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◆商人と令嬢◆
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入学式の日。ローザに出会った時からカルミネの想いは始まった。しばらくして会話するようになり、三年生で思いがけず生徒会で一緒になって、ますますどうしようもなく惹かれていった。
第一印象は間違ってはいなかった。
彼女は美しく気高いだけではなく、とても優しくて気さくな少女だったのだ。
しかし公爵家の令嬢と、自分のように祖父の代で爵位を買ったような商家の長男が釣り合うわけがない。しかも彼女は、この国の第二皇子の婚約者だ。
子どもの頃からの婚約だと聞く。
それがまだ、親の関係で政略的に結ばれた冷たい関係ならば自分が割り込む隙もあるのかもしれないけれど、エドアルド皇子は最初から彼女に骨抜きだったし、ローザは当初は皇子の愛情に気付いてなさそうな素振りだったけれど、しばらくするとぎこちなく好意を返すようになっていた。
自分が入る余地なんてない、婚約だ。
そう思っていたのに。
カルミネも寮生だが、カモミール商会の次期後継者として頻繁に実家に戻っていた。
今週書き上げた書類を父に渡し、また新しい仕事を持って帰る。同時進行で企画も立てるし、商店への売り込みもこなしていた。
それでも成績を学年十位以下に落としたことはない。あまり成績に響いては生徒会員でいられなくなってしまうかもしれないからだ。
「今日は泊まるの?」
自分そっくりの顔をした母が聞いてくるのに首を振る。
「いや、寮に戻ります」
男女別々の寮とはいえ、食堂や庭は共有だ。報われぬ想いに蓋をしたとはいえ、姿を見るぐらいは許されるはずだ。
彼女は早朝によく庭を散歩している。
渡した書類に視線を落としたままの父が、何気なく言った。
「ローザ嬢は第二婚約者を持ったらしいな」
「……え。いまなんと?」
動揺が出にくい体質に感謝する。そうじゃなければ片想いが両親に知られてしまっただろう。
父は顔を上げて軽く首をかしげた。
「同じ生徒会だったよな。公爵家の紅薔薇、ローザ嬢に第二婚約者が出来たらしい。あのエドアルド殿下がよくぞ許したものだ」
軽く苦笑する。
たしかに“あの”と呼ばれるほどの溺愛っぷりは父も目にしたことがあるはずだ。
新しい婚約者を入れるには、先に婚約していた者の半数以上の賛成がいる。つまり、第二婚約者はエドアルド皇子が認めた相手ということだ。
「いま公表する時期を見定めているらしく、こちらにお披露目のドレスの依頼が来たんだよ。お前を学園に入れて本当に良かった――」
父の顔が塗りつぶされて見える。
胃が重くて痛い。
なのに唇は勝手に受け答えをしている。「そうだったんですか」「知りませんでした」「お相手は?」
父から出た名前は、自分が薄々察していた相手だった。
第一印象は間違ってはいなかった。
彼女は美しく気高いだけではなく、とても優しくて気さくな少女だったのだ。
しかし公爵家の令嬢と、自分のように祖父の代で爵位を買ったような商家の長男が釣り合うわけがない。しかも彼女は、この国の第二皇子の婚約者だ。
子どもの頃からの婚約だと聞く。
それがまだ、親の関係で政略的に結ばれた冷たい関係ならば自分が割り込む隙もあるのかもしれないけれど、エドアルド皇子は最初から彼女に骨抜きだったし、ローザは当初は皇子の愛情に気付いてなさそうな素振りだったけれど、しばらくするとぎこちなく好意を返すようになっていた。
自分が入る余地なんてない、婚約だ。
そう思っていたのに。
カルミネも寮生だが、カモミール商会の次期後継者として頻繁に実家に戻っていた。
今週書き上げた書類を父に渡し、また新しい仕事を持って帰る。同時進行で企画も立てるし、商店への売り込みもこなしていた。
それでも成績を学年十位以下に落としたことはない。あまり成績に響いては生徒会員でいられなくなってしまうかもしれないからだ。
「今日は泊まるの?」
自分そっくりの顔をした母が聞いてくるのに首を振る。
「いや、寮に戻ります」
男女別々の寮とはいえ、食堂や庭は共有だ。報われぬ想いに蓋をしたとはいえ、姿を見るぐらいは許されるはずだ。
彼女は早朝によく庭を散歩している。
渡した書類に視線を落としたままの父が、何気なく言った。
「ローザ嬢は第二婚約者を持ったらしいな」
「……え。いまなんと?」
動揺が出にくい体質に感謝する。そうじゃなければ片想いが両親に知られてしまっただろう。
父は顔を上げて軽く首をかしげた。
「同じ生徒会だったよな。公爵家の紅薔薇、ローザ嬢に第二婚約者が出来たらしい。あのエドアルド殿下がよくぞ許したものだ」
軽く苦笑する。
たしかに“あの”と呼ばれるほどの溺愛っぷりは父も目にしたことがあるはずだ。
新しい婚約者を入れるには、先に婚約していた者の半数以上の賛成がいる。つまり、第二婚約者はエドアルド皇子が認めた相手ということだ。
「いま公表する時期を見定めているらしく、こちらにお披露目のドレスの依頼が来たんだよ。お前を学園に入れて本当に良かった――」
父の顔が塗りつぶされて見える。
胃が重くて痛い。
なのに唇は勝手に受け答えをしている。「そうだったんですか」「知りませんでした」「お相手は?」
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