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【トリエル童話】
【トリエル童話】三枚のお札
――BGM――
ぼーやー よいこだ ねんねしな
いーまも むかしも かわりなくー
はーなーの ねーむーりーの ポテチうたー
とーいー むかしのー ポテチーだーよー
(間奏)
ゆめをー たぐれば ほろほろとー
はーなもほころぶ ポテチひめー
ひーとの なーさーけが しあわせをー
そっとー はこんだー ポテチじぞうー
――――
♪デーテケデーケテ デーテ デデデーデケテー
むかーし、むかし、ある山のふもとの町に山寺……はなくて、
7畳の小さなアパート部屋があったそうじゃあ……
そこにはミカエルさんとあゆむが住んでおったそうじゃあ……
…………
季節は秋、あゆむのふもとの山では栗の木が多く、
あゆむは食費を抑えるために栗拾いを計画します。生活の知恵ですねえ。
「秋深しですねえ」
ミカエルさんは奇跡体質のため、外で働くのはあゆむの役目、
今部屋の中ではミカエルさんは紅茶を嗜んでおります。
テーブルの上にはアソートチョコレートが置かれ、どうやらモンブラン味がお気に入りのようです。
ミカエルさんはモンブラン味のチョコレートばかり食べています。
「同じ味ばかり食べるなよー」
あゆむの意見もなんのその、モンブランがよほど好きなのか、ミカエルさんはとうとう最後のモンブラン味のチョコをパクリ。
「あー!」
「ご馳走様でした」
「それ限定品なのに……」
期間限定の味ってよく出ますよねー。かぼちゃ味とか。
あれ美味しいんですよ。あーはいはい、続きね。
「別にまた買えばいいじゃないですか。それよりも栗を取ってきてください」
「全く……まあいいわい」
あゆむはボヤきながらも壁にかけたリュックを背負うと、スマートフォンからSNSをチェックします。
軽く話題を見てから玄関へ向かいますが、そこで足が止まります。
「どうしたんですか?」
足を止めるあゆむをミカエルさんが気にして声をかけますが、
あゆむはスマートフォンを眺めたままです。
ミカエルさんはなんだろうと、それを盗み見ます。
「怨霊騒ぎ?」
「うーむ、どうやら山には怨霊が出るそうじゃのう……やめておくか」
「情けない。怨霊がなんですか」
ミカエルさんはそう言いますが、落ちぶれても彼女は元大天使。
その天使性は健在です。
対してあゆむはごく普通の人間です。右手に何か特殊な力があるわけでもなく、
ましてや左手の手袋を外すと鬼神の手が出てくるわけでもありません。
怨霊が怖いと感じるのは当然の反応と言えるでしょう。
それを情けないと言われれば……
「天使に言われたくないわ!」
このようなツッコミも出るわけです。
もっとも今やツッコミ大魔王と化したあゆむです。
なにかとツッコミを入れて、いちゃもんを付けそうではありますが。
「誰がツッコミ大魔王じゃい!」
「誰にツッコんでいるんですか? エア友達ですか?」
「肩に手を置いて、同志よ! みたく同情するのやめてくれませんか?」
「だ、だだだ誰がボッチですか! いますー! 友達いますー!」
ミカエルさん……友達いないんですね……
そりゃそうですよねえ。お兄さんが反逆して肩身が狭くなり、自身も序列一位の大天使。
それは孤独でエア友達を作ったとしても、誰が彼女を責めることができましょうか。
「そういう同情やめてくれますか?」
「そっちこそ誰にツッコんでるんだ? エア友達? あいた!」
「くだらないこと言ってないで早く栗を拾って来きてください」
「いやだから怨霊」
埒が明かない。そう思ったのか、ミカエルさんはここで三枚のお札……ではなくて、
三匹のアンポンタンを渡します。
「お前らかーい!」
「ハーイ、調子いい?」
「挨拶してくれないのかい?」
「バルーンいる?」
「騙されんぞ! ていうかそのネタ、偽字幕じゃないとわからんじゃろがい!」
ちょっと何言ってるかわかりませんが、アンポンタン達は小さく丸まってあゆむのポケットに入ります。
どうやら今回は協力してくれるようです。
あゆむは一抹の不安を覚えながらも、ふもとの山まで栗を拾いに行きます。
さてはて、どうなることやら……
…………
――――
ふもとの山では秋が深まり、木々が赤く色づいています。
下を見れば色付いた落ち葉の絨毯が広がり、大きな栗がゴロゴロと落ちています。
「ふむ……いい感じにあるな」
あゆむがせっせと栗をリュックに入れると、ここでアンポンタン達がポケットから飛び出し、
勝手に野球をはじめます。
「野球しよーぜー!」
「いぇーい!」
「バッチコーイ!」
アッチがピッチャー役となり、バッターボックスにはタンタ、ポンポが審判を努めます。
……………
さあここでプレイボールです。
アッチ選手、第1球! スライダー!
