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キモカワとの出会い
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木漏れ日の下、森の静けさに耳を澄ます。
木々はうっそうと茂り、土はしっとりと柔らかく、ほんのりとした発酵臭が鼻をくすぐる。日本の森とよく似てはいるが、どこかが決定的に違う。
トーヤは一歩ごとに周囲を観察しながら歩いていた。
落ち葉をひっくり返し、石を持ち上げ、草の葉をこすって匂いをかぎ、さらには土を指でなぞる。
「見ろ、レオン。ここの土、かなり炭素分が多いな。微生物層が厚い。つまり……生き物が多く暮らしてるってことだ」
「ふむ……さっきから気になっていたのだが、お前は一体何者だ? 漂着者とはいえ、随分と生き物に詳しいようだが」
「いや、ただの生き物オタクだよ。虫も好きだし、魚も好き。食えるものはだいたい食ってきた」
レオンは呆れたように眉を上げた。
「正気か?」
「たぶん正気。ギリギリだけど」
軽口を叩きながらも、トーヤの目は真剣だった。まるで、少年が宝探しをしているかのような眼差し。
そして、その時――
ぬるり、と何かが足元を横切った。
「……ん?」
反射的にしゃがみこむ。草をかき分けると、そこにいたのは……
「……ナメクジ? いや、違う」
体長は約30センチ。灰紫の粘液に包まれた軟体生物で、ぷるんと丸い半球状の頭部。その中央に、くりくりした目が二つ。口はなく、代わりに腹部から細い触手のようなものが伸びていた。
何よりも――可愛い。
「おい、変な声が出てるぞ?」
「いや、これは……キモカワってやつだ。名前は……勝手に“スラゴム”と呼ばせてもらおう」
「スラ……?」
「スライム+ナメクジ+ガムみたいだから、スラゴム」
そう言いながら、トーヤはすかさずスケッチブックに“スラゴム”のイラストを描き始めた。輪郭、質感、触手の動き、目のつき方――細部まで驚くほど丁寧だ。
「こういうやつって毒があるか、逆に美味いか、どっちかなんだよな……」
「待て、それは食うつもりか?」
「いや、まだだよ。まずは観察と採取。あ、この粘液、ちょっと取らせてもらうね」
ポーチからピンセットと小型チューブを取り出し、慎重にスラゴムの粘液を採取する。
すると、スラゴムがきゅるる、と高い音を立てた。
「喋った……?」
「いや、音を出しただけ……か?」
レオンが一歩前に出て、スラゴムの前で手を振る。スラゴムは目をくりくりと動かし、ぴょこっと跳ねた。
「懐いた?」
「……いや、仲間を呼んだな、今」
レオンの声に重なるように、背後の茂みががさり、と揺れる。
トーヤが振り返ると――
そこには、大小さまざまなスラゴムたちが、ぞろぞろと群れをなして現れた。
「おおぉお!? キモカワ軍団!!」
「喜んでる場合か! 数が多すぎる!」
「いや、これは観察チャンスだ! レオン、あれ見て! 群れの中央にちょっとでかいやつがいる。リーダー個体かも!」
「お前という奴は…」
⸻
数分後。
レオンの剣技によりスラゴム軍団は軽く追い払われ、トーヤは1体だけ小さなスラゴムを採取用の小型ケースに収めていた。
「この子は“ゴム子”と名付けよう」
「勝手に命名するな。いや、まあ……いいのか?」
トーヤは嬉しそうに微笑んだ。
「いやあ、異世界って、やっぱロマンしかないな」
⸻
異世界の森、最初の採取と初遭遇。
それは、予想外の「キモカワ」な出会いだった。
けれど、これが――トーヤと異世界生物たちの、長い付き合いの始まりだった。
木々はうっそうと茂り、土はしっとりと柔らかく、ほんのりとした発酵臭が鼻をくすぐる。日本の森とよく似てはいるが、どこかが決定的に違う。
トーヤは一歩ごとに周囲を観察しながら歩いていた。
落ち葉をひっくり返し、石を持ち上げ、草の葉をこすって匂いをかぎ、さらには土を指でなぞる。
「見ろ、レオン。ここの土、かなり炭素分が多いな。微生物層が厚い。つまり……生き物が多く暮らしてるってことだ」
「ふむ……さっきから気になっていたのだが、お前は一体何者だ? 漂着者とはいえ、随分と生き物に詳しいようだが」
「いや、ただの生き物オタクだよ。虫も好きだし、魚も好き。食えるものはだいたい食ってきた」
レオンは呆れたように眉を上げた。
「正気か?」
「たぶん正気。ギリギリだけど」
軽口を叩きながらも、トーヤの目は真剣だった。まるで、少年が宝探しをしているかのような眼差し。
そして、その時――
ぬるり、と何かが足元を横切った。
「……ん?」
反射的にしゃがみこむ。草をかき分けると、そこにいたのは……
「……ナメクジ? いや、違う」
体長は約30センチ。灰紫の粘液に包まれた軟体生物で、ぷるんと丸い半球状の頭部。その中央に、くりくりした目が二つ。口はなく、代わりに腹部から細い触手のようなものが伸びていた。
何よりも――可愛い。
「おい、変な声が出てるぞ?」
「いや、これは……キモカワってやつだ。名前は……勝手に“スラゴム”と呼ばせてもらおう」
「スラ……?」
「スライム+ナメクジ+ガムみたいだから、スラゴム」
そう言いながら、トーヤはすかさずスケッチブックに“スラゴム”のイラストを描き始めた。輪郭、質感、触手の動き、目のつき方――細部まで驚くほど丁寧だ。
「こういうやつって毒があるか、逆に美味いか、どっちかなんだよな……」
「待て、それは食うつもりか?」
「いや、まだだよ。まずは観察と採取。あ、この粘液、ちょっと取らせてもらうね」
ポーチからピンセットと小型チューブを取り出し、慎重にスラゴムの粘液を採取する。
すると、スラゴムがきゅるる、と高い音を立てた。
「喋った……?」
「いや、音を出しただけ……か?」
レオンが一歩前に出て、スラゴムの前で手を振る。スラゴムは目をくりくりと動かし、ぴょこっと跳ねた。
「懐いた?」
「……いや、仲間を呼んだな、今」
レオンの声に重なるように、背後の茂みががさり、と揺れる。
トーヤが振り返ると――
そこには、大小さまざまなスラゴムたちが、ぞろぞろと群れをなして現れた。
「おおぉお!? キモカワ軍団!!」
「喜んでる場合か! 数が多すぎる!」
「いや、これは観察チャンスだ! レオン、あれ見て! 群れの中央にちょっとでかいやつがいる。リーダー個体かも!」
「お前という奴は…」
⸻
数分後。
レオンの剣技によりスラゴム軍団は軽く追い払われ、トーヤは1体だけ小さなスラゴムを採取用の小型ケースに収めていた。
「この子は“ゴム子”と名付けよう」
「勝手に命名するな。いや、まあ……いいのか?」
トーヤは嬉しそうに微笑んだ。
「いやあ、異世界って、やっぱロマンしかないな」
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異世界の森、最初の採取と初遭遇。
それは、予想外の「キモカワ」な出会いだった。
けれど、これが――トーヤと異世界生物たちの、長い付き合いの始まりだった。
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