賢者への軌跡~ゼロの騎士とはもう呼ばせない~

ぶらっくまる。

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第四章 試練と成長【ダンジョン探索編】

第15話 身勝手な勇者

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 ブラックドラゴンのブレス攻撃で昏睡状態に陥っていたカズマサ、ユウゾウ、そしてアオイの三人は、意識を取り戻すと、真っ先にマジックウィンドウで帝都と連絡を取った。

 すると、無事を喜ぶ宰相ヴェールターとの挨拶はそこそこの言葉で終わり、驚愕の情報と共に、ある命令を出されて通信を終えた。

 その情報とは、新たな中級魔族が出現したこと。

 となれば、出された命令というのは、当然、その討伐へ可及的速やかに向かうようにとの内容だった。

 サーデン帝国、南方の辺境――テレサ――へと。

 その通信後、一悶着あった。

 今回、ドラゴンの襲撃によって三人は、はじめて死をまじかに体験した。

 これまでも、色々な魔獣や魔人と戦ってきたが、死を感じるほど危険な目に合ったことが無く、死を意識したことで完全に尻込みしたのだった。

 帝国から言われた具体的な指示は、「補給のために帝都サダラーンに帰投し、補給後直ちにテレサへ向かい、中級魔族を討伐すること」である。

 しかし、ユウゾウは、

「その指示を断るべきだ。俺らはさっきまで昏睡状態だったんだぞ!」

 などと言い出し、かなり消極的だった。

 中級魔族であれば一度討伐していた。

 それは、熾烈な戦闘ではあったものの、コウヘイが重装騎士として全ての攻撃を耐えていたからこそ、勇者パーティーは最低限の損失で戦えた。

 そのコウヘイは、行方知れず。

 実際は、そのテレサに行けば会うことができるのだが、そんなことをその三人が知る訳もなかった。

 それは、追放したのだから当然だろう。

 弱いと思っていたコウヘイが、実は壁役としてスペシャリストだということを知ったのは、代替役の冒険者のダメさ加減で判明したのだから。

 ――失ってはじめてその大きさに気付いた訳だが、完全に後の祭りだった――

 魔力量がゼロなのに何故そんなことができたのだろうかと疑問に思うのがふつうだが、アオイには何となくその理由がわかる気がしていた。

 そう、帝都との通信の際に、もう一つ意外な情報を入手したのだった。

 それは、聖女オフィーリアが消息不明だということ。

 勇者パーティーを連れ戻すためにパルジャに向かっている最中、突如として消息を絶ったということを聞いた。

 それを聞いたアオイは、

「やはり、あの黒いドラゴンが聖女オフィーリアに変化したのは見間違いではなかったのかもしれない」

 と、確信に迫っていた。

 そもそも、勇者パーティーを呼び戻すだけのために聖女が戦地に赴くのは例外中の例外どころか、非常識だ。

 連絡だけならマジックウィンドウ通信で済むのだから――

 ただ今回は、戦後処理という口実を述べた上、討伐が完了していなければ戦闘に参加するのもやぶさかではない的なことも言っていた。

 聖女が一人来るよりも蒼天魔法騎士団の治癒魔法士部隊の方が圧倒的に効率と効果共に高いのは当然のこと、魔獣討伐など騎士団に任せておけば良いのだ。

 全く別の話になるが、あのドラゴンが異常なまでにコウヘイのことを気にしていたことも不可解極まりないと、アオイは感じていた。

 ドラゴンが人間になるなど正気を疑われるかもしれないが、ここはいわゆるファンタジー世界だ。
 魔法だってあるんだから何が起こっても不思議ではない。

 それに、聖女があのドラゴンで魔族だとすると、今までの不可解な出来事が全て納得できてしまう。

 アオイは、入り口の紐を見つけて手繰り寄せた途端、面白いように今までの不可解な出来事が一本の線となっていくらでも引っ張り出せるのだった。

 いつもニコニコ気持ち悪いくらいに作り笑顔を貼り付けているにも拘わらず、コウヘイのスキル確認の際に、動揺というよりも人が変わったような冷たい目をしていた。

 それは、アオイの記憶の中では、ただの一度きり、そのときだけだった。

「康平くんが魔族にとって不都合なスキルを持っていたとしたら……」

 例えば、勇者にありがちな、「不屈の精神」的なスキルで、魔王や魔族等の強大な敵に対してのみ効果を発するスキルとか。

 そのため、オーガーやトロールの攻撃を受け切れないが、それより遥かに強い中級魔族の魔法を耐えられたのかもしれない。

 よくよく考えてみると、おかしいことばかりだった。

