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第51話 大地の血管を作れ! 魔導ポンプとコンクリート運河
しおりを挟む魔導トラクター『壱号機』の完成から数日。
アリアの荒野では、量産された数台のトラクターが唸りを上げ、猛烈な勢いで黒い土を掘り返していた。
だが、市長である俺(11歳)の表情は険しかった。
「……土は乾いているな」
掘り返されたばかりの土を握りしめると、パラパラと崩れ落ちる。
ここは元々、水の便が悪いために放置されていた荒れ地だ。
近くにエル川という大河が流れているが、アリアの農地はその川面よりも標高が高い「台地」にある。
水は低いところへ流れる。このままでは川の水を引き込めない。
「若様。いかがなされますか? 上流にダムを造り、そこから水路を引くとなると……数年はかかりますぞ」
セバスが地図を見ながら懸念を示す。
正攻法ならそうだ。だが、春の作付けまであと一ヶ月半しかない。
「数年も待てない。……セバス、力技で行くぞ」
「力技、ですか?」
「ああ。水が登らないなら、無理やり持ち上げればいい。そして、漏れない水路を短期間で張り巡らせる」
俺は新たな設計図を取り出した。
『大容量揚水プラント』
『速乾性魔導コンクリート』
この二つが、今回の作戦の要だ。
***
【フェーズ1:心臓部(ポンプ)の建設】
俺たちはエル川の岸辺に、ドワーフ部隊と土魔法使いを集結させた。
「ここに『心臓』を作る! 川の水を吸い上げ、台地の上まで送り込む巨大なポンプだ!」
俺が考案したのは、トラクターのモーター技術を応用した『魔導タービンポンプ』だ。
巨大な羽根車(インペラ)を魔力モーターで高速回転させ、遠心力で水を高所へ押し上げる。
「ガラン! 直径3メートルの羽根車を鋳造しろ! 腐食しないようミスリル合金でコーティングだ!」
「へいよ! デカい仕事は燃えるぜ!」
ドワーフたちが川岸で作業を始める横で、セバスたち魔法部隊は、水を吸い上げるための太いパイプライン(導水管)を設置していく。
パイプの素材は、領内のダンジョンで狩った巨大蛇(サーペント)の骨と、石材を融合させた特別製だ。
***
【フェーズ2:血管(水路)の敷設】
次に、台地の上だ。
水を汲み上げても、地面に撒いただけでは泥沼になってしまう。
碁盤の目のように整理された農地すべてに、無駄なく水を届ける「水路(用水路)」が必要だ。
「ここでもトラクターを使うぞ!」
俺はトラクターの後部アタッチメントを、「耕運機」から「トレンチャー(溝掘り機)」に付け替えさせた。
巨大なチェーンソーのような刃が、地面を垂直に切り裂いていく。
ガガガガガッ!!
一直線に掘られた溝。
そこに、俺が用意した秘密兵器を流し込む。
「『セメント』投入!」
俺の指示で、作業員たちが灰色のドロドロとした液体を溝に流し込み、コテで均していく。
これは、石灰岩と火山灰を混ぜて焼成した『ローマン・コンクリート(セメント)』に、硬化を早める土魔法の粉末を混ぜたものだ。
「通常なら乾くのに数日かかるが……これなら数時間で石のように固まる!」
土の水路では水が染み込んで無駄になる(浸透ロス)が、コンクリートで固めれば、一滴の水も無駄にせず末端まで届けられる。
俺たちは、まるで巨大な血管手術を行う外科医のように、アリアの大地に白い水路を張り巡らせていった。
***
そして一週間後。
突貫工事で完成した揚水機場には、巨大なミスリル製のポンプが設置されていた。
「全回路、接続よし! 魔力充填率120%!」
操作室で、俺はメインレバーを握った。
見守るのは、入植者たち、そして作業に携わった職人たちだ。
「アリアに命の水を! ……ポンプ始動(スイッチ・オン)!!」
ブゥゥゥゥン……!!
腹の底に響く重低音と共に、魔導モーターが唸りを上げる。
川の水が吸い込まれ、太いパイプの中を駆け上がっていく。
そして、台地の上に設置された吐き出し口から――。
ドバァァァァァッ!!
白波を立てて、大量の水が噴き出した。
水はコンクリートの水路を走り、乾いた大地へとみるみる広がっていく。
「水だ! 川が山を登ってきたぞ!」
「これで畑ができる! 作物が育つぞ!」
入植者たちが歓声を上げ、中には涙を流して水路の水に触れる者もいた。
黒い土が水を吸い、生命を育む準備が整っていく。
「ふぅ……。まずは第一段階クリアだな」
俺は轟音を立てるポンプを見上げ、安堵の息をついた。
血管(水路)は繋がった。
心臓(ポンプ)も動いた。
だが、農業革命はここからが本番だ。
次なる課題は、この広大な農地に「何を」「どうやって」効率よく植えるかだ。
俺の手帳には、次なる魔道具のアイデアが記されていた。
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