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32. 国王様と愛妾
しおりを挟む「すぐに出発する!一刻も早く準備を整えろ!」
スウェルド城王の間。王座に腰掛けるレオナルドは兵士たちに命令した。国王レオナルドの傍には銀髪で緑の瞳を持つ少女が寄り添っている。
”国王レオナルドは、いまだに正妃アリスの亡霊を追いかけているのだ。”
多くの貴族たちは、国王レオナルドの頭がおかしくなってしまったのだと噂した。
「陛下と共に、アリス様を捜しに行くことになった!希望する者は名乗り出てくれ!」
アルバートの呼びかけによって、50名以上の兵士と20名以上のメイドが集まった。その多くはアリスを慕う元孤児たちだ。
「俺も、アリス様を捜す一団に参加します!」
「私も‥‥まだアリス様がいなくなったなんて思えません!」
その中から慎重に、アルバートは一団に参加するメンバーを選んだ。スウェルド国の各地で反乱がおこっている。国王レオナルドを危険にさらすわけにはいかない。
「とにかく沢山、食料と武器を持っていけ!」
レオナルドの命令で、同行する兵士たちが運ぶ馬車の中には、大量の食糧が積まれていた。これだけの食糧があれば、1つの村が冬を越せるだろう。その食料はスウェルド国の貴族たちにとっても、冬を越すための貴重な食糧だったのだが、誰もレオナルドに逆らうことはできなかった。
「陛下のお言葉のとおりにいたします。」
スウェルド国は王権主義国家であり、国王レオナルドが最高権力者として君臨している国だ。レオナルドは法律や他の権力によって一切制限されることはない。彼の意思こそが絶対で、全てを決定できる存在である。
「当然だ!」
実際には、フィリップス公爵たちは王レオナルドを一切政治に関わらせようとしない。レオナルドはお飾りの存在になっていた。だが、形式上、彼は間違いなく、そういう絶対的な存在だ。だから、城の外に出たいとレオナルドが望めば、彼はいつでもそれを実行することができただろう。そんなことはこれまで、一度もなかったのだが。
「陛下…!城の外は危険です!お気を確かに!」
「うるさい!もう決めたのだ!」
一部の貴族がレオナルドを止めたが、彼は立ち止まらなかった。
準備が整い、レオナルドが正門に向かおうとしたとき、一人の女性が彼を引き留める。
「お待ちください!陛下!」
切羽詰まった表情でレオナルドを引き留めたのは愛妾ロゼッタ。彼女には決して知られてはいけない秘密があった。
ーーーー陛下は全てを気づいているのかしら……?
”ロゼッタが妊娠している子供は、レオナルド国王の子ではない”
それがロゼッタが抱える秘密だった。
◇◇◇
その事実を知っているのはロゼッタとフィリップス公爵、それから本当の父親だけ。
『このことを誰にも言ってはならぬぞ。ロゼッタ。これは儂とお前だけの秘密だ。』
『かしこまりました。フィリップス公爵。』
ロゼッタは数ヶ月前に、フィリップス公爵に紹介された男性と関係を持った。その男性は金髪に青い瞳を持ち、レオナルドによく似た容姿だった。おそらく、フィリップス公爵がわざとレオナルドに似た男を連れてきたのだろう。子供が産まれたときに、父親が違うとばれないように。当時すでに、ロゼッタはレオナルドの愛人であった。
『その男との間に子供を作るのだ!』
本来の父親の名前や出自についてロゼッタは何も知らない。だが、フィリップス公爵に命じられるがまま、彼女はその男に抱かれた。下級貴族のロゼッタにとって、フィリップス公爵の言葉は絶対だ。それに、ロゼッタには、フィリップス公爵の狙いに薄々気が付いていた。フィリップス公爵に従えば、レオナルドを手に入れられる。ロゼッタにはそんな予感があった。
『貴方の命令する通り、あの男の子供を身ごもりました。フィリップス公爵。』
『でかした!ロゼッタ!その子供は未来の国王になる子だ!』
『やはりそういうことですか!』
『その子供を国王レオナルドの子供として発表するのだ!』
妊娠の事実を知った時、フィリップス公爵は大喜びだったが、ロゼッタは恐ろしかった。父親を偽り、お世継ぎができたことにするなんて、許されることではない。だが、次第にロゼッタから恐怖は消え、王妃になることへの喜びでいっぱいになった。
『ふふふ、わたくしが、王妃になるのね。』
そして、ロゼッタはまたフィリップス公爵に命令されるがまま行動し、まんまとアリスを城から追い出した。全てが上手くいっている。そう思っていたのだが‥‥‥。
◇◇◇
「僕にはわかるぞ……お前は嘘をついてるのだろう!」
レオナルドはそう言ってロゼッタを睨みつけた。
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