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◆婚約式の騒動◆
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さすが公爵令嬢だ。
婚約式は華やかだった。
ひとりめの婚約者がこの国の第二王子ということもあって、城の大広間の中でもいちばん広くて豪華なホールを借りている。
主役であるローザ・ロゼ嬢は、真っ白なドレスだ。彼女の美しい肌とプロポーションを引き立てる豪奢なデザインで、あちこちに髪と同じ色をした紅薔薇のモチーフと真珠の粒が縫いつけてある。
もともと華やかな美女ではあるが、笑顔は柔らかく、今夜は光り輝くようだった。
最初に彼女と踊ったのは、第一婚約者であるエドアルド・イ・ペオニア殿下。
黄金をつむいだような鮮やかな髪と、アイスブルーの双眸の美丈夫で、まるで教本のように完璧なダンスだった。
礼服は、最初の婚約者であることを見せつけるようにローザと揃いの白い生地に金と紅薔薇色をアクセントにしたもので、絵本の王子のように凛々しかった。
次に踊ったのは、第二婚約者であるチェリオ・ジラソーレ。侯爵の息子で、まだ学生でありながら騎士の資格も持っている。
オレンジの長い癖っ毛と深い緑の瞳の伊達男で、女性人気も高い。ダンスは遊び心のあるもので、ときおり楽しそうにローザを振り回すようにするものの、優雅にリードした。
礼服は、ローザの瞳を思わせる鮮やかな緑で、彼の髪との相性も良かった。
最後に踊ったのが、三番目の婚約者となったカルミネ・カモミール。
富豪の長男であり、祖父の代からの準貴族ながらもそのへんの貴族より貴族らしい繊細な貴公子っぷりだ。
まっすぐなグリーンの髪は珍しいもので、眼鏡に隠された目は灰色だ。ダンスはきちんとした生真面目なもので、複雑なステップすらもこなしてみせた。
こちらの礼服は灰色に白い縁取りで、胸にローザのドレスのものと同じ紅薔薇の飾りを付けている。
◆ ◆ ◆
カルミネと踊り終わったローザのもとに、ふたりの婚約者が寄り添った。
音楽が切り替わり、拍手していた人々もフロアへと進み出て踊り始めた。
ローザは、エドアルドが差し出した飲み物で喉を潤す。
「紅薔薇のお嬢ちゃん、素晴らしいダンスだったよ」
進み出てきたのは従兄であるヴィクトル・ディスティルだ。短く刈り込んだ赤煉瓦色の髪に、ラピスラズリの瞳。長身のたくましい肉体を紺色の礼服に包んでいる。
「ありがとうございます、ヴィク兄さま。みなさまのリードが巧みだったからですわ」
ついにこの日が来たのだ。準備がとても大変だったし、婚約者たちをお披露目できるのも嬉しい。
わずかに浮かれているため、いつもは少し苦手にしている従兄にも、穏やかに返すことができる。
「次は俺と踊ってくれるかな?」
「喜んで」
従兄であり、南方に広い領地を持つ別の公爵家の嫡男だ。ローザが婚約者とのあとに踊るのにはちょうどいい相手だ。
それに、悪い人ではないのだ。
顔立ちは整っているし、性格も朗らかで明るく面倒見が良い。昔の――前世に目覚める前の悪役令嬢ローザが憧れていたのも無理はない。
ローザはヴィクトルが差し出した手にするりと片手を滑り込ませた。
婚約式は華やかだった。
ひとりめの婚約者がこの国の第二王子ということもあって、城の大広間の中でもいちばん広くて豪華なホールを借りている。
主役であるローザ・ロゼ嬢は、真っ白なドレスだ。彼女の美しい肌とプロポーションを引き立てる豪奢なデザインで、あちこちに髪と同じ色をした紅薔薇のモチーフと真珠の粒が縫いつけてある。
もともと華やかな美女ではあるが、笑顔は柔らかく、今夜は光り輝くようだった。
最初に彼女と踊ったのは、第一婚約者であるエドアルド・イ・ペオニア殿下。
黄金をつむいだような鮮やかな髪と、アイスブルーの双眸の美丈夫で、まるで教本のように完璧なダンスだった。
礼服は、最初の婚約者であることを見せつけるようにローザと揃いの白い生地に金と紅薔薇色をアクセントにしたもので、絵本の王子のように凛々しかった。
次に踊ったのは、第二婚約者であるチェリオ・ジラソーレ。侯爵の息子で、まだ学生でありながら騎士の資格も持っている。
オレンジの長い癖っ毛と深い緑の瞳の伊達男で、女性人気も高い。ダンスは遊び心のあるもので、ときおり楽しそうにローザを振り回すようにするものの、優雅にリードした。
礼服は、ローザの瞳を思わせる鮮やかな緑で、彼の髪との相性も良かった。
最後に踊ったのが、三番目の婚約者となったカルミネ・カモミール。
富豪の長男であり、祖父の代からの準貴族ながらもそのへんの貴族より貴族らしい繊細な貴公子っぷりだ。
まっすぐなグリーンの髪は珍しいもので、眼鏡に隠された目は灰色だ。ダンスはきちんとした生真面目なもので、複雑なステップすらもこなしてみせた。
こちらの礼服は灰色に白い縁取りで、胸にローザのドレスのものと同じ紅薔薇の飾りを付けている。
◆ ◆ ◆
カルミネと踊り終わったローザのもとに、ふたりの婚約者が寄り添った。
音楽が切り替わり、拍手していた人々もフロアへと進み出て踊り始めた。
ローザは、エドアルドが差し出した飲み物で喉を潤す。
「紅薔薇のお嬢ちゃん、素晴らしいダンスだったよ」
進み出てきたのは従兄であるヴィクトル・ディスティルだ。短く刈り込んだ赤煉瓦色の髪に、ラピスラズリの瞳。長身のたくましい肉体を紺色の礼服に包んでいる。
「ありがとうございます、ヴィク兄さま。みなさまのリードが巧みだったからですわ」
ついにこの日が来たのだ。準備がとても大変だったし、婚約者たちをお披露目できるのも嬉しい。
わずかに浮かれているため、いつもは少し苦手にしている従兄にも、穏やかに返すことができる。
「次は俺と踊ってくれるかな?」
「喜んで」
従兄であり、南方に広い領地を持つ別の公爵家の嫡男だ。ローザが婚約者とのあとに踊るのにはちょうどいい相手だ。
それに、悪い人ではないのだ。
顔立ちは整っているし、性格も朗らかで明るく面倒見が良い。昔の――前世に目覚める前の悪役令嬢ローザが憧れていたのも無理はない。
ローザはヴィクトルが差し出した手にするりと片手を滑り込ませた。
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