ストライクー! 空振りー!
タンタ選手、悔しそうにバットを振ります。
さあ会場のボルテージも上がってまいりました。
聞こえるでしょうか、この割れんばかりの声援が。
本当に聞こえたら、耳鼻科をオススメしまーす!
さあ注目の第2球! 打ったー!
伸びる! 伸びる! ここであゆむに当たる!
ホームラーーーーン!!
「ええ加減にせえ!」
おっとここであゆむは栗をぶん投げますが、アンポンタン達は体を伸ばして華麗にスルー。
「クソ……」とあゆむが悔しそうにしていた時です。
後ろからふわり……と金木犀のような香りが広がり、
あゆむが振り返るとそこには白いワンピースの美少女、ピピがおりました。
ピピはくすりと笑うと、あゆむの手を取り、リュックの中の栗を一瞥します。
「大きな栗ですね。良ければわたくしの家で食べませんか?」
「いやこれは……」とあゆむは言いかけますが、ピピは料理上手です。
「これだけあるし、まあいいか」
あゆむはミカエルさんのことは忘れ、ピピが暮らす山の上の家まで行きます。
…………
――――
「さあ、どうぞ」
「オシャレな家だな……」
そこは小さなログハウス。
中には部屋が一つとリビング、そして小さなキッチンがあります。
あゆむが中に入るとピピと同じ香り……金木犀のそれがふわりと広がり、
温かみのある木の家はあゆむをリラックスさせます。
「すぐ食事の用意をしますね」
ピピはあゆむが採ってきた栗を回収するとキッチンの方へ消えていきます。
あゆむはソファに腰掛けると大きなあくびを一つ。
「なんか眠いのう……」
あゆむは次第にまぶたが重くなり、そのままソファで眠ってしまいます。
…………
どれぐらい時間が経ったのでしょうか。
窓から外を見るとすっかり暗くなっていました。
「うーん……こんなに寝てたのか、もう帰らんとなあ」
暗い山は危険とはいえ、家ではミカエルさんが待っています。
何よりここは通い慣れた山。
あゆむはピピに軽く挨拶をしてから帰ることにします。
「ついでに土産ももらうか」
ピピはキッチンでしょうか。そこからはシィ……シィ……という低い音が聞こえます。
「ん……なんの音だ」
あゆむは音が気になり、ゆっくりと近づくとキッチンを覗きます。
すると、そこにいたのは目を赤く見開き、黒いオーラを放つピピ……いえ、怨霊でした。
そう、噂の怨霊はピピだったのです。
「見ましたね……? 浮気相手のところへ行くんですね?」
「ぎょえぇぇ!!」
あゆむは猛ダッシュで逃げますが、ピピも四つん這いでガササササと追いかけます。
「逃がしませんよ……!」
「怖いんじゃーい!!」
どれだけ逃げたでしょうか。あゆむはぜぇぜぇと肩で息をしながらも家を目指します。
しかし脇腹が痛く、これ以上は走れません。すると、視線前方には山の公衆トイレが見えます。
あゆむはここでやり過ごそうと、トイレへ逃げ込みます。
中はコケでいっぱいでアンモニア臭く、恐怖を一掃煽ります。
(ゴクリ……)
思わず緊張から唾を飲み込みます。
「……ここは逃げ場がない。ピピに嗅ぎつけられたら終わりじゃ」
あゆむはここで冷静になり、知恵を巡らせます。
(なにか良い手は……)
