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六話 血が繋がろうと他人は他人

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 彼は部屋を見るなり呆れ果てる。
「あーあ、こんなに散らかしてよぉ」
 ぼやきをつらつらと垂れ流しながらも、椅子を俺ごと立て直す。そして一拍間を置き、俺を誇らしげに見降ろした。
「よし、お前も起きたことだし話をしようか。連れを呼ぶから少し待ってな」
 こいつは部屋から身を乗り出し、俺が起きたと大声で誰かに伝える。するとすぐに床を鳴らしながら、女性が入って来た。
「モーリャさんか……」
 俺は彼女が誰かすぐわかり、思わず呟く。服装こそその辺の奴が着ている服だったが、間違いない。俺の侍女だ。嫌らしかった俺を睨みつけた時と同じ目をしている。
 そんな俺を見て、彼女は感心していた。
「何?貴族のお坊ちゃまは私が誰だかすぐに分かったって訳?」
 俺のような不良債権が仕えていた人の顔を一々覚えていたことが意外だったようだ。だが彼女は笑みを浮かべている様に見えた。
 分からない。俺が思ったより真人間でどう嬉しいのかさっぱり分からない。

「で、さっさと聞けよ。このためだけにせっかくの計画を変えたんだからな」
「分かっているよ」
『計画を変えた?』
 妙だ。別に警備の体制が変わったなんて聞いたことは無い。そんな俺に顔を近づけて言い放った。
「どうだ。私と一緒にあのクソ親父をぶっ潰さないか?なあ、リーク・ダーター」
「は?」
 クソ親父?こいつの親父なんて、俺知らねぇよ。そんなのにわざわざ関わるなんて御免だよ。ゴ・メ・ン。
「モーリャさんの父親なんて、俺には関係ないだろ。聞く相手間違えてんじゃないのか?」
 そう指摘してやったが、それがおかしかったのか彼女は笑いを堪え切れなかった。そして笑い終えると言った。
「それがなぁ、関係あるんだよ。何せ……私とお前は異母姉弟。要は私もお前の父親の子供なんだよ!」
「えっ、マジ!」

 そんなことを始めて聞いたから信じ切れず、自称姉を盗み見て考え込む。髪の色だって俺や兄とは違うし、何つーか似てない。母が違うからって、ここまで変わるか?うーん、どうだろ。人体には詳しくないし……。あ、でも目は親父に似てる……けどなぁ。言ってしまえばそれだけだ。

 これもしかして俺を騙そうって感じ?そしたら俺には見破れねぇよ。いや親が言った嘘を信じちゃったってパターンもあるか。でもそしたら他の人にも尋ねるよな。
 あ、でも親父の手記とか確認すれば分かるか。彼女なら盗み見ることだって難しくない。その上で親父の娘だと言っている……。じゃあ、本当に彼女は俺の姉?

 いやぁ……知らなかったなぁ。何だよ。親父だって他の女性にも手を出してたんじゃないか。それなのに俺だけハーレム作るな?はー、信じらんね。
 あ、でもそれやって、火傷しちゃったって感じ?それなら、まぁ?忠告も分かるけど……ね?それはそれとして羨ましいんじゃ、ボケェ。こちとら独り身なんだぞ、おらぁ。
 なら様式美でもやろっかな。あ、親父はリア充じゃねぇけど……ま、いっか。
『クタバレ、モテ男!」
「さっきから何ぶつぶつと言っている?」
「あ、すみません。独り言です」
 彼女の話を途切れさせたことを一応謝った。にも関わらず彼女は疎ましく思うような目をしていた。
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