 いくらアオイが集中してコウヘイを治癒魔法で回復していたとしても、身体強化の魔法も使えないコウヘイは、言うなれば生身の人間である。

 ふつうに考えて、中級魔族の攻撃を耐えられる訳がない。

 ◆◆◆◆

「何で今まで気付かなかったのかしら」

 アオイは、悔しさから唇を噛む。

「何がだ?」

 と、カズマサの声で思考の世界から現実世界に引き戻された。

「やっぱり、あのドラゴンは聖女オフィーリアだと思います」

 確信したアオイは、立ち上がってカズマサの肩に手を起き、そう宣言した。

「は! 何を言ってるっ」

 今までのことはさておき、取り合えずカズマサの先程の言葉を信じることにしたアオイは、殆ど全て説明することにした。

 魔法の三大原則がいい加減だということ。
 コウヘイから魔王討伐を一緒にしないかと誘われたこと。
 コウヘイがとんでもないスキルを持っている可能性があること。 
 ブラックドラゴンが聖女オフィーリアに変身したように見えたこと。

 ただ、カズマサたちを害するつもりだったことだけは、当然伏せた。

「なるほど。そう考えると納得できるかもしれないな……そうか、だから冒険者としていきなり頭角を現したのか。しかし、そう考えると何故だ?」
「何故、とは?」

 不思議そうな顔をしたカズマサに、同じく不思議な顔をして返した。

「いや、ふつうにおかしいだろ。それを片桐が知っていたとして何故それを内緒にするんだ。追放を言い渡したときに、残るために言ってきてもおかしくないだろ」
「え、それ言っちゃいます? 言う訳ないと思いますよ、私だったら間違いなく秘密にしたまま去りますね。だから、私を誘ったんだと思います」

 アオイは、わざと自分だけ誘われたことを付け足し、強調した。

「その心は?」
「くたばれ! ですよ」

 ニコリとした笑顔とは裏腹の言葉にカズマサは、口を開けたまま固まった。

「おいっ、それは大崎だからだろっ。少なくとも片桐がそんなこと思うやつじゃ――」
「どうですかねー。もし、もしですよ。私が康平くんのように空よりも広く、海よりも深い心の持ち主だったとしても、あんな仕打ちを受ければ憎みますね。絶対」

 アオイは、大袈裟に言い、「絶対」を強調した。

 流石のこれには、カズマサは何も言い返せなかった。

「はあ、俺は会いに行かない方がいいのか……」
「いえ、それは一緒に行っていただきます。ちゃんと謝ってください」

 そのアオイの言葉を聞き、カズマサは項垂れるのみだった。

 その様子を見たアオイは、ほんの少しだが、すっきりした気分になった。

 そして――

 待っててね、康平くん。

 別れ際に酷いことを言ってしまったことを謝らせてほしい。

 康平くんが私に好意を持ってくれていることには以前から気付いているし、そうなりたいとも思っていたの。

 ただ、私に勇気が無かっただけ。

 だから、私の気持ちを知ってほしい。

 などと、心の中で呟くのだった。

 実のところアオイは、黒猫亭の部屋で会ったエルサの存在を気にしていた。
 だから、コウヘイがアオイの気持ちに応えてくれるか心配していた。
 それでも、何の根拠も無いままアオイは、コウヘイを信じることにしていた。

 カズマサがもう何も言わないことから、就寝することにした。
 
「じゃあ、もう寝ましょうか。寝不足でワイバーンから落ちないように」
「そうだな」

 予定では、明日の夕方には帝都に到着する。

 そして、彼らは勇者を辞めるつもりでいることを皇帝に伝えることにしていた。
 それが許されるかはわからない。
 でも、そのときは聖女が魔族だと伝えるつもりでいる。

 もう、何者にも邪魔をさせるつもりはないアオイは、決意を新たに、これからの先に期待を膨らませ、眠ることにした。


――――――


 次の日の朝、信じられない事態が起きた。

「おい、大崎! 起きてるか!」

 天幕の外から響くカズマサの声でアオイは目を覚ました。

 その声の様子は、酷く焦っている声音だった。

「はい、起きていますよ」

 目覚めたばかりで寝間着姿のアオイは、天幕の布を捲り、顔だけ出して答える。

 そこには、完全装備のカズマサが立っていた。

「襲撃ですか!」

 翼竜騎士団の面々も慌ただしく、数頭のワイバーンが飛び立つのを見たアオイは、そう確認した。

「いや、違う……それが……」
「では、この慌ただしさはなんですか?」

 カズマサのはっきりしない言葉に、アオイは眉根を顰めた。

「雄三が……」
「副主将がどうしたんです?」
「雄三が、ワイバーンと共に俺たちの魔法袋を持って消えた――」
「え、えええーーーー!」
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