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第三章 動乱と日常【魔族内乱編】
第20話 誤解、からの
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デミウルゴス神歴八四六年――七月一七日。
勇者パーティーがオフェリアに敗れた翌日。
パーティーに新規加入したミラとエヴァとの連携確認のために、コウヘイたち、「デビルスレイヤーズ」の面々は、ラルフローランのダンジョンへ向かっていた。
その途中、テレサの森で下級魔獣相手の戦闘を丁度終えて――――
「いやーしかし、強いとは思っていたけど、ここまでとはね……」
「そうかな?」
エヴァの能力確認を含めてラルフローランのダンジョンへ向かう道すがら、ゴブリンやフォレストウルフがわんさか出てきたため、手分けして討伐した。
ただ、いつもの癖で身体強化した僕が殆ど倒してしまった。
「そうかな? じゃ、ないわよ! あたしの腕を確認するんじゃなかったの?」
「あはは、そうなんだけどあまりにも数が多かったから、ついね」
昨晩、冒険者ギルドでの出来事――二つ名やファビオさんから聞いたエヴァの素性――をイルマたちに説明したら、無詠唱魔法は暫く控えることになった。
僕は心配しすぎだと言ったけど、イルマだけではなく、あのミラまで反対した。
その点、エルサは僕と同じ考えで、「仲間になったんだから」と、気にした様子はなかった。
更に、エルサが見たエヴァの魔力の色は、澄んでいるという。
エルサの説明にイルマとミラは、一応納得し、一先ずはエヴァと行動をしながら様子をみることになった。
それには、魔力眼様様だった。
その結果、数が多い場合は僕が攻撃を担当することになったけど、下級魔獣相手では、態々呪文を詠唱していたエルサたちの準備が整う前に、僕が倒し切ってしまい、エヴァに文句を言われたのが、今の構図だ。
「まあ、いいわ。次はあたしが中心になって……って、何しているのよ!」
「何じゃ、何か文句があるのか?」
僕とエヴァが会話している間に、イルマが魔法袋にどんどん魔獣の死骸を回収していた。
それを見たエヴァが、また大声を上げた。
何とも騒がしい性格のようだ。
出会った当初は勝気な印象を受けたけど、時折見せる所作が優雅だなと感心して評価を変えつつあった。
しかし、どうやらそれは気のせいだったのかもしれない。
「百歩譲ってフォレストウルフはわかるけど、ゴブリンまでそのまま入れてどうするのよ。魔石と討伐証明部位だけでいいじゃない!」
「何じゃ、容量の心配をしておるのか? それなら無用な心配じゃよ」
「ど、どういうことよ?」
「ああ、イルマの持っているのは見ての通り魔法袋だから容量を気にする必要ないんだよ」
ゴブリンは、素材としての利用価値が非常に低い、というか無い。
ゴブリンの肉は食用に向かないし、小柄な体躯のせいで革製品にもし辛い。
だから本来は、エヴァの言う通り必要最低限の部位だけ解体するのが常識。
それでも、数が多いとその解体が面倒なのである。
それなら、冒険者ギルドでその解体もお願いした方が効率が良い。
その解体にも費用が掛かるけど、討伐報酬の概算を聞いたところ、ホーンラビットを出していないのにも拘わらず、白金貨を間違いなく超えると言われた。
しかも、その解体費用は、小金貨がたったの一枚というではないか。
解体費用が一匹につき小銀貨一枚らしく、ゴブリンだけなら魔石分しか利益は無いけど、数を狩ればその魔石を魔力回復に使えるため僕としては十分だった。
それを聞いたら解体作業で時間を使うのがバカバカしく思え、今後は解体作業を全て冒険者ギルドにお願いすることにした。
「そんなの見ればわかるわよ。でも無限に入る訳じゃないんだから……」
そうした事情を知らないエヴァは、そう言いながらも声が尻すぼみに小さくなって、はっとなった。
どうやらエヴァは気が付いたようだ。
「もしかして、本物の魔法袋なの!」
「正解!」
僕はにこやかに答えた。
「何かイラっとしたわ」
「え、何でだよ!」
