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旅立ち
しおりを挟む王都からの正式な要請状が、ラミナ堂に届いた。
「トーヤ殿、北部浮遊岩地帯にて“共鳴鉱”の自然発生が報告されました。調査・採取をお願いしたく、素材庁より依頼を送ります」
王都との協定が結ばれてから、初の公式依頼。
それはつまり、トーヤの“採取者”としての腕前が、国に認められたという証でもあった。
「……共鳴鉱、ね。魔力に反応する特殊鉱石。浮遊地帯だと採取難易度が高いぞ」
リエラが地図を広げる。
その場所は、ここからおよそ東へ三日。断崖と風の吹きすさぶ危険地帯だった。
⸻
「一人で行く気?」
と、問いかけたのはユーリだった。
意外なほど、真剣な表情。
「うん、いつものことだから。無茶な場所にはなるべく行かないよ」
「じゃあ、私も行く。補助魔法も使えるし、荷物も分け合えるし……第一、あなた放っておいたら絶対何かに夢中になって落ちるから」
「……そんなに信用ないのか、俺」
「信用はある。でも“観察バカ”だから心配なんだよ!」
⸻
こうして、初めての“同行者”を得た素材旅が始まった。
ユーリは馬車を用意し、食料と水、調査道具を丁寧に詰め込む。
トーヤは観察道具と素材保存キットを確認してから、ノートを胸ポケットに入れた。
村の人々が、門まで見送りにやってくる。
「気をつけてな、監察官さま」
「無事に戻って来いよー! 次はあたしも連れてってよ!」
「共鳴鉱ってやつ、こっちでも鍛冶に使えるのか調べてくれ!」
その声に背を押され、二人は東の道へ踏み出した。
⸻
浮遊岩地帯へ向かう途中、彼らは小さな峡谷を越え、風にうたれる草原を越える。
採取だけでなく、素材が“どう暮らしに活かせるか”を常に考えながら、メモを取り続けるトーヤ。
「この風の強さ、草の繊維に影響してるな。たぶん“曲がり草”の仲間かもしれない」
「うわ、ちょっと! それ断崖ギリギリだから!」
「大丈夫、まだ1.5メートル余裕ある」
「“まだ”って言うなぁー!」
⸻
そして、目的地に到着したのは、出発から四日目の午後だった。
巨大な岩の塊が、空中に浮かぶ――
重力に逆らって漂う、不思議な風景。
その岩肌に、淡く光る銀青の結晶が浮かんでいた。
「共鳴鉱……間違いない」
トーヤはそっと触れ、音を立てずに息を吸う。
――この鉱石、風の音と共鳴して、音を返してる。
「こいつ……生きてるな」
「は? 石だよ、それ」
「いや、比喩。だけど、風との相互作用で音域が変化してる。つまり“環境記憶型素材”かもしれない」
真剣に語るトーヤに、ユーリは呆れつつも笑った。
「……はいはい。観察バカの出番ですね」
⸻
採取は慎重に、時間をかけて行われた。
空に浮かぶ岩へ、風に乗るグライダーで接近。
ユーリが風の制御魔法をかけ、トーヤが素材を確保する。
「とった!」
「よし戻って――わ、風強いっ! トーヤ、手伸ばして!」
手を取り合って、岩場に滑り込む。
息を切らしながらも、二人は顔を見合わせて笑った。
「……こういうの、悪くないね」
「うん。こうしてまた、記録が増える」
⸻
村への帰路、トーヤは採取ノートにこう書き加えた。
⸻
共鳴鉱:風と共鳴し、音を変化させる。採取時は天候に注意。採取者同士の連携が重要。
……備考:旅は一人より、二人のほうが面白いかもしれない。
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