1 / 1
なんだ、浮気じゃなくて仲のいい妹さんだったんですね。と、思ったら……信じられない、妹さんとそんな……!?
しおりを挟む
「ゴルドラさま、友人が言うには、先日、ゴルドラさまが女性と親しくしていたとか……ええ、栗色の髪の」
「ああ、あれなら妹なんだ」
「あら! そうでしたのね、ごめんなさい、疑ってしまって」
「いいんだよ、黙っていてすまない。生まれが複雑なものだから……」
「まあ……」
貴族の婚姻は政略のものが多いため、不貞や愛人、「複雑な生まれ」の子の話はよく聞きます。あまり追求しない方が良いでしょう。
わたくしとゴルドラさまの婚約も政略的なものです。
浮気も許容しなければならないと思っていましたが、誤解でよかったです。結婚前からお心を奪われてしまっているなんて、さすがに悲しいですもの。
________________________
と、わたくしは納得したのですが、言い出した友人は信じてくれません。
「絶対にあれは妹の距離じゃなかったわ!」
「でも、あの栗色の髪はゴルドラさまとそっくりですし」
「あれが妹だとしたら……それこそ信じられないことよ。確かめなきゃ」
友人は決意した顔です。
こうなるともうダメです。彼女は正義感が強くて前向きなのですが、言い出すと止まらないのです。
とはいえ、きちんと納得すれば自分の誤りを認めてくれる人でもあります。
無鉄砲な彼女がやりすぎないように、わたくしも付き合って、一緒に町でゴルドラさまを尾行しました。
「あっ、ほら」
「あれが妹さんですのね」
栗色の髪の、かわいらしい方です。子供のようにゴルドラさまにじゃれついていて、やはり妹ではないかと思いました。
こんな道端で、淑女が男性にする仕草ではありません。
「やっぱり……えっ?」
べたべたとじゃれついていた二人は、当たり前のように唇と唇を重ねました。
「な、な……っ」
なんてことでしょう。
私は思わず声をあげました。
「な、にをしているのですかっ! い、妹と……そんなっ……」
「は?」
「えっ?」
「アリーシャ!? ち、ちがうんだ、これは……」
「グランシャン神の加護を失う行為です! 貴族の身でありながら、なんということを……!」
ざわざわと人々が二人に注目し始めましたが、わたくしはそれどころではありませんでした。
「ゴルドラ! もうっ、早く離れるわよ!」
「し、しかし」
「早く!」
「あ、ああ!」
「なんてこと……」
二人は互いを求め合うようにつかんで、この場を離れていきました。わたくしは追いかけるどころではなく、その場で膝をつきます。
この場に神父さまがいらしたらしく、彼らを追いかけています。ああ、やはり神は見ておられたのですね。
我が国の神、グランシャン様は血の近い相手との婚姻やまぐわいを禁止しています。かつてわたくしたちの祖先はそれを軽視し、血族での婚姻を続けたことで加護を失い、子供は次々と成長する前に亡くなりました。
今ではわたくしたち貴族は10歳の儀式で、決して血族同士で結ばれることはないと誓うのです。
だからゴルドラさまだって、わかっているはずなのです。
それほどまでに……。
「貴族であることをやめるほどに、妹君を愛しておられたのですか……?」
「アリーシャ……」
婚約者を失ったわたくしを、友人がそっと慰めてくれます。
「ゴルドラさまのこれからを祈ります」
グランシャン様は貴族の神です。平民には平民の神がいます。貴族であることをやめ、平民となれば、神の祝福を受けることもできるのかもしれません。
「でもアリーシャ、あなたの幸せも大事なことよ」
「ありがとう。……そうね、がんばって新しい婚約者を探さなきゃ」
「ええ、今度はちゃんと、アリーシャを大事にしてくれる人を選ぶべきよ」
「ふふ。そんな人がいればね」
「いるわよ! さ、景気づけにパンケーキでも食べに行きましょう!」
パンケーキを食べ終わる頃には、わたくしの気持ちも上向いていました。幸いというべきか、ゴルドラさまとはさほど関わりがなかったので、そういう意味で傷ついてはいません。
今度はデートくらいしたいな、なんて少し恥ずかしいことを考えました。
_______________________
「ああ、くそっ! くそっ! なんでこんなことに……!」
家を追い出されたゴルドラは嘆くしかなかった。
出来心だった。アリーシャのことは嫌いではなかったが、どうせ手に入る女だと思うと、恋をする気になどならなかった。
刺激を求めて浮気したのだ。
もちろん相手は妹ではない。
「妹じゃないんだ……」
まずかったのは、実際、ゴルドラには何人か妹がいる。父の愛人が生んだ子たちだ。
浮気相手が逃げてしまったせいで、ゴルドラの浮気相手はそのどれかだろうと思われてしまった。みな平民だが、グランシャン神は相手が平民でも許さない。
「妹じゃないんだよ……」
また悪いことにアリーシャが声をあげたあの場には神父がいた。彼はゴルドラの顔を知っていた。
ゴルドラは妹と通じた背徳者とされ、貴族という立場を失ってしまった。
「あんなことを言わなければ……」
妹だなどと、言い訳をしなければよかった。素直に浮気を謝罪しておけばよかった。もうすべて取り返しがつかない。