「わしもイラっとしたぞ」
「だから何で!」
何故か、エヴァとイルマにジト目で見られてしまった。
訳がわからない……
「何故そこでコウヘイが満足げなんじゃ?」
なんだ、そういうことか。
「僕としてはイルマの凄さをやっとわかってもらえて嬉しかっただけなんだけど」
「え?」
「な、なんだよ……」
魔獣を回収する手を止めたイルマに見つめられ、何だか僕はこそばゆくなった。
「む、何でもないのじゃ」
「だって、エヴァはイルマのこと信用していない様子だったから、これで信じてもらえるかなと思って」
エヴァは、イルマがウェイスェンフェルト王朝の女王だということを全く信じていなかったため、僕は本物の魔法袋を持っていることから信じてもらおうとした。
しかし、この僕の発言がとんでもない誤解を引き起こした。
「あたしが誰を信用していないって?」
エヴァが目を細めて睨みつけるような視線を僕に向けてきた。
「信用してないのはどっちよ! あたしは知っているのよ。昨日コウヘイがギルドから帰ってきてから、あたしのいないところでみんな集まってコソコソ話をしていたの」
げっ、ばれてた、と僕は呼吸が止まる思いをした。
「まあまあ、みんな落ち着いて」
「あたしは落ち着いているわよ!」
グッジョブ、エルサ! と思ったけど逆効果でした。
しかし、話を整理すると、エヴァは、僕たちの行動を知っておきながらも、まだ行動を共にしていることになる。
怪しまれながらも僕たちと行動しなければならない理由があるのだろうか?
それがどんな理由にせよ、犯罪に手を染めるような事態にまで発展しなければ僕たちは構わないと、昨日の打ち合わせで決めていた。
それには、エヴァが話してくれるまで僕たちも全てを話す気はないという条件が付く。
僕とエルサはそんなことも無いけど、いつもイルマの言う通りになってきた事実に、イルマの進言を無視するわけにはいかなかった。
本当は、根も葉もない噂で誇張されただけなら良かったけど、みなが口を揃えて同じようなことを言うもんだから信憑性が高かった。
そして気まずい沈黙のまま、風に揺られ枝葉が擦れる音だけが辺りに響いた。
イルマとエヴァが睨み合った状態で、僕は何も言えないでいた。
緊迫した沈黙を破ったのは、まさかのミラだった。
「ごめんなさい。全ては私が悪いんです」
ミラが前に進み出て申し訳なさそうに頭を下げた。
ミラのその謝罪の意味がわからず、僕は困惑する。
睨み合っていたイルマとエヴァでさえ、突然のミラの行動に唖然とした表情だ。
僕と同じで無詠唱魔法のことを隠してきたミラが、エヴァに対してもそれを明かさない方が良いとイルマに賛成したのは確かだった。
しかし、それを言い出したのはイルマであって、警戒していたのもイルマだ。
どちらかと言うと、ミラは僕と同じで仲間が増えることを喜んでいたし、エヴァの二つ名である、「狡猾のエヴァ様」を聞き、驚いた様子だったけど、それで特別エヴァを警戒した素振りを見せてはいなかった。
むしろ、ファビオさんたちから聞いた話が、ミラの境遇に似ていたこともあり、ミラは親近感を抱いている感じだった。
「それはどういうことかしら?」
僕が確認するよりも早く、エヴァがその真意をミラに尋ねた。
「それは、私が役立たずのお荷物だからです」
「は?」
「ミラちゃん何言っているの?」
「そうじゃ、何故そうなるのじゃ」
ミラの言葉に僕は驚き、エルサとイルマが同じような反応を見せた。
エヴァは、その言葉の意味を考えあぐねてか、もう一度聞き直した。
「ミラちゃんがお荷物だったとして、それがあたしとどう関係があるの?」
エヴァが言ったのは、尤もなことだった。
僕以外で無詠唱魔法を使えるのはミラだけだから、お荷物なことは決してない。
ただ、エヴァには無詠唱魔法のことを隠しているし、ミラのことは見習い魔法士として紹介している。
だから、未熟なミラが足手まといだと感じていることを告白しているとでもエヴァは、思ったのだろう。
そうとなると、エヴァにとってはどうでもよいことだ。
「関係あります!」
それでもミラは、力強く宣言して言葉を紡ぎ出す。
