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第四章 試練と成長【ダンジョン探索編】
第17話 オアシスの薬草
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サーデン帝国の気候は、日本とよく似ている。
八月を明日に控え、夜になってもまとわりつく暑さでスリープの魔法を必要とするほど気温と湿度が上がる。
ただそれも、地上から数十メートルも潜ったダンジョンに於いて事情は変わり、ずぶ濡れになったファビオは、焚火で暖を取るように羽織った毛布から手を突き出して震えていた。
その様子を、「荒ぶる剣」の二人が同情するような目で見ていた。
一方、少女である、「野に咲く花」の三人は、軽蔑するような冷たく厳しい視線を向けていた――――
やっぱり、同じ女性だからその反応も当然だよね。
てか、待てよ……そもそも、何でテレーゼさんたちみたいな若い子が、こんな深い階層まで潜りに来たんだろう?
ガーディアンズが居るとはいえ、テレーゼさんたちはカッパーランクの冒険者。
エヴァのパーティー登録のために冒険者ギルドを訪れ、沢山の冒険者に囲まれて面を食らっていたときにファビオさんが、
『コウヘイさんたちが一〇階層まで降りると言ったら、お前らはそれに付いて行けるのか?』
と、言っていたことに対し、他の冒険者たちは激しく首を左右に振っていたのを思い出した。
そんな危険を冒してまで潜る価値ある存在があるのだろうか?
或いは、ガーディアンズの人たちに押し切られてしまったのだろうか?
そこまで考えを巡らせ、僕は頭を振った。
確かに深く潜れば潜るほど、魔鉱石や稀に魔法石を発掘できるポイントがある。
ただそれも、低層にもそんなポイントはある訳で、リスクに見合わない。
さらに、ファビオさんがそんな無茶に付き合わせるハズがないと思い直した僕は、その疑問を解消すべく、直接尋ねることにした。
「テレーゼさん」
「あっ、はい。何でしょうか」
僕に名を呼ばれてハッとなったテレーゼさんは、佇まいを正した。
たかが僕ごときにそこまでしなくてもと思わなくもないけど、勇者として僕のことを見てくれている証拠だろうと思い、敢えてそのことには触れない。
「言えればでいいんだけど、何で一〇階層を目標にしていたの?」
「それは、ここに自生している薬草の効能が、ふつうの物より格段に良いとの噂を耳にしまして」
「薬草?」
「はい、少々お待ちください……これです」
テレーゼさんは、腰掛の鞄の中から薬草を出して僕に渡してくれた。
「へー、僕にはふつうの薬草にしか……」
受け取った薬草を両手で葉の部分を分けるようにして確認したけど、どこにでも生えているような見た目のふつうの薬草だった。
しかし、その薬草から滲み出るオーラ――魔力を感じた。
「あっ、これは……ねえ、エルサ。これなんだけど」
今まで薬草から魔力を感じたことがなかった僕は、エルサに確かめるように尋ねた。
「うーん、どうかなー。多い気もするし、ふつうの薬草と変わらない気もするし……そもそも、植物はそれぞれ保有魔力が違うからあまりわかんない」
エルサは目を細めながら僕の手の上の薬草を注視していたけど、区別がつかないようだった。
「あのー、どういうことでしょうか?」
僕とエルサの遣り取りを見ていたテレーゼさんは、不思議そうにしていた。
「あーこれは……ちょっと企業秘密なんだ」
僕のスキルもそうだけど、魔法眼も簡単に言い触らしていいスキルではないため、僕は考える素振りをしてから、間を取って苦笑い気味に断った。
それならもっと注意深く行動すべきかもしれないけど、完全に隠すのも色々とやり辛いため、匂わすくらいが丁度良いと思っていたりする。
