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第三話:隣り合わせの距離、遠い魔法
しおりを挟む正直に言えば、僕は彼女のことを以前から知っていた。
一回生の最初に行われた「フレッシュマンプログラム」と呼ばれる、学生同士の交流を深めようという、僕のような人間にとっては地獄のような授業。そこで、高峰千里は僕と同じグループだったのだ。
担当教官は、いかにも「教育者」といった顔の熱血漢な教授。僕はその強引な熱気が苦手で、結局その授業の評価は「C」だった。
彼女はその時も、どこか浮世離れした空気を纏っていた。けれど、僕は彼女の名前を名簿で知っているだけで、一度もまともに話しかけたことはなかった。
だから、あの試験会場で彼女が僕を「人見知りの君」と呼び、唐突に「魔法使いだ」と名乗った瞬間。
それは僕にとって、数ヶ月越しの、本当の意味での「はじめまして」だったのかもしれない。
◇
その日を境に、僕の受ける講義と彼女の受ける講義が重なるのは、ごく当たり前のことになっていった。
講義室の、決まって一番左側の前の席。
僕がそこに座ると、いつの間にか彼女も隣に座っている。
教授の退屈な話を右から左へと受け流しながら、僕は時折、隣で熱心にノートを取る彼女の横顔を眺めていた。
彼女の指先には、今日もあの真っ白なミトンがある。
……ねえ、千里さん。今日も、それしてるんだね。
ある講義の合間、僕はたまらず声をかけた。今日はもう四月一日ではない。嘘を吐く必要のない、ありふれた四月の日だ。
けれど、彼女は当然のようにミトンをはめた手で重い教科書をめくっている。
「うん? だから言ったでしょ、装備品だって。私はまだ修行中の身だから、これを外したら、この大学の敷地くらい、一瞬で桜の森に変わっちゃうかもしれないよ?」
彼女は「ぱふぱふ」とミトンを合わせて笑う。
嘘だ。
そんなこと、あるはずがない。
けれど、窓の外で舞い散る白すぎる桜を見つめる彼女の瞳は、昨日よりも少しだけ澄んでいて、嘘を吐いているようには見えなかった。
ミトンの中身を彼女が僕に見せてくれる日はくるのだろうか。
「人見知りの弟子くん。あんまりじっと見ると、呪いをかけちゃうよ?」
……弟子『くん』、はやめてよ
「いいじゃん、可愛いんだから」
「僕」と「千里さん」の関係は、そんな風に静かに、けれど確実に、僕の灰色の日常を塗り替えていった。
彼女のつく宝石のような嘘。
僕の頑なな人見知り。
その二つが混ざり合って、不思議な魔法の時間が流れていく。
――けれど、その魔法には、僕がまだ知らない「期限」があることを、当時の僕は想像だにしていなかった。
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