「わ、私は戦闘中の事故で魔力を生成できない身体になってしまいました。だけど、優しいコウヘイさんに助けられ、こうして私は今も冒険者を続けられています。コウヘイさんは、魔王討伐という至高の目標を掲げるほどの冒険者なのに、私が……私が足を引っ張っているんです」
伏見がちにミラが一息で言って、ついには完全に俯いてしまった。
うん、少し早口で聞き取り辛かったけど、大体言いたいことはわかった。
ニンナに言われて引き取る形になったけど、別に足を引っ張られているとは思っていない。
エルサの半分くらいの魔力に限られるけど、マジックポーションで回復可能だし、むしろ、無詠唱魔法は強力な武器となる。
実際の戦闘場面をまだ見ていないけど、僕は結構期待している。
それでも、この状況に全く関係のない内容に、僕はどうしようかなと考える。
エヴァの方をチラッと見たけど、エヴァも困惑している様子だったし、イルマは眉根を顰めていた。
エルサは、目を潤ませはじめ、青みがかった銀色の瞳が悲しみの色に煌いた。
「私のこともあって、これ以上負担を増やしたくないから魔力が少ないエヴァさんのことを気にしているんです。私がお荷物なばかりに……ごめんなさい」
そう言って、ミラは泣き出してしまった。
おいおい、と僕は隠しているスキル、「エナジーアブソポーションドレイン」に言及しそうな流れに冷や汗をかく。
その状況に僕がオロオロしていたら、抱き付くようにエルサがミラに駆け寄り、
「ミラちゃん、そんなことないよ。それを言ったらわたしだって同じ」
と言って、ミラの頭を撫でながら慰めた。
「……う、そ、そうなんですか?」
「うん、だってわたしは、コウヘイがいなかったら今頃この世に居ない、と言うより、コウヘイがいないとわたしは生きられないもん」
「あ……」
ミラは、エルサが言わんとしていることに気が付いたようだ。
エルサの溢れ出す魔力を僕が定期的に吸収することで、エルサが元気に過ごせていることを――
ただ、それは別のことも意味していた。
「で、でも、それはコウヘイさんのためになるじゃないですか!」
「そ、それは……そうなんだけど……」
エルサは自分を引き合いに出し、ミラの負い目を減らそうとして失敗した。
エルサは、僕が言い辛いことを代弁してくれるけど、その結果はギャンブルのように運任せのところが多い。
悪気がある訳じゃないけど、今回は、悪い結果を引いてしまったようだ。
「ミラ、こっちにおいで」
考えるよりも先に僕は、そう口に出して両手を前に出していた。
「え、でも……」
「いいから、ほら」
「あ、はい」
僕の行動で意味を理解したのか、少し逡巡したミラを優しく催促する。
「エルサも一緒に」
「えっ、わたしも?」
「うん」
よくわからないけど僕は、こうすべきだと思った。
口で説明するより、行動で示した方が早かったりすることもある。
イルマは、僕がやろうとしていることに気付いているだろうけど、何も言ってこないということは任せてくれたのだろう。
問題のエヴァは、僕たちの行動を注視し、何をする気なのか見定めようとしていた。
ミラはおずおずとエルサはエヴァの視線を気にしながら近付いてきた。
そして僕は、目の前まで来た二人の手を取りエルサから魔力吸収をしはじめた。
すると、エルサの魔力が僕に渡り、僕の身体が薄白く発光した。
そして、その魔力をそのままミラへと放射し、今度はミラをその魔力が覆い、薄白くミラの身体を染めた。
ミラは、目を瞑り幸せそうな表情を浮かべた。
「ミラ、エヴァにプロテクションを掛けてくれないかな? 詠唱付きで」
「えっ、あ、はい!」
僕に声を掛けられ、はっとなったミラがエヴァのを方へ右手を向け、呪文を唱える。
「遍く精霊よ、彼の者に加護を与えよ――」
「え、何よ! ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「エンチャントプロテクション!」
――――驚かれないように配慮したコウヘイが、態々呪文を唱えるようにミラに指示したのだが、何故かエヴァは慌てて駆け出そうとした。
しかし、三節の付与魔法を前にして避けられるはずもなかった。
