異世界に行こうとやる事は変わらない

しののめ あき

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魔術師

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 その日、ユルデ村の南門に、一台の馬車が現れた。
 ただの旅商人かと思いきや、妙に高級感のある黒い外套の女が馬から降りる。

「……この村が、“素材の村”と呼ばれている理由。確かめさせてもらうわ」

 冷ややかな金の瞳と、白銀に近い長髪。
 その姿に、村人たちがざわつく。

「魔術師じゃないか……?」

「なんでこんな辺境に?」



 トーヤはちょうど、鍛冶場でガンザと沈鉄鉱の特性を解析していた。

「この反応、もうちょっと磁性が安定すれば、魔導炉に転用できるかも……」

「おーい、トーヤ。外に変な客が来てるぞ。……魔術師の女だ。多分只者じゃねぇ」

 顔を上げたトーヤのもとへ、やがて彼女が姿を現す。

「貴方が、“観察者トーヤ”ね?」

「……まあ、そう呼ばれてるらしいですけど」

「私はリエラ=ゼフィルス。王都魔術院で〈元素触知〉を教えていた者よ」



 リエラは、素材に宿る魔素の流れや“属性の偏り”を、視覚的にとらえることができる特殊な魔術師だった。

 彼女の目的は、「素材の魔素構造」と「魔術適性」の研究。
 だが、魔術院の主流派と対立して追放され、今は自由に各地を放浪しているという。

「あなたの素材記録を見た。観察と記録は正確だし、応用性もある。……でも、肝心な一点が抜けてる」

「……何ですか?」

「素材の“気配”よ。――生きてる素材と、死んでる素材の違いがわかってない」



 彼女は、ラミナ堂に置かれたトーヤの素材標本を手に取った。
 空晶蛇の抜け殻。沈鉄鉱の欠片。そして、浮遊草の繊維。

「これ全部、魔素の流れが止まってる。……おそらく、保存方法に問題があるわね」

「え、でも、ちゃんと乾燥させて、温度調整もして……」

「素材は生きてるの。息をしてるの。呼吸を止めた瞬間、それは“情報”しか残さない」

 リエラは小さな薬包を取り出すと、空晶蛇の鱗に吹きかけた。
 すると、微かに紫光が浮かび――かすかな“律動”が蘇った。

「……これが、“目覚めた素材”よ」



「……そんな保存法、知らなかった。というか、それ……どうやって見分けてるんです?」

「私は“魔素の触覚”を使ってるの。見て、感じて、測ってる。……あなたが“生態系”の目を持ってるなら、私は“構造”の目を持ってるのよ」

 トーヤは、思わず身を乗り出す。

「もしよければ、素材の解析……一緒にやってもらえませんか?」

「ええ。ただし――」

 リエラは静かに言った。

「私がこの村にいる間、素材の一切は私の許可なく売買禁止。これは命令よ」

「……強気ですね」

「魔術師は、素材を“命”だと思ってるから」



 こうして、素材に魔術の視点が加わった。
 トーヤはリエラとの対話を通して、これまで“観察できていなかったもの”に気づき始める。

(素材の“構造”。……内部の魔素の動きや、元素の偏り。それを見極められれば……)

 彼の記録図鑑には、新たな欄が加えられる。

◆魔素構造分析:リエラ補足
 ・空晶蛇の鱗:光屈折性 → 火・風の微魔素流動あり
 ・沈鉄鉱:重力性 → 土属性魔素を蓄積・放出傾向
 ・浮遊草:風・水の複合属性 → “浮力”は水魔素の結界層による



 数日後。

「ねえ、トーヤ。新しい素材が見つかったって話、知ってる?」

 ユーリが届けてきた報せは――

「南の〈赤霧樹海〉で、“音を食う苔”が発見されたんだって。音が消えるらしいよ」

「音……?」

 リエラが反応する。

「“無音素材”……音を遮る結界素材かも。魔術具の遮断層に使えるかもしれない」

「行くしかないな、これは」

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