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第6話 執事の正体と、耕運機イメージ
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翌朝。
俺は全身の筋肉痛で目を覚ました。
体の節々が悲鳴を上げている。昨日、調子に乗って張り切りすぎたツケが回ってきたようだ。
10歳の体には、荒地の開墾はハードすぎたらしい。
「うう……痛い……」
「お目覚めですか、リック様。湿布をお持ちしましたよ」
セバスが涼しい顔で入室してくる。
この老執事、昨日あれだけ働いたのに、疲れた様子が微塵もない。どうなっているんだ。
***
2日目の作業現場。
今日は「畝うね作り」だ。土を盛り上げ、作物を植える列を作る。
だが、昨日柔らかくしたとはいえ、広大な荒地をすべて手作業で成形するのは骨が折れる。
30人の農民たちも、さすがに昨日の疲れが残っているのか、ペースが落ちていた。
(……効率が悪い)
俺は腕組みをして考え込んだ。
人海戦術は美しいが、限界がある。
前世なら、トラクターや耕運機を入れるところだ。だが、ここにはそんな機械はない。
代わりにあるものといえば――。
「……そうだ。魔法だ」
俺はセバスを振り返った。
この世界には魔法がある。貴族や一部の才能ある者しか使えないとされるが、エネルギー源としては優秀なはずだ。
「セバス。相談があるんだけど」
「はい、なんでしょう」
「この畝作り、魔法でなんとかならないかな? 『土魔法』で土を動かせば、一瞬で終わると思うんだけど」
俺の提案に、セバスは少し驚いたように目を丸くした。
「土魔法、でございますか。確かに理屈としては可能ですが……この規模を制御するには、相当な魔力と技術が必要ですよ? 並の魔法使いでは、小さな穴を掘るのが関の山です」
「並じゃなければ、できる?」
「……ふむ」
セバスは顎に手を当て、少し思案してから、手袋をキュッと締め直した。
「では、僭越ながら私が試してみましょう。リック様の『効率化』のお役に立てるなら」
セバスは荒地の中央に進み出ると、優雅に片手を掲げた。
その瞬間。
ピリリ、と空気が震えた。
「――大地よ、我が意に従い、形を変えよ。『グランド・シェイプ(地形操作)』」
ズズズズズズッ……!
地鳴りと共に、目の前の光景が歪んだ。
まるで生き物のように土が盛り上がり、一直線に整然とした「畝」が形成されていく。
それも、1本や2本じゃない。
視界の端から端まで、10本以上の畝が同時に、しかも定規で引いたように美しく完成したのだ。
「う、うわあああっ!?」
「土が勝手に動いたぞ!?」
農民たちが腰を抜かして逃げ惑う。
俺もポカンと口を開けていた。
レベルが違う。これはちょっとした災害レベルの魔法だ。
「……セバス。君、ただの執事じゃないよね?」
俺がジト目で問いただすと、セバスは「おや」と悪戯っぽく微笑み、埃を払う仕草をした。
「申し遅れました。私、隠居する前は王都の宮廷で『筆頭宮廷魔法師』を務めておりました」
「宮廷魔法師……しかも筆頭!?」
国の魔法使いのトップじゃないか!
どうりで父上(商務次官)が「セバスがいれば安心だ」と言っていたわけだ。
こんなスーパーおじいちゃんが家にいたなんて。エルガレア家の人材層、厚すぎるだろ。
「若様。魔法というのはイメージが重要です。魔力を練り、結果を強く思い描くことで事象を書き換えるのです」
セバスが俺に視線を向けた。
教育者としての目だ。
「リック様にも、高い魔力の素養がおありです。試してみますか?」
「俺にもできるかな?」
「エルガレアの血と、カーラ侯爵家の血を引く若様です。できないはずがありません」
俺はこくりと頷き、まだ手つかずの地面の前に立った。
イメージ。想像力。
それなら負けない。俺の中には、前世の現代知識という最強のデータベースがある。
セバスのような「波のように土を動かす」イメージじゃない。
もっと効率的で、もっと強力な機械的な動き。
そう、イメージするのは――大型ロータリー耕運機だ。
高速回転する鋼鉄の刃が、土を粉砕し、空気を含ませながら耕していく映像。
(エンジン出力全開。回転数3000rpm……ターゲット、前方の土壌!)