そんな事を考えていると、ポケットの中の感触を思い出します。
「そうだ!」
あゆむはポケットの中からミカエルさんが授けてくれた、アンポンタンのアッチを取り出します。
「おい、ピピが来たら代わりに返事をしてくれ!」
「仕方ねーな。行きな!」
アッチはあゆむの背中を叩くとトイレの個室へ入り、ピピを待ち受けます。
「恩に着るぜ」
普段、小憎たらしいアンポンタンですが、協力してくれるとなると、
一転して頼もしい存在に化けます。
あゆむはその場をアッチに任せると踵を返し、急いで下山します。
…………
その後、しばらくしてピピが追いつき、案の定トイレの中が怪しいと入ってきます。
…………
「あゆむ様……どこですか?」
ピピは赤く見開いた目で首を180度回しながらあゆむを探します。
「あゆむ様の匂いがします……」
ピピはその中の一つに目を付けますが、そこはアッチが隠れるトイレです。
「みぃぃつけた」
「ひ、ひぃぃぃ」
アッチはあゆむの声で怯えたフリをしてピピを引き付けます。
ピピはドアをどんどんと叩き、出てくるように促します。
「ほら、早く出てきてください……ほら」
「ひょぇぇぇぇ!!」
当初は上手くいっていた替え玉作戦ですが、アッチの怖がり方にピピは違和感を覚えたようです。
しばらく黙ると「あゆむの好きな人は……?」と尋ねますが、これは罠でした。
「ピピー!」
「引っかかりましたね! あの人はそんな答え方はしないんですよ!」
ピピはドアを破壊すると、アッチはアッカンベーをして飛んでいきました。
ヒュルルー。
…………
あゆむはなおも逃げますが、目の前には大きな川があります。
どうやら夢中で逃げるうちに道を間違えたようです。
「まずいな……引き返すか」
しかし、背後にはもうピピが迫ります。
あゆむはやむを得ずポンポを取り出します。
「橋になって助けてくれ!」
「しゃーねーな! 乗りやがれ!」
ポンポはビヨーンと伸びると、そのままの姿で橋になります。
こんなので大丈夫なんでしょうか。
しかし、贅沢は言えません。
あゆむはポンポの橋を渡りますが、ところどころで「いやーん」や「エッチーん」という声が。
「やかましいわ!」
あゆむはツッコミを入れつつ橋を渡りきると、ポンポはお尻ペンペンでピピを挑発します。
「お尻ペンペーン!」
「フン!!」
しかしポンポのその果敢な行動も、怒れるピピのパンチであえなく終了です。
ピュー!
「覚えてろー」
ピピは中に浮いて川をやり過ごすと、あゆむの背後に迫ります!
「追いつきましたよ……!」
「く、くそー! 仕方ない! タンタ、なんでもいいからなんかやれ!」
「タンタ様とお呼びー!」
タンタはそう言いながらも電話ボックスに化け、どこかに電話をかけます。
すると……
空からトリエルが落っこちてきました。
「ポテチー!」
「あるかー!! せめてエミにせー!!」
トリエルは頬を膨らませつつピューっと落ちて、あゆむにお姫様抱っこされると、
何を思ったのか、あゆむはトリエルにぶちゅー!
すると……
ポミーーーー!!!!
トリエルの顔が真っ赤になり、エミエルになりました。
「うーーーー!」
いきなりのぶちゅーにエミエルはあゆむを弾き飛ばします!
