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23 私に告白してきた人はだいたい事故で死ぬけど、カズ君だけはなかなか死なない
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「ここまで来れば、もう大丈夫」
カズ君はそう言って立ち止まる。事故現場から遠く離れた場所で、隣町とを繋ぐ道路の途中だ。周りに建物はなく、崖と雑木林に囲まれている。
「自転車、置いてきちゃったね」
私は来た道を見ながらそう言った。
「あぁ……でも、もういいや」
「いいの?事故現場が落ち着いたら、取りに戻る?」
私がそう提案すると、カズ君は首を横に振り、言葉を吐き出す。
「もう、戻らない。そう決めて、僕はモモちゃんの元に来たから」
「わかんない」
思わず出た言葉にカズ君は「何が?」と問い返す。
「どうして私にそこまで?私はカズ君を騙してた。ターゲットだから近付いて、友達になって、告白させた。なのに、どうして好きでいてくれるの?」
カズ君はしばらく考えて口を開く。
「理屈じゃないよ。最初はショックだったけど、モモちゃんの事を想う気持ちが変わらなかった。それだけなんだ……。それに、どうしても付き合ってた時のモモちゃんの感情が演技だとは思えなかった」
「嬉しい。けど……」
「告白した時も言ったけど、僕は自分の人生に絶望してたんだよ。何も良い事がなかった……それこそほんと……死にたいぐらいに……」
カズ君は空を見上げて「いや……」と続ける。
「死にたかった。毎晩、消えてなくなりたかったんだ……夜眠りについて、朝に目覚めなければいいのにって……」
私が思っている以上に、カズ君は自分の人生を呪っているようだ。どこか私と似ている……
「小さい頃からそうだったんだよ。何か願望があって、良い所までいくけど、いつも邪魔が入ってダメになる。頑張っても頑張っても、自分以外の事が原因で駄目になる。でも、いよいよもう終わりだ……と思った時に、必ずと言っていいほど微かな希望が見えるんだ」
それがカズ君の運命というものなのだろう。死にたい願望が頂点に達していた時に、私という希望に出会ってしまった。私がカズ君の自殺を止めたのだ。自殺する事で救われると思っていたカズ君にとって、私の存在が自殺の邪魔になった。
私はカズ君に訊ねる。
「今も死にたいと思う?」
「いつ死んでもいいとは思ってる」
カズ君はそう即答した。
なるほど……そう言う事か……
私に告白してきた人はだいたい事故で死ぬけど、カズ君だけが死なないのは、カズ君自身の運命が影響しているのだろう。いつ死んでもいいという願望が、事故死を回避している。まだ死なせねーよと、運命が働いているのだ。
そして、まさにそのカズ君の運命が、私の“告白してきた人が事故死する”という運命を捻じ曲げたのだ。
私の胸の辺りがポカポカと温かくなった。幸せのホルモンが分泌されているのが実感できる。カズ君に出会えて良かった。そういう想いが自然と湧き出てくる。
「僕はモモちゃんに出会えて良かったと思ってるよ」
「私もカズ君に出会えて良かった」
私はどこまで続いているか分からない道路の先を見た。これから歩いていく道だ。その道を見ながら、私は口を開く。
「私もカズ君の運命を受け入れる。死にたい時は、一緒に死のう」
「ありがとう」
そこでふと、私はある事を思い出した。依頼者についての事だ。カズ君は知っているのだろうか?そのことに触れずにいるか?いや、正直に話すべきだろう。
「あの、カズ君。そういえば、依頼者について……何か知ってる?」
「ん?」とカズ君は私の方を見て言う。「お父さんでしょ?」
「知ってたの?!」