俺は右手を突き出し、体の中の熱いものを指先に集中させた。
「……耕せ。『ロータリー・ブレイク』!」
ドガガガガガガッ!!
爆音と共に、俺の目の前の地面が弾け飛んだ。
いや、弾け飛んだのではない。
見えない「回転刃」が地面を猛烈な勢いで掘削し、土を細かく粉砕しながら前進していく。
セバスの魔法が「粘土細工」なら、俺の魔法は「粉砕機」だ。
硬い岩も雑草の根も関係ない。すべてを巻き込み、一瞬でフカフカの更地にしていく。
「なっ……!?」
今度はセバスが目を見開く番だった。
あっという間に50メートルほどの距離を耕し終え、俺は息を吐いた。
「ふぅ……。どうかな、セバス?」
「……驚きました。土を動かすのではなく、細かく『粉砕』し『攪拌かくはん』する魔法とは。あのような複雑な事象、どのようなイメージを持てば発動できるのですか?」
元・筆頭宮廷魔法師が冷や汗を流している。
どうやら、俺の現代知識(耕運機の構造)は、魔法というフィルターを通すことで、とんでもないオリジナル魔法に変換されたらしい。
「よし! これならいける!」
俺は確信した。
セバスの「地形操作」で大枠を作り、俺の「耕運魔法」で土を整える。
このコンビネーションがあれば、残りの作業なんて半日で終わる。
「みんな、聞いてくれ! 予定変更だ! 今日中に種まきまで終わらせるぞ!」
俺の号令に、呆気にとられていた農民たちが「おおおー!」と歓声を上げた。
魔法使い執事と、転生者当主。
最強の「開拓コンビ」が爆誕した瞬間だった。
俺は全身の筋肉痛で目を覚ました。
体の節々が悲鳴を上げている。昨日、調子に乗って張り切りすぎたツケが回ってきたようだ。
10歳の体には、荒地の開墾はハードすぎたらしい。
「うう……痛い……」
「お目覚めですか、リック様。湿布をお持ちしましたよ」
セバスが涼しい顔で入室してくる。
この老執事、昨日あれだけ働いたのに、疲れた様子が微塵もない。どうなっているんだ。
***
2日目の作業現場。
今日は「畝うね作り」だ。土を盛り上げ、作物を植える列を作る。
だが、昨日柔らかくしたとはいえ、広大な荒地をすべて手作業で成形するのは骨が折れる。
30人の農民たちも、さすがに昨日の疲れが残っているのか、ペースが落ちていた。
(……効率が悪い)
俺は腕組みをして考え込んだ。
人海戦術は美しいが、限界がある。
前世なら、トラクターや耕運機を入れるところだ。だが、ここにはそんな機械はない。
代わりにあるものといえば――。
「……そうだ。魔法だ」
俺はセバスを振り返った。
この世界には魔法がある。貴族や一部の才能ある者しか使えないとされるが、エネルギー源としては優秀なはずだ。
「セバス。相談があるんだけど」
「はい、なんでしょう」
「この畝作り、魔法でなんとかならないかな? 『土魔法』で土を動かせば、一瞬で終わると思うんだけど」
俺の提案に、セバスは少し驚いたように目を丸くした。
「土魔法、でございますか。確かに理屈としては可能ですが……この規模を制御するには、相当な魔力と技術が必要ですよ? 並の魔法使いでは、小さな穴を掘るのが関の山です」
「並じゃなければ、できる?」
「……ふむ」
セバスは顎に手を当て、少し思案してから、手袋をキュッと締め直した。
「では、僭越ながら私が試してみましょう。リック様の『効率化』のお役に立てるなら」
セバスは荒地の中央に進み出ると、優雅に片手を掲げた。
その瞬間。
ピリリ、と空気が震えた。
「――大地よ、我が意に従い、形を変えよ。『グランド・シェイプ(地形操作)』」
ズズズズズズッ……!