勇者パーティーがオフェリアに敗れた翌日。
パーティーに新規加入したミラとエヴァとの連携確認のために、コウヘイたち、「デビルスレイヤーズ」の面々は、ラルフローランのダンジョンへ向かっていた。
その途中、テレサの森で下級魔獣相手の戦闘を丁度終えて――――
「いやーしかし、強いとは思っていたけど、ここまでとはね……」
「そうかな?」
エヴァの能力確認を含めてラルフローランのダンジョンへ向かう道すがら、ゴブリンやフォレストウルフがわんさか出てきたため、手分けして討伐した。
ただ、いつもの癖で身体強化した僕が殆ど倒してしまった。
「そうかな? じゃ、ないわよ! あたしの腕を確認するんじゃなかったの?」
「あはは、そうなんだけどあまりにも数が多かったから、ついね」
昨晩、冒険者ギルドでの出来事――二つ名やファビオさんから聞いたエヴァの素性――をイルマたちに説明したら、無詠唱魔法は暫く控えることになった。
僕は心配しすぎだと言ったけど、イルマだけではなく、あのミラまで反対した。
その点、エルサは僕と同じ考えで、「仲間になったんだから」と、気にした様子はなかった。
更に、エルサが見たエヴァの魔力の色は、澄んでいるという。
エルサの説明にイルマとミラは、一応納得し、一先ずはエヴァと行動をしながら様子をみることになった。
それには、魔力眼様様だった。
その結果、数が多い場合は僕が攻撃を担当することになったけど、下級魔獣相手では、態々呪文を詠唱していたエルサたちの準備が整う前に、僕が倒し切ってしまい、エヴァに文句を言われたのが、今の構図だ。
「まあ、いいわ。次はあたしが中心になって……って、何しているのよ!」
「何じゃ、何か文句があるのか?」
僕とエヴァが会話している間に、イルマが魔法袋にどんどん魔獣の死骸を回収していた。
それを見たエヴァが、また大声を上げた。
何とも騒がしい性格のようだ。
出会った当初は勝気な印象を受けたけど、時折見せる所作が優雅だなと感心して評価を変えつつあった。
しかし、どうやらそれは気のせいだったのかもしれない。
「百歩譲ってフォレストウルフはわかるけど、ゴブリンまでそのまま入れてどうするのよ。魔石と討伐証明部位だけでいいじゃない!」
「何じゃ、容量の心配をしておるのか? それなら無用な心配じゃよ」
「ど、どういうことよ?」
「ああ、イルマの持っているのは見ての通り魔法袋だから容量を気にする必要ないんだよ」
ゴブリンは、素材としての利用価値が非常に低い、というか無い。
ゴブリンの肉は食用に向かないし、小柄な体躯のせいで革製品にもし辛い。
だから本来は、エヴァの言う通り必要最低限の部位だけ解体するのが常識。
それでも、数が多いとその解体が面倒なのである。
それなら、冒険者ギルドでその解体もお願いした方が効率が良い。
その解体にも費用が掛かるけど、討伐報酬の概算を聞いたところ、ホーンラビットを出していないのにも拘わらず、白金貨を間違いなく超えると言われた。
しかも、その解体費用は、小金貨がたったの一枚というではないか。
解体費用が一匹につき小銀貨一枚らしく、ゴブリンだけなら魔石分しか利益は無いけど、数を狩ればその魔石を魔力回復に使えるため僕としては十分だった。
それを聞いたら解体作業で時間を使うのがバカバカしく思え、今後は解体作業を全て冒険者ギルドにお願いすることにした。
「そんなの見ればわかるわよ。でも無限に入る訳じゃないんだから……」
そうした事情を知らないエヴァは、そう言いながらも声が尻すぼみに小さくなって、はっとなった。
どうやらエヴァは気が付いたようだ。
「もしかして、本物の魔法袋なの!」
「正解!」
僕はにこやかに答えた。
「何かイラっとしたわ」
「え、何でだよ!」
「わしもイラっとしたぞ」
「だから何で!」
何故か、エヴァとイルマにジト目で見られてしまった。
訳がわからない……
「何故そこでコウヘイが満足げなんじゃ?」
なんだ、そういうことか。
「僕としてはイルマの凄さをやっとわかってもらえて嬉しかっただけなんだけど」
「え?」
「な、なんだよ……」
