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77.元王妃様と国王様の再会
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(レオナルドのその後)
風は冷たく、白い雪が塔の上に薄く積もっている。レオナルドが国王の座を退任し、スウェルド国がゴアル国に吸収されてから、一ヶ月の月日が流れていた。
「参りましょう。」
ゴアル国の兵士がレオナルドに声をかけた。
「ああ。」
元国王レオナルド。彼の顔は少しやつれていたが、その表情はつきものが落ちたかのように穏やかである。質素な白いシャツを身にまとい、手首は鎖でつながれている。
レオナルドはこれまでスウェルド国民を苦しめてきた罪を負い、無期限で塔に投獄されることが決まった。事情を知る多くの元スウェルド国の兵士は、レオナルドの罪を否定した。
『レオナルド様は、我々を救ったのです!なぜ貴方が罪に問われなくてはならないのですか!』
ゴアル国側も、自らの過ちを認めて、国王の退任を決めたレオナルドの罪を問うつもりはなかった。だが自ら投獄される道を選んだのはレオナルドだ。
『ふんっ。滅んだ国の国王が許され、自由に生きられるわけないだろうが、馬鹿が。どうせ投獄されずとも、スウェルド国の亡霊に利用され、悲惨な人生を送るだけだ。ならば塔の中に閉じ込められている方が百倍ましだ!!』
レオナルドはそう言って、最後まで自分の決断を変えることはなかった。
今日、レオナルドは一人、ゴアル国北部にある塔に投獄されるのだ。
「こちらです。」
レオナルドは鎖に繋がれて黒い鉄の扉をくぐる。厳重な護衛が彼の周りに広がり、歩みを遅くしていた。塔の門は分厚い。
ーーーーこの門をくぐったら、二度と外には出られない。
レオナルドはぼんやりと物思いにふける。これは自分が望んだこと。後悔はなかった。
錠前がゴソゴソと音を立て、冷たい金属がゆっくりと回転して開かれる。
ーーーー僕はもう、やるべきことをしたのだ。
レオナルドは門の先に広がる塔を見上げ、澄んだ瞳で広がる景色を受け止める。フィリップス公爵は死に、スウェルド国は無事にゴアル国に吸収されたという情報はレオナルドの耳にも届いていた。
ーーーーどうせアリスがなんとかしてくれる。
レオナルドは小さく笑った。あれからアリスは目を覚ましたらしい。今の自分の選択を聞いて、アリスはなんと言うのだろうか。彼女は最後までレオナルドを信じてくれていた。レオナルドはアリスを殺そうとまでしていたのにも関わらず。
コツリコツリコツリ
レオナルドは一段一段、石の階段を上っていく。塔の周りには、ピンク色の小さな花が鮮やかに咲いている。
ーーーーリュカの奴、どうしているかな。
レオナルドが罪を負い、投獄されることに最後まで猛反対したのはリュカだった。
『なんでレオナルドが閉じ込められるの?!絶対ヤダ!!納得できないよ!!』
『……なぜ怒るのだ?リュカには関係ないだろう。」
『関係ある!!!』
結局最後まで仲直りすることはできなかった。
----馬鹿なやつ。
心の中でレオナルドはそう呟く。
これから一人塔で暮らすとわかっているにも関わらず、レオナルドの胸にいつも居座っていた孤独感はなくなっていた。
----あいつがうるさくつきまとっていたせいだ。
リュカがレオナルドを孤独から救った。そして、レオナルドはアリスに未来を託してきたのだ。だから何の後悔もない。
レオナルドが一歩、塔の中に足を踏み入れようとしたちょうどその時。
「レオナルド!」
忘れるはずもないその声が、レオナルドの名を呼んだ。唾を飲み込んで、レオナルドはゆっくりと振り返った。
「アリス。」
そこには、元スウェルド国王妃アリスが立っていた。銀色の髪に透き通った緑の瞳。
”何よりも愛していた人”
「何しに来た。」
低い声で、レオナルドはアリスに尋ねた。もっと伝えたいことがあるはずだった。謝罪も本心も……アリスがずっと探していた旅人の男のことも、伝えなくちゃいけない。でも、言葉がのどに突っかかって言えなかった。
----きっと全部今更だ。
アリスから少し離れた木の陰に、ルーカスが立っているのが見えた。あの男は、なぜここにアリスを連れてきたのだろう?
アリスはまっすぐにレオナルドを見つめて言った。
「私も、王妃として、貴方と共に罪を負うわ。」
「え……。」
----アリスは何を言っているんだ?
