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39.正妃様と隣国
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「待て、そんな足でどこに行くんだよ?」
ルーカスが起きてきた。おそらく、最初から起きていたんだろう。
「今までありがとう……ルーカス。私はフルート村を離れるわ。」
ルーカスは歩いてアリスの傍に近づいてきた。手を伸ばせば届く距離にルーカスが立っている。昨日まで身近に感じていたルーカスの存在がなぜか今は遠く感じられた。そして、同時に特別な存在であることがアリスには明確に分かった。
ーーーーねえ、ルーカス。私はあなたに惹かれているの。
背筋をまっすぐに伸ばして、アリスはルーカスを見つめた。彼女は、自分の想いをルーカスに伝えるつもりはない。
「まだ、体が治っていないし、銀髪狩りだっている。もう少し、ここに残ってもいいんじゃないか?」
思った通りにルーカスはアリスを引き留めた。ずっと彼の言葉に甘えてとどまっていた。しかし、足が治るまで彼の傍にいたら、それだけルーカスを危険にさらすことになる。特別だという自覚が、アリスに恐怖をもたらしていた。
「止められると思ったから、黙っていたの。」
アリスの声はか細く、震えていた。涙がこぼれそうになるのを必死でこらえる。夫に、暗殺を疑われ城を追い出されても、こんな気持ちにはならなかったのに。
「一人で、どこに行くつもりなんだ?」
ルーカスはアリスに問いかけた。
ーーーーどこに行こうかしら。
アリスは何も考えていなかった。ただ、ルーカスから離れなくてはいけない。その一心だった。
「橋を渡って隣国ゴアル国に行くわ。」
アリスは思いつきで言葉を発したが、なぜかそれが最善の選択肢に思えた。
ゴアル国は、スウェルド国の隣国であり、アリスはその国について様々な噂を聞いていた。ゴアル国こそが、スウェルド国を救うカギになるのではないかとアリスはずっと前から考えていたのだ。
「そこに、私のやるべきことがあるかもしれないから。」
ゴアル国は、平和的な民主化が進んでおり、経済的にも大きな発展を遂げていると聞く。その発展のおかげでゴアル国の国民の生活はどんどん豊かになっているとのこと。
スウェルド国の人々が貧困に苦しんでいる現状を考えると、ゴアル国が援助の手を差し伸べてくれる可能性があるとアリスは感じていた。ゴアル国からの支援が、スウェルド国の未来を少しでも明るくする手助けとなるかもしれないのだ。
「危険だぞ。この間も、俺の知り合いが兵士に捕まって連れていかれたんだ。」
「危険なことはわかっているわ。」
ゴアル国へ行く唯一の方法は、この2つの国をつなぐ大きな崖にかかる橋を渡ること。しかし、現在のスウェルド国は鎖国状態であり、国境を越えてゴアル国に行くことは制限されている。
それでも、スウェルド国からゴアル国へ行こうとする人々は後を絶たない。多くの人々が橋を渡ろうと試み、その多くが捕まってしまっている。彼らはゴアル国に新たな希望を見出そうとしているのだ。
「それでもいかなくちゃ。この国に私の居場所はもうないの。」
「無謀だ。」
「だいじょうぶ。きっと成し遂げてみせるわ。」
アリスは笑顔で胸を張った。不安が心をよぎる一方で、それをルーカスには見せない。アリスは、誰よりも強くありたいと願っている。
「もう……戦わなくていいんじゃないか?アリスはもう十分頑張ったよ。」
ルーカスは今まで一度も、アリスの境遇について尋ねたことはなかった。なぜゴアル国に行かなくてはいけないのか、何をなしとげたいと望んでいるのか、気になることは沢山あるはず。だがルーカスはただ優しく、アリスをこの場にとどめようとする。
やはり、ルーカスは何かを知っているのだ。
「ねえ、ルーカス。昔私ね、ある人に助けられたの。金髪に黒い瞳を持った人だったわ。」
ーーーあなたと同じ金髪に黒いひとみ。豪快な笑顔が素敵な人だった。あの日からずいぶん時間が経つけれど、旅人さんの顔を忘れてたことはないわ。
「……。」
ルーカスは黙ってアリスを見た。彼の目が少し揺らいだのをアリスは見逃さなかった。
「でも彼は、私を助けたせいで……いなくなってしまったの。」
アリスの言葉にルーカスは視線を落とした。
「本当に、アリスのせいなのか?」
ゆっくりとかみしめるようにルーカスが言う。
「ええ。間違いなく。」
アリスを助けなければ、旅人さんは今もどこかで料理を作りながら素敵な笑顔を浮かべていただろう。旅人さんの夢であった食堂を開いて、美味しい料理をふるまっていたかもしれない。
「責任を感じすぎることはない。きっとアリスを助けたその人だって、それを望んでいないさ。」