魔獣を回収する手を止めたイルマに見つめられ、何だか僕はこそばゆくなった。
「む、何でもないのじゃ」
「だって、エヴァはイルマのこと信用していない様子だったから、これで信じてもらえるかなと思って」
エヴァは、イルマがウェイスェンフェルト王朝の女王だということを全く信じていなかったため、僕は本物の魔法袋を持っていることから信じてもらおうとした。
しかし、この僕の発言がとんでもない誤解を引き起こした。
「あたしが誰を信用していないって?」
エヴァが目を細めて睨みつけるような視線を僕に向けてきた。
「信用してないのはどっちよ! あたしは知っているのよ。昨日コウヘイがギルドから帰ってきてから、あたしのいないところでみんな集まってコソコソ話をしていたの」
げっ、ばれてた、と僕は呼吸が止まる思いをした。
「まあまあ、みんな落ち着いて」
「あたしは落ち着いているわよ!」
グッジョブ、エルサ! と思ったけど逆効果でした。
しかし、話を整理すると、エヴァは、僕たちの行動を知っておきながらも、まだ行動を共にしていることになる。
怪しまれながらも僕たちと行動しなければならない理由があるのだろうか?
それがどんな理由にせよ、犯罪に手を染めるような事態にまで発展しなければ僕たちは構わないと、昨日の打ち合わせで決めていた。
それには、エヴァが話してくれるまで僕たちも全てを話す気はないという条件が付く。
僕とエルサはそんなことも無いけど、いつもイルマの言う通りになってきた事実に、イルマの進言を無視するわけにはいかなかった。
本当は、根も葉もない噂で誇張されただけなら良かったけど、みなが口を揃えて同じようなことを言うもんだから信憑性が高かった。
そして気まずい沈黙のまま、風に揺られ枝葉が擦れる音だけが辺りに響いた。
イルマとエヴァが睨み合った状態で、僕は何も言えないでいた。
緊迫した沈黙を破ったのは、まさかのミラだった。
「ごめんなさい。全ては私が悪いんです」
ミラが前に進み出て申し訳なさそうに頭を下げた。
ミラのその謝罪の意味がわからず、僕は困惑する。
睨み合っていたイルマとエヴァでさえ、突然のミラの行動に唖然とした表情だ。
僕と同じで無詠唱魔法のことを隠してきたミラが、エヴァに対してもそれを明かさない方が良いとイルマに賛成したのは確かだった。
しかし、それを言い出したのはイルマであって、警戒していたのもイルマだ。
どちらかと言うと、ミラは僕と同じで仲間が増えることを喜んでいたし、エヴァの二つ名である、「狡猾のエヴァ様」を聞き、驚いた様子だったけど、それで特別エヴァを警戒した素振りを見せてはいなかった。
むしろ、ファビオさんたちから聞いた話が、ミラの境遇に似ていたこともあり、ミラは親近感を抱いている感じだった。
「それはどういうことかしら?」
僕が確認するよりも早く、エヴァがその真意をミラに尋ねた。
「それは、私が役立たずのお荷物だからです」
「は?」
「ミラちゃん何言っているの?」
「そうじゃ、何故そうなるのじゃ」
ミラの言葉に僕は驚き、エルサとイルマが同じような反応を見せた。
エヴァは、その言葉の意味を考えあぐねてか、もう一度聞き直した。
「ミラちゃんがお荷物だったとして、それがあたしとどう関係があるの?」
エヴァが言ったのは、尤もなことだった。
僕以外で無詠唱魔法を使えるのはミラだけだから、お荷物なことは決してない。
ただ、エヴァには無詠唱魔法のことを隠しているし、ミラのことは見習い魔法士として紹介している。
だから、未熟なミラが足手まといだと感じていることを告白しているとでもエヴァは、思ったのだろう。
そうとなると、エヴァにとってはどうでもよいことだ。
「関係あります!」
それでもミラは、力強く宣言して言葉を紡ぎ出す。
「わ、私は戦闘中の事故で魔力を生成できない身体になってしまいました。だけど、優しいコウヘイさんに助けられ、こうして私は今も冒険者を続けられています。コウヘイさんは、魔王討伐という至高の目標を掲げるほどの冒険者なのに、私が……私が足を引っ張っているんです」
伏見がちにミラが一息で言って、ついには完全に俯いてしまった。
