【完結】妊娠した愛妾の暗殺を疑われたのは、心優しき正妃様でした。〜さよなら陛下。貴方の事を愛していた私はもういないの〜

五月ふう

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30. 国王様と父親

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 スウェルド城北塔。そこは正妃アリスがかつて住んでいた場所だ。北塔の一角は畑になっており、収穫の時期を迎えた作物たちが青々と茂っている。

 スウェルド城北塔には、いまだ多くの孤児出身の兵士やメイドがとどまっていた。今日はアリスが作った畑の野菜を収穫をする日だ。

「さあ、みんな。始めよう。」

 兵士アルバートの号令で、畑に集まった人々は作業に取り掛かった。メイドや兵士たちの脳裏にはアリスの笑顔が浮かんでいた。畑の手入れを誰よりも熱心に行っていたのは正妃アリスだ。

「きっと……来年は、アリス様が戻ってきてくれるよ。」

 目元の涙をこすって、メイドのレイは呟いた。レイはアリスのことを姉のように慕っていたメイドである。

「いつまで……夢を見てるんだ……。アリス様は亡くなられたんだ。」

 暗い表情のまま、アルバートはスコップで土を掘った。今日収穫するのは、お芋やカボチャである。それらの野菜は保存がきくため、アリスが好んで育てていたのだ。

「いいえ。きっとアリス様は生きているよ。」

「なぜそう思うんだ?」

「だってアリス様だよ?レイはアリス様より強い人を知らないもん。」

 レイは目を真っ赤に腫らしたまま、お芋の土を払った。正妃アリスが城を出て行方不明になってから、10日。だが正妃は未だ見つかっていない。レイのように、アリスがまだ生きていると信じる者は多い。

「希望を持つと辛いだけだ。」

「つらくたって信じているよ。あ……タラ-レン公爵……。どうなさいましたか?」

 レイはお芋を両腕にもって、立ち尽くしているタラ-レン公爵に声をかけた。彼はアリスの父親である。彼が作物の収穫に参加するのははじめてだった。

「この芋を、どうしたらいいかわからなくてな……。」

「この、青いカゴの中に入れてください。」

「わかった……。」

 タラ-レン公爵は両腕に抱えたお芋をそっとかごの中に置くと、また新しいお芋を捜しに行った。顔や服が土で汚れている。だが彼は気にしていないようだった。

「タラ-レン公爵は……人が変わったみたいだね。」

 その姿を見たレイがぽつりとつぶやく。

 タラーレン公爵は、厳格で高慢な性格の貴族として知られていた。彼は平民を見下し、自分の地位や権力に固執する典型的な貴族だった。国民の問題や要望に対しては耳を貸さなかったため、多くの人々から非難の対象となっている。

「ああ。前はアリス様の父親だと…正直信じられなかったけどな。」

「それでもやっぱり、アリス様のことを大切に思っていたんだね。」

 タラ-レン公爵は、国民のために尽くすアリスをひどく怒鳴りつけた。アリスの努力や熱意に心を開くことはなく、彼女に冷たく当たっていた。

 しかし、心の奥底では、アリスが幸せになってほしいという願っていたのだろう。アリスが国王の妻として幸せな未来を歩んでいくことを切望していたのだ。

 しかし、アリスは突然姿を消した。タラーレン公爵は深い悲しみに打ちひしがれている。無力感と後悔に苛まれ、せめて娘が残したものを守ろうと決意したのだった。

「タラ-レン公爵は……投獄されないといいけどな。」

「フィリップスのくそ野郎が……。」

「あまり大きい声で言うな。あいつに逆らうものは、次々捕まってるんだ……。」

 アルバードはレイを諫めた。

 スウェルド城におけるフィリップスの権力はますます強くなっている。

 レオナルド国王は、アリスがいなくなってから可笑しくなった。狂ったように笑ったり、急に泣き出したりする。銀髪の女性を集め、次々に投獄しているらしい。

「そういえば、陛下が最近連れてきた14歳くらいの女の子が、少しアリス様に似ているらしいわ。」

「……だからどうした?アリス様はアリス様だけだ……。」

「もちろんそうだけどさ……陛下がその子を優しくお世話してあげて、側においているんだって。やっぱり陛下はアリス様を愛していたんじゃないかって……。」

 レイがそう口にしていると、向こうから華美な格好をした青年と、少女が歩いてくるのが見えた。アリスがいない今、貴族が北塔にやってくるのは珍しい。

「ん?こっちに向かってくる人って、陛下じゃないか?」

「ええ?!ほ、ほんとだ!」

 国王レオナルドは銀髪に緑の瞳の少女を引き連れ、北塔の畑にやってきた。畑の空気が一気に殺気立つ。ここにいる者はアリスを慕うものばかりだ。皆、国王レオナルドを恨んでいる。

「おい!!タラ-レン、ここにいるのか?!」

 レオナルドは畑に向かって叫んだ。

「アリスを探しに行くぞ!早く出てこい!」
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