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第28話 凍える寮と爆裂の魔導オタク
「……寒い」
王立学院の男子寮。
朝、マイルズは白い息を吐きながら目覚めた。
石造りの壁は冷え切っており、隙間風が容赦なく体温を奪っていく。
室温計は氷点下に近い。
「限界だな」
マイルズは毛布を跳ね除け、決意を固めた。
昨日の「飯テロ」で胃袋は満たされたが、睡眠環境がこれでは体が持たない。
「内政だ。……この冷蔵庫のような部屋を、快適なスイートルームに変える」
マイルズは、部屋の隅に積んであった荷物を開けた。
銀翼商会を通じて運び込ませた、バーンズ領特産の資材だ。
「まずは『断熱』だ」
マイルズは『創造』スキルを使い、壁の隙間を埋めるコーキング剤と、壁面に貼り付ける断熱パネル(発泡スチロールに近い構造体)を生成し、手際よく施工していく。
次に、床には厚手の絨毯を敷き、窓には二重ガラス(これも赤錆山製)をはめ込む。
そして真打。
「『バーンズ式鋳鉄ストーブ・小型版』」
黒く重厚な鉄の箱を設置し、煙突を既存の暖炉の穴に接続する。
コークスに火を入れると、チロチロと炎が燃え上がり、鋳鉄のボディが熱を放ち始めた。
「……ふぅ。生き返る」
数十分後、部屋は常春のような暖かさに包まれた。
これで勉強も睡眠も完璧だ。
ドォォォォン!!
その時、凄まじい爆発音が寮全体を揺らした。
「な、なんだ!?」
マイルズが廊下に出ると、隣の部屋のドアから黒煙が噴き出していた。
「げほっ! ごほっ! ……また失敗したぁ……」
煙の中から、一人の女子生徒が這い出してきた。
ボサボサの黒髪、煤で真っ黒になった顔、そして分厚い眼鏡。
制服はよれよれで、白衣を羽織っている。
「……君は?」
マイルズが声をかけると、彼女は眼鏡を直しながら顔を上げた。
「あ、おはようございます……。私はシャルロット・ミスティ。魔導工学科の特待生です……」
彼女は、はにかむように笑ったが、その顔は煤だらけで滑稽だった。
「何をしたんだ?」
「えっと……部屋が寒すぎて死にそうだったので、『自動発熱魔法陣』を描いていたんですけど……魔力回路が暴走して、小爆発を……」
典型的な「理論はいいが実技が伴わないタイプ」か、あるいは「出力調整ができない天才肌」か。
マイルズは部屋の中を覗いた。
焼け焦げた机の上に、複雑怪奇な魔法陣の跡があった。
(……ほう。この術式、熱力学の法則を魔法で再現しようとしているのか? 独学で?)
マイルズの技術者としての魂が反応した。
「君、面白いことをしているね」
「え? わ、分かりますか!? 普通は『馬鹿なこと』って笑われるんですけど!」
シャルロットが食いついてきた。
「惜しいな。この回路だと、熱変換効率が悪すぎてオーバーヒートする。……ここに『冷却術式』ではなく『循環パイプ』の概念を組み込めば安定するはずだ」
マイルズが指で空中に図面を描くと、シャルロットは目を見開いた。
「す、すごい……! その発想はなかったです! 貴方、何者ですか!?」
「マイルズ・バーンズ。……ただの『便利屋』だよ」
マイルズは、彼女の部屋に入り込んだ。
「お詫びと言っては何だが、君の部屋もリフォームしてあげよう。……私のストーブと、君の魔法理論を組み合わせれば、もっと面白いものが作れそうだ」
「本当ですか!? ……あ、あの、私、お金ないですよ? 没落貴族なので……」
「金はいらない。……その代わり、私の『技術開発』を手伝ってくれ」
その日から、マイルズの部屋(とシャルロットの部屋)は、寮内で異質の空間となった。
廊下は極寒なのに、彼らの部屋だけがポカポカと暖かい。
噂は瞬く間に広まった。
「おい、バーンズの部屋に行くと暖かいらしいぞ」
「ストーブっていう鉄の箱があるんだって!」
「あいつ、シャルロットと組んで『魔導コタツ』を作ったらしいぞ!」
寒さに震える生徒たちが、マイルズの部屋に避難民のように集まり始めた。
「頼む! 俺の部屋にもストーブを売ってくれ!」
「寒くて勉強できないんです! お願いします!」
需要爆発。
マイルズはニヤリとした。
「商機あり、だな。……シンシア! 在庫のストーブをすべて放出! 取り付け工事費込みで、一台銀貨五枚!」
「了解。……予約殺到につき、価格を一割上げても売れます」
寮内での「ストーブ設置工事」が始まった。
マイルズとシャルロット、そして雇われた下級生たちが、次々と部屋を快適空間に変えていく。
「何をやっているんだ貴様らは!」
またしても、生徒会副会長のオスカーが乗り込んできた。
「寮の改造など許可していない! 即刻撤去しろ!」
「撤去ですか?」
マイルズは、オスカーの顔色を見た。青ざめて震えている。
「先輩、鼻水が出ていますよ。……生徒会室は寒いんでしょう?」
「うっ……! せ、精神修養の一環だ!」
「やせ我慢は体に毒ですよ。……どうです? 生徒会室にも一台。今なら『役員割引』で設置しますが」
マイルズは、ホカホカと暖かい缶コーヒー(試作品)をオスカーに手渡した。
オスカーは、その温もりに抗えなかった。
「……くっ。……い、一台だけだぞ! テスト用だ! 決して私が寒いわけではない!」
陥落。
こうして、マイルズは「食」に続き「住」においても学園を実質的に支配し始めた。
そして何より、シャルロットという強力な「魔導エンジニア」を手に入れたことは、今後の改革にとって最大の収穫だった。
「マイルズ君! 次は何を作るの!? 私、頭の中に魔法陣がいっぱい浮かんでるの!」
「いいね。次は……この広い学園を移動するための『足』を作ろうか」
二人の天才が出会ったことで、王立学院の技術レベルは、数百年分一気に加速することになる。
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