うん、少し早口で聞き取り辛かったけど、大体言いたいことはわかった。
ニンナに言われて引き取る形になったけど、別に足を引っ張られているとは思っていない。
エルサの半分くらいの魔力に限られるけど、マジックポーションで回復可能だし、むしろ、無詠唱魔法は強力な武器となる。
実際の戦闘場面をまだ見ていないけど、僕は結構期待している。
それでも、この状況に全く関係のない内容に、僕はどうしようかなと考える。
エヴァの方をチラッと見たけど、エヴァも困惑している様子だったし、イルマは眉根を顰めていた。
エルサは、目を潤ませはじめ、青みがかった銀色の瞳が悲しみの色に煌いた。
「私のこともあって、これ以上負担を増やしたくないから魔力が少ないエヴァさんのことを気にしているんです。私がお荷物なばかりに……ごめんなさい」
そう言って、ミラは泣き出してしまった。
おいおい、と僕は隠しているスキル、「エナジーアブソポーションドレイン」に言及しそうな流れに冷や汗をかく。
その状況に僕がオロオロしていたら、抱き付くようにエルサがミラに駆け寄り、
「ミラちゃん、そんなことないよ。それを言ったらわたしだって同じ」
と言って、ミラの頭を撫でながら慰めた。
「……う、そ、そうなんですか?」
「うん、だってわたしは、コウヘイがいなかったら今頃この世に居ない、と言うより、コウヘイがいないとわたしは生きられないもん」
「あ……」
ミラは、エルサが言わんとしていることに気が付いたようだ。
エルサの溢れ出す魔力を僕が定期的に吸収することで、エルサが元気に過ごせていることを――
ただ、それは別のことも意味していた。
「で、でも、それはコウヘイさんのためになるじゃないですか!」
「そ、それは……そうなんだけど……」
エルサは自分を引き合いに出し、ミラの負い目を減らそうとして失敗した。
エルサは、僕が言い辛いことを代弁してくれるけど、その結果はギャンブルのように運任せのところが多い。
悪気がある訳じゃないけど、今回は、悪い結果を引いてしまったようだ。
「ミラ、こっちにおいで」
考えるよりも先に僕は、そう口に出して両手を前に出していた。
「え、でも……」
「いいから、ほら」
「あ、はい」
僕の行動で意味を理解したのか、少し逡巡したミラを優しく催促する。
「エルサも一緒に」
「えっ、わたしも?」
「うん」
よくわからないけど僕は、こうすべきだと思った。
口で説明するより、行動で示した方が早かったりすることもある。
イルマは、僕がやろうとしていることに気付いているだろうけど、何も言ってこないということは任せてくれたのだろう。
問題のエヴァは、僕たちの行動を注視し、何をする気なのか見定めようとしていた。
ミラはおずおずとエルサはエヴァの視線を気にしながら近付いてきた。
そして僕は、目の前まで来た二人の手を取りエルサから魔力吸収をしはじめた。
すると、エルサの魔力が僕に渡り、僕の身体が薄白く発光した。
そして、その魔力をそのままミラへと放射し、今度はミラをその魔力が覆い、薄白くミラの身体を染めた。
ミラは、目を瞑り幸せそうな表情を浮かべた。
「ミラ、エヴァにプロテクションを掛けてくれないかな? 詠唱付きで」
「えっ、あ、はい!」
僕に声を掛けられ、はっとなったミラがエヴァのを方へ右手を向け、呪文を唱える。
「遍く精霊よ、彼の者に加護を与えよ――」
「え、何よ! ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「エンチャントプロテクション!」
――――驚かれないように配慮したコウヘイが、態々呪文を唱えるようにミラに指示したのだが、何故かエヴァは慌てて駆け出そうとした。
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ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
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