ーーーーまるで、私を助けた人に会ったことがあるような言い回しね……。
ルーカスが起きてきた。おそらく、最初から起きていたんだろう。
「今までありがとう……ルーカス。私はフルート村を離れるわ。」
ルーカスは歩いてアリスの傍に近づいてきた。手を伸ばせば届く距離にルーカスが立っている。昨日まで身近に感じていたルーカスの存在がなぜか今は遠く感じられた。そして、同時に特別な存在であることがアリスには明確に分かった。
ーーーーねえ、ルーカス。私はあなたに惹かれているの。
背筋をまっすぐに伸ばして、アリスはルーカスを見つめた。彼女は、自分の想いをルーカスに伝えるつもりはない。
「まだ、体が治っていないし、銀髪狩りだっている。もう少し、ここに残ってもいいんじゃないか?」
思った通りにルーカスはアリスを引き留めた。ずっと彼の言葉に甘えてとどまっていた。しかし、足が治るまで彼の傍にいたら、それだけルーカスを危険にさらすことになる。特別だという自覚が、アリスに恐怖をもたらしていた。
「止められると思ったから、黙っていたの。」
アリスの声はか細く、震えていた。涙がこぼれそうになるのを必死でこらえる。夫に、暗殺を疑われ城を追い出されても、こんな気持ちにはならなかったのに。
「一人で、どこに行くつもりなんだ?」
ルーカスはアリスに問いかけた。
ーーーーどこに行こうかしら。
アリスは何も考えていなかった。ただ、ルーカスから離れなくてはいけない。その一心だった。
「橋を渡って隣国ゴアル国に行くわ。」
アリスは思いつきで言葉を発したが、なぜかそれが最善の選択肢に思えた。
ゴアル国は、スウェルド国の隣国であり、アリスはその国について様々な噂を聞いていた。ゴアル国こそが、スウェルド国を救うカギになるのではないかとアリスはずっと前から考えていたのだ。
「そこに、私のやるべきことがあるかもしれないから。」
ゴアル国は、平和的な民主化が進んでおり、経済的にも大きな発展を遂げていると聞く。その発展のおかげでゴアル国の国民の生活はどんどん豊かになっているとのこと。
スウェルド国の人々が貧困に苦しんでいる現状を考えると、ゴアル国が援助の手を差し伸べてくれる可能性があるとアリスは感じていた。ゴアル国からの支援が、スウェルド国の未来を少しでも明るくする手助けとなるかもしれないのだ。
「危険だぞ。この間も、俺の知り合いが兵士に捕まって連れていかれたんだ。」
「危険なことはわかっているわ。」
ゴアル国へ行く唯一の方法は、この2つの国をつなぐ大きな崖にかかる橋を渡ること。しかし、現在のスウェルド国は鎖国状態であり、国境を越えてゴアル国に行くことは制限されている。
それでも、スウェルド国からゴアル国へ行こうとする人々は後を絶たない。多くの人々が橋を渡ろうと試み、その多くが捕まってしまっている。彼らはゴアル国に新たな希望を見出そうとしているのだ。
「それでもいかなくちゃ。この国に私の居場所はもうないの。」
「無謀だ。」
「だいじょうぶ。きっと成し遂げてみせるわ。」
アリスは笑顔で胸を張った。不安が心をよぎる一方で、それをルーカスには見せない。アリスは、誰よりも強くありたいと願っている。
「もう……戦わなくていいんじゃないか?アリスはもう十分頑張ったよ。」
ルーカスは今まで一度も、アリスの境遇について尋ねたことはなかった。なぜゴアル国に行かなくてはいけないのか、何をなしとげたいと望んでいるのか、気になることは沢山あるはず。だがルーカスはただ優しく、アリスをこの場にとどめようとする。
やはり、ルーカスは何かを知っているのだ。
「ねえ、ルーカス。昔私ね、ある人に助けられたの。金髪に黒い瞳を持った人だったわ。」
ーーーあなたと同じ金髪に黒いひとみ。豪快な笑顔が素敵な人だった。あの日からずいぶん時間が経つけれど、旅人さんの顔を忘れてたことはないわ。
「……。」
ルーカスは黙ってアリスを見た。彼の目が少し揺らいだのをアリスは見逃さなかった。
「でも彼は、私を助けたせいで……いなくなってしまったの。」
アリスの言葉にルーカスは視線を落とした。
「本当に、アリスのせいなのか?」
ゆっくりとかみしめるようにルーカスが言う。
「ええ。間違いなく。」
アリスを助けなければ、旅人さんは今もどこかで料理を作りながら素敵な笑顔を浮かべていただろう。旅人さんの夢であった食堂を開いて、美味しい料理をふるまっていたかもしれない。
「責任を感じすぎることはない。きっとアリスを助けたその人だって、それを望んでいないさ。」
ーーーーまるで、私を助けた人に会ったことがあるような言い回しね……。
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