思いがけない言葉に、レオナルドは目を見開いてアリスを凝視した。
「私だけが幸せになるわけにはいかない。私も、塔で罪を償うわ。」
アリスはもう一度言った。
ーーーー馬鹿だ。
思わず、レオナルドの口元に笑みが浮かんだ。
アリスはずっと、変わらない。これからもきっと誰よりも誠実に、生きていくんだろう。その姿が眩しくて、長い事憎んでいた。だけど最後に会えてよかったと思う。
ーーーー美しい人。幸せになってくれ。
「いいや。アリスは、……僕とは違う。」
「いいえ……。私は……」
レオナルドはアリスに言い聞かせる。
「アリスが、皆を引っ張っていくんだ。ルーカスと一緒に。きっとそれが一番いい。」
レオナルドは塔の中に入り、その扉に手を掛けた。
「待って……レオナルド……。」
塔の中に入ろうとするアリスを見て、レオナルドが叫ぶ。
「おいっ何をしてるんだ、ルーカス!アリスを止めてくれ!」
レオナルドの声に応えて、ルーカスがこちらにやってきた。アリスを抱きしめて、塔の方に行こうとするのを押しとめる。
「離してっ、私は……正妃よ……。ねえ……。」
”スウェルド国の正妃”
いい加減に、アリスをその枷から外してあげなくてはならない。
「さようなら。アリス……君を愛していたよ。」
アリスの緑の大きな目に、大粒の涙がたまっている。
「もう、お別れだ。自由に、幸せになってくれ。」
ルーカスに小さく頭を下げ、レオナルドの姿は塔の中に消えていく。その後ろ姿に向かって、アリスはさけんだ。
「ねえ!レオナルド!私、いつか絶対に、素敵な食堂を作るから!絶対に食べに来て!待ってるから!」
「いつか…な。」
レオナルドは、優しく笑った。
◇◇◇
塔の中は薄暗く、ひんやりと冷たい。ゴアル国の兵士に連れられ、レオナルドは塔の最上階の部屋に入った。するとそこには…‥またもや予想もしていなかった人物が待っていた。
「レオナルド!!」
「リュカ……?」
そこで待っていたのは、レオナルドが投獄されることに最後まで怒っていたはずのリュカだった。彼女はメイド服を身に着け、いつものように楽しそうに微笑んでいた。
「なぜ……?」
「来ちゃった。だって、レオナルドの傍にいたかったから。」
「どうして?」
「あたしはね、レオナルドのこと好きになっちゃったんだ。」
軽やかに、リュカはレオナルドに言い放つ。
「え……。」
「レオナルドは凄い。誰にもできないことを成し遂げたんだ。誰よりも勇敢で、かっこいい人だよ。」
緑の大きな瞳がレオナルドをまっすぐに見つめる。窓から差し込む太陽の光は、キラキラとリュカの瞳を照らす。
「リュカ。」
----君は最初から僕を正面から見つめてた。
「一緒にいよう。もしかしたら、あたしがいたら、レオナルドはあのお城より寂しくないかもしれないよ?」
リュカの言葉が、胸の中にしみこんでいく。レオナルドはもうひとりじゃない。
◇◇◇
風は冷たく、白い雪が塔の上に薄く積もっている。レオナルドが国王の座を退任し、スウェルド国がゴアル国に吸収されてから、一ヶ月の月日が流れていた。
「参りましょう。」
ゴアル国の兵士がレオナルドに声をかけた。
「ああ。」
元国王レオナルド。彼の顔は少しやつれていたが、その表情はつきものが落ちたかのように穏やかである。質素な白いシャツを身にまとい、手首は鎖でつながれている。
レオナルドはこれまでスウェルド国民を苦しめてきた罪を負い、無期限で塔に投獄されることが決まった。事情を知る多くの元スウェルド国の兵士は、レオナルドの罪を否定した。
『レオナルド様は、我々を救ったのです!なぜ貴方が罪に問われなくてはならないのですか!』
ゴアル国側も、自らの過ちを認めて、国王の退任を決めたレオナルドの罪を問うつもりはなかった。だが自ら投獄される道を選んだのはレオナルドだ。
『ふんっ。滅んだ国の国王が許され、自由に生きられるわけないだろうが、馬鹿が。どうせ投獄されずとも、スウェルド国の亡霊に利用され、悲惨な人生を送るだけだ。ならば塔の中に閉じ込められている方が百倍ましだ!!』
レオナルドはそう言って、最後まで自分の決断を変えることはなかった。
今日、レオナルドは一人、ゴアル国北部にある塔に投獄されるのだ。
「こちらです。」
レオナルドは鎖に繋がれて黒い鉄の扉をくぐる。厳重な護衛が彼の周りに広がり、歩みを遅くしていた。塔の門は分厚い。
ーーーーこの門をくぐったら、二度と外には出られない。
レオナルドはぼんやりと物思いにふける。これは自分が望んだこと。後悔はなかった。
錠前がゴソゴソと音を立て、冷たい金属がゆっくりと回転して開かれる。
ーーーー僕はもう、やるべきことをしたのだ。
レオナルドは門の先に広がる塔を見上げ、澄んだ瞳で広がる景色を受け止める。フィリップス公爵は死に、スウェルド国は無事にゴアル国に吸収されたという情報はレオナルドの耳にも届いていた。
ーーーーどうせアリスがなんとかしてくれる。
レオナルドは小さく笑った。あれからアリスは目を覚ましたらしい。今の自分の選択を聞いて、アリスはなんと言うのだろうか。彼女は最後までレオナルドを信じてくれていた。レオナルドはアリスを殺そうとまでしていたのにも関わらず。
コツリコツリコツリ
レオナルドは一段一段、石の階段を上っていく。塔の周りには、ピンク色の小さな花が鮮やかに咲いている。
ーーーーリュカの奴、どうしているかな。
レオナルドが罪を負い、投獄されることに最後まで猛反対したのはリュカだった。
『なんでレオナルドが閉じ込められるの?!絶対ヤダ!!納得できないよ!!』
『……なぜ怒るのだ?リュカには関係ないだろう。」
『関係ある!!!』
結局最後まで仲直りすることはできなかった。
----馬鹿なやつ。
心の中でレオナルドはそう呟く。
これから一人塔で暮らすとわかっているにも関わらず、レオナルドの胸にいつも居座っていた孤独感はなくなっていた。
----あいつがうるさくつきまとっていたせいだ。
リュカがレオナルドを孤独から救った。そして、レオナルドはアリスに未来を託してきたのだ。だから何の後悔もない。
レオナルドが一歩、塔の中に足を踏み入れようとしたちょうどその時。
「レオナルド!」
忘れるはずもないその声が、レオナルドの名を呼んだ。唾を飲み込んで、レオナルドはゆっくりと振り返った。
「アリス。」
そこには、元スウェルド国王妃アリスが立っていた。銀色の髪に透き通った緑の瞳。
”何よりも愛していた人”
「何しに来た。」
低い声で、レオナルドはアリスに尋ねた。もっと伝えたいことがあるはずだった。謝罪も本心も……アリスがずっと探していた旅人の男のことも、伝えなくちゃいけない。でも、言葉がのどに突っかかって言えなかった。
----きっと全部今更だ。
アリスから少し離れた木の陰に、ルーカスが立っているのが見えた。あの男は、なぜここにアリスを連れてきたのだろう?
アリスはまっすぐにレオナルドを見つめて言った。
「私も、王妃として、貴方と共に罪を負うわ。」
「え……。」
----アリスは何を言っているんだ?
思いがけない言葉に、レオナルドは目を見開いてアリスを凝視した。
「私だけが幸せになるわけにはいかない。私も、塔で罪を償うわ。」
アリスはもう一度言った。
ーーーー馬鹿だ。
思わず、レオナルドの口元に笑みが浮かんだ。
アリスはずっと、変わらない。これからもきっと誰よりも誠実に、生きていくんだろう。その姿が眩しくて、長い事憎んでいた。だけど最後に会えてよかったと思う。
ーーーー美しい人。幸せになってくれ。
「いいや。アリスは、……僕とは違う。」
「いいえ……。私は……」
レオナルドはアリスに言い聞かせる。
「アリスが、皆を引っ張っていくんだ。ルーカスと一緒に。きっとそれが一番いい。」
レオナルドは塔の中に入り、その扉に手を掛けた。
「待って……レオナルド……。」
塔の中に入ろうとするアリスを見て、レオナルドが叫ぶ。
「おいっ何をしてるんだ、ルーカス!アリスを止めてくれ!」
レオナルドの声に応えて、ルーカスがこちらにやってきた。アリスを抱きしめて、塔の方に行こうとするのを押しとめる。
「離してっ、私は……正妃よ……。ねえ……。」
”スウェルド国の正妃”
いい加減に、アリスをその枷から外してあげなくてはならない。
「さようなら。アリス……君を愛していたよ。」
アリスの緑の大きな目に、大粒の涙がたまっている。
「もう、お別れだ。自由に、幸せになってくれ。」
ルーカスに小さく頭を下げ、レオナルドの姿は塔の中に消えていく。その後ろ姿に向かって、アリスはさけんだ。
「ねえ!レオナルド!私、いつか絶対に、素敵な食堂を作るから!絶対に食べに来て!待ってるから!」
「いつか…な。」
レオナルドは、優しく笑った。
◇◇◇
塔の中は薄暗く、ひんやりと冷たい。ゴアル国の兵士に連れられ、レオナルドは塔の最上階の部屋に入った。するとそこには…‥またもや予想もしていなかった人物が待っていた。
「レオナルド!!」
「リュカ……?」
そこで待っていたのは、レオナルドが投獄されることに最後まで怒っていたはずのリュカだった。彼女はメイド服を身に着け、いつものように楽しそうに微笑んでいた。
「なぜ……?」
「来ちゃった。だって、レオナルドの傍にいたかったから。」
「どうして?」
「あたしはね、レオナルドのこと好きになっちゃったんだ。」
軽やかに、リュカはレオナルドに言い放つ。
「え……。」
「レオナルドは凄い。誰にもできないことを成し遂げたんだ。誰よりも勇敢で、かっこいい人だよ。」
緑の大きな瞳がレオナルドをまっすぐに見つめる。窓から差し込む太陽の光は、キラキラとリュカの瞳を照らす。
「リュカ。」
----君は最初から僕を正面から見つめてた。
「一緒にいよう。もしかしたら、あたしがいたら、レオナルドはあのお城より寂しくないかもしれないよ?」
リュカの言葉が、胸の中にしみこんでいく。レオナルドはもうひとりじゃない。
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