【完結】妊娠した愛妾の暗殺を疑われたのは、心優しき正妃様でした。〜さよなら陛下。貴方の事を愛していた私はもういないの〜

五月ふう

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50. 国王様と馬鹿

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 リュカの涙に、レオナルドが戸惑いの声をだす。

 ーーーーなぜあたしは泣いているんだろう?

 レオナルドは人々を苦しめる最低の王。みんなの希望であった正妃様を城から追い出した人物。それでも、レオナルドの悩みに満ちた日々を思うと涙が込み上げてきた。

 「わかるよ……。レオナルド。」

 リュカはそっとレオナルドの頭を撫でた。さっきまで怒り狂っていたはずのレオナルドはどうしたらいいかわからない、という様子でリュカを見ている。

 ーーーーレオナルドはあたしに似ているから、こんなに悲しくなるのかな?

 リュカも感情を抑えるのが苦手な人間だ。

 “国王レオナルド!お前を殺してやりたい!”

 初めて会った時、リュカはそう言ってレオナルドを怒鳴りつけた。だけど今、リュカはレオナルドの悲しみに共感し、泣いている。苦しいと言って泣くレオナルドにをこれ以上傷ついてほしくない。

 元々ゴアル国で生まれ育ったリュカは、どうしてもスウェルド国になじむことができなかった。銀色の髪は珍しく、村の子供たちとは容貌が異なるリュカは、常に浮いた存在。彼女はいつも一人ぼっちで強がっていた。

「苦しかったよね。」

「お前に……わかるもんか!おいっ泣きやめよ!同情なんてされたくないっ!」

 そう言いながらレオナルドは、リュカの涙を親指でぬぐった。

「あたしも……父さんがいなくなる前に、酷く喧嘩したことがある。こんな事態になったのはお父さんのせいだ。早くゴアル国に帰りたいって、お父さんに言ったの。」

「……だから何だ?!」

「あたしの言葉が無ければ、お父さんは無茶をしなかったかもしれない。お父さんを追い出したのはあたしだもん。だから……レオナルドの気持ちよくわかるんだ……。」

 ゴアル国に戻れないことが辛くて、リュカは父を非難した。あの日のことをリュカはいつまでも忘れられない。レオナルドもきっと、アリスを城から追い出した日のことを、同じように忘れられないんだろう。

「……お前は俺とは違う!結局馬鹿げた行動を起こしたのは、お前の父親だろう?お前のせいではない!」

 レオナルドはリュカを怒鳴りつけ、それから乱暴にリュカの頭を撫でた。リュカがレオナルドにしたのと、同じように。

「……そう、かな。」

「……泣かれるのは鬱陶しいんだ。アリスを見つけたら……しょうがないから次はお前の父親を捜してやる。」

「え……?」

 レオナルドの言葉に、リュカは大きく目を見開いた。

「お前のような無礼な女の父親だ。どうせ今もどこかで生きているだろう。」

 レオナルドはリュカから目をそらして言った。

「ありがとう。レオナルド。」

「ふんっ。」

 レオナルドは窓から外を眺めた。

「ね、レオナルド。あたしたちちょっと似ている気がしない?」

 リュカはレオナルドの顔を覗き込んだ。

「一緒にするな!」

「レオナルドのことをもっと知りたいな。」

「お前に、僕のことがわかるもんか!」

「わからないけど、わかりたいと思うのはあたしの自由でしょ?」

 レオナルドはリュカを驚きの表情で見つめる。

「……僕は王だっ!お前が僕のことを知らなすぎなのだっ!」

「でもレオナルドはあたしの王じゃないもの。」

 リュカの生まれたゴアル国では王政が崩壊している。王を敬う感覚がリュカにはない。

「お前にとって……僕は王ではない……だと?」

「うん。ただのレオナルド。」

 大切な人を失い、後悔し、寂しさを感じるただの男。レオナルドの目が微かに揺れた。

「馬鹿なやつ……。」

 そう呟いた後、レオナルドは目を細め、口角をあげた。

「あ!笑ってる?!」

「リュカがあまりに無礼だから、あきれただけだ。」

 レオナルドは右手で口元を抑える。

 ーーーー初めてリュカと呼ばれたかもしれない。

 レオナルドに名前を呼ばれて、リュカの心は踊った。

「もう一回呼んでよ。名前。」

「面倒な奴だ。」

「ね、暇なんだし、良いじゃん。」

「リュカ。」

「ふふふ。」

「これでいいか?」

「うん。」

 にっこりと笑って、リュカはレオナルドが眺める窓の外を一緒に見た。


 ーーーーねえ、そろそろ村に着くよ。

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