それに、秘密が多い方が正義のヒーローっぽいし、カッコいい……と、意外に僕は勇者に勘違いされることにも悪い気はしなくなっていた。
「えー教えてくださいよ」
「だーめ。はい、これ」
断る意味もあって薬草を返したけど、テレーゼさんはそう簡単に引き下がってはくれず、質問の角度を変えてきた。
「それはやはり、勇者様のトップシークレット的な切り札なんですか?」
さっきから、「勇者」を強調してくるところをみるに、そういうものが好きなのかもしれない。
イメージ力に因る魔法効果の変化についても熱心に話を聞いていたし、知識欲が旺盛なのだろう。
本当は教えるつもりはなかったけど、強さの秘密をテレーゼさんからおねだりされ、詠唱を省略することが可能であることまで説明していた。
実際、エルサの隣で詠唱省略を聞いておりそこを突かれ、隠しきれなかったというのが正解かもしれない。
けれども、
今回ばかりはそれだけが理由ではない気がする。
本当に不思議な感覚で、それを指摘されなくても話していた気もする。
それでも、無詠唱まで説明するつもりもなければ、スキルのことについても折れる気はない。
「中々鋭いね。そう、トップシークレットなんだよ」
何があっても僕が教えないと理解したのか、テレーゼさんは少し不貞腐れたような顔をした。
「痛っ」
再び頭に痛みが走り、僕は呻いた。
「コウヘイ様、ご気分が優れないのですか?」
テレーゼさんは、心配そうに僕の顔を窺っていた。
隣にいたエルサも心配なのか、頭を押さえていた僕の右手に手を重ね、下から覗き込んできた。
「大丈夫、少し頭痛がしただけだから」
微笑んで問題ないことを伝えた。
が、突然――
『こーちゃん、あまり無理しないでよー』
聞き間違えかと思ったけど、確かにテレーゼさんからそう言われた気がした。
しかも、さっきまでの少女の姿ではなく、少し年上の女性のような姿で。
「え、今何て言ったの?」
「えーっと、コウヘイ様、あまり無理をしない方がよろしいですよ、と言いましたけど……」
目を擦りテレーゼさんを見た。
そこには、さっきの大人びたテレーゼさんはおらず、一五歳になるかならないかくらいの少女のままのテレーゼさんだった。
どうしちゃったんだろう。
そう思いながらも頭痛がしただけで、幻聴や幻覚等の異常状態に掛かっているようには思えなかった。
きっと疲れているのかもしれないと結論付け、頭を軽く左右に振った。
「そっか、ありがとう。大丈夫だから話を続けて」
少し躊躇いながらもテレーゼさんは、その薬草についての説明をしてくれた。
「簡単に言うと一番報酬の効率が良いんですよ。ここの薬草は、ふつうの薬草の一〇〇倍の金額で買い取ってくれるんです」
「そ、そんなに!」
精々数倍程度だと思ったけど、まさかの一〇〇倍だった。
今まで見向きもしなかったことに僕は後悔した。
「なんでも、成分濃度が濃く、薄めることで沢山の初級回復ポーションを作れるというのもありますが、上級回復ポーションの材料にできるらしいのです」
回復ポーションは、初級、中級、上級のように、その効果によってランク付けがされている。
その違いは、単純に量を増やせば良いというものではなく、ふつうの薬草を一〇〇株集めて調合しても上級回復ポーションにはならないらしい。
一株辺りの質が最重要であることをテレーゼさんが教えてくれた。
自称錬金術師のイルマもしきりに頷いていることから、その通りなのだろう。
「へー、物知りだね」
「いえ、常識ですよ」
褒めたつもりの僕の言葉に、テレーゼさんからそんな風に真顔で言われてしまい、無知だと言われた気がして僕は胸が痛くなった。
気を取り直して僕は、
「だ、だから、ずっと薬草採取をしていたんだね」
と納得したように言葉を繋げたけど、
「そういうことですね」
などとテレーゼさんに笑顔で言われ、僕は顔を引きつかせ苦笑い。
