも、もう少し説明を聞いてみたけど、よくわからなかった。
ただ、外に放出されてしまう感じはしないと言っていた。
貯金できているけど、自由に取り出せない定期預金と表現したものだろうか。
――――コウヘイの予想通り、ポーションで回復できるかの実験は成功した。
ただ、予想よりも少量ではあったものの満足のいく結果といえよう。
一方でミラは、実験が成功したことにホッとしつつも、別種の不安を抱えたままであった。
それは、完全なミラの思い違いであるのだが、コウヘイはそのことに気付けないでいるのだった。
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白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
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