前世知識は最強!異世界改革!

namisan

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第57話 休日とサンドイッチ、そして広がる笑顔

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 王都本部の執務室。
 そこは、アリアからの輸送計画書と、店舗の売上報告書の山で埋もれていた。
「……小麦粉の在庫調整、完了。次は製糖工場の増設案か」
 俺はペンを走らせていた。
 アリアの成功、パン屋の爆発的ヒット。
 嬉しい悲鳴だが、その全てを決裁するのは俺だ。
 気付けば、ここ数日、空の色すら見ていない気がする。
 バンッ!!
 突然、執務室の扉が乱暴に開かれた。
 顔を上げると、そこには腰に手を当てて仁王立ちするカレンと、困ったように微笑むアリシアが立っていた。
「もう! いい加減にしなさいよ、リック!」
「……カレン? どうしたんだ、急に」
「『どうした』じゃないわよ! あんた、鏡見たことある? 目の下にクマができてるわよ!」
 カレンがズカズカと歩み寄り、俺の手からペンをひったくった。
「今日は天気もいいの。仕事なんか放り出して、外に行くわよ!」
「えっ、でもまだ書類が……」
「リック様。……たまには息抜きも必要ですわ。わたくしたちも、リック様とお話ししたいのです」
 アリシアに上目遣いでそう言われては、断れる男はいまい。
 俺は降参して両手を上げた。
「……分かったよ。負けだ。どこへ行くんだ?」
「公園よ! ピクニック!」
 ***
 ピクニックと聞いて、俺の職人魂(料理人魂?)に火がついた。
 ただサンドイッチを買って行くだけでは芸がない。
「少し時間をくれ。……最高のお弁当を作ってやる」
 俺は屋敷の厨房に入り、『ベーカリー・エルガレア』から届いたばかりの焼きたて「食パン」を取り出した。
 耳を落とし、ふわふわの白い部分だけを使う。
【メニュー1:黄金のたまごサンド】
 アリア産の濃厚な卵を茹でて潰し、自家製マヨネーズと和える。隠し味に砂糖を少し。
 これをたっぷりとパンに挟む。
【メニュー2:ハムとチーズのミルフィーユ】
 薄切りのハムとチーズを何層にも重ね、レタスと一緒に挟む。断面の美しさが命だ。
【メニュー3:フルーツサンド】
 『La Neige』特製の生クリームと、大粒のイチゴを挟んだデザートサンド。
 
 バスケットに詰め込み、水筒には冷えた紅茶(冷蔵庫製)を用意した。
「お待たせ。……行こうか」
 ***
 王都の中央公園は、春の陽気に誘われた市民たちで賑わっていた。
 芝生広場にレジャーシートを広げ、俺たちは車座に座った。
「わあ! 見てカレン、宝石箱みたい!」
「すごい! パンが真っ白でふわふわ!」
 バスケットを開けた瞬間、二人の歓声が上がった。
 
「いただきまーす! ……んん~っ!」
 カレンがたまごサンドを頬張り、満面の笑みを浮かべる。
「卵が濃厚! パンが柔らかすぎて、飲めそうなくらい!」
「こちらのイチゴのサンドイッチも絶品ですわ。……クリームの甘さと酸味が、パンとこんなに合うなんて」
 アリシアも優雅に、しかしペース良く食べている。
 二人の笑顔を見て、俺の肩の力が抜けていくのを感じた。
 ふと、周囲を見渡すと、似たような光景が広がっていた。
「……あれ」
 近くのベンチで、老夫婦が『ベーカリー・エルガレア』の紙袋を開けている。
 お爺さんが、柔らかいクリームパンを一口食べ、目尻を下げて笑った。
 
 向こうでは、親子連れがコッペパンを分け合っている。
 子供が口の周りをクリームだらけにして、母親がそれをハンカチで拭いている。
「みんな、食べてるな」
「ええ。最近、街中でよく見るわよ。あの紙袋」
 カレンがサンドイッチを齧りながら言った。
「あんたが作ったパン、みんな大好きみたい。……学校でも、お昼はみんなエルガレアのパンよ」
「リック様のお仕事は、こうして皆様の幸せな時間に繋がっているのですね」
 アリシアの言葉が、胸に染み渡った。
 執務室で数字とにらめっこしているだけでは分からなかった。
 俺が作ったアリアの小麦も、牛乳も、砂糖も。
 こうして形を変えて、誰かの休日の笑顔を作っているのだ。
「……そうか。悪くないな」
 俺は芝生に寝転がり、青い空を見上げた。
 心地よい風が吹いている。
 
「ねえリック、次は何をするの? もっと美味しいもの、期待してるわよ」
「カレンったら、リック様を休ませてあげて」
 二人の笑い声を聞きながら、俺は次のアイデアをぼんやりと考えていた。
 パンは広まった。小麦も大量にある。
 だとしたら、次は「保存」と「新しい食べ方」だ。
 余った野菜や果物を、もっと長く楽しむための魔法。
(……瓶詰め、いや缶詰か? それとも麺料理か……)
 思考は止まらないが、今日だけはこの穏やかな時間を楽しむことにした。
 サンドイッチの最後の一個をカレンとアリシアが取り合うのを眺めながら、俺は静かに目を閉じた。
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