異世界に行こうとやる事は変わらない

しののめ あき

文字の大きさ
2 / 30

キモカワとの出会い

しおりを挟む
木漏れ日の下、森の静けさに耳を澄ます。
 木々はうっそうと茂り、土はしっとりと柔らかく、ほんのりとした発酵臭が鼻をくすぐる。日本の森とよく似てはいるが、どこかが決定的に違う。

 トーヤは一歩ごとに周囲を観察しながら歩いていた。
 落ち葉をひっくり返し、石を持ち上げ、草の葉をこすって匂いをかぎ、さらには土を指でなぞる。

「見ろ、レオン。ここの土、かなり炭素分が多いな。微生物層が厚い。つまり……生き物が多く暮らしてるってことだ」

「ふむ……さっきから気になっていたのだが、お前は一体何者だ? 漂着者とはいえ、随分と生き物に詳しいようだが」

「いや、ただの生き物オタクだよ。虫も好きだし、魚も好き。食えるものはだいたい食ってきた」

 レオンは呆れたように眉を上げた。

「正気か?」

「たぶん正気。ギリギリだけど」

 軽口を叩きながらも、トーヤの目は真剣だった。まるで、少年が宝探しをしているかのような眼差し。

 そして、その時――

 ぬるり、と何かが足元を横切った。

「……ん?」

 反射的にしゃがみこむ。草をかき分けると、そこにいたのは……

「……ナメクジ? いや、違う」

 体長は約30センチ。灰紫の粘液に包まれた軟体生物で、ぷるんと丸い半球状の頭部。その中央に、くりくりした目が二つ。口はなく、代わりに腹部から細い触手のようなものが伸びていた。

 何よりも――可愛い。

「おい、変な声が出てるぞ?」

「いや、これは……キモカワってやつだ。名前は……勝手に“スラゴム”と呼ばせてもらおう」

「スラ……?」

「スライム+ナメクジ+ガムみたいだから、スラゴム」

 そう言いながら、トーヤはすかさずスケッチブックに“スラゴム”のイラストを描き始めた。輪郭、質感、触手の動き、目のつき方――細部まで驚くほど丁寧だ。

「こういうやつって毒があるか、逆に美味いか、どっちかなんだよな……」

「待て、それは食うつもりか?」

「いや、まだだよ。まずは観察と採取。あ、この粘液、ちょっと取らせてもらうね」

 ポーチからピンセットと小型チューブを取り出し、慎重にスラゴムの粘液を採取する。

 すると、スラゴムがきゅるる、と高い音を立てた。

「喋った……?」

「いや、音を出しただけ……か?」

 レオンが一歩前に出て、スラゴムの前で手を振る。スラゴムは目をくりくりと動かし、ぴょこっと跳ねた。

「懐いた?」

「……いや、仲間を呼んだな、今」

 レオンの声に重なるように、背後の茂みががさり、と揺れる。

 トーヤが振り返ると――
 そこには、大小さまざまなスラゴムたちが、ぞろぞろと群れをなして現れた。

「おおぉお!? キモカワ軍団!!」

「喜んでる場合か! 数が多すぎる!」

「いや、これは観察チャンスだ! レオン、あれ見て! 群れの中央にちょっとでかいやつがいる。リーダー個体かも!」

「お前という奴は…」



 数分後。

 レオンの剣技によりスラゴム軍団は軽く追い払われ、トーヤは1体だけ小さなスラゴムを採取用の小型ケースに収めていた。

「この子は“ゴム子”と名付けよう」

「勝手に命名するな。いや、まあ……いいのか?」

 トーヤは嬉しそうに微笑んだ。

「いやあ、異世界って、やっぱロマンしかないな」



 異世界の森、最初の採取と初遭遇。
 それは、予想外の「キモカワ」な出会いだった。

 けれど、これが――トーヤと異世界生物たちの、長い付き合いの始まりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

イジメられっ子は悪役令嬢( ; ; )イジメっ子はヒロイン∑(゚Д゚)じゃあ仕方がないっ!性格が悪くても(⌒▽⌒)

音無砂月
ファンタジー
公爵令嬢として生まれたレイラ・カーティスには前世の記憶がある。 それは自分がとある人物を中心にイジメられていた暗黒時代。 加えて生まれ変わった世界は従妹が好きだった乙女ゲームと同じ世界。 しかも自分は悪役令嬢で前世で私をイジメていた女はヒロインとして生まれ変わっていた。 そりゃないよ、神様。・°°・(>_<)・°°・。 *内容の中に顔文字や絵文字が入っているので苦手な方はご遠慮ください。 尚、その件に関する苦情は一切受け付けませんので予めご了承ください。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

処理中です...