野営の準備が整い、食事の時間まで少し自由時間というか、それぞれ思い思いに過ごしていたときのことを思い出す。
僕は、ダンジョンでの日課となりつつある大気中の魔力を吸収する作業に、その時間を充てていた。
それは大分慣れたもので、みんなの行動を観察する余裕があるほどだった。
その間、テレーゼさんだけではなく、同じパーティーメンバーのウラさんとロレスさんも薬草採取に精を出していた。
それに尽き従うように、「荒ぶる剣」の残された二人――元神官らしい治癒魔法士のルペルトさんと剣士のハインツさん――も手伝わされていたのが印象的だった。
どうやら、リーダーであるバートさんが逃げたことで、その償いを負わされているようだった。
その二人の使われようが余りにも面白く、印象が強かったため忘れかけていたけど、休んでいたはずのエヴァがいつの間にかそこで薬草採取をしていた気がした。
「そう言えば、エヴァも……もしかして!」
「ん? 当然じゃないの。あたしを誰だと思っているのよ」
やっぱり、エヴァは抜け目ない性格のようだ。
「てか、コウヘイたちの方がおかしいわよ。なんで薬草を素通りするのか理解できないわ。ねえ、いいこと! 薬草はいくらあっても困る物ではないの。少しは民のことを考えなさい!」
弱っていたエヴァは既におらず、凄むように言われ、むしろ、怒られてしまった。
エヴァに話を振らなければよかったと、僕が思ったのは言うまでもない。
今回も感心したけど、エヴァは元貴族だけあって、目の付け所が僕たちと違う。
冒険者にとっての薬草とは、回復ポーションを調合するための原料で、
自分用に採取するも良し――
冒険者ギルドに提出してギルドポイントを上げるのも良し――
商人ギルドに提出して冒険者ギルドより高値で売るのも良し――
と、いった程度の物である。
ただ、一般人にしてみたらどうだろうか?
「そもそもね――」
――――こうして、エヴァの薬草採取の重要性についての講義が始まった。
今回、テレーゼたちが一〇階層を目指す要因になったのは、今までの二回でエヴァが採取した一〇階層の薬草が噂となったからであった。
それ故に、コウヘイたちが一〇階層まで踏破していることが、他の冒険者たちにも噂になっていた。
となれば、一〇階層まで行けばコウヘイに会える可能性をも示唆しており、町中では相手にされなくても、ダンジョンの安全階層であればゆっくり話をする機会に恵まれるかもしれないという期待をテレーゼは抱いていた。
はてさて、テレーゼは念願のコウヘイとゆっくり話す機会を得た訳だが、彼女の目的とは……
八月を明日に控え、夜になってもまとわりつく暑さでスリープの魔法を必要とするほど気温と湿度が上がる。
ただそれも、地上から数十メートルも潜ったダンジョンに於いて事情は変わり、ずぶ濡れになったファビオは、焚火で暖を取るように羽織った毛布から手を突き出して震えていた。
その様子を、「荒ぶる剣」の二人が同情するような目で見ていた。
一方、少女である、「野に咲く花」の三人は、軽蔑するような冷たく厳しい視線を向けていた――――
やっぱり、同じ女性だからその反応も当然だよね。
てか、待てよ……そもそも、何でテレーゼさんたちみたいな若い子が、こんな深い階層まで潜りに来たんだろう?
ガーディアンズが居るとはいえ、テレーゼさんたちはカッパーランクの冒険者。
エヴァのパーティー登録のために冒険者ギルドを訪れ、沢山の冒険者に囲まれて面を食らっていたときにファビオさんが、
『コウヘイさんたちが一〇階層まで降りると言ったら、お前らはそれに付いて行けるのか?』
と、言っていたことに対し、他の冒険者たちは激しく首を左右に振っていたのを思い出した。
そんな危険を冒してまで潜る価値ある存在があるのだろうか?
或いは、ガーディアンズの人たちに押し切られてしまったのだろうか?
