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44.正妃様と犠牲
しおりを挟む「すまない!俺のせいでルーカスが……。」
男が何を言おうとしているのか、アリスにはわからない。だが、ルーカスは何か悪いことに巻き込まれているようだ。
もしかしたらそれが、3か月後に訪れる”ある役目”なのかもしれない。
「どういうこと?」
「ルーカスがフルート村の犠牲者になることが決まったんだ……。」
「犠牲者……?」
アリスはただ、男の言葉を繰り返した。
「この国では……税を払えなかった時、村で一人犠牲者を差し出さなくてはいけない。」
「……何があったか、詳しく説明して頂戴。」
男の名前はセスと名乗り、ルーカスの親友だと言った。どうやら昨日の昼間、アリスと話した少年の父親らしい。
セスは昨日の昼間、村長の家で何があったのかを教えてくれた。
◇◇◇
フルート村の村長の家には、30人ほどの男たちが集まっていた。村長の家はしんと静まり返っている。スウェルド王国が決めた恐ろしい法律を聞かされていた。
”税金を払えない村は、一人犠牲者を差し出さなくてはいけない”
犠牲者として、兵に連れていかれたものがどんな目に合うかはわからない。だが、人間として幸せな生活を望めないのは確かだろう。
これまで罪を犯して兵に連れていかれたものは皆、消息を絶っており、村に戻ってきたものは一人もいない。噂では奴隷のようにはたらかされた後、どこかに売り飛ばされたと聞く。
「本当は……誰も犠牲に出したくない……。だが、フルート村を存続させるためには……スウェルド王家に従うしかないのだ……。」
村長は苦渋の表情を浮かべた。
「このままスウェルド王家に従っていたら……俺たちみんな死んじまうよ!もう戦うしかないんじゃないか……?」
村人の一人が声をあげた。
「だが……儂らはもうすでに……多くの仲間を失った。これ以上は犠牲を増やすだけだ。」
村長は首を振り、戦いを拒否した。
フルート村にはかつて、もっと多くの男たちがいた。だが、スウェルド国がゴアル国との貿易を禁じ、暮らしが苦しくなってから、フルート村の男たちは減り続けている。橋を渡ってゴアル国に逃げようとした者や、反乱に参加するため他の村に行ってしまった者たちもいる。
今フルート村に残っているものは、必死で今の暮らしを守る、穏やかな者たちばかりだ。抵抗するには、戦力が少なすぎる。
「それでは……赤い印の付いたくじを持ったものが……最初の代償となる者だ。さぁ、名乗り出てくれ。」
話し合いがおこなわれたが、結局くじで当たった不運な人間が犠牲者になることが決まった。
「ふう、良かった。セス?」
幸運にも、ルーカスはその外れくじを引かなかった。だが、セスは顔を真っ青にしている。彼が持っているくじには赤い印が付いていた。
「俺、当たっちまったよ……。まだ……家族の元を離れるわけにはいかないのに……。」
するとルーカスは真剣な表情でセスに言った。
「そのくじ、俺によこせ。」
「できないよ、ルーカス。お前は俺の親友だろ……?」
「ああ、俺たちは親友だ。だからこそ、その役目は俺が引き受ける。」
「……だけど。」
「いいんだ。俺には家族がいない。セスとは違う。」
「お嫁さんがいるじゃないか!結婚したばかりだろう?」
「本当は、結婚しただなんて嘘っぱちだ。」
そう言ってルーカスはセスから、赤い印のついたくじを奪い取った。
「おいっ!どういうことだよ?!」
セスが尋ねても、ルーカスは小さく微笑むだけだった。
「さぁ、早く名乗り出てくれ。」
「ほいほい。俺だ。」
セスが止める前に、ルーカスは名乗りでた。当たりくじのものが現れたことで、その場には安堵が広がった。それから、暗い表情でルーカスを見る。
この場に集まっている村人たちは皆、顔見知りで大きな家族のようなものだった。かつて、村が裕福だった時はルーカスが営む食堂に皆が食べにきていた。誰も犠牲者になってほしくない。だが、自分が犠牲者になるわけにもいかないのだ。
「そうか……ルーカス。」
村長は、じっとルーカスを見た。村長はかつて、今は亡きルーカスの祖父と友人だった。生まれたときからルーカスを見守ってきた祖父のような存在である。
「できるならば……儂が代わってやりたいのだが……。」
犠牲者となりうるものの年齢は決まっている。40歳以下でなくては、犠牲者となることはできない。年老いた村長には、ルーカスの代わりになることはできなかった。
「最初の代償となるものは、ルーカス・オルソンだ。すまない……ルーカス。村のためだ。」
セスは拳を握り締め、歯を食いしばっている。そんなセスの肩をルーカスがポンポンとたたいて言った。
「ああ、しょうがないから、この村のヒーローになってやるよ。」
◇◇◇
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