地鳴りと共に、目の前の光景が歪んだ。
まるで生き物のように土が盛り上がり、一直線に整然とした「畝」が形成されていく。
それも、1本や2本じゃない。
視界の端から端まで、10本以上の畝が同時に、しかも定規で引いたように美しく完成したのだ。
「う、うわあああっ!?」
「土が勝手に動いたぞ!?」
農民たちが腰を抜かして逃げ惑う。
俺もポカンと口を開けていた。
レベルが違う。これはちょっとした災害レベルの魔法だ。
「……セバス。君、ただの執事じゃないよね?」
俺がジト目で問いただすと、セバスは「おや」と悪戯っぽく微笑み、埃を払う仕草をした。
「申し遅れました。私、隠居する前は王都の宮廷で『筆頭宮廷魔法師』を務めておりました」
「宮廷魔法師……しかも筆頭!?」
国の魔法使いのトップじゃないか!
どうりで父上(商務次官)が「セバスがいれば安心だ」と言っていたわけだ。
こんなスーパーおじいちゃんが家にいたなんて。エルガレア家の人材層、厚すぎるだろ。
「若様。魔法というのはイメージが重要です。魔力を練り、結果を強く思い描くことで事象を書き換えるのです」
セバスが俺に視線を向けた。
教育者としての目だ。
「リック様にも、高い魔力の素養がおありです。試してみますか?」
「俺にもできるかな?」
「エルガレアの血と、カーラ侯爵家の血を引く若様です。できないはずがありません」
俺はこくりと頷き、まだ手つかずの地面の前に立った。
イメージ。想像力。
それなら負けない。俺の中には、前世の現代知識という最強のデータベースがある。
セバスのような「波のように土を動かす」イメージじゃない。
もっと効率的で、もっと強力な機械的な動き。
そう、イメージするのは――大型ロータリー耕運機だ。
高速回転する鋼鉄の刃が、土を粉砕し、空気を含ませながら耕していく映像。
(エンジン出力全開。回転数3000rpm……ターゲット、前方の土壌!)
俺は右手を突き出し、体の中の熱いものを指先に集中させた。
「……耕せ。『ロータリー・ブレイク』!」
ドガガガガガガッ!!
爆音と共に、俺の目の前の地面が弾け飛んだ。
いや、弾け飛んだのではない。
見えない「回転刃」が地面を猛烈な勢いで掘削し、土を細かく粉砕しながら前進していく。
セバスの魔法が「粘土細工」なら、俺の魔法は「粉砕機」だ。
硬い岩も雑草の根も関係ない。すべてを巻き込み、一瞬でフカフカの更地にしていく。
「なっ……!?」
今度はセバスが目を見開く番だった。
あっという間に50メートルほどの距離を耕し終え、俺は息を吐いた。
「ふぅ……。どうかな、セバス?」
「……驚きました。土を動かすのではなく、細かく『粉砕』し『攪拌かくはん』する魔法とは。あのような複雑な事象、どのようなイメージを持てば発動できるのですか?」
元・筆頭宮廷魔法師が冷や汗を流している。
どうやら、俺の現代知識(耕運機の構造)は、魔法というフィルターを通すことで、とんでもないオリジナル魔法に変換されたらしい。
「よし! これならいける!」
俺は確信した。
セバスの「地形操作」で大枠を作り、俺の「耕運魔法」で土を整える。
このコンビネーションがあれば、残りの作業なんて半日で終わる。
「みんな、聞いてくれ! 予定変更だ! 今日中に種まきまで終わらせるぞ!」
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