そこまで考えを巡らせ、僕は頭を振った。
確かに深く潜れば潜るほど、魔鉱石や稀に魔法石を発掘できるポイントがある。
ただそれも、低層にもそんなポイントはある訳で、リスクに見合わない。
さらに、ファビオさんがそんな無茶に付き合わせるハズがないと思い直した僕は、その疑問を解消すべく、直接尋ねることにした。
「テレーゼさん」
「あっ、はい。何でしょうか」
僕に名を呼ばれてハッとなったテレーゼさんは、佇まいを正した。
たかが僕ごときにそこまでしなくてもと思わなくもないけど、勇者として僕のことを見てくれている証拠だろうと思い、敢えてそのことには触れない。
「言えればでいいんだけど、何で一〇階層を目標にしていたの?」
「それは、ここに自生している薬草の効能が、ふつうの物より格段に良いとの噂を耳にしまして」
「薬草?」
「はい、少々お待ちください……これです」
テレーゼさんは、腰掛の鞄の中から薬草を出して僕に渡してくれた。
「へー、僕にはふつうの薬草にしか……」
受け取った薬草を両手で葉の部分を分けるようにして確認したけど、どこにでも生えているような見た目のふつうの薬草だった。
しかし、その薬草から滲み出るオーラ――魔力を感じた。
「あっ、これは……ねえ、エルサ。これなんだけど」
今まで薬草から魔力を感じたことがなかった僕は、エルサに確かめるように尋ねた。
「うーん、どうかなー。多い気もするし、ふつうの薬草と変わらない気もするし……そもそも、植物はそれぞれ保有魔力が違うからあまりわかんない」
エルサは目を細めながら僕の手の上の薬草を注視していたけど、区別がつかないようだった。
「あのー、どういうことでしょうか?」
僕とエルサの遣り取りを見ていたテレーゼさんは、不思議そうにしていた。
「あーこれは……ちょっと企業秘密なんだ」
僕のスキルもそうだけど、魔法眼も簡単に言い触らしていいスキルではないため、僕は考える素振りをしてから、間を取って苦笑い気味に断った。
それならもっと注意深く行動すべきかもしれないけど、完全に隠すのも色々とやり辛いため、匂わすくらいが丁度良いと思っていたりする。
それに、秘密が多い方が正義のヒーローっぽいし、カッコいい……と、意外に僕は勇者に勘違いされることにも悪い気はしなくなっていた。
「えー教えてくださいよ」
「だーめ。はい、これ」
断る意味もあって薬草を返したけど、テレーゼさんはそう簡単に引き下がってはくれず、質問の角度を変えてきた。
「それはやはり、勇者様のトップシークレット的な切り札なんですか?」
さっきから、「勇者」を強調してくるところをみるに、そういうものが好きなのかもしれない。
イメージ力に因る魔法効果の変化についても熱心に話を聞いていたし、知識欲が旺盛なのだろう。
本当は教えるつもりはなかったけど、強さの秘密をテレーゼさんからおねだりされ、詠唱を省略することが可能であることまで説明していた。
実際、エルサの隣で詠唱省略を聞いておりそこを突かれ、隠しきれなかったというのが正解かもしれない。
けれども、
今回ばかりはそれだけが理由ではない気がする。
本当に不思議な感覚で、それを指摘されなくても話していた気もする。
それでも、無詠唱まで説明するつもりもなければ、スキルのことについても折れる気はない。
「中々鋭いね。そう、トップシークレットなんだよ」
何があっても僕が教えないと理解したのか、テレーゼさんは少し不貞腐れたような顔をした。
「痛っ」
再び頭に痛みが走り、僕は呻いた。
「コウヘイ様、ご気分が優れないのですか?」
テレーゼさんは、心配そうに僕の顔を窺っていた。
隣にいたエルサも心配なのか、頭を押さえていた僕の右手に手を重ね、下から覗き込んできた。
「大丈夫、少し頭痛がしただけだから」
微笑んで問題ないことを伝えた。
が、突然――
『こーちゃん、あまり無理しないでよー』
聞き間違えかと思ったけど、確かにテレーゼさんからそう言われた気がした。
しかも、さっきまでの少女の姿ではなく、少し年上の女性のような姿で。
「え、今何て言ったの?」
「えーっと、コウヘイ様、あまり無理をしない方がよろしいですよ、と言いましたけど……」
目を擦りテレーゼさんを見た。
そこには、さっきの大人びたテレーゼさんはおらず、一五歳になるかならないかくらいの少女のままのテレーゼさんだった。