「モモちゃんに殺し屋だって告白された時に、僕を殺してメリットのある人って誰だろう?と思って考えたんだ。そしたら、お父さんしかいないなって……僕には保険が掛けられてるから。それで、お父さんの携帯を見たら、モモちゃんの番号があった」
「ごめんなさい……」
何だかやっぱり申し訳ない気持ちになる。
「いいんだよ。仕事でしょ?僕はそういうのも全部、受け入れる事にしたから」
何と言えばいいか、言葉が出ない。
「もう、家にもこの町にも戻らない。お父さんには何も言ってない。保険も解約して、そのうち返戻金が振り込まれると思う。そのお金で、しばらく一緒に旅をしよう」
それにしても、私の殺し屋発言を信じてくれるとは……本当にカズ君は良い人だ。嘘かもしれないのに……それで私と運命を共有するために動いてくれた。そこには損得勘定は無いんだと思う。単純に、私への想いが感じられる。そういえば、私のスマホやお金、その他の持ち物は部屋に置きっぱなしだ。まぁいいや、それがどう使われるかわからないけど、誰かが何とかしてくれるだろう。
私は「喜んで」と言って、カズ君の目を見つめる。そして、カズ君の両肩に手を回して、今まで言いたくても言えなかった言葉を口にした。きっと、それを言っても大丈夫だと思った。カズ君なら、何とかなる。
「私もカズ君の事、好きだよ」
カズ君は頬っぺを赤くして、目を見開いている。よし、この流れでキスを……と思っていたが、やっぱりそれは来た。ビシっと大きな音がして、崖の方から大きな岩が転がってくる。私とカズ君は身を寄せながらその岩を避けた。岩は道路の真ん中で止まり、車は通れそうにない。そこにパトカーの音が聞こえてくる。
あの刑事達か?きっとそうだろう。そう思い、私とカズ君は目でお互いの意思を確かめ合い、そして手を繋ぎ走り出した。どこに続いているかわからない道の先へ向かって……
「やっぱり、いいところで邪魔が入るんだよなぁ」
カズ君が息を切らしながらそう呟く。私は「ふふ」っと笑った。
普通の幸せなんてこの先も手に入りそうにないけれど、これはこれで幸せかもしれないな……と私は思った。
【完】
カズ君はそう言って立ち止まる。事故現場から遠く離れた場所で、隣町とを繋ぐ道路の途中だ。周りに建物はなく、崖と雑木林に囲まれている。
「自転車、置いてきちゃったね」
私は来た道を見ながらそう言った。
「あぁ……でも、もういいや」
「いいの?事故現場が落ち着いたら、取りに戻る?」
私がそう提案すると、カズ君は首を横に振り、言葉を吐き出す。
「もう、戻らない。そう決めて、僕はモモちゃんの元に来たから」
「わかんない」
思わず出た言葉にカズ君は「何が?」と問い返す。
「どうして私にそこまで?私はカズ君を騙してた。ターゲットだから近付いて、友達になって、告白させた。なのに、どうして好きでいてくれるの?」
カズ君はしばらく考えて口を開く。
「理屈じゃないよ。最初はショックだったけど、モモちゃんの事を想う気持ちが変わらなかった。それだけなんだ……。それに、どうしても付き合ってた時のモモちゃんの感情が演技だとは思えなかった」
「嬉しい。けど……」
「告白した時も言ったけど、僕は自分の人生に絶望してたんだよ。何も良い事がなかった……それこそほんと……死にたいぐらいに……」
カズ君は空を見上げて「いや……」と続ける。
「死にたかった。毎晩、消えてなくなりたかったんだ……夜眠りについて、朝に目覚めなければいいのにって……」
私が思っている以上に、カズ君は自分の人生を呪っているようだ。どこか私と似ている……
「小さい頃からそうだったんだよ。何か願望があって、良い所までいくけど、いつも邪魔が入ってダメになる。頑張っても頑張っても、自分以外の事が原因で駄目になる。でも、いよいよもう終わりだ……と思った時に、必ずと言っていいほど微かな希望が見えるんだ」
