【完結】妊娠した愛妾の暗殺を疑われたのは、心優しき正妃様でした。〜さよなら陛下。貴方の事を愛していた私はもういないの〜

五月ふう

文字の大きさ
5 / 80

4. 仕掛けられた罠

しおりを挟む
「アリス様……アリスを助けるために……レイができることなら何でもしますっ。」

「ありがとう。私は大丈夫よ。」

 アリスは感情を表に出さない。いつも完璧な正妃としてふるまい、誰にでも優しくふるまう。その相手が平民であろうと、夫の愛人であろうと変わらない。

「アリス様は……なぜそんなにお優しいんですかぁ……。」

 レイはアリスに抱きつき、頭をぐりぐりと胸に押し付けた。

「私は優しくないわ。感情がない冷たい女なの。」

「アリス様は……冷たくなんてありません……みんなアリス様が大好きなんです。」

 ”感情がない冷たい女”

 アリスにその言葉を投げつけたのは、レオナルドだった。貴族の多くはアリスのことを疎ましく思っている。

 ”このままではスウェルド王国は滅んでしまいます!貴族が贅沢を辞め、国民と共に豊かになっていくべき時なのです!”

 正妃として、アリスは貴族たちに豪遊を辞めるように言い続けてきた。だが貴族たちは聞く耳を持とうとしない。

 すでに近隣諸国では、民衆の革命によって王家が滅んだという噂を聞く。同じことがスウェルド国で起こったとしても、何の不思議もない。

 「ねえ、レイ。みんなに伝えてほしいことがあるの。」

 アリスはレイの目をまっすぐに見つめる。

 ――――私の味方でいてくれて、本当にありがとう。

 城に使える元孤児の騎士やメイドたちは皆、アリスを慕ってくれている。

 ”アリス様だけは、特別ですから!”

 元々貴族を恨んでいた彼らの言葉に、アリスは救われていた。いくら、支援を重ねたとしても、アリスは紛れもない貴族。平民の犠牲の上で成り立つ自分の生活に、いつも違和感と申し訳なさを感じていた。

 「もしも私がいなくなっても、復讐しようって考えちゃだめ。これまで通り、平和に生きてちょうだいって。」

 「アリス様……?いなくなったらって……どういうことですか?」

 「約束できる?」

 レイは大きく首を振る。

「嫌ですっ。アリス様はなんにも悪くないんですよ?!レイたちが、アリス様が無実だと証明しますからっ。だから……だから、いなくならないでくださいアリス様っ。」

 レイの目から大粒の涙がこぼれる。

 ――――私のために泣いてくれるのね。

 アリスはそっとレイの涙をぬぐう。

 ――――私は感情をどこかにおいてきてしまったのかしら。

 絶望的な状況なのに、アリスの心の中は空っぽだった。涙を流すレイの言葉がどこか他人事のように思える。

「私は……いない方がいいのよ。」

 ロゼッタがレオナルドの子供を産めば、彼女は正式にレオナルドの妻になるだろう。その時に、アリスの存在が邪魔になることは間違いない。ロゼッタの背後には、フィリップス家が付いている。いくらタラ-レン家であろうと、アリスを守りきれないだろう。

 ――――きっとまた、私を陥れるための罠が仕掛けられる。

「アリス様……。」

「止めないで……レイ。もう、決めたのよ。私は……この城から脱出するわ。罰がくだってからでは、遅いもの。」

 罪を犯した正妃として、命を落とすつもりはない。

「レイもついていきます!」

 アリスは微笑みを浮かべて、首を振る。

「ありがとう。レイ。だけど、私は一人で城を出るつもりよ。」

「アリス様……。」

「心配しないで。私は大丈夫。」


 小さく微笑みを浮かべて、アリスは部屋を出た。部屋を出たアリスが向かうのは、国王レオナルドの部屋。

 ――――最後に会いたい人があの男だなんて馬鹿みたいね。

 かつて、アリスとレオナルドはお互いに信頼し合い、愛し合っていた。今ではもう、おとぎ話のように遠い話だけれど。

 
    ◇◇◇


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】お世話になりました

⚪︎
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【1月18日完結】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。

「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります

恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」 「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」 十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。 再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、 その瞬間に決意した。 「ええ、喜んで差し上げますわ」 将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。 跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、 王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。 「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」 聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。 学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。 そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。 それなら、婚約を解消いたしましょう。 そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

処理中です...