【R18】溺愛×悪役令嬢 reboot

月極まろん

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◆王女と王子◆

2

 午前中の試験が終わった。
 王立学園の試験会場で、ペンを置いたリリィはほっと息を付いた。思ったよりも緊張しないで問題を解けたのは、朝に会った赤毛の綺麗な女の子のおかげかもしれない。
 自分と同い年とは思えないほど大人びた子だった。
 お弁当をどこで食べよう。
 今日はこの学園の食堂が受験生のために解放されているそうだ。それとも、通りすがりに見かけた中庭のベンチででも食べようか。
 カバンを抱えて立ち上がると、さっきの赤毛の美少女が近寄ってきた。
「ええっと。リリィさん、よろしければわたくしたちと一緒に御飯にしませんこと? その、お弁当が食べられないとあなたのお母様も悲しむでしょうし」
 ……?
 言っている意味が、あちこちよくわからない。そもそも、公爵家の令嬢だという彼女がどうして平民である自分のことを遠慮がちに誘ってきているのだろう。上から目線で命じられたとしても、自分には断ることなんて出来ないのに。そこも疑問だが、まずは――。
「なぜわたしの名前が分かったのでしょうか。――ええっと、ローザさま?」
 彼女の名前ならわかる。さっきの意地悪なドレスの子たちが呼んでいたからだ。
 ローザは綺麗な翡翠色の瞳を見開いた。
「えっ、あの、有名だから……。そう、あなたは有名なのですわ! さっきの子たちも言ってましたわよね。庶民でありながら試験を主席で突破するだなんて!」
 一次試験の成績は知らされていなかったけど、どうやらトップで合格していたらしい。
 実はローザはうっかり“二次試験も含めて最終的に主席で合格する”未来のことを言ってしまっていたのだが、リリィはそれには気付かなかった。
 そこは納得をして、次に不思議に思ったことをくちにする。
「わたしがお弁当だって、どうして御存知なのですか?」
 ローザはわたわたと両手を動かした。
「ええっと、その。あなたが庶民だからですわ! 平民は母親が手作りしたお弁当を食べるものだと、本に書いてあったのですわ! あなたがたの家にはシェフがいませんものね!」
 なるほど。
 と、リリィは納得した。公爵家のお嬢様ならば、そのように思いこんでも仕方ないだろう。目の前の彼女は、浮き世離れしているというか不思議な雰囲気を持っている。

 リリィは疑問に感じつつも、深くは考えずに聞き流していた。
「お弁当が食べられないとあなたのお母様も悲しむでしょうし」
 という言葉を。



  ◆ ◆ ◆



 ローザは、どきどきと鳴る心臓をそっと押さえた。
 危なかった。いちばん好きなヒロインについに会えた興奮で、余計なことをずいぶんと口走ってしまった。
 乙女ゲーム『アイウォーラ ~百の花々は学園で咲き誇る~』(通称百花園)の主人公、リリィ(デフォルト名)。
 この入学試験からストーリーがはじまる。

 両親が用意してくれたブラウスとスカートを笑われて、文房具は壊され、中庭でお弁当を食べていると、器を弾き飛ばされて台無しにされるのだ。
 おもに、悪役令嬢のローザによって。
 もちろん、前世の記憶がよみがえった自分は何の嫌がらせもするつもりは無かったけれども、「成績優秀な庶民の女の子」を目障りに思っているのはゲームのローザだけではない。何度も何度も何十回も見たオープニングでは、ほかの令嬢や下級貴族の少年たちもリリィを囲んで嫌がらせをしていた。
 そして木陰で泣いていると、少年があらわれて慰めてくれる。ただし、プレイヤーには靴先やシルエットしか見えない。
 のちにそれは、そのときそのときの攻略対象だと分かるのだ――。

 ローザはそのフラグを折った。
 相手が王子やチェリオなら良い。他の男性でも、ローザがよく知る素敵な男性ならば、リリィを任せられるし応援が出来る。――だけど。

「あの人だけは駄目だわ」
 十四歳のローザは小さく呟いた。
 自分が知る世界とは少しずつズレてきている。木陰に誰かを誘導しても、うまくいくとは限らない。むしろ、来て欲しくない――リリィとは結ばれてはいけない相手が、リリィを慰めてしまう可能性が高かった。
「あの人には、絶対に渡しませんわ」
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