前世知識は最強!異世界改革!

namisan

文字の大きさ
16 / 71

第16話 開店狂騒曲と、魔法の早採れカブ

しおりを挟む


 決戦の朝が来た。
 午前8時。
 エルガレア商会本部の最上階にある執務室から、俺は眼下の広場を見下ろしていた。
 そこには、俺の予想を遥かに超える光景が広がっていた。
「……なんてこった。コミケの始発組かよ」
 メインストリートを埋め尽くす、人の海。
 その列は広場を突き抜け、城門の外まで続いている。
 先頭集団には、徹夜で並んでいたと思われる冒険者や近隣の若者たち。
 そしてその後方には、王都や他領から馬車で駆けつけた貴族たちの優雅な(しかし殺気立った)行列ができている。
「リック様。最後尾の確認が取れません。現在、推計で5000人を超えています」
「5000……! 領都の人口の1割じゃないか」
 控えていたセバスも、さすがに冷や汗を流している。
 父ロイドに至っては、窓に張り付いたまま「こんなの、王都の祝賀パレードでも見たことがないぞ……」と震えていた。
「父上、怯んでいる場合じゃありません。これは『戦争』です。お客様という名の軍勢を、いかに捌(さバ)き、満足させて帰すか。総力戦ですよ!」
「あ、ああ! わかっている! 全従業員、配置につけ! 開門だ!」
 午前9時。
 鐘の音と共に、エルガレアの歴史が変わる1日が始まった。
 ***
 まずは大衆向けの第1号店『鉄板亭』だ。
 オープンと同時に、雪崩のように客が押し寄せる。
「いらっしゃいませー! 食券を先に買ってください!」
「並盛3丁! 大盛り5丁!」
「あいよっ!!」
 活気ある掛け声と共に、巨大な鉄板の上で麺が踊る。
 今回導入した「食券システム(木札を購入してカウンターで交換)」のおかげで、金銭授受の手間がなくなり、驚異的な回転率を実現していた。
 客たちは出来たての焼きそばを受け取ると、フードコート形式の席でハフハフと頬張る。
「うめえええ! これだよ、この味!」
「朝から並んだ甲斐があったぜ!」
「持ち帰り(テイクアウト)! 家族の分も頼む!」
 ソースの香ばしい匂いが換気ダクトから通りへ吹き出し、それがさらなる客を呼び込む永久機関となっていた。
 ***
 一方、メイン会場である『エルガレア百貨店』の前には、1台の豪華絢爛な馬車が到着していた。
 王家の紋章に次ぐ権威を持つ、カーラ侯爵家の馬車だ。
 扉が開き、バーノンお祖父様が降り立つ。
 そして彼のエスコートで現れたのは、深紅のドレスを纏った美しい女性――祖母のスーナだ。
 55歳とは思えないハリのある肌と、貴族然とした優雅な佇まい。社交界の重鎮である彼女の登場に、周囲の貴族たちが一斉に頭を下げる。
「お祖父様、お祖母様! ようこそおいでくださいました!」
「おお、リック! 来たぞ!」
 俺が出迎えると、バーノンは満面の笑みで俺を抱き上げた。
 そしてスーナは、扇子で口元を隠しながら、目の前の建物を見上げた。
「……まあ。聞いてはいましたけれど、これほどとは」
 彼女が見つめる先には、朝日に輝く巨大なガラスの壁(ショーウィンドウ)。
 透明な壁の向こうに、高級な商品が宝石のように陳列されているのが見える。
「壁がないみたい……。まるで夢の中のお城ね。これが『ガラス』というものなの?」
「はい、お祖母様。中へどうぞ。最高の席をご用意してあります」
 俺が自動ドア(風魔法で開閉)を開くと、スーナは少女のように目を輝かせて中へ入った。
 1階の物販フロアは、すでに貴族のご婦人方で戦場と化していた。
 ガラス越しに商品を見ていた彼女たちの購買意欲は、実物を手にした瞬間に爆発していた。
 俺たちはその喧騒を抜け、2階の『カフェ・ラウンジ』へ。
 ここは会員制の特別席。ふかふかのソファに座ると、メイド服の店員が恭しくメニューを差し出す。
「本日のスペシャルメニュー、『レストバレイク産・早採れカブの冷製ポタージュ』と『特製フルーツサンド』でございます」
「カブ……? あの泥臭い野菜?」
 スーナが少し眉をひそめた。
 無理もない。カブは貧民の食べ物という認識だ。
 だが、俺には自信があった。
 セバスの成長魔法と俺の土壌改良で、通常の倍の速度で育て上げた「ベビーカブ」。
 繊維が柔らかく、フルーツのように甘いのが特徴だ。
「騙されたと思って一口どうぞ」
 スーナがおそるおそるスプーンを運び――その瞬間、表情が蕩(とろ)けた。
「……甘い! これがカブ? まるで桃のように甘くて、クリーミーだわ!」
「フルーツサンドも絶品だぞ、スーナ。このパンの白さと柔らかさはどうだ」
 バーノンも生クリームとイチゴを挟んだサンドイッチを頬張り、子供のように笑っている。
「……信じられないわ」
 スーナはスープを飲み干し、ため息をついた。
「こんな辺境で、王都の宮廷料理よりも洗練された味に出会えるなんて。それに、この建物、このサービス……。リック、あなたは本当に魔法使いね」
「ありがとうございます。でも、これは魔法じゃありません」
 俺は窓の外、眼下に広がる賑わいを指差した。
「みんなが『豊かになりたい』と願った結果です。僕はその手伝いをしただけですよ」
「ふふ、謙虚ね。でも――」
 スーナは真剣な眼差しで俺と、そして隣のロイドを見た。
「今日で決まったわね。この国の流行の中心(トレンドセンター)は、今日からここ、エルガレアよ。来週の王都のお茶会は、きっとあなたの店の話題で持ちきりになるわ」
 社交界の女王の宣言。
 それは、エルガレア商会の勝利確定のアナウンスでもあった。
 ***
 日が暮れても、街の熱気は冷めなかった。
 いや、街灯が灯り、ガラス張りの百貨店がライトアップされたことで、その美しさはさらに増していた。
 光る城と、賑わう人々。
 執務室で売上集計を見ていたロイドが、ガクリと膝をついた。
「……1、10、100……。1日の売上が、昨年の年間予算を超えた……だと……?」
「父上、しっかりしてください。これはまだ『初日』ですよ?」
 俺は笑って父の背中を叩いた。
 そう、まだ始まったばかりだ。
 農業、インフラ、商業。土台はできた。
 金も人も集まった。
 なら、次はどうする?
 教育か、医療か、それとも新たな産業か。
 10歳の少年実業家の瞳には、無限の可能性が映っていた。
 エルガレアの奇跡は、まだ始まったばかりなのだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる

ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。 レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。 これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

近未来の魔法世界に転生して最強ハーレムを作る

こうたろ
ファンタジー
トラックの直撃で死亡。「君は選ばれた。異世界へ行く資格を得たのだ」とか言われてとりあえず転生させられたクルト。公爵家だけど四男だし魔術があるけど魔力量判定Eでほぼほぼ使い物にならないし……魔物1体倒すのも一苦労。俺の転生後生活、大丈夫か?

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

処理中です...