するとあゆむはピューっと飛ばされて、そのままお家へ「あーれー」
…………
――――
「ハッ!!」
気付けばそこはあゆむの部屋。
どうやらソファの上でウトウト昼寝をしてたようで、隣には顔を紅葉のように真っ赤にしたエミエルがいます。
「……エミか? どうしたんだ?」
「う、ううん……」
エミエルは手で口元を覆い、恥ずかしそうに言葉を詰まらせます。
それでも、彼女の視線はあゆむに固定されて、優しい茶色の瞳が揺れています。
あゆむは唇に残る、甘い違和感に気付きながらも、それをあえて口にせず、そっと彼女の華奢な肩を引き寄せます。
「もう一眠りするか」
そう言って、硬直するエミエルを軽く押すと、そのまま彼女の柔らかな膝の上に頭を乗せて枕にします。
「たまにはいいだろ?」
「うう……」
エミエルは顔から煙が出そうなほど赤くなりながらも、
あゆむの頭を幸せそうに目を細めながら撫でます。
彼女の手は少し汗で湿っていて、それでいて陽だまりのように温かく感じます。
窓から優しく吹きつける秋の風がエミエルの桜色の髪を揺らし、
ほんのりとあゆむの鼻を桜の香りでくすぐります。
二人はこのまま昼時の甘い時間を過ごし、その胸を温かくするのでした。
――――
ぼーやー よいこだ ねんねしな
いーまも むかしも かわりなくー
はーなーの ねーむーりーの ポテチうたー
とーいー むかしのー ポテチーだーよー
(間奏)
ゆめをー たぐれば ほろほろとー
はーなもほころぶ ポテチひめー
ひーとの なーさーけが しあわせをー
そっとー はこんだー ポテチじぞうー
――――
♪デーテケデーケテ デーテ デデデーデケテー
むかーし、むかし、ある山のふもとの町に山寺……はなくて、
7畳の小さなアパート部屋があったそうじゃあ……
そこにはミカエルさんとあゆむが住んでおったそうじゃあ……
…………
季節は秋、あゆむのふもとの山では栗の木が多く、
あゆむは食費を抑えるために栗拾いを計画します。生活の知恵ですねえ。
「秋深しですねえ」
ミカエルさんは奇跡体質のため、外で働くのはあゆむの役目、
今部屋の中ではミカエルさんは紅茶を嗜んでおります。
テーブルの上にはアソートチョコレートが置かれ、どうやらモンブラン味がお気に入りのようです。
ミカエルさんはモンブラン味のチョコレートばかり食べています。
「同じ味ばかり食べるなよー」
あゆむの意見もなんのその、モンブランがよほど好きなのか、ミカエルさんはとうとう最後のモンブラン味のチョコをパクリ。
「あー!」
「ご馳走様でした」
「それ限定品なのに……」
期間限定の味ってよく出ますよねー。かぼちゃ味とか。
あれ美味しいんですよ。あーはいはい、続きね。
「別にまた買えばいいじゃないですか。それよりも栗を取ってきてください」
「全く……まあいいわい」
あゆむはボヤきながらも壁にかけたリュックを背負うと、スマートフォンからSNSをチェックします。
軽く話題を見てから玄関へ向かいますが、そこで足が止まります。
「どうしたんですか?」
足を止めるあゆむをミカエルさんが気にして声をかけますが、
あゆむはスマートフォンを眺めたままです。
ミカエルさんはなんだろうと、それを盗み見ます。
「怨霊騒ぎ?」
「うーむ、どうやら山には怨霊が出るそうじゃのう……やめておくか」
「情けない。怨霊がなんですか」
ミカエルさんはそう言いますが、落ちぶれても彼女は元大天使。
その天使性は健在です。
対してあゆむはごく普通の人間です。右手に何か特殊な力があるわけでもなく、
ましてや左手の手袋を外すと鬼神の手が出てくるわけでもありません。
怨霊が怖いと感じるのは当然の反応と言えるでしょう。
それを情けないと言われれば……
「天使に言われたくないわ!」
このようなツッコミも出るわけです。
もっとも今やツッコミ大魔王と化したあゆむです。
なにかとツッコミを入れて、いちゃもんを付けそうではありますが。
「誰がツッコミ大魔王じゃい!」
「誰にツッコんでいるんですか? エア友達ですか?」
「肩に手を置いて、同志よ! みたく同情するのやめてくれませんか?」