「ああ、あれなら妹なんだ」
「あら! そうでしたのね、ごめんなさい、疑ってしまって」
「いいんだよ、黙っていてすまない。生まれが複雑なものだから……」
「まあ……」
貴族の婚姻は政略のものが多いため、不貞や愛人、「複雑な生まれ」の子の話はよく聞きます。あまり追求しない方が良いでしょう。
わたくしとゴルドラさまの婚約も政略的なものです。
浮気も許容しなければならないと思っていましたが、誤解でよかったです。結婚前からお心を奪われてしまっているなんて、さすがに悲しいですもの。
________________________
と、わたくしは納得したのですが、言い出した友人は信じてくれません。
「絶対にあれは妹の距離じゃなかったわ!」
「でも、あの栗色の髪はゴルドラさまとそっくりですし」
「あれが妹だとしたら……それこそ信じられないことよ。確かめなきゃ」
友人は決意した顔です。
こうなるともうダメです。彼女は正義感が強くて前向きなのですが、言い出すと止まらないのです。
とはいえ、きちんと納得すれば自分の誤りを認めてくれる人でもあります。
無鉄砲な彼女がやりすぎないように、わたくしも付き合って、一緒に町でゴルドラさまを尾行しました。
「あっ、ほら」
「あれが妹さんですのね」
栗色の髪の、かわいらしい方です。子供のようにゴルドラさまにじゃれついていて、やはり妹ではないかと思いました。
こんな道端で、淑女が男性にする仕草ではありません。
「やっぱり……えっ?」
べたべたとじゃれついていた二人は、当たり前のように唇と唇を重ねました。
「な、な……っ」
なんてことでしょう。
私は思わず声をあげました。
「な、にをしているのですかっ! い、妹と……そんなっ……」
「は?」
「えっ?」
「アリーシャ!? ち、ちがうんだ、これは……」
「グランシャン神の加護を失う行為です! 貴族の身でありながら、なんということを……!」
ざわざわと人々が二人に注目し始めましたが、わたくしはそれどころではありませんでした。
「ゴルドラ! もうっ、早く離れるわよ!」
「し、しかし」
「早く!」
「あ、ああ!」
「なんてこと……」
二人は互いを求め合うようにつかんで、この場を離れていきました。わたくしは追いかけるどころではなく、その場で膝をつきます。
この場に神父さまがいらしたらしく、彼らを追いかけています。ああ、やはり神は見ておられたのですね。
我が国の神、グランシャン様は血の近い相手との婚姻やまぐわいを禁止しています。かつてわたくしたちの祖先はそれを軽視し、血族での婚姻を続けたことで加護を失い、子供は次々と成長する前に亡くなりました。
今ではわたくしたち貴族は10歳の儀式で、決して血族同士で結ばれることはないと誓うのです。
だからゴルドラさまだって、わかっているはずなのです。
それほどまでに……。
「貴族であることをやめるほどに、妹君を愛しておられたのですか……?」
「アリーシャ……」
婚約者を失ったわたくしを、友人がそっと慰めてくれます。
「ゴルドラさまのこれからを祈ります」
グランシャン様は貴族の神です。平民には平民の神がいます。貴族であることをやめ、平民となれば、神の祝福を受けることもできるのかもしれません。
「でもアリーシャ、あなたの幸せも大事なことよ」
「ありがとう。……そうね、がんばって新しい婚約者を探さなきゃ」
「ええ、今度はちゃんと、アリーシャを大事にしてくれる人を選ぶべきよ」
「ふふ。そんな人がいればね」
「いるわよ! さ、景気づけにパンケーキでも食べに行きましょう!」
パンケーキを食べ終わる頃には、わたくしの気持ちも上向いていました。幸いというべきか、ゴルドラさまとはさほど関わりがなかったので、そういう意味で傷ついてはいません。
今度はデートくらいしたいな、なんて少し恥ずかしいことを考えました。
_______________________
「ああ、くそっ! くそっ! なんでこんなことに……!」
家を追い出されたゴルドラは嘆くしかなかった。
出来心だった。アリーシャのことは嫌いではなかったが、どうせ手に入る女だと思うと、恋をする気になどならなかった。
刺激を求めて浮気したのだ。
もちろん相手は妹ではない。
「妹じゃないんだ……」
まずかったのは、実際、ゴルドラには何人か妹がいる。父の愛人が生んだ子たちだ。
浮気相手が逃げてしまったせいで、ゴルドラの浮気相手はそのどれかだろうと思われてしまった。みな平民だが、グランシャン神は相手が平民でも許さない。
「妹じゃないんだよ……」
また悪いことにアリーシャが声をあげたあの場には神父がいた。彼はゴルドラの顔を知っていた。
ゴルドラは妹と通じた背徳者とされ、貴族という立場を失ってしまった。
「あんなことを言わなければ……」
妹だなどと、言い訳をしなければよかった。素直に浮気を謝罪しておけばよかった。もうすべて取り返しがつかない。
応援ありがとうございます!
20
お気に入りに追加
20
この作品は感想を受け付けておりません。
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる