fragile〜はかなきもの〜

FOKA

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9話

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 舞い上がる灰は夢の跡。かつて目指した理想郷は炎の中に消え、
残ったものは何もない。男の夢も理想も…全ては無に。
理想郷の村 パラディース。
今宵残酷な夢をあなたに。



 街の入り口があった場所には杭が2本打たれておりそれぞれに人が括り付けられていた。もはや男か女か判別不能なほど焼けていたが、完全に焼け落ちているわけでなく、所々骨が見えるがまだ肉がついている状態だった。近くによると残った肉から腐臭がし蟲も湧いている。肉の中から湧き出る蟲は食べた肉のせいで体が重くなり、ボトボトと地面に落ちていく。落ちた蟲は再び肉を貪ろうと杭を目指し動き始める。
その姿がなんとも気持ち悪く、憎く感じ、気持ちが悪くなってくる。

 街には1人で入る。嗅覚が人間よりも鋭いワトス達には辛いだろう。
何より故郷のこの惨状を見せたくはなかった。
かつて過ごした村は見る影もなく燃え切っていた。隣村よりも激しく燃えたと安易に想像がきてしまうほど。
辺りを散策し、かつて我が家があったであろう場所を見つけると、焼けた灰を手ではらい何か残った物はないかと探すも、あるのは灰だけであった。いろいろな感情が込み上げてくるがまだ感情を出すわけにはいかない。最後まで確認しなければならない意志が感情を押さえ込んだ。
入口の惨状を見るにこれは火事ではない。それに何も残ってないのは不自然すぎる。あのゴツい装置が跡形もなく燃えてなくなる事がとても想像できない。もしかすると村は何者かに襲われ略奪行為にあったのかもしれないと考えた。そうだと考えるなら見せしめに殺された村人以外の村人は誘拐されたのかもしれない。何の為に誘拐されたかはわからないが、少しでもその手がかりを見つけるため散策を続ける。

 街の広場があった場所に入ると今までの考えが甘い考えだったと痛感した。
もし目の前に広がる景色が地獄でないとしたら死後の世界の地獄はどんにひどいものだろうか。
広場には村の入り口と同じく地面に杭が打ち付けてあった。しかしそこには張り付けの人間ではなく、串刺にされた人間、人間だったものが貫かれていた。
一本の杭に三人が貫かれておりそれが複数本ある。杭の下の方に三人が纏っているのもあれば、綺麗に等間隔で貫かれている杭もあった。殺されてから貫かれたのか、それとも生きたまま貫かれたのか。焼かれた死体からはそれを読み取る事ができなかった。共通していたのは全て肛門から貫いた杭は口から出ているっということだけである。こちらの死体もすでに蟲が湧いており、腐臭がする。
すると突然頭上から人間の脳らしき物が降ってきた。脳らしき物は地面に落ちると四方にその焼かれた破片を飛び散らせ同時に強烈な匂いも撒き散らす。他の腐った肉や焼けた肉とは比べ物にならないくらい臭く、強烈な吐気を催すほどだった。上を見上げるとモンスターが人間の死体を喰らいながら飛でおり、仲間同士で死体を取り合う喧嘩をしている。最初はある程度原型を留めていた死体が一匹が腕を、もう一匹は頭を咥えて引きちぎりバラバラになっていく。引きちぎった時に飛び散った肉片がそこら中に散らばりながら落ちてきた。
杭の先には何やら大きな穴が掘られているようで、中を覗き込もうと穴に近づこうとすると足が竦み背筋に寒気を感じる。本能が近づくなと言っているように。額から垂れる汗を拭い穴に近づいていくと負のエネルギーとでもいうのだろうか。穴から噴き出てくる何かが体から精気を奪っていくように感じ、心臓の鼓動が高鳴り息苦しくなってくる。あと一歩踏み出せば穴の中が見える位置までくると、そこで立ち止まり一旦呼吸を整える。相変わらずひどい臭いがしたがそれでも幾分か心臓の鼓動が治まった気がした。
意を決して一歩を踏み出す。
穴の中を覗き込むと、今まで抑えていたものをその場にぶちまけた。


 何度その場に吐瀉物を吐き散らしただろうか、途中吐く物がなくなり胃液だけが出続けた。
わかった事がある。穴の中の惨状を見るに、村人は生きたまま焼かれ貫かれた事。そしてこの村、パラディースの生き残りは俺とワトスだけだという事だ。
俺は穴の中に入りそれぞれが身につけていた装飾品などを集めた。
どうやら身につけていた物は取られなかったようで、焼けて状態がよろしくない物もあったができる限り集めることにした。
遺品を集め終え穴の外に出るとすぐにワトス達の元へ走った。
本当はきちんと弔いをしてやりたかったが、1人ではどうすることもできない穴の大きさ。杭は大人数人でなければびくともしない。
今は何も考えず、ただ家族のもとに走った。
ひたすらに真っ直ぐと。



喉が潰れる程に叫んだ。
前が見えなくなる程泣いた。
転んで倒れた時は地面を思いっきり、何度も殴った。
強く握りしめた手に遺品が刺さり血が出る。
刺さった遺品を通してあの景色が蘇る。
何度も、何度も嘔吐する。
それでも無我夢中で、残された家族に会いたくて。走った。



 ワトスとルットは木陰の影で身を寄せて待っていた。ルットはまだ寝ていたがワトスは俺の顔を見るなり尻尾を振り始める。
「桜花オカエ…」
座っていたワトスに飛び込んだ。先ほどまで、心の中にはいろんな感情が渦巻いていていたが、それらがすっと消え去さった。
ワトスは何も言わずそっと静かに抱いてくれた。
ワトスの腕の中で胸に顔を埋めひたすら涙枯れるまで泣いた。
会話こそなかったが、泣きじゃくる姿をみたワトスは何となく察していたのかもしれない。
ワトスがそっと、ポツリと呟く。
「ソッカ。オミヤゲ、ワタセナカッタナ」
そう呟くと、泣いていた俺を尻尾で優しく包み込んでくれた。
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