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第59話 狂王子の落日と、虹色の蒸気
「来ないでくれ! 近寄るな!」
王城の最深部、地下大祭壇。
そこに、第一王子アウグストの絶叫が響き渡った。
彼は祭壇の中央にある巨大なクリスタル――王都の魔力を管理する制御石に杖を突き立て、狂気の目でこちらを睨んでいた。
「兄上……! 何をする気ですか!」
ギルバートが剣を下げ、悲痛な声で叫ぶ。
その後ろにはマイルズ、グレン、そして近衛騎士たちが控えている。
「ふ、ふふふ……。分からないか、愚弟よ」
アウグストは歪んだ笑みを浮かべた。
「この制御石を破壊すれば、王都の地下を流れる『魔力大脈』が逆流する。……都は大爆発し、全てが消し飛ぶのだ!」
自爆テロ。
権力への執着が断たれた時、プライドの高い彼が選んだのは「誰にも渡さない」という最悪の選択だった。
「私を王にしないなら、この国などいらぬ! 灰になれ!」
アウグストが杖に魔力を込める。
クリスタルが不吉な赤色に明滅し、地響きと共に天井からパラパラと砂が落ちてくる。
「止めろぉぉぉっ!!」
ギルバートが駆け出そうとするが、マイルズがその肩を掴んで止めた。
「待ってください、殿下。……刺激すれば、爆発します」
マイルズの声は冷静だった。
だが、その瞳――『生命』スキルを発動させた右目は、かつてない速度で情報を処理していた。
(……見える)
マイルズの視界には、王都の地下を流れる膨大な魔力の奔流が、血管のように透けて見えていた。
クリスタルは「心臓」。
今、そこにアウグストという「血栓」が詰まり、魔力が逆流して破裂しようとしている状態だ。
(構造は人体と同じだ。……なら、治せる)
マイルズは、ヘッドセットに手を当てた。
「シャルロット。聞こえるか」
『う、うん! 聞こえるよ! 地下の魔力数値が異常上昇してる! このままだと……!』
「あと三分で臨界点だ。……これから『バイパス手術』を行う」
マイルズは指示を飛ばした。
「王都の全地下水道のバルブを開放しろ。そして、ポンプの出力を逆転。『排水』ではなく『吸水』にして、魔力の圧力を水路へ逃がすんだ」
『えっ!? そ、そんなことしたら、マンホールから魔力が噴き出して……』
「構わん。爆発するよりマシだ。……やれ!」
『了解! ……全バルブ、開放!』
◇
ズゴゴゴゴゴゴ……!!
地下祭壇が激しく揺れた。
アウグストが杖を押し込もうとするが、手応えがおかしい。
「な、何だ!? 魔力が……集まらない!?」
制御石に溜まろうとしていた暴発エネルギーが、何かに吸い込まれるように散っていく。
「今だ! グレン!」
マイルズが叫ぶ。
「おうっ!!」
グレンが疾風のように踏み込んだ。
アウグストが反応するよりも速く、その手から杖を弾き飛ばし、鳩尾(みぞおち)に強烈な拳を叩き込む。
「がはっ……!?」
アウグストが白目を剥いて崩れ落ちる。
同時に、制御石の赤い光が消え、静寂が戻った。
◇
その頃、王都の地上では、幻想的な光景が広がっていた。
シュウウウウウウッ……!
街中のマンホールから、勢いよく蒸気が噴き出していた。
だが、それはただの蒸気ではない。
地下の魔力を含んだそれは、陽の光を浴びて**七色に輝く「虹色の霧」**となっていたのだ。
「うわぁ……綺麗……」
「虹だ! 虹の蒸気だ!」
避難していた市民たちが、空を見上げて歓声を上げる。
殺戮の爆発になるはずだったエネルギーは、マイルズの機転によって、戦いの終わりを告げる美しい祝砲へと変わったのだ。
◇
「……終わったな」
地下祭壇。
拘束されたアウグストを見下ろし、ギルバートは深く息を吐いた。
「兄上。……貴方は王にはなれない。だが、死なせはしない」
ギルバートは静かに告げた。
「一生をかけて、罪を償ってもらう。……生きて、変わっていくこの国を見届けてくれ」
そこへ、近衛騎士に支えられ、病身の国王エドワードが現れた。
騒ぎを聞きつけ、寝室から出てきたのだ。
「……ギルバートよ」
「父上」
国王は、気絶した長男と、成長した次男、そしてその背後に控えるマイルズを見た。
「……私の目が曇っていたようだ。……力とは、奪うものではなく、与えるものだったな」
国王は、震える手でギルバートの肩に触れた。
「よくぞ国を守った。……そしてマイルズよ。そなたには、いくら礼を言っても足りぬ」
「礼には及びません」
マイルズは、いつもの飄々とした態度で肩をすくめた。
「商売道具(王都)を壊されては、私が困りますので」
王都奪還作戦、完了。
クーデターは鎮圧され、第一王子派は壊滅した。
虹色の霧が晴れた後、そこには新しい時代の幕開けが待っていた。
◇
数ヶ月後。
王立学院の講堂は、厳粛な空気に包まれていた。
卒業式。
3年間の学院生活の締めくくりであり、マイルズたちの旅立ちの日だ。
壇上に立つのは、生徒会長であり、次期国王として正式に指名されたギルバート。
彼は卒業証書を受け取ると、全校生徒に向かって力強く宣言した。
「我々は学ぶことを終え、創ることを始める。……恐れるな。我々の前には、道(レール)が続いている」
そして、答辞を読むために登壇したのは、首席卒業生マイルズ・バーンズ。
彼は原稿を持たずにマイクの前に立った。
「……長かったようで短い3年間でした」
マイルズは会場を見渡した。
シャルロット、シンシア、ゼッド、エレオノーラ、リーナ、そしてギルバート。
多くの仲間と出会い、多くの事業を成し遂げた。
「私は、ただの『便利な男』であり続けたいと思います」
マイルズはニヤリと笑った。
「皆さんが困った時、病んだ時、あるいは美味しいものが食べたくなった時。……いつでもバーンズ商会を頼ってください。最高の商品を用意して、お待ちしております」
会場が笑いと拍手に包まれる。
それは、英雄への称賛ではなく、愛すべき友人へのエールだった。
帽子が一斉に投げ上げられる。
15歳の春。
マイルズ・バーンズは王立学院を卒業した。
だが、彼の物語はここで終わらない。
学生という肩書きを捨てた彼は、これから本当の意味での「領主」、そして「実業家」として、世界を相手に暴れ回ることになる。
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