どうしちゃったんだろう。
そう思いながらも頭痛がしただけで、幻聴や幻覚等の異常状態に掛かっているようには思えなかった。
きっと疲れているのかもしれないと結論付け、頭を軽く左右に振った。
「そっか、ありがとう。大丈夫だから話を続けて」
少し躊躇いながらもテレーゼさんは、その薬草についての説明をしてくれた。
「簡単に言うと一番報酬の効率が良いんですよ。ここの薬草は、ふつうの薬草の一〇〇倍の金額で買い取ってくれるんです」
「そ、そんなに!」
精々数倍程度だと思ったけど、まさかの一〇〇倍だった。
今まで見向きもしなかったことに僕は後悔した。
「なんでも、成分濃度が濃く、薄めることで沢山の初級回復ポーションを作れるというのもありますが、上級回復ポーションの材料にできるらしいのです」
回復ポーションは、初級、中級、上級のように、その効果によってランク付けがされている。
その違いは、単純に量を増やせば良いというものではなく、ふつうの薬草を一〇〇株集めて調合しても上級回復ポーションにはならないらしい。
一株辺りの質が最重要であることをテレーゼさんが教えてくれた。
自称錬金術師のイルマもしきりに頷いていることから、その通りなのだろう。
「へー、物知りだね」
「いえ、常識ですよ」
褒めたつもりの僕の言葉に、テレーゼさんからそんな風に真顔で言われてしまい、無知だと言われた気がして僕は胸が痛くなった。
気を取り直して僕は、
「だ、だから、ずっと薬草採取をしていたんだね」
と納得したように言葉を繋げたけど、
「そういうことですね」
などとテレーゼさんに笑顔で言われ、僕は顔を引きつかせ苦笑い。
野営の準備が整い、食事の時間まで少し自由時間というか、それぞれ思い思いに過ごしていたときのことを思い出す。
僕は、ダンジョンでの日課となりつつある大気中の魔力を吸収する作業に、その時間を充てていた。
それは大分慣れたもので、みんなの行動を観察する余裕があるほどだった。
その間、テレーゼさんだけではなく、同じパーティーメンバーのウラさんとロレスさんも薬草採取に精を出していた。
それに尽き従うように、「荒ぶる剣」の残された二人――元神官らしい治癒魔法士のルペルトさんと剣士のハインツさん――も手伝わされていたのが印象的だった。
どうやら、リーダーであるバートさんが逃げたことで、その償いを負わされているようだった。
その二人の使われようが余りにも面白く、印象が強かったため忘れかけていたけど、休んでいたはずのエヴァがいつの間にかそこで薬草採取をしていた気がした。
「そう言えば、エヴァも……もしかして!」
「ん? 当然じゃないの。あたしを誰だと思っているのよ」
やっぱり、エヴァは抜け目ない性格のようだ。
「てか、コウヘイたちの方がおかしいわよ。なんで薬草を素通りするのか理解できないわ。ねえ、いいこと! 薬草はいくらあっても困る物ではないの。少しは民のことを考えなさい!」
弱っていたエヴァは既におらず、凄むように言われ、むしろ、怒られてしまった。
エヴァに話を振らなければよかったと、僕が思ったのは言うまでもない。
今回も感心したけど、エヴァは元貴族だけあって、目の付け所が僕たちと違う。
冒険者にとっての薬草とは、回復ポーションを調合するための原料で、
自分用に採取するも良し――
冒険者ギルドに提出してギルドポイントを上げるのも良し――
商人ギルドに提出して冒険者ギルドより高値で売るのも良し――
と、いった程度の物である。
ただ、一般人にしてみたらどうだろうか?
「そもそもね――」
――――こうして、エヴァの薬草採取の重要性についての講義が始まった。
今回、テレーゼたちが一〇階層を目指す要因になったのは、今までの二回でエヴァが採取した一〇階層の薬草が噂となったからであった。
それ故に、コウヘイたちが一〇階層まで踏破していることが、他の冒険者たちにも噂になっていた。
となれば、一〇階層まで行けばコウヘイに会える可能性をも示唆しており、町中では相手にされなくても、ダンジョンの安全階層であればゆっくり話をする機会に恵まれるかもしれないという期待をテレーゼは抱いていた。
はてさて、テレーゼは念願のコウヘイとゆっくり話す機会を得た訳だが、彼女の目的とは……
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