「だ、だだだ誰がボッチですか! いますー! 友達いますー!」
ミカエルさん……友達いないんですね……
そりゃそうですよねえ。お兄さんが反逆して肩身が狭くなり、自身も序列一位の大天使。
それは孤独でエア友達を作ったとしても、誰が彼女を責めることができましょうか。
「そういう同情やめてくれますか?」
「そっちこそ誰にツッコんでるんだ? エア友達? あいた!」
「くだらないこと言ってないで早く栗を拾って来きてください」
「いやだから怨霊」
埒が明かない。そう思ったのか、ミカエルさんはここで三枚のお札……ではなくて、
三匹のアンポンタンを渡します。
「お前らかーい!」
「ハーイ、調子いい?」
「挨拶してくれないのかい?」
「バルーンいる?」
「騙されんぞ! ていうかそのネタ、偽字幕じゃないとわからんじゃろがい!」
ちょっと何言ってるかわかりませんが、アンポンタン達は小さく丸まってあゆむのポケットに入ります。
どうやら今回は協力してくれるようです。
あゆむは一抹の不安を覚えながらも、ふもとの山まで栗を拾いに行きます。
さてはて、どうなることやら……
…………
――――
ふもとの山では秋が深まり、木々が赤く色づいています。
下を見れば色付いた落ち葉の絨毯が広がり、大きな栗がゴロゴロと落ちています。
「ふむ……いい感じにあるな」
あゆむがせっせと栗をリュックに入れると、ここでアンポンタン達がポケットから飛び出し、
勝手に野球をはじめます。
「野球しよーぜー!」
「いぇーい!」
「バッチコーイ!」
アッチがピッチャー役となり、バッターボックスにはタンタ、ポンポが審判を努めます。
……………
さあここでプレイボールです。
アッチ選手、第1球! スライダー!
ストライクー! 空振りー!
タンタ選手、悔しそうにバットを振ります。
さあ会場のボルテージも上がってまいりました。
聞こえるでしょうか、この割れんばかりの声援が。
本当に聞こえたら、耳鼻科をオススメしまーす!
さあ注目の第2球! 打ったー!
伸びる! 伸びる! ここであゆむに当たる!
ホームラーーーーン!!
「ええ加減にせえ!」
おっとここであゆむは栗をぶん投げますが、アンポンタン達は体を伸ばして華麗にスルー。
「クソ……」とあゆむが悔しそうにしていた時です。
後ろからふわり……と金木犀のような香りが広がり、
あゆむが振り返るとそこには白いワンピースの美少女、ピピがおりました。
ピピはくすりと笑うと、あゆむの手を取り、リュックの中の栗を一瞥します。
「大きな栗ですね。良ければわたくしの家で食べませんか?」
「いやこれは……」とあゆむは言いかけますが、ピピは料理上手です。
「これだけあるし、まあいいか」
あゆむはミカエルさんのことは忘れ、ピピが暮らす山の上の家まで行きます。
…………
――――
「さあ、どうぞ」
「オシャレな家だな……」
そこは小さなログハウス。
中には部屋が一つとリビング、そして小さなキッチンがあります。
あゆむが中に入るとピピと同じ香り……金木犀のそれがふわりと広がり、
温かみのある木の家はあゆむをリラックスさせます。
「すぐ食事の用意をしますね」
ピピはあゆむが採ってきた栗を回収するとキッチンの方へ消えていきます。
あゆむはソファに腰掛けると大きなあくびを一つ。
「なんか眠いのう……」
あゆむは次第にまぶたが重くなり、そのままソファで眠ってしまいます。
…………
どれぐらい時間が経ったのでしょうか。
窓から外を見るとすっかり暗くなっていました。
「うーん……こんなに寝てたのか、もう帰らんとなあ」
暗い山は危険とはいえ、家ではミカエルさんが待っています。
何よりここは通い慣れた山。
あゆむはピピに軽く挨拶をしてから帰ることにします。
「ついでに土産ももらうか」
ピピはキッチンでしょうか。そこからはシィ……シィ……という低い音が聞こえます。
「ん……なんの音だ」
あゆむは音が気になり、ゆっくりと近づくとキッチンを覗きます。
すると、そこにいたのは目を赤く見開き、黒いオーラを放つピピ……いえ、怨霊でした。