それがカズ君の運命というものなのだろう。死にたい願望が頂点に達していた時に、私という希望に出会ってしまった。私がカズ君の自殺を止めたのだ。自殺する事で救われると思っていたカズ君にとって、私の存在が自殺の邪魔になった。
私はカズ君に訊ねる。
「今も死にたいと思う?」
「いつ死んでもいいとは思ってる」
カズ君はそう即答した。
なるほど……そう言う事か……
私に告白してきた人はだいたい事故で死ぬけど、カズ君だけが死なないのは、カズ君自身の運命が影響しているのだろう。いつ死んでもいいという願望が、事故死を回避している。まだ死なせねーよと、運命が働いているのだ。
そして、まさにそのカズ君の運命が、私の“告白してきた人が事故死する”という運命を捻じ曲げたのだ。
私の胸の辺りがポカポカと温かくなった。幸せのホルモンが分泌されているのが実感できる。カズ君に出会えて良かった。そういう想いが自然と湧き出てくる。
「僕はモモちゃんに出会えて良かったと思ってるよ」
「私もカズ君に出会えて良かった」
私はどこまで続いているか分からない道路の先を見た。これから歩いていく道だ。その道を見ながら、私は口を開く。
「私もカズ君の運命を受け入れる。死にたい時は、一緒に死のう」
「ありがとう」
そこでふと、私はある事を思い出した。依頼者についての事だ。カズ君は知っているのだろうか?そのことに触れずにいるか?いや、正直に話すべきだろう。
「あの、カズ君。そういえば、依頼者について……何か知ってる?」
「ん?」とカズ君は私の方を見て言う。「お父さんでしょ?」
「知ってたの?!」
「モモちゃんに殺し屋だって告白された時に、僕を殺してメリットのある人って誰だろう?と思って考えたんだ。そしたら、お父さんしかいないなって……僕には保険が掛けられてるから。それで、お父さんの携帯を見たら、モモちゃんの番号があった」
「ごめんなさい……」
何だかやっぱり申し訳ない気持ちになる。
「いいんだよ。仕事でしょ?僕はそういうのも全部、受け入れる事にしたから」
何と言えばいいか、言葉が出ない。
「もう、家にもこの町にも戻らない。お父さんには何も言ってない。保険も解約して、そのうち返戻金が振り込まれると思う。そのお金で、しばらく一緒に旅をしよう」
それにしても、私の殺し屋発言を信じてくれるとは……本当にカズ君は良い人だ。嘘かもしれないのに……それで私と運命を共有するために動いてくれた。そこには損得勘定は無いんだと思う。単純に、私への想いが感じられる。そういえば、私のスマホやお金、その他の持ち物は部屋に置きっぱなしだ。まぁいいや、それがどう使われるかわからないけど、誰かが何とかしてくれるだろう。
私は「喜んで」と言って、カズ君の目を見つめる。そして、カズ君の両肩に手を回して、今まで言いたくても言えなかった言葉を口にした。きっと、それを言っても大丈夫だと思った。カズ君なら、何とかなる。
「私もカズ君の事、好きだよ」
カズ君は頬っぺを赤くして、目を見開いている。よし、この流れでキスを……と思っていたが、やっぱりそれは来た。ビシっと大きな音がして、崖の方から大きな岩が転がってくる。私とカズ君は身を寄せながらその岩を避けた。岩は道路の真ん中で止まり、車は通れそうにない。そこにパトカーの音が聞こえてくる。
あの刑事達か?きっとそうだろう。そう思い、私とカズ君は目でお互いの意思を確かめ合い、そして手を繋ぎ走り出した。どこに続いているかわからない道の先へ向かって……
「やっぱり、いいところで邪魔が入るんだよなぁ」
カズ君が息を切らしながらそう呟く。私は「ふふ」っと笑った。
普通の幸せなんてこの先も手に入りそうにないけれど、これはこれで幸せかもしれないな……と私は思った。
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