そう、噂の怨霊はピピだったのです。
「見ましたね……? 浮気相手のところへ行くんですね?」
「ぎょえぇぇ!!」
あゆむは猛ダッシュで逃げますが、ピピも四つん這いでガササササと追いかけます。
「逃がしませんよ……!」
「怖いんじゃーい!!」
どれだけ逃げたでしょうか。あゆむはぜぇぜぇと肩で息をしながらも家を目指します。
しかし脇腹が痛く、これ以上は走れません。すると、視線前方には山の公衆トイレが見えます。
あゆむはここでやり過ごそうと、トイレへ逃げ込みます。
中はコケでいっぱいでアンモニア臭く、恐怖を一掃煽ります。
(ゴクリ……)
思わず緊張から唾を飲み込みます。
「……ここは逃げ場がない。ピピに嗅ぎつけられたら終わりじゃ」
あゆむはここで冷静になり、知恵を巡らせます。
(なにか良い手は……)
そんな事を考えていると、ポケットの中の感触を思い出します。
「そうだ!」
あゆむはポケットの中からミカエルさんが授けてくれた、アンポンタンのアッチを取り出します。
「おい、ピピが来たら代わりに返事をしてくれ!」
「仕方ねーな。行きな!」
アッチはあゆむの背中を叩くとトイレの個室へ入り、ピピを待ち受けます。
「恩に着るぜ」
普段、小憎たらしいアンポンタンですが、協力してくれるとなると、
一転して頼もしい存在に化けます。
あゆむはその場をアッチに任せると踵を返し、急いで下山します。
…………
その後、しばらくしてピピが追いつき、案の定トイレの中が怪しいと入ってきます。
…………
「あゆむ様……どこですか?」
ピピは赤く見開いた目で首を180度回しながらあゆむを探します。
「あゆむ様の匂いがします……」
ピピはその中の一つに目を付けますが、そこはアッチが隠れるトイレです。
「みぃぃつけた」
「ひ、ひぃぃぃ」
アッチはあゆむの声で怯えたフリをしてピピを引き付けます。
ピピはドアをどんどんと叩き、出てくるように促します。
「ほら、早く出てきてください……ほら」
「ひょぇぇぇぇ!!」
当初は上手くいっていた替え玉作戦ですが、アッチの怖がり方にピピは違和感を覚えたようです。
しばらく黙ると「あゆむの好きな人は……?」と尋ねますが、これは罠でした。
「ピピー!」
「引っかかりましたね! あの人はそんな答え方はしないんですよ!」
ピピはドアを破壊すると、アッチはアッカンベーをして飛んでいきました。
ヒュルルー。
…………
あゆむはなおも逃げますが、目の前には大きな川があります。
どうやら夢中で逃げるうちに道を間違えたようです。
「まずいな……引き返すか」
しかし、背後にはもうピピが迫ります。
あゆむはやむを得ずポンポを取り出します。
「橋になって助けてくれ!」
「しゃーねーな! 乗りやがれ!」
ポンポはビヨーンと伸びると、そのままの姿で橋になります。
こんなので大丈夫なんでしょうか。
しかし、贅沢は言えません。
あゆむはポンポの橋を渡りますが、ところどころで「いやーん」や「エッチーん」という声が。
「やかましいわ!」
あゆむはツッコミを入れつつ橋を渡りきると、ポンポはお尻ペンペンでピピを挑発します。
「お尻ペンペーン!」
「フン!!」
しかしポンポのその果敢な行動も、怒れるピピのパンチであえなく終了です。
ピュー!
「覚えてろー」
ピピは中に浮いて川をやり過ごすと、あゆむの背後に迫ります!
「追いつきましたよ……!」
「く、くそー! 仕方ない! タンタ、なんでもいいからなんかやれ!」
「タンタ様とお呼びー!」
タンタはそう言いながらも電話ボックスに化け、どこかに電話をかけます。
すると……
空からトリエルが落っこちてきました。
「ポテチー!」
「あるかー!! せめてエミにせー!!」
トリエルは頬を膨らませつつピューっと落ちて、あゆむにお姫様抱っこされると、
何を思ったのか、あゆむはトリエルにぶちゅー!
すると……
ポミーーーー!!!!
トリエルの顔が真っ赤になり、エミエルになりました。
「うーーーー!」
いきなりのぶちゅーにエミエルはあゆむを弾き飛ばします!
するとあゆむはピューっと飛ばされて、そのままお家へ「あーれー」
…………
――――
「ハッ!!」
気付けばそこはあゆむの部屋。
どうやらソファの上でウトウト昼寝をしてたようで、隣には顔を紅葉のように真っ赤にしたエミエルがいます。
「……エミか? どうしたんだ?」
「う、ううん……」
エミエルは手で口元を覆い、恥ずかしそうに言葉を詰まらせます。
それでも、彼女の視線はあゆむに固定されて、優しい茶色の瞳が揺れています。
あゆむは唇に残る、甘い違和感に気付きながらも、それをあえて口にせず、そっと彼女の華奢な肩を引き寄せます。
「もう一眠りするか」
そう言って、硬直するエミエルを軽く押すと、そのまま彼女の柔らかな膝の上に頭を乗せて枕にします。
「たまにはいいだろ?」
「うう……」
エミエルは顔から煙が出そうなほど赤くなりながらも、
あゆむの頭を幸せそうに目を細めながら撫でます。
彼女の手は少し汗で湿っていて、それでいて陽だまりのように温かく感じます。
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恐る恐る潜ったダンジョンの第1層で、蒼は虹色に輝くベビースライム「ソル」と出会い、即座に従魔として契約。さらに探索を進める中でベビードラゴンの「ルナ」、神狼種のベビーシルバーウルフ「クロ」を仲間に加えていく。そしてダンジョン初潜入の最中、蒼の体内に「究極進化システム」が覚醒する。ダンジョン内の素材をエボリューションポイント・ショップポイント・現金へと変換し、自身や従魔、親しい者を際限なく強化・進化させるこのシステムは、ガチャ機能・ショップ機能・タスク機能まで備えた、あまりにもチートじみた代物だった。
蒼は決める。「せっかくだから配信もしよう」と。農家兼ダンチューバーという前代未聞のスタイルで探索者ライセンスを取得し、「農家のダンジョン攻略配信」を開始した彼の動画はじわじわと注目を集め始める。
そんな中、隣のダンジョンの取材にやってきたのが、C級探索者ライセンスを持つ美人記者兼ダンチューバー・藤宮詩織だった。国際探索者協会の超エリート一家に生まれながら自らの道を切り開いてきた彼女は、蒼の「農家なのになぜかとても強い」という矛盾に鋭い鑑定眼を向ける。
隠れ最強の農家配信者と、本質を見抜く美人記者。チート級の従魔たちが賑やかに囲む日常の中で、二人の距離は少しずつ縮まっていく。ダンジョン攻略・農業・配信・ガチャ・そして予期せぬ大事件——波乱と笑いと感動が交錯する、最強農家の新米配信者ライフが、今幕を開ける。
普通の青春をしたいだけなのに~公立高校に入学した俺は静かに青春するはずだったのに隣の席の毒舌美少女と世話焼き幼馴染が放っておいてくれない~
常陸之介寛浩 @書籍販売中
ライト文芸
あらすじ
普通の青春がしたいだけだった。
なのに、隣の席の毒舌美少女はやたら鋭いし、世話焼き幼馴染は距離感が近すぎる。しかも学校には、見過ごせない理不尽まであふれている。
国家の中枢に連なる高位の家に生まれた神代恒一は、正体を隠して茨城県つくば市の県立高校へ入学する。
念願だった“普通の高校生活”を始めるためだ。
しかし、入学初日からその計画は大きく狂った。
隣の席になった金髪の留学生は、誰も寄せつけない美少女。辛辣で近寄りがたいのに、なぜか恒一のことだけは放っておかない。
一方、昔から恒一を知る幼馴染は、明るく世話焼きな顔で当然のようにそばにいる。だが彼女は、代々恒一の家に仕えてきた忍びの家系の娘でもあった。
秘密を抱えた主人公。
彼を見抜こうとする毒舌ヒロイン。
恋心と忠誠をこじらせた幼馴染。
そして学園には、親の権力を笠に着る生徒や理不尽な教師たち。
静かに青春したい主人公の願いとは裏腹に、日常はどんどん騒がしくなっていく。
それでも彼は、誰かが傷つけられる理不尽だけは見過ごせない。
つくば市の県立高校を舞台に、秘密と恋と騒動が交錯する青春ラブコメ。
笑えて、焦れて、ときどき痛快。
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